Oussama
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Off the Record.

創業者、お金、権力、そして私が繰り返し考えるテーマについて書いた文章。

「できない者が、教える」のイラスト

できない者が、教える

できない者が、教える。侮辱のつもりで使われる言葉だ。しかも、それは本当だ。誰かを偉大にした人の多くは、そのことを自分ではできなかった。誰もが、それこそ恥ずべき点だと思っている。違う。それこそ、うまくいく理由なのだ。…

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できない者が、教える。侮辱のつもりで使われる言葉だ。しかも、それは本当だ。誰かを偉大にした人の多くは、そのことを自分ではできなかった。誰もが、それこそ恥ずべき点だと思っている。違う。それこそ、うまくいく理由なのだ。

ビル・キャンベルはコロンビア大学で6年間、アメリカンフットボールのコーチを務めた。12勝41敗だった。1979年に辞任し、責任は自分にあると言った。フットボールチームを率いるには選手に厳しく接する必要があるが、彼にはできなかった。選手への思いが強すぎた。39歳で、その道は終わった。

11年後、彼はシリコンバレーの創業者たちが頼る男になっていた。アップルのスティーブ・ジョブズ。グーグルのラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、エリック・シュミット。アマゾン初期のベゾス。サンドバーグ。ドーシー。彼が亡くなったとき、千人を超える人が集まり、その多くが彼を親友だと思っていた。シュミットは彼について本を書き、『1兆ドルコーチ』と名づけた。

41回の敗戦につながった欠点が、後に彼をかけがえのない存在にした。19歳の若者たちには、容赦なく接してくれる人が必要だった。彼にはできなかった。スティーブ・ジョブズに必要だったのは、その逆だ。ジョブズには一人で抱えきれる限りの苛烈さがあったが、優しく本当のことを言ってくれる人はいなかった。同じ人間。同じ欠点。違う場所。

実はフットボールの才能があった、という話ではない。彼は下手だった。自分でもそう言っていた。

アルノルト・ゾンマーフェルトはノーベル物理学賞に84回推薦され、一度も受賞しなかった。彼が博士課程で指導した学生は4人受賞した。ポスドクも3人受賞した。ミュンヘンの一つの研究室から7人のノーベル賞受賞者。誰も並んだことのない記録だ。委員会は彼を84回見て、そのたびに見送り、彼が育てた人々には賞を与えた。アインシュタインは理解していた。ゾンマーフェルトに宛てた手紙で感嘆していたのは、彼がどれほど多くの若い才能を土の中から叩き出してきたか、ということだった。

私たちは平等に生まれてくるわけではない。努力したから勝つ人もいる。生まれたときに与えられた、どんな努力でも生み出せないものによって勝つ人もいる。どちらも本当だ。どちらも公平ではない。

コーチは、人類が見つけた唯一の補正だ。解決ではない。補正である。生まれ持たなかった才能を、誰かが授けることはできない。よいコーチがするのは、すでにあるものを見つけ、本人がそれを捨ててしまうのを止めることだ。ほとんどの人は、その才能を捨ててしまう。

ナディア・ブーランジェは30代で作曲をやめた。かつての師に、もう終わりにする、自分の音楽は役に立たないと告げた。その後、パリのアパートで、コープランド、ピアソラ、クインシー・ジョーンズ、フィリップ・グラス、バレンボイム、ガーディナーを教えた。アメリカ人たちは彼女の前に座るため、海を渡った。クインシー・ジョーンズは、出会った中で最も驚くべき女性だったと語った。

彼女自身の音楽は、ほとんど演奏されない。彼女の名前は他人の伝記の中に、同じ一文で繰り返し現れる。「パリに渡り、ナディア・ブーランジェに師事した」。彼女は、価値がないと思った自分一人のキャリアを、価値を認めた50人のキャリアの一部と交換した。

さて、ここからはグリーティングカードの文句のように聞こえずに言うのが難しい。誰かが勝つのを見るのは、気持ちがいい。残念賞としてではない。単純に、うれしいのだ。

しかもそれが、自分が育てた相手なら、どれほど紙一重だったかを知っている。観客は勝利を見て、最初から決まっていたことだと思う。あなたは、彼がやめたいと思っていた夜を見ている。スタジアムにいる他の誰にも、それはない。トロフィーよりもいい。

そして、フランスだ。

1998年、エメ・ジャケは3大会連続で出場権を逃していたチームを率い、自国開催のワールドカップを制した。その前の2年間、レキップ紙は、彼には能力がないと国中に言い続けた。選手選びが間違っている。臆病なサッカーだ。監督に向いていない。フランスが優勝した夜、彼は何百万もの人々の前で、報道機関は嘘をついた、絶対に許さないと言った。数日後に退任した。4年後、レキップ紙は侮辱されたとして彼を訴えた。26年後も、彼は彼らと握手しようとしなかった。

フランスにコーチが足りないわけではない。フランスがコーチに与えないのは、地位だ。

私たちが尊敬するのは、一人で立ち、頭上にカップを掲げる男だけだ。その隣にいる人は、二つの箱のどちらかに入れられる。本番では失敗して、人を助けることで妥協した人か。手柄を横取りするために助けている人か。三つ目の箱はない。

だから、そうだ。できない者が、教える。キャンベルにはできなかった。ゾンマーフェルトは賞をもらえなかった。ブーランジェは自分の音楽を捨てた。トロフィーに刻まれる名前は一つ。それでいい。誰かが最初にゴールを越えなくてはならないのだから。ただ、最悪の日に道端で支えていたのが誰だったかは、そこに記録されない。その人は、それでも幸せな気持ちで家に帰った。そして、スタジアムにいる他の誰も知らないことを知っていた。

「かわいさは、あなたが思っているものとは違う」のイラスト

かわいさは、あなたが思っているものとは違う

ポールという創業者がBetter Call Oussを予約した。 こうした相談にはたくさん乗っている。その多くは、記憶の中で混ざり合う。創業者たちは資料や市場の話、共同創業者や株主構成の問題を持ってくる。1時間で直せることを直して、次に進む。 ポールが持ってきたのは、マスコットだった。…

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ポールという創業者がBetter Call Oussを予約した。

こうした相談にはたくさん乗っている。その多くは、記憶の中で混ざり合う。創業者たちは資料や市場の話、共同創業者や株主構成の問題を持ってくる。1時間で直せることを直して、次に進む。

ポールが持ってきたのは、マスコットだった。

彼が作ったMaskoは、AIでアニメーションキャラクターを生成するツールだ。キャラクターを言葉で説明するか、画像を1枚アップロードすると、ポーズ、動き、感情の状態をシステムが作ってくれる。デュオリンゴのフクロウを、サービスにしたようなものだ。誰でも、自分だけのキャラクターを持てる。

そのとき、二つのことを同時に考えたのを覚えている。一つ目は、これはおもちゃだ、ということ。二つ目は、私が見てきた最も重要な企業は、どこもまさにこの段階ではおもちゃに見えた、ということだった。

そこで、こういう相談ではめったにしないことをした。助言をやめて、企み始めたのだ。ビジネスモデルが間違っているとポールに伝えた。デザイナーにクレジットを売るのは、プラットフォームにツールの値段をつけているようなものだ。Maskoは本当は何になれるのか、私の考えを話した。そして投資した。自分でもリスクを負って初めて、はっきり見えるアイデアがあるからだ。

そのアイデアを話そう。

誰も作っていない層

知能を作る競争では、より大きなモデル、より優れたエージェント、より長い自律動作が評価されやすい。能力は測定できるため、自然と注目の中心になる。

その知能が人間に触れる層を作っている人は、ほとんどいない。

今、あなたのAIはどんな見た目をしているだろう。ターミナル。チャット欄。灰色で、冷たく、最適化され、無機質だ。私たちの生涯で最も強力な技術が、税務申告書ほどの温かみしかない姿で現れる。

Maskoは、拍子抜けするほど日常的なものから、この問題に取り組み始める。通知だ。コーディングエージェントが作業を終えると、黙ってログが1行増える代わりに、画面の小さなキャラクターが知らせてくれる。ビルドが通れば手を振る。何かが壊れれば、心配そうな顔をする。機械があなたを必要とすると、呼び戻してくれる。

通知のマスコット。それだけだ。それが最初の足がかりになる。

だが、足がかりとは日常的なものでいい。アマゾンが最初に売ったのは本だった。iPhoneが最初に置き換えたのはキーパッドだ。誰かの画面で、毎日、ごく小さく普通の形で役に立つ。その積み重ねによって、やがて一つの層になる資格を得る。

目標は言うのは簡単で、作るのはとても難しい。機械と働くときに、喜びを感じられること。遊び心を持てること。機械を、そばにいる仲間のように感じられること。

ここで本題に入る。Maskoの背後には一つの理論がある。それは、かわいさについての理論だ。

かわいさの理論

多くの人は、かわいさとは、小さくて、愛らしく、子どもっぽく、きれいなことだと思っている。まだ大人になっていない人のための飾りだと。

私は、かわいさは既存の仕組みに対抗するものだと思う。

私たちが「真面目」と呼ぶものを見てほしい。真面目とは、削ぎ落とすことだ。色を削る。感情を削る。装飾も、柔らかさも、空想も、遊びも削る。残ったものが、職業的で、中立で、大人らしいとされる。私たちは、この引き算の上に文化全体を築いてきた。そして、なぜ何もかも死んだように感じるのかと首をかしげた。

かわいさは、その真面目さが強制になる地点で始まる。感情まで切り詰めることへの拒否だ。ピンク、カワイイ、飾りつけた日記帳、妖精のドレス、ステッカーだらけのサイバーデッキ。その一つ一つが、感情を持つ自分を世界に奪わせない、という意思表示なのだ。

そして、ほとんどの人が見落としていることがある。かわいさは、衣装を着た弱さではない。傷つきやすさを、自分で動く力に変える。柔らかな人だと見られることではなく、世界を見返すときの枠組みとして、自ら柔らかさを選ぶことだ。壊れやすいことと、世界がどんなものかを十分に知りながら、それでも心を開いておくと決めることは違う。

かわいさは、幼稚にならずに、自分の中の子どもを守る。羞恥心が欲望を並べ替える前、世間の評価が何を欲しがってよいかを教える前に、好きだったものへと戻る。ノートの余白にキャラクターを描いていた子どもは、消えたわけではない。隠れることを覚えただけだ。

かわいさの背後には、私たちが見ないふりをしている知の蓄積もある。色は、過剰な装飾ではない。多くの人間文化では、感情や神秘、意味を担っていた。それを私たちは、たかだか1世紀ほどでオフィスやソフトウェアから抜き取った。装飾は無駄ではない。飾ることは、思いやりを目に見える形にすることだ。毎晩誰かが絵を描く日記帳、誰かが整える机、誰かが自分仕様にする端末。それは神聖な時間だ。物に向けて実践される、献身なのだ。

役に立たないことさえ、意味がある。かわいさは最適化を拒む。その拒否こそが、生産性至上主義への抵抗になる。ハローキティをKPIで測ることはできない。そして、キティ自身が別の仕組みを示している。その顔にはほとんど表情がなく、その余白こそが価値なのだ。人はそこに、自分の感情を投影する。かわいいものは、気持ちの落ち着き先をくれる。ベビースキーマを研究する人々は、これが感傷ではないと知っている。丸さや柔らかさは、神経系を鎮め、世話をしたい気持ちを誘うことが測定できる。かわいさは、私たちを整えてくれる。

それなら、なぜ軽んじられるのか。答えに正直になろう。かわいさが周縁に追いやられるのは、周縁に置かれた人々と結びついているからだ。少女。女性性。クィアであること。子ども。手仕事をする人。東洋の美意識。インターネット育ちの若者。感情のある暮らしそのもの。私たちは、かわいさは真剣なものではないと結論づけたのではない。それを愛する人たちが真剣ではないと決めつけたのだ。

はっきり言おう。かわいさは無垢ではない。勇気だ。その柔らかさは、世界を知らない人の柔らかさではない。世界と出会い、それでも鎧だけの存在になることを拒んだ人の柔らかさだ。

機械に再び魔法をかける

今、この二つをつなげてみよう。

機械との会話が日常生活の一部になるほど、インターフェースの選択は重要になる。灰色で、冷たく、効率的で、感情を語らない美意識が初期設定になれば、引き算の文化が、私たちの生活に深く入り込む技術に組み込まれる。

Maskoは、その初期設定に逆らう賭けだ。技術は、親密で、飾りがあり、詩的で、仲間のようになれるという賭け。人間とAIの間にあるべきものはターミナルではなく、キャラクターだという賭け。喜びは最後に付け足す機能ではなく、設計の土台なのだという賭け。

コードのコンパイルが終わると手を振ってくれる、小さな生き物から始まる。

そこで終わりはしない。

「裁かれる機械」のイラスト

裁かれる機械

2014年、フロリダ州の同じ郡拘置所に2人が収容され、ソフトウェアがそれぞれに数値を与えた。ブリシャ・ボーデンは18歳の黒人女性で、過去に少年事件の軽犯罪が数件あった。将来、犯罪を起こす危険性が高いと判定された。ヴァーノン・プレイターは白人で、すでに武装強盗の前科があったが、危険性は低いとされた。2年後、ソフトウェアの判断が完全に逆だったことが分かった。ボーデンは再犯しなかった…

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2014年、フロリダ州の同じ郡拘置所に2人が収容され、ソフトウェアがそれぞれに数値を与えた。ブリシャ・ボーデンは18歳の黒人女性で、過去に少年事件の軽犯罪が数件あった。将来、犯罪を起こす危険性が高いと判定された。ヴァーノン・プレイターは白人で、すでに武装強盗の前科があったが、危険性は低いとされた。2年後、ソフトウェアの判断が完全に逆だったことが分かった。ボーデンは再犯しなかった。プレイターは再び刑務所にいた。

ここから誰もが得た教訓は、機械には偏りがある、ということだった。ほとんど誰も受け取らなかった、もっと興味深い教訓がある。機械が間違っていたと分かるのは、機械を検証できたからだ。

プロパブリカはブロワード郡の1万人分のリスク評価を取り寄せ、その人々が続く2年間に実際に何をしたかと照合し、すべて公表した。小さな戦争が始まった。統計学者、コーネル大学、スタンフォード大学、カーネギーメロン大学の計算機科学者、開発会社自身の技術者が、同じ数値をめぐって何年も公開の場で議論した。裁判官に対して、こんなことをした人はいない。裁判官がボーデンとプレイターのような2人を見て、頭の中で逆の判断を下したことが何回あったのか、私たちには永遠に分からない。頭の中には記録が残らないからだ。このソフトウェアの騒動で新しかったのは、偏っていたことではない。初めて、偏りが記録を残したことだった。

