
Oussama Ammar
値段をつけてみろ!
ベンチャーキャピタルが扱うのは、想像と実験の世界だ。精密さよりも、先を見る力がものをいう。シードで500万ドルの評価額、シリーズAで数百万ドルの調達。そうした数字は、揺るがない真実ではない。未来の霧の中で進路を描くための仮説だ。個別資産の価格づけと、ポートフォリオ全体の価格づけの違いを考えよう。革新の未来を形づくる人にとって、この違いは重要だ。
個別資産の価格づけという執着
セコイアの森に生える苗木の可能性を、数字にしようとする場面を想像してほしい。今の高さは測れるが、この先何百年もの成長、嵐、日差しは見えない。ベンチャー投資で個別資産に厳密な価格をつけようとするのも、それに似ている。スタートアップは苗木のように、まだ形にならない可能性の塊だ。500万ドルという評価額は、今の価値の断定ではなく、志にいったん置く数字なのである。
従来の金融は、売上、類似企業、過去のデータといった指標を頼りにする。だが、スタートアップは未知の存在だ。きれいな数式には収まらない。本当の価値はまだ書かれていない未来にあるため、今の価値はほとんど意味を持たない。値段をつけるのは、一本の線でモナ・リザを描こうとするようなものだ。どうしても不完全になる。
ベンチャーキャピタルは未来を形づくる
ベンチャー投資が見ているのは、現在よりも明日の可能性だ。500万ドルという評価額を見たら、値札ではなく、一つの合図として考えよう。「このアイデア、このチーム、この可能性には、注目する価値がある」という合図だ。
ただし、これは単なる楽観ではない。仕組みとして考える必要がある。ベンチャーキャピタルが賭けるのは、一社ではなくポートフォリオだ。100件の投資のうち99件がつまずいても、産業の姿を変える一つの成功が1,000倍のリターンを生み、全体を報いることがある。見るべきなのは、一件ごとの評価額の精度より、ポートフォリオが持つ可能性だ。
べき乗則という設計図
宇宙には、べき乗則に従う現象がある。銀河、生態系、そしてベンチャー投資の収益にも、その発想が現れる。大半の結果は平凡なところに集まるが、ごく少数が途方もない大きさになる。Uber、SpaceX、Googleを考えてほしい。一握りの成功が、数え切れない実験の失敗を合わせたものを上回る。
ベンチャー投資家にとって、べき乗則の理解は付け足しではない。土台だ。狙うのは失敗を避けることよりも、特別に大きな成功を捉えること。その前提で、評価額の考え方は変わる。すべての資産に完璧な値段をつける必要はない。一つが現実を変えるほどの成功を収めればいい。
スタートアップは経済の原型
スタートアップは、経済の遺伝情報のようなものだ。試されていない可能性と、予想外の展開を抱えている。子どもを例にするとわかりやすい。子どもの未来はわからない。芸術家にも科学者にも、夢を見る人にも変革を起こす人にもなれる。親は、今の姿だけでなく、将来どんな人になれるかを考えて育てる。スタートアップにも、同じ忍耐と信頼が必要だ。
未熟であることこそ、その価値でもある。まだ過去によって形づくられ、制約されていない。可能性を試す実験なのだ。育って初めて、世界を変えるかどうかがわかる。それまでに価値を固定しようとしても、限界がある。
シリコンバレーと、その先への教訓
投資家、起業家、夢を見る人に伝えたいのは、個々のスタートアップの価格を正確につけられないことが、仕組みの欠陥ではなく強みでもあるということだ。多様な可能性に賭けるポートフォリオの考え方は、大きな革新の性質に合っている。実践では、こうなる。
- 失敗を前提にする。大半の賭けは失敗する。それを受け入れる。
- 突出した結果を狙う。産業を変え得る、大胆なアイデアを探す。
- 評価額をめぐる雑音に振り回されない。会社が大きく飛躍すれば、シード時点の高い評価額は小さな問題になる。
ほかの分野にも通じる考え方
この考え方は、ベンチャーキャピタルの外にも広がる。
- 芸術と創作。多くの曲、映画、本は忘れられても、一つの傑作が世代の感覚を変えることがある。
- 科学的発見。何千もの失敗した実験の先に、可能性の範囲を変える一つの発見がある。
- 技術開発。大半の試作品は世に出なくても、一つの突破口がまったく新しい市場を生むことがある。
これらに共通するのは、進歩が均等ではなく、混沌としていて、予測しにくいことだ。目指すのは精密な予測より、その可能性を捉えられる位置にいることだ。
まだ見えないものを見る
スティーブ・ジョブズは、点と点は先を見ながらではなく、振り返って初めてつなげられると言った。ベンチャーキャピタルは、その点がつながる前に動く。まだ見えないものを見ようとし、起こりそうにない可能性を信じ、並外れた結果に賭ける。
だから、スタートアップに完璧な値段をつけようとするのはやめよう。
評価額への執着も手放そう。
目指しているものは、もっと大きい。不完全でも大胆な賭けを一つずつ重ね、未来を形づくることだ。
Daedalium に初掲載。