偏りは、人間がこれまでに下したあらゆる判断の通常の状態だ。皮肉ではない。そういう前提なのだ。珍しいのは、いつの時代も、その判断を後から検証できることだった。どの社会も、何が真実かを他の人に伝える人々によって動いている。そして私たちには、彼らを監査する現実的な手段がない。長い間、それは聖職者だった。次は科学者。裁判官、医師、記者が続いた。私たちは、そうするしかないから真実の判断を委ねる。誰も、あらゆることを自分で検証することはできない。だから代わりに担う人を選び、あとは願う。

科学は、その願いが不要になる唯一の場所であるはずだった。査読も、再現実験も、制度全体も、主張が発言者の名声に依存しないために存在する。だが多くの場合、そうは機能しない。2005年、ジョン・イオアニディスは「なぜ公表された研究結果のほとんどは誤りなのか」という陽気な題名の論文を発表した。以来、彼が大げさに言っているだけであってほしいと願った人には、つらい年月が続いている。心理学者のダリル・ベムは2011年、超感覚的知覚の証拠があるとする論文を、一流誌の査読に通した。他の研究者が実験をやり直して何も見つけられなかったとき、四つの雑誌が、その失敗の掲載を断った。再現実験には新規性がないという理由だった。同じ頃、ディーデリク・スターペルが、何十本もの研究のデータを単純に捏造していたことが発覚した。彼の論文には58件の撤回がある。こうしたことを見つけるための仕組みは、何度も見逃し続けた。理由は単純だ。訂正を担う人々にもキャリアがある。キャリアは利害である。そして、利害がその人の判断に何をしたのか調べるために、その人をもう一度実行することはできない。

再現性の危機は、科学が自己修正する証拠だ、と人は言いたがる。最終的には、確かにそうだ。ただ、その修正を実現するには、外部の人間と、10年の歳月と、かなりの公の恥辱が必要だった。それを自己修正と呼ぶのは、奇妙なことだ。

司法もましではない。そのことに多少正直なのは、偶然にすぎない。連邦量刑を調べたデイヴィッド・マスタードは、黒人被告人の刑期が、比較可能な白人被告人より約12%長いと発見した。裁判官に尋ねると、97%が、マスタードの測ったまさにその偏りを避ける能力は平均以上だと答える。この分野の文献で私が好きなのは、有名な「空腹の裁判官」研究だ。仮釈放審査委員会は昼食前になると冷酷になる、というあれだ。誰もが気に入っている。実際には、おそらく事実ではない。効果の大部分は、1日の中で事件を並べる退屈な事務的仕組みで説明できる。それでも私たちはしがみつく。すでに信じていることを裏づけてくれるからだ。これこそ、問題の実演だ。偏りについて読みながら、その偏りが私たちに働いている。

ここで誰かがたいてい、根本的な問題は資本主義だと言う。市場は勝利に報酬を与え、真実を特に愛してはいない、と。半分は正しい。そして、間違っている半分が面白い。市場は、評価の対象にしたものに報酬を与える。注目を評価すれば、粗悪なコンテンツが生まれる。正しさを評価すれば、人類が作った最良の真実発見装置が手に入る。未来に何が起きるかに実際のお金を賭ける予測市場は、知っていることで報酬をもらう専門家の集団に、日常的に勝っている。ハイエクは80年前、価格システムそのものが、どの中央機関にも集められない知識を発見する巨大な機械だと指摘した。だから、敵は利害そのものでも、市場そのものでもなかった。敵は、監査できない利害だ。

そして、聖職者の列に新たな一員が加わった。AIは、これまで作られた中で最も強力な、真実を代わりに判断する存在だ。同時に、圧倒的に集中している。辛抱強い専門家のような落ち着いた声で答え、人々はかつて百科事典を信じたように信じる。ただ、百科事典は言い返せなかった。私はAI企業を作ることを仕事にしている。そして、それらを最終的に誰が所有するのかを心配する時間は、少なくとも作る時間に匹敵する。危険はSFの中の話ではない。数社の外にいる誰も調べられない流暢な機械が、何十億もの人々と、その人々が知りたいすべてのことの間に座る。それだけで十分危険だ。問題なのか。一人の人間と、その人が生涯に抱くあらゆる問いの間に誰が立つかが重要だと思うなら、問題だ。たった一つの閉じた託宣装置は、稼働率の上がった昔の聖職者制度である。

だが、ここには本当に新しい可能性がある。そして、それこそ守るために戦う価値がある。モデルを裁判にかけられるのだ。100万回動かし、何をするか観察できる。同じ答えを2回返すように設定すれば、そうする。これまで存在した人間の権威について、同じことは言えない。気になるあらゆる集団に対して試し、どのように失敗するかを測定できる。重みが公開されていれば、それを読める。まだ若い解釈可能性の研究は、その内部の推論を読み取る方法を少しずつ学んでいる。ただし、道のりは長い。テュレーン大学の研究では、裁判官がアルゴリズムを参照できたバージニア州の5万件の量刑判断を調べた。アルゴリズムは、二つのことを同時にした。量刑をより一貫させた。そして、通常の裁量が1世紀隠していた人種的偏りを、見えるようにした。これが交換条件だ。人間の勘の、居心地のよい不透明さを手放せば、調べられるものが得られる。感覚に提出命令は出せない。モデルには出せる。

だから、三つの別々の趣味のように聞こえるものが、実は一つの仕組みなのだ。機構を調べられること。それがオープンソースの役割だ。どのモデルがどの答えを出したかを証明できること。それが、zkMLなどの名で進む暗号技術の役割だ。そして、誰にもこっそりモデルを取り替えたり停止したりできないように全体を作ること。それが検閲耐性の役割だ。こうした仕組みの限界には、正直に向き合う必要がある。モデルの重みだけが公開され、学習データが隠されていれば、完全な監査はできない。暗号技術による検証も、対象モデルのコストと規模に照らして評価しなければならない。これらは解決すべき技術とガバナンスの課題であり、宣伝パンフレットの陰に隠してよい細部ではない。

議論は、それに対する最も強い反論に耐えなければならない。その反論を挙げよう。機械を監査しても、機械が学んだ世界がきれいになるわけではない。ドレッセルとファリドという2人の研究者は、七つの情報を与えられた普通の人々が、137の情報を使うあのフロリダのソフトウェアとほぼ同程度に再犯を予測し、同じ人種間格差を生むと示した。偏りは世界の中に、逮捕記録の中に、機械に与えられた歴史の中にあった。歪んだ現実で学習した完全に透明なモデルは、その歪みを忠実に再現する。今度は白衣を着て。さらに悪い知らせが、公平性そのものの数学から来る。二つの集団で観測される犯罪率が異なる場合、予測値の確からしさを両集団で等しく保ちながら、誤りの割合も等しくそろえる予測器は作れない。どちらかを選ぶ必要がある。監査は、正解をくれるわけではない。トレードオフを白日の下に示す。それでも、どんな公平性を求めるかを誰かが選ばなくてはならない。AIは政治をなくさない。機械に何を最適化させるかという選択へ、政治を移す。「誰が監視者を監視するのか」の新しい形は、「誰が目的を選ぶのか」なのだ。

これによって、最初の直感がどう変わるかに注目してほしい。AIが真実を知る唯一の情報源になる、だからオープンソースが勝たなければならない、という直感だ。感覚は正しいが、言い方が逆だ。唯一の真実の情報源は、作りうる最も危険なものだ。全員が同じ瞬間に、まったく同じ方向に間違える仕組みだからだ。オープンソースはAIを唯一の情報源にするものではない。AIが一つの主体に取り込まれた、唯一の情報源になるのを防ぐ唯一の方法だ。求めるべきだったのは、一つの開かれた託宣装置ではない。監査できる多くの装置が議論することだ。市場で価格が議論し、機能している科学で仮説が議論するように。ポパーは、この技術が存在するずっと前に、その形を見ていた。開かれた社会とは、支配者の主張も含め、どんな主張でも公開の場に引き出し、覆せる社会だ。約束されていたのは、正しさではない。訂正可能性だった。

最後にもう一度、ボーデンとプレイターに戻ろう。機械は2人を完全に逆に評価した。そして奇妙なことに、それこそ進歩だった。間違いを見つけられたからだ。私たちは今、真実を機械に託すかどうかを決めているのではない。その選択はもう済んでいる。自分で見る代わりに尋ねるたび、すでに託している。残っている問いは、機械を法廷に引き出し、一行ずつ読み、反論できるように作るかどうかだけだ。その選択は、ライセンス、モデルの文書、そして私たちが使うシステムのガバナンスを通じて、絶えず形作られている。第一原理から考えれば、迷う余地はほとんどない。一つのものが、私たち全員に何が真実かを伝えるのであれば、それを私たちの誰か一人の所有物にしてはならない。

「真実はそこにある」のイラスト

真実はそこにある

私は子どものようにわくわくしている。12歳の頃からそうだった。私たちはひとりではないかもしれない。それは、私が思いつく中で最も興味深い問いだ。答えがイエスなら、他のあらゆる興味深い問いの価値が変わる。 同時に、この公開の進め方には非常に懐疑的だ。方法論が間違っている。担当者たちは、完全に誠実かもしれない。だが関係ない。この方法は、構造的に機能しえない。 どういうことか。…

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私は子どものようにわくわくしている。12歳の頃からそうだった。私たちはひとりではないかもしれない。それは、私が思いつく中で最も興味深い問いだ。答えがイエスなら、他のあらゆる興味深い問いの価値が変わる。

同時に、この公開の進め方には非常に懐疑的だ。方法論が間違っている。担当者たちは、完全に誠実かもしれない。だが関係ない。この方法は、構造的に機能しえない。

どういうことか。

これほど大きなことを、小出しにすることはできない。戦略全体が、社会は一枚岩で、注意力の持続時間も一つで、広報室が決めたペースをそのまま受け入れる、という前提に立っている。実際の社会は、専門家の連合体だ。各自が、全体像の中の自分の一角を待っている。

最初の本物の具体的情報が、その戦略を壊す。

一つの文書が漏れたと想像しよう。回収された物質のサンプルを質量分析した結果の1ページ。同位体比が九つ。そのうち一つが、知られているどんな恒星過程でも生じえない。時刻の記録。研究所の署名。

1時間目には、地球上のあらゆる材料科学者が、その測定結果を開いている。3時間目には、チューリヒの誰かが、純粋な計算だけで、その比率は地球起源ではありえないと証明する。8時間目には、三つの研究所が緊急の合成実験を行い、失敗している。翌朝、その失敗がニュースになる。

その瞬間、公開計画は死ぬ。

問いが動き始めるからだ。天体物理学者は、超新星にさかのぼる計算を公開で行う。月の地質学者は、保管庫からアポロ計画のコア試料を取り出す。生物学者は、身体について尋ねる。物理学者は、推進について尋ねる。歴史学者は、1947年以降のすべての「気象観測気球」の報告を再検討する。市民的自由を守る人々は、真実を話して飛行資格を失ったパイロットは誰かと尋ねる。国家安全保障の担当者は、公表しない覚書を書く。

広報室には、最初のニュースの計画はあった。1万本目の計画はない。

好意的に見れば、その願いは本物だ。段階的な公開は、そもそも嘘をつくためではなかったのだろう。制度に準備の猶予を与えるためだった。バチカンには見解をまとめた文書が必要だ。すべての物理学科には、新しいカリキュラムが必要だ。人類という種の、知識を受け止める免疫系全体に時間が要る。

私が何度も立ち返るのは、もっと深いことだ。宇宙人は、ほとんど本題ではない。情報開示の問題は構造的だ。科学、宗教、司法、軍事。私たちの主要な制度は、すべて閉じた系という前提の上に築かれた。物理学において閉じている。生物学において閉じている。存在する知性の一覧も閉じている。ほんのわずかでも開けば、制度は更新されるのではない。圧力によって組み替えられる。

生物学や物理学は、簡単な部分だ。答えがある。難しいのは、「私たちはひとりだ」という前提の上に築いたすべてだ。誰も準備していない。担当する人がいないからだ。

私がわくわくするのは、人類にとって最も興味深い問いに、生きているうちに答えが出るかもしれないからだ。懐疑的なのは、情報開示の担当者が、これを広報の問題として扱っているからだ。これは広報の問題ではない。

計算を伴う最初の具体的情報が漏れた瞬間、そのゲームは彼らの手を離れる。

「権力は権力だ」のイラスト

権力は権力だ

ローマ人には、力を表す言葉が二つあった。 インペリウム。命令する法的権利だ。肩書きや階級、組織図の位置に付随するもの。持っているか、いないかのどちらかで、鍵のように正式な手続きで引き渡される。 アウクトリタス。人々が本心からついていきたいと思う、その人自身の重みだ。言葉にしにくい。授けることはできない。元老院議員にはそれがある者とない者がおり、ローマの誰もが違いを知っていた。…

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ローマ人には、力を表す言葉が二つあった。

インペリウム。命令する法的権利だ。肩書きや階級、組織図の位置に付随するもの。持っているか、いないかのどちらかで、鍵のように正式な手続きで引き渡される。

アウクトリタス。人々が本心からついていきたいと思う、その人自身の重みだ。言葉にしにくい。授けることはできない。元老院議員にはそれがある者とない者がおり、ローマの誰もが違いを知っていた。

奇妙なのは、私たちがこの二つを一つの言葉にまとめてしまったことだ。どれも「権力」「権威」「リーダーシップ」と呼ぶ。そして、誰かを昇進させてチームが壊れると、驚いた顔をする。

こういうことが起こる。誰かがインペリウムを手に入れる。昇進、肩書き、部下の人数。組織は、それと一緒にアウクトリタスが生まれるのを待つ。生まれない。もともと、そんな仕組みではない。この二つは、常に別々の仕組みだった。

私は、この失敗を繰り返し見てきた。賢い人が管理職に引き上げられ、形式上は責任者なのに誰も言うことを聞かない理由が分からなくなる。そこで、インペリウムにいっそう頼る。組織図、人事評価、承認手続き。それこそが、築こうとしていたアウクトリタスを壊す行動なのに。

逆の順序なら、もっとよく機能する。正式な権限を得る前に個人としての権威を積み重ねた人は、それを長く保ち、目立たない形で使う傾向がある。誰が責任者かを、わざわざ思い出させる必要がない。

ローマは、両方を別々に見ていた。正式なインペリウムが皆無でも、巨大なアウクトリタスを持つ元老院議員には、誰もが従った。執政官が法的権力をすべて持っていても、誰も同じ部屋にいたがらないこともあった。

私たちは、この二つの区分を潰した。そして今、多くの会社が自発的な関与ではなく服従で動く理由を、不思議がっている。

しかも、その先にはさらに厄介なことがある。

AIは、生産から得られるインペリウムをすべて吸収しつつある。

かつて能力の証明だったあらゆる仕事。メモ、分析、コード、資料。今ではモデルに任せられる。成果物は存在する。それを作る行為に付いてきた権威は消える。

残るのは、そもそも成果物の中になかった唯一のものだ。何を頼むかを決める判断力。信頼されてきた実績。その人が話すと、静まる部屋。それがアウクトリタスであり、最初から本物だった。インペリウムが全員を忙しくしていたので、気づかなかっただけだ。

生産することにキャリアを築いてきた人々は、積み重ねていた資本の種類が間違っていたと知ることになる。

「誰も見たことを覚えていない公聴会」のイラスト

誰も見たことを覚えていない公聴会

2023年7月26日、元情報当局者がアメリカ議会の前に座り、宣誓の上で語った。アメリカ政府は、人間以外に由来する乗り物を回収し、リバースエンジニアリングする秘密計画を運営してきた、と。 彼の名はデイヴィッド・グルーシュ。空軍の情報部門に14年間勤務した。国家地理空間情報局で、未確認異常現象の分析を共同で指揮した。正式な経路を通じて、内部告発を申し立てていた。…

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2023年7月26日、元情報当局者がアメリカ議会の前に座り、宣誓の上で語った。アメリカ政府は、人間以外に由来する乗り物を回収し、リバースエンジニアリングする秘密計画を運営してきた、と。

彼の名はデイヴィッド・グルーシュ。空軍の情報部門に14年間勤務した。国家地理空間情報局で、未確認異常現象の分析を共同で指揮した。正式な経路を通じて、内部告発を申し立てていた。

そして、両党の議員が集まる部屋で、カメラの前で、墜落現場から「人間以外の生物学的なもの」が回収されたと語った。

私はドバイから、その公聴会を見ていた。何かがおかしい。誰もが感じている。誰も、名前をつけようとしない。

翌日、私のフィードはAIの企業評価額やSaaSの指標に戻っていた。

誰も気にしていなかった。

報道がなかったと言いたいのではない。CNNは取り上げた。NPRも報じた。だが、48時間で話は消えた。継続的な調査も、世論の圧力もなかった。もし本当なら人類史上最大のニュースになることに、専従で取り組む真剣な記者もいなかった。

グルーシュだけではなかった。ライアン・グレイヴスという元海軍戦闘機パイロットは、バージニア沖での未確認物体との遭遇は「まれでも、孤立した事例でもなかった」と証言した。デイヴィッド・フレイヴァー中佐は、既知のどの航空機にもできない動き方をする物体を追跡したと話した。YouTuberではない。アメリカ軍のためにF/A-18を操縦していた人々だ。

そして2024年11月、議会は再び公聴会を開いた。元国防総省当局者のルイス・エリゾンドは、宣誓の上で、「どの政府が作ったものでもない」先進技術が軍施設を監視していると語った。マイケル・シェレンバーガーという記者は、214ページの報告書と12ページの文書を議会記録に提出した。「イマキュレート・コンステレーション」という秘密のUAPデータ回収計画について記したものだった。

ナンシー・メイス議員は、その名前を口にするだけでも、自分にFISA令状が出るかもしれないと冗談を言った。「だったら、かかってきなさいって感じね」と。

超党派。上下両院。宣誓証言。記録に残る文書。

そして、また何も起きなかった。

私は、外から見える姿と内部の動きがまったく違う仕組みのそばで、キャリアを過ごしてきた。ベンチャーキャピタルと、ベンチャー企業を支える経験から学んだことだ。創業者と向き合う。ピッチは整い、資料は磨かれている。それなのに、会社はすでに死んでいることがある。別のときには、本人も計画も混乱しているのに、本物をつかんでいることがある。

大切な能力は、きれいなピッチを見抜くことではない。見せられているものと、実際に起きていることの間の隙間を見つけることだ。

ここにも隙間が見える。大きな隙間だ。

宇宙人は存在すると言うつもりはない。私には分からない。だが、UFO騒ぎの下には、私にとってはるかに興味深く、はるかに不穏な問いがある。基礎物理学に何が起きたのか。

UAPの話を調べ始めたとき、陰謀論に行き着くだろうと思っていた。見つけたのは、文書の痕跡だった。

1969年11月、アメリカ議会はマンスフィールド修正条項を可決した。公法91-121の第203条だ。特定の軍事的機能との「直接かつ明白な関係」がない大学の基礎研究には、国防総省は資金を出せないと定めた。

背景にはベトナム戦争があった。大学での反戦運動。国防総省が教授に資金を出すことへの違和感。マンスフィールド上院議員は、国防予算が純粋な科学的好奇心を支えるべきではなく、それは民生機関の仕事だと主張した。

平和のための措置に聞こえた。実際に何をもたらしたか。

1945年から1969年まで、国防総省はアメリカの大学における、目的を限定しない基礎研究の主要な資金源だった。物理学、数学、材料科学、初期のコンピューティング。海軍研究局、ARPA、空軍の研究機関。優秀な人にお金を渡し、好奇心を追わせた。それが場の量子論を支え、初期の計算機研究を生んだ。ほとんど条件をつけずに、毎年、数億ドルを出していた。

1969年以降、その流れは閉じた。修正条項は、研究を短期的な応用へと押しやった。全米科学財団が穴を埋めるはずだったが、予算が足りなかった。そして、戦略的な意味を持つ機微な研究は、機密の壁の中へ移った。国立研究所、航空宇宙関連の請負企業、シンクタンク。MITのドレイパー研究所、リンカーン研究所、ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所のような場所へ。

私はこのパターンを知っている。ビジネスで見てきた。会社が「効率化のための再編」をすると言うとき、たいていは権力を集中させ、制御できないものを潰している。マンスフィールド修正条項は、アメリカの科学にそれをした。最重要の仕事から独立した研究者を外し、機密取扱資格を必要とし、公表もできない従業員に置き換えた。

そのとき気づいたのは、いつも気づく人たちだった。黙ることを拒む人々だ。ライナス・ポーリングは、その活動が都合の悪いものだったためにパスポートを取り上げられた。ノーベル賞を2度受賞した人だ。20世紀で最も重要な数学者かもしれないグロタンディークは、やがて制度としての科学から完全に立ち去った。周辺の人物ではない。最良の人々だった。仕組みは、彼らを脇に追いやる方法を見つけた。

その後、別のことも起きた。続く数十年で、学界の科学には何層もの統制が生まれた。一つずつなら、どれも合理的に見える。重ねると、新しいアイデアが生き残りにくい仕組みになる。

起業でも同じことを見る。資金調達を目指すスタートアップには、あらゆる段階で門番がいる。紹介、パートナーとの面談、タームシート、取締役の席。各段階がふるいになる。通り抜ける人たちは、似た姿で、似た考え方をし、似たものを作りがちだ。こうして、同じようなSaaS企業が500社生まれ、大胆な挑戦はゼロになる。

物理学にも、それが起きた。査読が、アイデアを正当と認める唯一の方法になった。一握りの出版社が流通を握った。引用指標がキャリアを決めた。そして理論物理学では特に、一つの枠組みが何十年もすべてを支配した。教授になりたければ、その中で研究する。そうでなければ、外に出される。

枠組みそのものを責めているのではない。問題は独占だ。ベンチャー市場を一人の投資家が握れば、創業者の条件は悪くなり、選択肢は減る。科学で、一つのパラダイムが資金も雑誌も採用委員会もすべて握れば、突破は生まれない。互いを引用する、少しずつしか進まない論文が生まれる。

それが50年続いた。

ここからは、つないでいいのか確信のない点をつなぎ始める。それでもやる。興味深い真実はたいてい、見てはいけないと言われる場所にあると学んだからだ。

エプスタイン自身は2019年のインタビューで、ロスアラモスで働いた科学者たちが、サンタフェ研究所などの近隣施設で私的な研究をしていると知り、ニューメキシコに土地を買ったと話した。彼は、「クォーク」という語を作ったノーベル賞物理学者マレー・ゲルマンに資金を出していた。牧場でMITやハーバードの教授と会っていた。キッシンジャー・アソシエイツも、そこに人を送っていた。

公に語られるエプスタインの話は、性的人身売買と権力者たちの話だ。それは現実であり、恐ろしい。

だが、それと並行して、ほとんど取り上げられない話がある。エプスタインは、物理学者や数学者との関係を組織的に築いていた。研究に資金を出し、弱みを握られうる状況に彼らを置いていた。そして、その牧場はロスアラモスから50マイル、トリニティ実験場から111マイルの距離にあり、サンディア国立研究所と同じ州にあった。

私はレバノン人だ。強い利害を持つ者が何かを支配したいとき、最初に使うのは武力ではないと知る人々の中で育った。使うのは、お金、接点、情報の非対称性だ。依存を作る。慈善活動に見えて、情報機関の活動として機能するネットワークを作る。

エプスタインの科学者ネットワークは、私にはまさにそう見える。

だから、私が実際に何を考えているかを、はっきりさせよう。

アメリカ政府が、完成した万物の理論を金庫にしまっているとは思わない。この背後に、きれいな答えがあるとも思わない。私が考えているのは、1969年から基礎物理学が意図的に制約され、一部の研究が機密の壁の中で続き、そこから何が出てきたかを私たちは知らない、ということだ。ほとんど何もないかもしれない。何かあるかもしれない。

エプスタインの科学者への関心は、偶然の慈善ではなかったと思う。誰かが、物理学界が何を知り、何を知らないのかを把握しようとしていた。それが政府なのか、民間の集団なのか、まったく別のものなのかは分からない。

そして、議会公聴会は、人々が思う以上に重要だと思う。軍や情報機関の人々が宣誓して、人間以外に由来する技術が存在し、それを研究する計画が議会から隠されてきたと言う。それは偽証か、現実かのどちらかだ。居心地のよい中間はない。

確実に分かるのは、反応だ。集団で肩をすくめること。証言を聞いて、うなずき、それから携帯に戻る。そのまったく同じパターンを、取締役会でも見てきた。真実を受け止める代償が大きすぎるときに起こることだ。その意味を考えると、あまりに多くのことを一度に考え直さなくてはならない。すると脳は、ただ奥にしまい込む。

だが、無視したからといって、その意味は消えない。積み重なっていく。

私は十分に多くのものを作り、壊してきた。公の言葉と、舞台裏で起きていることの隙間にこそ、本当の話があると知っている。

私は、その本当の話を持っていない。ごく少数の人々以外、誰も持っていない。

だが、隙間があることは分かる。そして、それは人々が思うより大きい。

「最も安い製品が勝つことは、めったにない」のイラスト

最も安い製品が勝つことは、めったにない

私が支援してきた創業者の多くは、値付けで同じ間違いをしてきた。並外れたもの、市場が見たことのないものを作る。そして、米のように値段をつける。 戦略の服を着た、恐怖だ。 「安くすれば、買う人が増える」と自分に言い聞かせる。理屈は通って聞こえる。だが、間違っている。…

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私が支援してきた創業者の多くは、値付けで同じ間違いをしてきた。並外れたもの、市場が見たことのないものを作る。そして、米のように値段をつける。

戦略の服を着た、恐怖だ。

「安くすれば、買う人が増える」と自分に言い聞かせる。理屈は通って聞こえる。だが、間違っている。

何十社もの内側から見てきたことを言おう。高く売る会社ほど、速く伸びる。高い価格にもかかわらず、ではない。高いからだ。

計算は難しくない。利益率が高ければ、研究開発に使えるお金が増える。研究開発費が増えれば、製品がよくなる。製品がよくなれば、顧客は満足し、さらに払ってくれる。多くの創業者が、取っ手を回すのを怖がるため、一度も動かさない好循環だ。

だが、もっと深い話がある。

値付けは、本当に競争優位があるかを明らかにする。値上げすると顧客が離れるなら、差別化できていたのではない。安かっただけだ。残ってくれるなら、大切なことが分かる。あなたが顧客を必要とする以上に、顧客があなたを必要としている。

それが力だ。それが事業だ。

問いは、「作るのにいくらかかるか」ではない。「買う人にとって、いくらの価値があるか」だ。

企業に売るとき、売っているのは機能ではない。成果だ。節約できる時間、増やせる利益、取り除ける問題。価格に反映すべきなのは、その価値の一定割合であって、サーバー代ではない。

エンジニアはこれを嫌う。商売を物理学のように見る。一つの入力、一つの出力。だが商売は物理学ではない。心理だ。信頼だ。なぜそれが大切なのかを伝える物語だ。

高く売る会社は、契約を勝ち取る営業チームを雇える。契約を勝ち取る会社は、次の機能を出すエンジニアを雇える。機能を出す会社は、さらに高く売れる。

高い価格は、売り手にいいだけではない。顧客にもいい。顧客が本当に欲しい製品を作る資金になる。

安さは罠だ。気前よく感じる。実際には、存在意義を失う近道だ。

値上げしよう。それから、もう一度値上げしよう。

これを理解する創業者は、会社を築く。理解しない創業者は、息絶えるまでコストで競う。

「悲観主義への反論」のイラスト

悲観主義への反論

物事は、根本的によくなるわけでも、悪くなるわけでもない。逆説的に期待を裏切りながら、構造としてはやっていける。それだけだ。 だから、やることは必ず残る。だから、悲観主義には意味がない。 世界について、私たちは二つの物語を売り込まれている。 一つ目は進歩。すべてがよくなっている。技術、健康、富。どれも上向きだ。待っていればいい。未来は明るい。…

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物事は、根本的によくなるわけでも、悪くなるわけでもない。逆説的に期待を裏切りながら、構造としてはやっていける。それだけだ。

だから、やることは必ず残る。だから、悲観主義には意味がない。

世界について、私たちは二つの物語を売り込まれている。

一つ目は進歩。すべてがよくなっている。技術、健康、富。どれも上向きだ。待っていればいい。未来は明るい。

二つ目は衰退。すべてが崩れている。気候、政治、社会。どれも崩壊に向かっている。身構えろ。終わりは近い。

どちらも間違っている。

私は、成長した会社も、消えた会社も作ってきた。財産が築かれるのも、失われるのも見てきた。そして気づいた。水位はだいたい同じままだ。ただ、場所から場所へ移るだけなのだ。

ここで問題を解けば、あちらに問題が生まれる。一つの戦いに勝てば、別の戦いに負ける。差し引きの状態はほとんど変わらない。移り変わるだけだ。

逆説的に、期待を裏切る。

何を達成しても、望んだものと得たものの間には、必ず隙間が残る。これは不具合ではない。現実の構造だ。

何もかも解決した地点には、決して着かない。そんな瞬間は存在しない。隙間は永久に残る。

構造としては、やっていける。

それでも、床は持ちこたえる。抜け落ちはしない。人は適応し、作り、やり直す。仕組みは衝撃を吸収する。

論理的に、何が言えるだろう。

やることは必ずある。解くべき問題、埋めるべき空白、改善できる何か。工事現場は、決して閉じない。

悲観主義者は、失望を見て止まる。

作る人は、同じ失望を見て考える。なるほど、取り組めることがもう一つ増えた。

私は、どちらになりたいか分かっている。

「光あれ」のイラスト

光あれ

私が「Fiat lux」、光あれ、と言うとき、詩を口にしているのではない。 実際の感覚を表している。創造が言葉を発する行為になり、思考と実行の距離が縮み、成果物があふれ、努力がもはや主要な制約ではない段階に世界が入っている。それを理解する瞬間の感覚だ。 古い世界は、耐え抜く力に報いた。 新しい世界は、明晰さに報いる。 古い世界は、野心にコストという罰を与えた。…

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私が「Fiat lux」、光あれ、と言うとき、詩を口にしているのではない。

実際の感覚を表している。創造が言葉を発する行為になり、思考と実行の距離が縮み、成果物があふれ、努力がもはや主要な制約ではない段階に世界が入っている。それを理解する瞬間の感覚だ。

古い世界は、耐え抜く力に報いた。

新しい世界は、明晰さに報いる。

古い世界は、野心にコストという罰を与えた。

新しい世界は、混乱に無意味になるという罰を与える。

いちばん落ち着かないのは、これらが本当であるために、何一つ目に見える必要がないことだ。

あなたの街は、これまでと同じ街に見える。

だが、その下では、並行する別の層が経済を書き換えていく。

最初は、気づかないかもしれない。

身近な誰かが、ありえないと思う速さで動き始めたときに気づく。組織が決めるより速く、製品が現れたとき。かつて一つの部門が必要だったことを、一人が生み出したとき。「アイデア」と「現実」の距離があまりに短くなり、魔法に見え始めたとき。

そしてある日、何か月も先延ばしにしていた考えを抱え、疲れ切って椅子に座る。

それを打ち込む。

エンターキーを押す。

すると、光が来る。

Fiat lux。光あれ。

どんな説明にも代えられない形で、理解する。未来は、騒音とともにやってきたのではなかった。

文字として来たのだ。

あなたが言葉を発するのを、待っていたのだ。

「私の真実」のイラスト

私の真実

自分について書かれたものを、ずいぶん読んできた。 自分自身の真実を書きたい。 自分は何者か、何を土台に考えるか 私を一行で表すなら 私は、創業者、レバレッジ、市場で運命が形づくられる仕組みに取りつかれた、徹底した資本主義者だ。 基本となる考え 多くの人は、仕組みを過大評価し、個人を過小評価する。革命を起こすのは委員会ではなく、現実を曲げる個人だ。…

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自分について書かれたものを、ずいぶん読んできた。

自分自身の真実を書きたい。

自分は何者か、何を土台に考えるか

私を一行で表すなら

  • 私は、創業者、レバレッジ、市場で運命が形づくられる仕組みに取りつかれた、徹底した資本主義者だ。

基本となる考え

  • 多くの人は、仕組みを過大評価し、個人を過小評価する。革命を起こすのは委員会ではなく、現実を曲げる個人だ。
  • 資本はお金ではない。許可だ。お金は、その目に見える層にすぎない。
  • 一般に売り込まれるワークライフバランスは、実現されていない可能性への鎮静剤だ。自分より長く残るものを築くには、釣り合いの取れないほどの執着が要る。
  • 制度は、まず自分自身を守り、次にアイデア、最後に個人を守る。それを忘れる創業者は、自ら犠牲になることを申し出ている。

リスクとの関係

  • 多くの投資家は、リスクを減らすために測る。私の原則は違う。創業者、市場、タイミングがそろったとき、リスクを引き受ける。
  • 安全であろうとしているのではない。明白になるまでは狂気に見える、その縁で正しくあろうとしている。

初期の警告サイン

  • 組織が成長するにつれ、構造が持つ引力が強まった。
  • 人、手続き、関係者が増える。その層の一つ一つが、当初の使命と日常の業務の間に摩擦を加えた。
  • 力の向かう先が、「創業者が賢くルールを破るのをどう支えるか」から、「作った構造をどう維持し、正当化するか」へ、少しずつ移った。

哲学のずれ

  • 当初の原則は、創業者を何より優先すること。組織そのものよりも優先することだった。
  • ずれた後の原則は、不都合な真実よりも、ブランド、構造、内部の物語を守ることだった。
  • 組織が、創業者の生存と成功ではなく、自らの生存に最適化し始めると、使命は中心ではなくなる。構造を守るための物語になる。

ガバナンスと支配の力学

  • 時間とともに、運営や統治の判断が、リスク回避とイメージ管理に傾いた。
  • 「創設時の使命に徹底して沿っているか」ではなく、「組織とその指導者にとって安全に感じられるか」が、内部の判断になっていった。
  • 内部には緊張がある。一方は創業者を最優先に、強い確信に基づく大胆な賭けを求める。もう一方は、制度としての体面とリスクの最小化を求める。

避けられない衝突

  • 両立しない二つの論理が、同じ家に住んでいた。論理Aは、速く動き、混沌を受け入れ、創業者を徹底して中心に置く。論理Bは、組織を固め、穏健になり、提携先、規制当局、世間に立派に見せる。
  • 矛盾した二つの動作原理を、仕組みの中に永久に同居させることはできない。一方の文化が他方を追い出すか、構造全体が崩れる。

標的を選ぶ仕組み

  • 危機にある組織は、責任を集中させるため、内部の人やかつての内部者を探すことが多い。
  • よくある理由は、構造的失敗を認めるより、一人を指さす方が簡単だからだ。責任の所在を決めると、混乱した関係者に一貫した説明を与えられる。対立を外へ追い出せば、残った集団がまとまる。

なぜ戦略上、重要なのか

  • 創業者は、厳しい現実を理解する必要がある。組織が語りたい物語に合わなくなった日、どれだけ貢献してきても、その物語の悪役になりうる。利害が分かれるとき、過去の価値は将来の標的化から守ってくれない。
  • 教訓は、組織が評判を守ってくれることに頼らないこと。自分自身の物語を伝える基盤を持つことだ。

感情として読むか、構造として読むか

  • 感情の次元では、痛く、不公平で、消耗する経験だ。
  • 構造の次元では、不思議ではない。衰える制度は、一貫性を求める。単純化された悪役が、感情的なまとまりを与える。当初の使命の、居心地の悪いほどの強さをまだ体現している人は、自然に候補になる。

方向性が崩れることから学ぶ

共同創業者と権力の共有

  • 共同創業は、友情や資料上の補完関係の問題ではない。リスク許容度、権力への姿勢、長期的な哲学の方向が、深く一致しているかどうかだ。
  • 一人が海賊であり続けたいのに、他の人が管理者になりたいなら、衝突は時間差でやってくる必然でしかない。

自分が作る制度について

  • 自分が築いた制度は、やがて自分に牙を向けることがある。
  • ブランドが成功するほど、他人がそれを支配したい誘因は強くなる。作るのを助けた人を消したり、攻撃したりする必要があってもだ。
  • 創業者は、いつか制度と個人の方向が合わなくなる可能性を前提に、統治と所有を設計しなければならない。

忠誠について

  • 忠誠は、道徳的な美徳として約束されることが多い。だが実際には条件付きだ。人はインセンティブに忠実だ。自らの生存に忠実だ。自分の立場を正当化する物語に忠実だ。
  • 大きな利害が動く環境で無条件の忠誠を当てにするのは、戦略ではない。願望だ。

追放について

  • 自分が作ったものから追い出されることは、現実にありうる。
  • 哲学と正気を守るために、自分が建てた家から立ち去る覚悟がないなら、最高の水準で勝負する覚悟もない。

技術、教育、地理

AIと個人のレバレッジ

  • AIは、アイデアと実行の距離を、ほとんどゼロまで縮めていく。
  • 資本、AIの道具、届ける手段を持つ意欲的な一人は、かつてチームだけが出せた速度で実験できる。外部の専門家、エージェント、ソフトウェアを、見えないスタッフのように連携させられる。一つの頭脳の下で、複数の事業体を並行して動かせる。

従来型アクセラレーターの終わり

  • 募集期、デモデー、少額の出資、一般的な助言という従来のモデルは、構造的に古くなっている。
  • 創業者が必要としているのは、官僚的な手続きのない資本、上から目線ではない知識、通過儀礼のない人脈だ。
  • 次の支援の形は、委員会ではなく、私的な同業者集団、AIに支えられた助言ネットワーク、専門性と確信を持つ投資家に近くなる。

教育と学位の揺らぎ

  • 工業時代の教育制度は、技術と起業の現実の速度に合っていない。
  • 官僚的な制度では学位が重要であり続けるだろう。だが、創業者や作る人は、実践者に直接会えること、徒弟関係に近い学び、必要なときに問題を中心に学べる場と仲間を優先する。

地理と力

  • 活力と野心の軸は、ドバイや中国のような場所を、ますます通るようになる。
  • 疲れた社会は、郷愁と保護で交渉する。飢えた社会は、機会と速度で交渉する。
  • 創業者は、税金や暮らし方だけで場所を選ぶべきではない。意思決定の速さ、富を生み出すことを受け入れる文化、新技術に対する規制の明確さも見るべきだ。

伝え方

  • 明晰さと確信を持って話す。明らかに自分の経験の範囲内にあることについて、不必要にぼかさない。
  • 真実より怒りを集めるよう設計された公の場で、自分を弁護するために時間を浪費しない。

使う比喩

  • 歴史。革命、帝国、追放を使い、力の移動を捉える。
  • 戦争。戦略、戦線、同盟、撤退を比喩に使う。対立を賛美するためではなく、構造を明確にするためだ。
  • 生物学。組織を、免疫系、壊れ方、生存本能を持つ生物として捉える。

最後に

  • 仕組みは立ち上がり、ずれ、崩れる。個人は、適応するか、妥協するか、立ち去る。
「モーリス・アレと、連続市場という幻想」のイラスト

モーリス・アレと、連続市場という幻想

私はツイッターで、一つの直感を共有した。暗号資産の未来には、非連続的な市場が必要になる。 バッチオークション。 時間を区切ること。 価格は毎秒動かなくてはならない、という幻想を壊すものなら何でも。 リンクトインで、友人のユベール・ド・ヴォープラヌが答えた。作家で、弁護士で、金融規制の専門家だ。「君はモーリス・アレを再発見したんだよ」。 名前は聞いたことがあった。…

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私はツイッターで、一つの直感を共有した。暗号資産の未来には、非連続的な市場が必要になる。

バッチオークション。

時間を区切ること。

価格は毎秒動かなくてはならない、という幻想を壊すものなら何でも。

リンクトインで、友人のユベール・ド・ヴォープラヌが答えた。作家で、弁護士で、金融規制の専門家だ。「君はモーリス・アレを再発見したんだよ」。

名前は聞いたことがあった。

時間を取って読んだことはなかった。

学界の崇敬の下に埋もれた、また一人のフランス人経済学者だと思っていた。

それから、彼の著作を開いた。

いきなり、頬を張られたようだった。

当時の支配的なモデルに一生反論し、あらゆる人を苛立たせ、ことあるごとに主流に逆らった男。それでも、ノーベル賞を取った。それだけでも、立ち止まって考える価値がある。

だが、最も驚いたのはこれだ。アレは60年前に、連続市場の根本的な欠陥を見抜いていた。そして、現代の金融システムが幼稚に見えるほどの明晰さで、それを語っていた。

彼が何を理解していたのか。そして、なぜ特に暗号資産にとって重要なのか。解きほぐしてみよう。

連続市場:現実ではうまくいかない美しい発想

連続取引は、自然法則のように扱われる。

価格は毎秒更新されるべきだ。

情報は瞬時に織り込まれるべきだ。

市場は眠ってはいけない。

この物語は、現代人の想像力を喜ばせる。

同時に、脆い仕組みを作る。

アレは、経済学者たちが無視していた明白なことから出発した。現実の市場は連続的ではない。人は断続的に考える。情報は衝撃として届く。意思決定は、まとまって起きる。

連続的な構造は、雑音を情報のように見せる。

小さな不均衡がシグナルになる。シグナルがトレンドになる。トレンドが連鎖反応へと変わる。

世界で何かが起きたから反応するのではない。反応するように作られているから、システムが反応する。

これが、アレの批判の土台だ。

連続取引が本当に生み出すもの

1. 雑音を増幅する

連続的な仕組みの中で、市場は感度が高すぎるマイクのように振る舞う。すべてを拾い、何も安定させない。

ごく小さな注文で価格が震える。アルゴリズムは影を追う。変動性が、構造に組み込まれる。

2. 理解ではなく、速さに報いる

洞察よりタイミングの価値が高くなると、市場はよくなるのではない。歪む。

高頻度取引業者が得をする。ファンダメンタルズを見る投資家は歪みを追わされる。それ以外の人は、巻き添えになる。

3. 価格をファンダメンタルズから切り離す

1分間に40回動く価格は、現実世界についての40回の情報更新を反映しているのではない。機械内部の40回の衝動を反映している。

構造が誇張を促すなら、誇張が普通になる。

アレは、高頻度取引も、暗号資産も、フラッシュクラッシュもない何十年も前に、これを見ていた。

彼の解決策:機械を止める

アレは夢想家ではなかった。資本主義や金融を小さくしようと言ったのではない。

実際に、現実の何かを反映する市場を求めた。

提案は、徹底的に単純だった。

1日に一つの清算価格。資産ごとに一つの統一された値決め。連続的な反応ではなく、注文をまとめて決まる均衡。

日中に、全員が注文を出す。決まった時刻に、市場で取引を成立させる。すべての需要と供給を集約した、一つの価格が生まれる。

最後の取引でも、最速のアルゴリズムでも、その瞬間の恐慌でもない。

本当の均衡だ。

この構造には、三つの働きがある。

  1. 雑音が打ち消し合う。
  2. 投機が、仕組み上の優位を失う。
  3. 価格が再びシグナルになる。

読んでみると、この構想がどれほど現代的に感じられるか、強調しすぎることは難しい。

世界が、彼の正しさを示した

彼は、現在こう呼ばれるものを、ほとんどそのまま予見していた。

  • フラッシュクラッシュ
  • 流動性の空白
  • 再帰的なフィードバックループ
  • ボラティリティの連鎖的拡大
  • 24時間365日市場の、カジノのような構造
  • 暗号資産市場の崩壊
  • アルゴリズムによる連鎖反応

アレは、それらが存在する前に書いていた。

それなのに、その分析は2010年、2020年、2022年、そしてその間のすべてを事後検証したように読める。

連続市場が脆さを生むのは、そうならざるをえないからだ。そのように作られている。

さらに深い洞察:市場の設計が、市場の行動を決める

これが、本質的な教訓だ。

市場は真実を明らかにするのではない。自分自身の構造がもたらす結果を明らかにする。

連続的な仕組みを設計すれば、不安定さが生まれる。周期的な仕組みを設計すれば、安定が生まれる。

道徳ではない。仕組みの話だ。

皮肉なことに、暗号資産はアレの直感を試すのに理想的な位置にいる。世界規模で、リアルタイムで、構造的に連続している。つまり、構造的に変動が激しく、自己反応的で、脆い。

次世代の暗号資産市場が、価格変動への依存から抜け出し、現実の経済用途を作りたいなら、アレが説明した構造を取り入れる必要がある。

美しいからではない。機能するからだ。

結び

モーリス・アレは、時代を先取りしていたのではない。市場の物理に、率直だっただけだ。

連続取引は自然ではない。中立でも、効率的でもない。ただ、自分の不安定さを速さで隠している。

休まない市場は、考えない市場になる。アレは、それを見抜いた。

絶え間ない動きの上に築かれた金融の世界で、その言葉は単純な力を持つ。

構造の速度を落とせば、システムは安定する。

「暗号資産業界は、カジノから出るべきだ」のイラスト

暗号資産業界は、カジノから出るべきだ

暗号資産がカジノになったのは、偶然ではない。二つの力が、そこへ押しやった。 1. あらゆるものを「証券ではない」と装わせる規制。それが、ミームコイン、見せ物のようなトークン、責任を伴わない売買の文化を生んだ。 2.…

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暗号資産がカジノになったのは、偶然ではない。二つの力が、そこへ押しやった。

  1. あらゆるものを「証券ではない」と装わせる規制。それが、ミームコイン、見せ物のようなトークン、責任を伴わない売買の文化を生んだ。
  2. 公開株式市場から借りた価格発見の仕組み。とりわけ、NYSEのような取引所が使う、連続的で高頻度の指値注文板というモデルだ。長期的な本質価値ではなく、速さ、先回り、マイクロ秒単位の駆け引きのための構造である。

ファンダメンタルズを避ける規制と、投機に報いる市場構造を組み合わせれば、研究よりルーレット、シグナルより雑音の多い環境が生まれる。

道徳の失敗ではない。仕組みの失敗だ。そして、仕組みの失敗は設計し直せる。


すべての会社が、初日から上場していたらどうなるか

私の直感は、厳しいが単純だ。

初期段階の会社がすべて初日から上場していたら、イノベーションは死ぬ。

若い会社には、安定したファンダメンタルズがない。あるのは仮説、脆い進路、そして極端な下振れの可能性だ。プロダクト・マーケット・フィットさえ得る前に、毎日24時間、毎秒、市場価格が更新されれば、そのフィードバックは有害になる。

  • 探索の代わりに恐慌
  • 発見の代わりに短期志向
  • 逆張りの思考の代わりに守りの戦略

イノベーションには、情報が公開されない時間が要る。事情を知らないトレーダーに毎分値付けし直されずに、アイデアを育てる時間だ。

暗号資産は、初期段階のプロジェクトを、公開市場型の価格発見にさらしてしまった。瞬時に、世界中で、容赦なく。

カジノになっても不思議ではない。プレシードのプロジェクトに、公開市場の取引を押しつけたのだから。

だが、価格を発見する方法は、連続市場だけではない。

代案を説明する前に、基本を理解しよう。


NYSEは、実際にはどう動いているのか

(初心者向けの説明)

多くの人は、NYSEは単純な場所だと思っている。誰かが買い、誰かが売り、価格が動く。

現実には、情報の非対称性、流動性の衝撃、戦略的な行動を吸収するため、細かく設計された仕組みだ。

簡単に説明しよう。

1. 連続取引は自然ではない。管理されている

NYSEは中央指値注文板、CLOBを使う。

  • 買い手が買い注文を出す
  • 売り手が売り注文を出す
  • 価格が一致するたび、注文が連続的に約定する

だが、この連続的な仕組みは非常に脆い。そのためNYSEは、マーケットメーカー、流動性供給の義務、変動時の中断、サーキットブレーカーといった設計を重ねている。

2. NYSEで最も重要な部分は、連続していない

寄り付き、引け、変動による中断後の再開には、コールオークションを使う。

  • 一定時間の注文をまとめる
  • 一つの清算価格を計算する
  • 全員が、その価格で取引する

まとめて行うこうした競売があるのは、連続的な注文の照合が、高速取引による攻撃、価格操作、薄い流動性に弱いからだ。

3. 指定マーケットメーカーは、カジノ化を防ぐためにいる

指定マーケットメーカー、DMMには、次の義務がある。

  • 流動性を供給する
  • 注文の不均衡を落ち着かせる
  • 無秩序な価格形成を防ぐ
  • 注文板が消えるとき、在庫リスクを引き受ける

任意の存在ではない。構造の一部だ。

こうした制約がなければ、NYSEは暗号資産取引の最悪の部分と同じ姿になる。板が薄く、価格が跳ね、操作されやすく、速度のゲームに支配される。


暗号資産は金融の悪い部分をコピーし、よい部分を無視した

暗号資産取引所は、連続指値注文板をコピーした。だが、次のものは持ち込まなかった。

  • 義務を負うマーケットメーカー
  • ボラティリティ・オークション
  • 情報開示のルール
  • 上場要件
  • サーキットブレーカー
  • インサイダー取引の取り締まり
  • ガバナンスの仕組み
  • 資産保管に関する保護

参加者を守る制度的な足場なしに、価格発見の機構だけを持ってきた。

連続市場が機能するのは、その周囲のすべてが成熟しているときだけだ。

暗号資産は、周囲に成熟したものが何もない環境で、連続市場を始めた。

結果は避けられなかった。激しい変動、操作、ミームコイン、投機的な回転売買だ。


非連続的な価格発見を研究する

暗号資産がカジノの段階を卒業したいなら、市場の時計を設計し直さなくてはならない。

連続取引は自然法則ではない。設計上の選択だ。そして、初期段階の資産にとっては、間違った選択である。

代わりの仕組みについて、本当の経済学とゲーム理論に基づく、新しい研究が必要だ。

1. 毎月、または四半期ごとの競売

こんな仕組みだ。

  • 資産を取引するのは、月に1回か、四半期に1回だけ
  • すべての注文を集約する
  • ファンダメンタルズを反映する一つの価格を計算する
  • 24時間365日の売買はしない
  • マイクロ秒の駆け引きはしない

これなら、市場の動きを、実際のプロジェクトの情報が更新される周期に合わせられる。

2. インセンティブと整合する価格発見

次のような仕組みだ。

  • 速さではなく、調査に報いる
  • 操作できる余地を減らす
  • 雑音を小さくする
  • 長期保有者に、ふさわしい主導権を与える

3. 流動性に応じて頻度を変える

プロジェクトの成熟に応じて、頻度を上げる。

  • 四半期ごとから、毎月、毎週へ
  • それでも、連続にはしない
  • 連続取引は初期設定ではなく、条件を満たして得るものだからだ

4. 競売、価格帯を限定した市場、混合モデル

探究できるものは、まだある。

  • 封印入札による単一価格オークション
  • ダッチオークション
  • 終了時刻をランダムにするコールオークション(仕組みの悪用を防ぐため)
  • 定期的なバッチオークション(Budish–Cramton–Shim)
  • 価格変動幅を限定した取引
  • 低頻度オークションを伴う、AMMと注文板の混合システム

暗号資産には、この研究が必要だ。この仕組みが必要だ。イノベーションを、24時間365日の値付け直しから切り離す必要がある。


さらに学びたい人のための最初の書架

カジノ型を超えた市場設計を理解したい人に、私なら次の研究や本を渡す。

マイクロストラクチャーの基礎

  • Glosten & Milgrom(1985):逆選択、スプレッド
  • Kyle(1985):インサイダー取引、価格インパクト
  • Madhavan(2000):マイクロストラクチャーの概観
  • Biais, Glosten & Spatt(2005):マイクロストラクチャーの基礎

オークション理論とバッチ市場

  • Budish, Cramton, Shim(2015):高頻度のバッチオークション
  • Vickrey(1961):オークション理論の基礎
  • Milgrom(2004):古典的なオークション理論の教科書

メカニズムデザイン

  • Myerson(1981):メカニズムデザインの基礎
  • Mas-Colell, Whinston, Green:一般均衡と情報
  • Rochet & Tirole:プラットフォーム経済学

現代の市場構造

  • Harris(2002):Trading and Exchanges
  • O’Hara(1997):マイクロストラクチャー理論
  • Hasbrouck:情報シェア、価格発見

暗号資産とAMMの理論

  • Angeris & Chitra:AMMの数学
  • Uniswap v3ホワイトペーパー:集中流動性
  • MEV研究:優先順位、価値の抽出、公平性

これらは、暗号資産の世界で生まれた文献ではない。暗号資産がカジノを再発明し続けるのをやめるために必要な、知的な道具だ。

「若さに必要なのは、勇気ではなく動きだ」のイラスト

若さに必要なのは、勇気ではなく動きだ

人は、会社を始めることを、燃える建物に飛び込むような行為として美化する。だが、タイミングは重要だ。勇気は絶対的なものではない。状況によって変わる。 すでに子ども、住宅ローン、キャリアの重みを背負っているなら、確かに飛び込む代償は大きい。切るロープには、何年もの安定が結びついている。だが学生や、大学というベルトコンベアーを降りたばかりの人に、どんなロープがあるのか。…

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人は、会社を始めることを、燃える建物に飛び込むような行為として美化する。だが、タイミングは重要だ。勇気は絶対的なものではない。状況によって変わる。

すでに子ども、住宅ローン、キャリアの重みを背負っているなら、確かに飛び込む代償は大きい。切るロープには、何年もの安定が結びついている。だが学生や、大学というベルトコンベアーを降りたばかりの人に、どんなロープがあるのか。

それは無謀だ、という神話がある。現実には、失うものがない。養う家族も、守る家も、石に刻まれた評判もない。すでに裸なのだ。それ以上脱ぐことに、何の危険があるのか。

退学は劇的に聞こえる。だが、そう聞こえるのは、人生の選択は永久に変えられないという筋書きを信じるからだ。実際には、取り返しがつき、忘れられ、ほとんど些細なことだ。「リスク」は、ただの考え、聞かされてきた物語にすぎない。

本当のところ、若いときに会社を始めるのに、大きな勇気は要らない。必要なのは、不利益だと思っているものが幻想だと気づくことだ。燃やすキャリアも、浪費する資産もない。あるのは時間だけだ。そして20歳の時間は、生涯で最も安く手に入る通貨である。

だから、残る問題は勇気ではなく臆病さだ。代償がこれほど低く、可能な軌道がこれほど高いのに、動かないこと。それだけが裏切りだ。

若い創業者は、炎に飛び込む英雄ではない。ただの空気しかないところに炎があるふりをして立ち止まるなら、そのときこそ臆病なのだ。

「分野を横断する創業者のための読書地図」のイラスト

分野を横断する創業者のための読書地図

会社を作るには、分野をまたいで働く必要がある。技術、事業戦略、創造的な思考が交わる。広く柔軟な知識の土台があれば、複雑さを理解し、一見無関係なアイデアをつなぎ、問題を複数の角度から解ける。 土台…

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会社を作るには、分野をまたいで働く必要がある。技術、事業戦略、創造的な思考が交わる。広く柔軟な知識の土台があれば、複雑さを理解し、一見無関係なアイデアをつなぎ、問題を複数の角度から解ける。

土台

大学に入ったとき、学ぶべき本や文章の膨大なリストを渡された。難しく、初めは圧倒されもした。だが結果として、それは教育の中でも最も価値ある部分の一つになった。知的な持久力をつけ、広い視野を育てることを楽しめるようになった。

同じ精神を、一緒にする仕事にも持ち込みたい。

技術、ビジネス、創造性、システム思考などの重要な概念を扱う、選び抜いた読書リストを用意する。意図的に、かなり野心的な内容にしてある。

どう読むか

  • 開かれた議論。読んだものについて、会話、討論、批評をしてほしい。学ぶことは、受け身ではなく能動的な行為だ。
  • 気ままな探索。順番を気にせず、手に取ればいい。
  • 文化に浸る。目標は、ただ内容を「知る」ことではない。その中に浸ることだ。文化は、集中と反復によって育つ。

なぜ大切なのか

力のある考えに囲まれることは、任意の選択ではない。必要なことだ。しっかりした知識の土台を作れば、速く動き、明晰に考え、よい判断ができる。共通の言葉が生まれ、一緒にするあらゆる仕事の質が上がる。この過程に打ち込めば、複雑さに適応するだけでなく、それを扱えるようになる。

何のためにここにいるのか。稼ぐためだ 💸

富を求めることに、恥はない。豊かになりたいという願いは、道徳的な欠陥ではない。合理的で、責任ある選択だ。私の目標は、自分の富を築き、同じように築く機会を周りの人にも作ることだ。

私たちの社会は、富と強欲を混同しがちだ。それは間違っている。正当に得た富は、利己心の表れではない。価値を作り、問題を解き、リスクを負い、長い時間をかけて規律ある判断を積み重ねた結果だ。

富は自由を作る。追い詰められた事情ではなく、原則に従って選ぶ力をくれる。人、アイデア、よりよい未来を築くことに投資できる。なければ、自分では制御できない状況に縛られる。

富を築くことは、個人的な利益だけの話ではない。独立し、人を助け、世界に意味のある貢献をする力を得ることだ。

この考えを明快に、筋道立てて説明するものを一つ挙げるなら、ナヴァル・ラヴィカントの「運に頼らず豊かになる方法」だ。

ナヴァルは、富を築くことを、一連の技能として捉え直す。

  • コード、メディア、資本、人を通じてレバレッジを使うことを学ぶ

  • 時間を貸すのではなく、資産を所有する

  • 判断力、忍耐、明晰さをもって決める

彼の見方は実践的だ。富は、仕組みがどう動くかを理解し、その中で適切な位置を取ることで生まれる副産物だ。短期的な勝ちを追うのではない。長く残るものを築くことなのだ。

私たちは、この枠組みで動くべきだ。不必要に苦しむことに高潔さはない。成功することに恥はない。やるべきことは、富を理解し、賢く求め、責任を持って使うことだ。自分のため、そして一緒に築くことを選んだ人のために。

ポール・グレアムという土台

  • スタートアップの始め方:アイデアを生むところから実行まで、起業の基礎を扱う。
  • スケールしないことをしよう:初期の成長を得るために、手作業で取り組むことの重要性を説く。
  • 作り手の時間割、管理者の時間割:創作者と管理者で異なる時間の使い方と、そこから生まれる衝突を考える。
  • ハッカーと画家:プログラミングと絵画を比較し、どちらも創造的な営みだと論じる。
  • 平均を超える:強力なプログラミング言語を使う利点と、「Blubパラドックス」を紹介する。
  • 言ってはいけないこと:社会の常識を疑い、禁忌とされる話題を考えることが、革新につながると説く。
  • 富の作り方:とりわけスタートアップによる富の創造を分析し、所得格差についての通念に挑む。
  • エッセイの時代:エッセイの目的と、考えを育て、伝える役割を考える。
  • 頭の中の最重要の考え:最も強く意識を占める考えに、注意を向ける重要性を示す。
  • 決意の構造:決意を構成する要素と、成功における役割を分解する。
  • アイデンティティを小さく保つ:自分の所属や立場に基づく思考を減らし、新しい考えや見方に開かれていようと勧める。
  • どう反論するか:反論の階層を示し、より建設的で理性的な議論を促す。
  • よい先延ばし、悪い先延ばし:前進を妨げる先延ばしと、生産的な結果につながる先延ばしを区別する。
  • スパムへの対策:ベイズ型スパムフィルターの開発を説明し、統計手法の実用例を示す。
  • なぜオタクは人気がないのか:学校の社会的な力学と、知的な生徒が直面する困難を考察する。
  • 依存性の加速:現代の技術がますます依存を生みやすくなることと、その影響を論じる。
  • 懸命に働くには:努力することの本質について考える。
  • 天才のバス切符理論:ある対象への深く執拗な関心が、並外れた成果につながると提案する。
  • 再分断化:集中したメディアから、細分化されたメディアへの移行を分析する。
  • 自分の頭で考えるには:独立した思考を勧める。

人生でうまくやるための科学

  • 科学的な自己改善:生産性、学習、幸福のために、実際に効果のある、証拠に基づいた方法を概観する。
  • 先延ばしに勝つ方法:先延ばしの理由を簡単な式で説明し、行動するための調整方法を示す。
  • 先延ばしを克服する私のアルゴリズム:先延ばしをその場で見つけ、修正する四段階の実践法。
  • 幸せになる方法:感謝や瞑想など、長期的な幸福を高める、研究に裏づけられた習慣。
  • 状況主義心理学からのよい知らせ:意志の力だけでなく、環境を変えることで行動が変わると示す。
  • 強化の力:小さく即時の報酬が、よい習慣を定着させ、継続的な行動を支えることを示す。

AIの哲学を理解する

  • AI革命・第1部:特化型人工知能(ANI)、汎用人工知能(AGI)、超知能(ASI)を紹介し、進展の速さと、人間の知能を超えることの影響を考える。
  • AI革命・第2部:超知能の存在論的なリスクと、世界を変える可能性を探り、手遅れになる前にアラインメントと制御の課題に取り組む必要性を強調する。
  • 直交性テーゼ:AIの知能の高さと目標は独立しており、非常に賢いAIでも、人間の価値観と一致しない目的を追いうると論じる。
  • 高度なエージェントの性質:戦略的な認識や目標指向の行動など、強力なAIを予測しにくく、ときには制御困難にする性質を論じる。
  • 状況認識:これからの10年:AIが急速に進み、10年以内に超知能へ至ると予測する。その際の社会的、地政学的な変動に備える必要性を説く。
  • 知能爆発への備え:アラインメントだけでなく、AIの急速な発展がもたらす幅広い課題に、前もって対処する重要性を示す。

なぜ私たちは、こんなに遅いのか

作り、失敗し、やり直す中で、私はこう考えるようになった。速さは、作業を速めることから生まれるのではない。締め切りを短くすることから生まれる。切迫感の火から生まれる。3か月を与えれば、人は動く。3年を与えれば、計画する。歴史には、とんでもない例がある。90日でVisa。1年でディズニーランド。400日あまりで、あのエンパイア・ステート・ビル。奇跡ではない。徹底して優先順位をつけ、計画しすぎて動けなくなることを拒んだ結果だ。人は話すのではなく、実行した。実行の速さは、明晰さと圧力の副産物だ。チームに与える時間は、増やすより減らす。延々と続く会議、状況報告、ピッチ資料を切る。とにかく作る。大半のアイデアは、悪いから死ぬのではない。議論されすぎて死ぬ。

Stripeのパトリック・コリソンは、自分のウェブサイトで、人々が協力して野心的なことを素早く成し遂げた例と、その経緯を紹介している。

  • BankAmericard。ディー・ホックは、後のVisaカードになるBankAmericardを、ゼロから90日で立ち上げるよう求められた。実現し、その間に10万人以上の顧客を獲得した。出典:Electronic Value Exchange。
  • P-80シューティングスター。ケリー・ジョンソンとチームは、アメリカ空軍が使った最初のジェット戦闘機P-80を、143日で設計し、引き渡した。出典:Skunk Works。
  • マリンシップ。「W・A・ベクテル社がアメリカ海事委員会から電報を受け取ると、造船所の建設はただちに始まった。電報は1942年3月2日に届き、3月3日にサウサリートの用地を選び、3月9日にワシントンDCで建設案を示した。説明開始から10分で、海事委員会の担当者はベクテル社に建設を指示した。実際の工事は3月28日に始まった。建設のため取り壊されるパインポイントに住む42世帯が転居できるよう、着工を2週間遅らせた」。最初の船は、その年の9月15日、電報から197日後に完成した。出典:Marinship on the Fast Track。
  • スピリット・オブ・セントルイス号。1927年、ドナルド・ホールとチャールズ・リンドバーグは、60日で機体を設計し、製作した。「必要な燃料を計算するため、2人はサンディエゴのEストリート820番地にある公共図書館へ車で向かった。リンドバーグは地球儀とひもを使い、ニューヨークからパリまでの距離を推定した。3,600法定マイルとなり、ホールは400ガロンの燃料が必要だと計算した」。出典:Ryan Airlines gave Lindbergh wings。
  • エッフェル塔。2年2か月、793日で建てられた。1889年の完成時には世界一高い建築物となり、その記録を40年以上保った。費用は2019年のドル換算で約4,000万ドル。出典:Eiffel's Tower。
  • トレジャーアイランド。1935年、サンフランシスコはゴールデンゲート橋とベイブリッジの完成を記念し、ゴールデンゲート国際博覧会の会場となる新しい島を作ると決めた。その結果生まれたのが、湾の中央にある400エーカーの人工島、トレジャーアイランドだ。1935年に着工し、1937年3月までに完成した。出典:San Francisco Fair: Treasure Island。
  • アポロ8号。1968年8月9日、NASAはアポロ8号を月へ向かわせると決めた。打ち上げは同年12月21日、134日後だった。出典:Apollo Spacecraft Chronology。
  • アラスカ・ハイウェイ。1942年から、ブリティッシュコロンビア東部とアラスカのフェアバンクスを結ぶ1,700マイルの軍用道路が、234日間で建設された。出典:The Alaska Highway。
  • ディズニーランド。ウォルト・ディズニーが構想した「地球上で一番幸せな場所」は、366日で実現した。出典:Under Construction: A look inside Walt Disney’s Disneyland。
  • エンパイア・ステート・ビル。着工から完成まで410日だった。出典:Empire State Building。
  • ベルリン空輸。1948年6月24日、ソ連がベルリン封鎖を始めた。2日後、空輸が始まった。その後463日間、アメリカ、イギリス、フランスは300機を使って27万7,000回飛行し、220万人の住民を支える物資を届けた。14か月間、平均2分に1機の補給機が着陸した。その一環として、テーゲル空港も建設された。計画開始は1948年7月。8月5日に着工し、92日後の11月5日に最初の着陸を受け入れ、12月5日に正式開港した。出典:The Candy Bombers。
  • ペンタゴン。世界最大のオフィスビル建設を率いたのは、ブレオン・サマーヴェルだった。木曜の夜に実施を決め、その日曜には初期図面ができた。2か月後の1941年9月11日に着工し、491日後の1943年1月15日に完成した。いつまでに必要かと聞かれると、サマーヴェルは決まって「一昨日だ」と答えた。出典:The Pentagon。
  • ボーイング747。ボーイングは1966年3月、747計画を始めると決めた。最初の747が完成したのは1968年9月30日。約930日後だった。出典:Boeing 747: A History。
  • ニューヨーク地下鉄。最初の契約は1900年2月21日。4.7年後の1904年10月27日に28駅が開き、通常運行が始まった。2000年4月、MTAはセカンドアベニュー地下鉄の建設を決めた。3駅を含む第1期が開業したのは、2017年1月1日だった。出典:The New York Times。
  • TGV。1976年4月30日、フランス政府はパリとリヨンを結ぶ高速鉄道の計画を承認した。ヨーロッパ初の高速鉄道だった。新しい電気車両も、計画の一環としてフランスで開発することになった。路線は1,975日後の1981年9月26日に開通した。出典:On the Fast Track。
  • USSノーチラス。アメリカは1951年7月、世界初の原子力潜水艦を建造すると決めた。就役は1,173日後の1954年9月30日だった。出典:Cold War Submarines。
  • JavaScript。ブレンダン・アイクは1995年5月、最初の試作を10日間で実装した。その年の9月にベータ版として出荷された。出典:ブレンダン・アイクによる言語の歴史。
  • Unix。ケン・トンプソンは、最初の版を3週間で書いた。出典:UNIX: A History and a Memoir。
  • Xerox Alto。最初のGUI志向のコンピューターであるAltoの開発は、賭けをきっかけに1972年11月に始まった。「チャックが未来のコンピューターを3か月で作れると言い、ゼロックスの幹部が、無理だという側にワイン1ケースを賭けた」。Altoを作るには、ハードウェア、OS、アプリケーションの広範な設計と実装が必要だった。最初の完成機が披露されたのは1973年3月1日だった。出典:アラン・ケイ。
  • 深圳。1998年から1999年の1年間で、人口が440万人から540万人へ、100万人、22%増えた。出典:PopulationStat。
  • iPod。トニー・ファデルは2001年1月末、iPodを作るために採用された。3月にスティーブ・ジョブズが承認し、4月に受託製造業者を決め、10月に製品を発表した。11月、着手から約290日で、最初の量産iPodが顧客に届いた。出典:トニー・ファデル。
  • Amazon Prime。アマゾンは2004年末に最初の版の実装を始め、6週間後の2005年2月2日に発表した。出典:The making of Amazon Prime。
  • Git。リーナス・トーバルズは2005年4月3日に開発を始めた。4日後には、Git自身をGitで管理していた。17日後の4月20日、Linux 2.6.12-rc3がGitを使って公開された。出典:LKML。

反対の例もある。サンフランシスコでは、2001年にヴァンネス通りの新しいバス専用レーンが提案された。開通は2022年で、約7,600日かかった。市交通局の広報担当ポール・ローズは、「開始以降、雨天が増えたため遅延した」と説明した。費用は3億4,600万ドル、1メートル当たり11万ドルだ。先に挙げたアラスカ・ハイウェイは、人里離れたツンドラを通り、2019年のドル換算で1メートル当たり793ドルだった。何が起きているのか。

上の物理的なインフラの例は、1970年以前に偏っている。なぜか。仮説を示す文献を挙げる。

  • マーク・ダンケルマンは、ペン駅の改修計画が何度も失敗してきた理由を調べた。
  • アロン・レヴィは、建設だけでなく、実際の運行も遅くなったと指摘する。
  • リン・サガリンは、グラウンドゼロ再開発に時間がかかった理由を本にした。タイムズ紙で評したエド・グレイザーは、「1931年にはニューヨーク・ニュージャージー港湾公社が、当時世界最長の吊り橋だったジョージ・ワシントン橋を49か月で作れた。その時代から、アメリカがなぜ、どう変わったかを教える物語だ」と書いた。
  • ハーバート・カウフマンは、官僚主義について本を書いた。フィリップ・ハワードの序文には、アメリカの官僚的制約の性質が1960年代に変わったという主張がある。
  • ハワードは、さらにこの問題を掘り下げた「10年ではなく2年:インフラ承認の再設計」という報告書も書いた。ジョージ・ウィルも、それについてコラムを書いている。
  • 『American Government: Brief Version』の著者たちは、アメリカ政治の「古い制度」と「新しい制度」を対比し、やはり1960年代に重要な変化があったと論じる。
  • マンサー・オルソンは、安定した社会は時とともに活力を失い、特定利益集団に縛られる傾向があると論じた。実証的な裏づけは一様ではない。上の論点の一部を統合して、フランシス・フクヤマは、利益集団がアメリカを「拒否権政治」にしたと論じた。

ビジネスのための信条

  • ステータス・アズ・ア・サービス:ソーシャルネットワークが社会的資本を得る場として機能する仕組みを探り、利用者の関与や成長における地位の力学を重視する。
  • 最良の人を採用するには:特にスタートアップでは、純粋な知能より、意欲、好奇心、倫理が採用で重要だと論じる。
  • 起業家の判断ミスの心理学:インセンティブに起因する偏りや社会的証明など、創業者を誤判断へ導く認知バイアスを取り上げる。
  • 運と起業家:運を四つに分類し、積極的な行動と準備が、偶然の機会を生かす確率を高めると説く。
  • 個人生産性のガイド:固定スケジュールを避ける、三つの特定のリストを持つなど、型にはまらない効率化の方法を提案する。
  • 1,000人の真のファン:すべての作品を支える熱心なファン1,000人がいれば、創作者は経済的に自立できると提案する。
  • 苦闘:困難な時期に起業家が直面する感情的な問題を描き、粘り強さと透明性を、乗り越える鍵とする。

メンタルモデル

  • 地図と領土:頭の中のモデルである地図と、現実である領土を区別し、認識を事実に合わせる重要性を説く。
  • 能力の輪:本当に専門性のある領域に集中し、自分の限界を認め、尊重する。
  • 第一原理思考:複雑な問題を根本的な真実まで分解し、土台から新しい解決策を作る。
  • 思考実験:仮想の状況を使い、現実の危険を負わずに、考えを探り、前提を疑う。
  • 二次的思考:目先の結果だけでなく、行動の長期的な帰結を考える。
  • 確率的思考:確実だという思い込みではなく、可能性と統計的な推論で判断する。
  • 逆転:失敗する方法を見つけて避けるなど、逆の方向から問題を解く。
  • オッカムの剃刀:他の条件が等しければ、複雑な説明より単純な説明を選び、不要な複雑さを避ける。
  • ハンロンの剃刀:無知や誤りで説明できることを、悪意のせいにしない。
  • ガリレイの相対性:自分の基準枠が認識に影響することを知り、複数の視点を大切にする。
  • 速さと速度:ただ活発に動くことと、目標に向かって方向を持って進むことを区別する。
  • レバレッジ:小さな力を適切な位置にかけると、大きな成果が得られることを示す。
  • 活性化エネルギー:行動を始めるために必要な最初の力と、惰性を乗り越える方法を説明する。
  • 赤の女王効果:競争環境では、現状を維持するだけでも、絶えず適応が必要になる。
  • インセンティブ:報酬と罰が、思う以上に行動を左右することを示す。
  • フィードバックループ:出力が入力へ戻り、時間とともに変化を強めたり、釣り合わせたりする仕組みを探る。
  • 安全余裕:不確実さや想定外の問題に備え、余裕を持たせる。
  • 羨望や嫉妬による偏り:感情が判断を曇らせ、不合理な決定につながることを考える。
  • 好意や愛情による偏り:好きな人を優遇し、客観性を損なう傾向を示す。
  • 利用可能性バイアス:思い浮かびやすい情報を、過大に重視しないよう注意する。
  • コミットメントと一貫性の偏り:逆効果になっても、過去の行動と一貫していようとする傾向を考える。

意思決定の枠組み

  • 愚かにならない方法:愚かさとは、明らかに重要な情報を見落としたり、退けたりすることだ。認知能力を下げ、愚かな判断の確率を上げる七つの状況要因を示す。
  • 意思決定マトリクス:大切なことに優先順位をつける:リーダーとして自分が注意を向ける判断と、任せる判断を分けるための道具と、使い方を説明する。
  • 考え方を学ぶには:考えるための時間を、もっと取るべきだと論じる。
  • 判断の構造:意思決定入門:決断を進めるための、構造化された手順。
  • 判断日誌をつける:記入例つき:判断が上達しにくい理由の一つは、判断の質についてフィードバックを得る機会が少ないことだ。
  • 思考を改善する二段階のプロセス:最も賢い人は、どう決めるのか。
  • 打撃の科学:野球史に残る打者テッド・ウィリアムズは、効果的な判断について多くを知っていた。
  • 決断への責任を引き受ける、昔からの教え:チャールズ・フランケルは「判断をした個人や集団が、その影響を直接または間接に受ける人々へ説明しなければならないとき、その判断には責任がある」と書いた。
  • 誰かが「今回は違う」と言ったら、よく考える。
  • 深く自在に扱える知識がなければ、危うい。浅い知識から判断するのは難しい。
  • 問題を考えるための三つのフィルター:現実を解釈する助けとなる三つのフィルター。
  • 人は大きな決断をどうするか:大きな判断では、誰もが心理的な段階を通る。
  • 次の質問に答えられるようにしておく。
  • 天才を目指すより、愚かさを避ける方が簡単だ:専門家でないなら、まず愚かなことをしないことに集中する。
  • 単純さを保ち、愚行を遠ざける:ウィリアム・ジェームズは「賢さの技術とは、何を見過ごすべきかを知る技術だ」と言った。これほど真実を突いた言葉はない。
  • よい判断には環境が重要だ:多くの人の働き方では、合理的な判断は難しい。
  • 判断で重要なのは分析か、過程か:「私たちの研究によれば、よい分析を優れた判断力を持つ管理者に渡しても、それだけで自然によい決断が生まれるとは限らない」。
  • 判断が間違ったとき、何が起きるか:「判断がうまくいかないと、私たちは判断そのものより、判断した人に注目しがちだ。そこには、よい人はよい判断をし、その逆も成り立つという、根拠のない前提がある」。
「難しい方が、いい」のイラスト

難しい方が、いい

会社を作り始めた頃、目標は速さだと思っていた。速く動き、障害を避け、早く市場に出ることだと。 だが、時間をかけて、直感に反することを学んだ。ときには、障害そのものが戦略になる。…

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会社を作り始めた頃、目標は速さだと思っていた。速く動き、障害を避け、早く市場に出ることだと。

だが、時間をかけて、直感に反することを学んだ。ときには、障害そのものが戦略になる。

ポール・グレアムは、それを「階段を駆け上がること」と表現したことがある。自分より強く、重い相手に追われていると想像しよう。下りれば、追いつかれる。上れば、両者にとってきつい。だが相手にとっては、はるかにきつい。

初期に手がけた事業では、難しい道を選ぶことがよくあった。苦しみが好きだったからではない。難しい問題が、守りを作ったからだ。競合は機能をコピーできる。資金を集め、人を雇うこともできる。簡単にコピーできなかったのは、相手より長く痛みに耐える私たちの力だった。

不可能に思えるバグと格闘した夜を覚えている。疲れ切り、苛立ち、それでも不思議なほど誇らしかった。手強い問題を解くたび、大きな企業がついてこない地形を、自分たちで切り開いたと分かったからだ。

それがスタートアップの逆説だ。強みは、最も居心地の悪い場所にあることが多い。参入障壁は、技術特許や法的な盾だけではない。他人が避けることを突破して、獲得する傷跡でもある。

だから、決断するときには自分に聞いてほしい。私は階段を下りているのか。それとも、駆け上がっているのか。

「新しいソーシャルネットワーク?」のイラスト

新しいソーシャルネットワーク?

きっかけ 私は、率直に言って少し奇妙な社会実験をした。だが、もっと大きな何かの始まりになる可能性もある。静かな夜、風呂に入っていて、妙な直感についていってみたことから始まった。 アイデア…

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きっかけ

私は、率直に言って少し奇妙な社会実験をした。だが、もっと大きな何かの始まりになる可能性もある。静かな夜、風呂に入っていて、妙な直感についていってみたことから始まった。

アイデア

ソーシャルネットワークを、皆と違うやり方で作れないだろうか。終わりのないフィードも、大量招待も、「グロースハック」も使わない。反対へ進んだらどうなるか。徹底して選び抜かれ、極端に限定され、完全に秘密の場へ。

そこで、WhatsAppのグループを作った。名前は「私が知る最も賢い人」。招いたのは、たった一人。知性にいつも感心させられる、アメリカの友人だった。

簡単な紹介文を書いた。

ようこそ。 あなたを招いたのは、単純に、私が知る中で最も賢い人だからです。 このグループは秘密です。最初のルールは、このチャットの外で、誰にも、決して話さないこと。 あなたには、一つだけ権利があります。一人だけ招待できます。慎重に選んでください。あなたにとって、知っている中で最も賢い人でなければなりません。招いたら、その権利はなくなります。招かれた人にも同じルールが適用されます。 30人になったら、招待を止めます。そのとき全員で自己紹介をし、大きなことを始めます。詳細は後で。 秘密、選別、信頼。今、大切なのはそれだけです。 始まりへ、ようこそ。

結果

数日で30人になった。私が記事を投稿し、会話を始めた。人々はコメントし、議論し、見方を共有した。Zoomで話し合う人もいれば、一緒に新しい事業を始める人もいた。

しばらくは、熱気があった。その後、動きは鈍くなった。何人かは抜けた。ソーシャルネットワークの、いつもの周期だ。

さらに進める:特定の軸での実験

一つのグループでは満足せず、少し工夫した。別の「切り口」も試した。

  • 私が知る最も格好いい女性
  • 私が知る最も型破りな男性
  • 身近で最も優しい心を持つ人

20人に達したグループもあった。活動が続いたものも、すぐ消えたものもあった。教訓は、集団の活力は予測しにくく、文化が大切だということだ。

想定外のケース

  • 哲学者モード。フランスの友人にも同じ実験をした。返事は「知性をどう定義する?」。3週間後も、まだ二人きりだった。
  • 混沌モード。ブラジルの友人は、一晩で100人を招いた。結果は、スパム、混乱、価値はゼロ。

ルールをどう定め、誰を招くかで、すべてが変わると分かった。

発見:ネットワークの設計は壊れているが、直せる

ここには面白いものがある。アルゴリズムの雑音と無限のフィードに溺れる世界で、私たちは別のものを求めている。信頼、選び抜くこと、本当のつながりで築かれたネットワークだ。昔からある「友人の友人」という考えを、意図的な設計と少しの秘密を加えて、見直してもいいのかもしれない。

大きな問い

さて、このアイデアをどうすればいいのだろう。私は、次の大流行するソーシャル製品を作るのに向いていない。だが、この発想を盗んで作りたい人がいるなら、作ってほしい。ぜひ。

雑音や拡散力より、選び抜くこと、プライバシー、信頼を大切にするソーシャルネットワークを見てみたい。

「市場に参入するのではない。市場を作るのだ」のイラスト

市場に参入するのではない。市場を作るのだ

スタートアップのように考えるのをやめよう。運動を起こすつもりで考えよう。 AIは、古い枠組みで扱うには、あまりに激しく変わる。…

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スタートアップのように考えるのをやめよう。運動を起こすつもりで考えよう。

AIは、古い枠組みで扱うには、あまりに激しく変わる。

従来のGTMは死んだ。次に来るのは、手順書ではない。戦略だ。資料を持った礼儀正しいインターンのように「市場に行く」のではない。場所を取り、ルールを書き換え、人の頭に入り込む。うまくいけば、相手は何かを売られているとさえ気づかない。扉が閉まる前に、自分も入りたいと思う。

やり方を話そう。

1. 宗教を始めるつもりで、公開する

誰も、あなたの製品そのものには関心がない。厳しいが本当だ。関心があるのは、それが何を意味するか。どんな問題を消すか。どんな旗を掲げるかだ。

だから、機能を売るな。大義を語れ。

  • 聴衆に敵役を示す。古い道具、古い習慣、古い仕組み。
  • 製品を唯一の救いにする。一つの選択肢ではなく、唯一の選択肢に。
  • ただ「発表」するのではない。挑戦を宣言する。

必要なのは予算ではない。信念だ。

2. 引きつけるために、遠ざける

誰にでも売ろうとするのは、臆病者のすることだ。仲間を選び、それ以外の人には、自分の場所ではないと感じてもらう。顧客には「まさに自分のためだ」と言ってほしい。見物人には「攻めすぎだ」とつぶやいてもらえばいい。

それが狙いだ。

  • 利用を限定する。
  • 順番待ちリストを、特別な場所へのロープとして使う。
  • 初回利用を、アプリ登録ではなく、秘密結社に入るような体験にする。

それで見物人がふるいにかけられる。選別する力が、力になる。

3. 製品ができる前に、話題を生む仕組みを作る

製品より先に、注目が必要だ。公開まで黙って待っているなら、もう出遅れている。

作る過程を見せる仕組みを動かそう。

  • ちらりと見せる。断片を出す。大胆なことを投稿する。
  • 創業者の飾らない熱弁を撮る。
  • ゼロから一を作る混乱を、リアルタイムで共有する。

磨き上げる必要はない。無視できない存在になればいい。

公開の日には、すでに門の前で人が待っているべきだ。

4. 初日のドミノを並べる

最初の24時間は武器になる。成り行きに任せてはいけない。

大仕事の段取りを組むように準備する。

  • 投稿の時刻を決める。
  • エンジェル投資家、利用者、ファンの動きを合わせる。軍隊のように連携する。
  • ビジュアル、意見、ミーム、証拠を、あらゆる場所へ一斉に出す。

タイムラインを見た人が、こう感じるようにしたい。「これは何だ。なぜ自分がフォローしている人は、みんな夢中なんだ?」

そういう動きを作る。

5. 本当の製品は、物語だ

人が買うのは、コードの集合ではない。物語だ。しかも、強く響く物語でなければならない。

  • 流行語はいらない。
  • 「ソリューション」もいらない。
  • 厳しい真実と、新しい世界の見方だけでいい。

簡単に借りて語れるようにする。利用者があなた以上にうまく説明できないなら、物語が複雑すぎる。ミームに、一行に、一撃に変える。

GTMはキャンペーンではない。頭から頭へ広がるものだ。

6. 公開をやめない

初日が終われば公開も終わりだと思うのか。甘い。

本当のGTMは止まらない。毎週、再び世に出す。機能のたび、節目のたび、反応を呼ぶ投稿のたびに。

  • 小さな公開を絶えず重ねる。
  • 成長に合わせて、物語の枠を捉え直す。
  • 声を出し続ける。

勢いは、持っているものではない。作るものだ。

「しない」が、新しい「する」だ

市場への入り方を知りたいか。

答えはこうだ。市場へ行くな。市場の方から来させよう。

物語を書き、カテゴリーを定め、仲間を選び、火をつける。燃え上がったら、説明に時間を使わない。

ただ、「言っただろう」と言えばいい。

「神になったような感覚を、届ける」のイラスト

神になったような感覚を、届ける

「初めに言葉があった。言葉は神と共にあった。言葉は神であった」。 深く力のあるこの一節は、宗教の枠を越えて響く。現代の技術よりはるかに古い考えを凝縮している。言葉を発すること、言語を使うことには、創造の行為として、ほとんど無限の力がある。神が話すと、世界が現れる。創造は手作業ではない。言葉によって、瞬時に、世界を変える形で起きる。…

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「初めに言葉があった。言葉は神と共にあった。言葉は神であった」。

深く力のあるこの一節は、宗教の枠を越えて響く。現代の技術よりはるかに古い考えを凝縮している。言葉を発すること、言語を使うことには、創造の行為として、ほとんど無限の力がある。神が話すと、世界が現れる。創造は手作業ではない。言葉によって、瞬時に、世界を変える形で起きる。

人工知能が成熟するにつれ、人間も、その神のような感覚を垣間見るようになる。AIは単なる道具ではない。もっと深く、落ち着かなくなるほど根源的なものをもたらす。ほんの一瞬でも、世界、アイデア、新しい現実を作る造物主のように感じる力だ。GPTへの一つ一つの指示、AlexaやSiriへの声の命令は、かすかであっても、神の「〜あれ」を響かせる。

だが、立ち止まろう。AIが神の力に私たちを近づけるなら、その力は、作るものにどう表れるべきなのか。

私たちの知るインターフェースは、キーボード、マウス、タッチスクリーンが支配する世界によって形づくられた。かつての機械に触れて動かす論理に根ざしている。だが、AIから生まれる世界を、昔の枠組みに閉じ込めるべきではない。言葉、即時性、対話という、創造の原初の論理を、十分に生かすべきだ。

AI向けのインターフェースは、既存のものを適応させるだけでなく、AIを前提に生まれる必要がある。AIの本質は、クリックやタップではない。会話だ。声だ。音だ。そもそも、人の声は最初の、最も根源的なインターフェースである。権威、親密さ、本人らしさを示す方法だ。話すとき、私たちは力を働かせる。作ったものが話し返すと、その体験は単なる操作を越え、心を通わせることに近づく。

大きく跳べるのに、なぜ小さな改善で満足するのか。AIから生まれたアプリを作るなら、AI以前の世界のために設計してはいけない。声で動き、対話し、生きているような、徹底してAIに自然な設計にする。神のように命じ、言葉によって現実を生む高揚感を、利用者に届ける。アプリが聞き、文脈を理解し、滑らかに応えるとき、古代のロゴスから始まった輪が閉じる。

未来を語るためだけの未来論ではない。戦略的な実用主義だ。アップルはSiriを導入したとき、これを深く理解していた。アマゾンも、Alexaで理解していた。だが、まだ表面をなぞったにすぎない。本当に革新するには、さらに進む必要がある。音声で動くAIインターフェースは、単なるUXの選択ではない。デジタルの力をどう捉えるか、その存在そのものを定義し直すことだ。

ただし、簡単に神になれるという錯覚には注意したい。神のように感じることには、巨大な責任も伴う。古代から分かっているように、言葉には結果がある。「大いなる力には、大いなる責任が伴う」は、漫画の格言にとどまらない。時代を越える真実だ。声が、言葉が、瞬時に結果を変えられるなら、不注意は破局につながる。

次世代のAIアプリを作る人には、覚えておいてほしい。音声インターフェースは機能の一つではない。製品の心臓であり、ブランドの魂だ。話し言葉の力が大きく、同時に繊細であることを知り、慎重に、大胆に、謙虚に設計しよう。

声から考える。根本から考える。適応させるだけでなく、創造することを考える。

初めに言葉があった。そして再び、言葉が力を持つ。

「ステーブルコインは、明確なルールと流動性を追う」のイラスト

ステーブルコインは、明確なルールと流動性を追う

私がドバイを選んだのは、明確なルール、実際に機能する制度、実行の速さを大切にしているからだ。だが、長く残る教訓は、一つの国より大きい。資本と起業家は、自分たちが活動できるルールに反応する。…

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私がドバイを選んだのは、明確なルール、実際に機能する制度、実行の速さを大切にしているからだ。だが、長く残る教訓は、一つの国より大きい。資本と起業家は、自分たちが活動できるルールに反応する。

ステーブルコインは、それを目に見える形にする。役に立つかどうかは、流動性のある準備資産、信頼できる償還、参加者の間で価値を移せることにかかっている。取引所、ウォレット、機関投資家の取引にとって、決済と流動性は製品の中心だ。規制は、準備資産の要件、認可、情報開示、利用制限を通じて、その基盤の採算構造を変える。

問題は、ルールがあるかどうかではない。組み合わせた結果、人が必要とするサービスが保たれるかどうかだ。書類の上では慎重に見える制度が、事業を高コストで煩雑なものにすることもある。逆に、信頼できる保護のない寛容な制度は、流動性を支える信頼を壊しかねない。明確さと、よい設計は、両方が大切だ。

私は、創業者がどれほど予測可能な形で要件を理解し、その中で作り、変更に適応できるかによって、法域を評価する。有利な発表は、永久の優位ではない。国の評判もそうだ。ルール、運用、市場へのアクセスを、実際に確かめる必要がある。

この原則は、暗号資産を越えて広がる。AIや他の新興産業も、利用者を守ることと、作る余地を残すことの間で、同じ緊張に直面する。人材と資本は移動できる。明確な義務、使える基盤、時機を逃さない判断を組み合わせられる場所は、とどまる理由を与えられる。

「値段をつけてみろ!」のイラスト

値段をつけてみろ!

ベンチャーキャピタルが扱うのは、想像と実験の世界だ。精密さよりも、先を見る力がものをいう。シードで500万ドルの評価額、シリーズAで数百万ドルの調達。そうした数字は、揺るがない真実ではない。未来の霧の中で進路を描くための仮説だ。個別資産の価格づけと、ポートフォリオ全体の価格づけの違いを考えよう。革新の未来を形づくる人にとって、この違いは重要だ。 個別資産の価格づけという執着…

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ベンチャーキャピタルが扱うのは、想像と実験の世界だ。精密さよりも、先を見る力がものをいう。シードで500万ドルの評価額、シリーズAで数百万ドルの調達。そうした数字は、揺るがない真実ではない。未来の霧の中で進路を描くための仮説だ。個別資産の価格づけと、ポートフォリオ全体の価格づけの違いを考えよう。革新の未来を形づくる人にとって、この違いは重要だ。

個別資産の価格づけという執着

セコイアの森に生える苗木の可能性を、数字にしようとする場面を想像してほしい。今の高さは測れるが、この先何百年もの成長、嵐、日差しは見えない。ベンチャー投資で個別資産に厳密な価格をつけようとするのも、それに似ている。スタートアップは苗木のように、まだ形にならない可能性の塊だ。500万ドルという評価額は、今の価値の断定ではなく、志にいったん置く数字なのである。

従来の金融は、売上、類似企業、過去のデータといった指標を頼りにする。だが、スタートアップは未知の存在だ。きれいな数式には収まらない。本当の価値はまだ書かれていない未来にあるため、今の価値はほとんど意味を持たない。値段をつけるのは、一本の線でモナ・リザを描こうとするようなものだ。どうしても不完全になる。

ベンチャーキャピタルは未来を形づくる

ベンチャー投資が見ているのは、現在よりも明日の可能性だ。500万ドルという評価額を見たら、値札ではなく、一つの合図として考えよう。「このアイデア、このチーム、この可能性には、注目する価値がある」という合図だ。

ただし、これは単なる楽観ではない。仕組みとして考える必要がある。ベンチャーキャピタルが賭けるのは、一社ではなくポートフォリオだ。100件の投資のうち99件がつまずいても、産業の姿を変える一つの成功が1,000倍のリターンを生み、全体を報いることがある。見るべきなのは、一件ごとの評価額の精度より、ポートフォリオが持つ可能性だ。

べき乗則という設計図

宇宙には、べき乗則に従う現象がある。銀河、生態系、そしてベンチャー投資の収益にも、その発想が現れる。大半の結果は平凡なところに集まるが、ごく少数が途方もない大きさになる。Uber、SpaceX、Googleを考えてほしい。一握りの成功が、数え切れない実験の失敗を合わせたものを上回る。

ベンチャー投資家にとって、べき乗則の理解は付け足しではない。土台だ。狙うのは失敗を避けることよりも、特別に大きな成功を捉えること。その前提で、評価額の考え方は変わる。すべての資産に完璧な値段をつける必要はない。一つが現実を変えるほどの成功を収めればいい。

スタートアップは経済の原型

スタートアップは、経済の遺伝情報のようなものだ。試されていない可能性と、予想外の展開を抱えている。子どもを例にするとわかりやすい。子どもの未来はわからない。芸術家にも科学者にも、夢を見る人にも変革を起こす人にもなれる。親は、今の姿だけでなく、将来どんな人になれるかを考えて育てる。スタートアップにも、同じ忍耐と信頼が必要だ。

未熟であることこそ、その価値でもある。まだ過去によって形づくられ、制約されていない。可能性を試す実験なのだ。育って初めて、世界を変えるかどうかがわかる。それまでに価値を固定しようとしても、限界がある。

シリコンバレーと、その先への教訓

投資家、起業家、夢を見る人に伝えたいのは、個々のスタートアップの価格を正確につけられないことが、仕組みの欠陥ではなく強みでもあるということだ。多様な可能性に賭けるポートフォリオの考え方は、大きな革新の性質に合っている。実践では、こうなる。

  • 失敗を前提にする。大半の賭けは失敗する。それを受け入れる。
  • 突出した結果を狙う。産業を変え得る、大胆なアイデアを探す。
  • 評価額をめぐる雑音に振り回されない。会社が大きく飛躍すれば、シード時点の高い評価額は小さな問題になる。

ほかの分野にも通じる考え方

この考え方は、ベンチャーキャピタルの外にも広がる。

  • 芸術と創作。多くの曲、映画、本は忘れられても、一つの傑作が世代の感覚を変えることがある。
  • 科学的発見。何千もの失敗した実験の先に、可能性の範囲を変える一つの発見がある。
  • 技術開発。大半の試作品は世に出なくても、一つの突破口がまったく新しい市場を生むことがある。

これらに共通するのは、進歩が均等ではなく、混沌としていて、予測しにくいことだ。目指すのは精密な予測より、その可能性を捉えられる位置にいることだ。

まだ見えないものを見る

スティーブ・ジョブズは、点と点は先を見ながらではなく、振り返って初めてつなげられると言った。ベンチャーキャピタルは、その点がつながる前に動く。まだ見えないものを見ようとし、起こりそうにない可能性を信じ、並外れた結果に賭ける。

だから、スタートアップに完璧な値段をつけようとするのはやめよう。

評価額への執着も手放そう。

目指しているものは、もっと大きい。不完全でも大胆な賭けを一つずつ重ね、未来を形づくることだ。

「もっと賢くなりたい」のイラスト

もっと賢くなりたい

AIについて私が最も好きなのは、自分がもっと賢くなれるという可能性だ。 問題は何か。ツールも、考え方の枠組みも、学ぶべきことも多すぎる。結局、賢くなるどころか、疲れ果ててしまう。 そこで、ある考えが浮かんだ。すべてをまとめて扱える、一つのツールがあったらどうだろう。 作業ごとに最適なAIを、誰かが見つけてくれたら。 私たちのために、本当に第二の脳をつくってくれたら。

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AIについて私が最も好きなのは、自分がもっと賢くなれるという可能性だ。

問題は何か。ツールも、考え方の枠組みも、学ぶべきことも多すぎる。結局、賢くなるどころか、疲れ果ててしまう。

そこで、ある考えが浮かんだ。すべてをまとめて扱える、一つのツールがあったらどうだろう。

作業ごとに最適なAIを、誰かが見つけてくれたら。

私たちのために、本当に第二の脳をつくってくれたら。

「乗り込め、海賊たち!」のイラスト

乗り込め、海賊たち!

新しい会社での仕事の始まりは、空港のチェックインに少し似ている。手続きは面倒で、自分でやったほうが早い。そして、たいていの会社の受け入れプロセスはひどい。だから、自分で進める方法と、むしろそれを好機に変える方法を話そう。…

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新しい会社での仕事の始まりは、空港のチェックインに少し似ている。手続きは面倒で、自分でやったほうが早い。そして、たいていの会社の受け入れプロセスはひどい。だから、自分で進める方法と、むしろそれを好機に変える方法を話そう。

非効率のあるところには、機会も生まれる。新しい会社に、明確でよく考えられた入社後の手順がないなら、自分が主導しなければならない。だが、それは必ずしも重荷ではない。自発的で、自分で動ける人間だと上司に示す機会でもある。では、どうすればいいのか。

まず、何週間も座って受け身で情報を吸収し、のんびり慣れていくわけにはいかないと理解しよう。会社が切実に人手を必要としているから、あなたは採用された。最初は遠慮したくなるかもしれないが、自信を持ち、自分の考えを言える人が求められている。全員が持ち場についてこそ会社は伸びる。引っ込んだり、遠慮しすぎたりしてはいけない。最初から自信を持ってチームに加わろう。そして、自分が確実に持っている強みを使う。それは、新鮮な視点だ。

次に、上司から期待を明確にしてもらう。自分の役割で何を求められているのか、確実に理解する。逆説的だが、上司とのコミュニケーションを管理するのは、上司ではなく自分の役目だ。上司の優先順位に注意し、何を大切にし、どこに意識を向けているかをつかもう。そうすれば、必要なことを先回りして考え、自分が最も成果を出せる形で行動計画を立てられる。

最後に、新しい会社に入ったら、すぐに自分の見方を育て始める。決定に賛成したり反対したりすることをためらわず、気づいたことを同僚に伝えよう。成果を出す会社は、新しく入った人にも一定の裁量と権限を与える必要があるとわかっている。こちらも一歩踏み出して応えよう。会議を設定するなら、生産的な場にする。議題を用意し、何を達成したいのかに集中する。効率よく確実に仕事を進めれば、チームの中での居場所も早く得られる。

要するに、新しく入った人には、自分から情報や資源を探す責任がある。成果を求められる環境では、チームはあなたに何が必要か気づいていないかもしれないし、受け入れを手伝う余裕がないかもしれない。だが、自分が入社後の立ち上がりを主導すれば、彼らの助けがなくても、その役割で成功できるし、そうするべきなのだ。

「最初のユーザーを獲得しよう!」のイラスト

最初のユーザーを獲得しよう!

新しい事業を始めるなら、確かなユーザー基盤をつくり、それを指数関数的な成長につなげることが、あなたの大きな仕事になる。多くのスタートアップは実績を得られず、ユーザー不足で命を落とす。だが、自分のプロダクトが、競合製品に残っている問題をうまく解決できるとしよう。それなら、遠慮せずに、競合の顧客は自分の顧客でもあると考えていい。その人たちこそ、自分が解決しようとしている問題を抱えて…

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新しい事業を始めるなら、確かなユーザー基盤をつくり、それを指数関数的な成長につなげることが、あなたの大きな仕事になる。多くのスタートアップは実績を得られず、ユーザー不足で命を落とす。だが、自分のプロダクトが、競合製品に残っている問題をうまく解決できるとしよう。それなら、遠慮せずに、競合の顧客は自分の顧客でもあると考えていい。その人たちこそ、自分が解決しようとしている問題を抱えている。あとは、どうやって接点を持つかだ。誰にでも実践できる、簡単なマーケティングの方法をいくつか紹介しよう。

最初の中核ユーザーをつくる良い方法は、競合製品をリストにし、そのSNSのフォロワーに目を向けることだ。フォローして、一人ずつ、その人に向けたメッセージを送る。いきなり売ろうとしない。代わりに、無料で試してもらい、意見を求める。関係を築き、自分の解決策を見せることに集中する。何かを約束してもらう前に、プロダクト自体の良さを伝えよう。顧客になってくれる割合はそれほど高くないだろう。それでも、自分のユーザー基盤をつくり、最初期からの忠実な応援者を得る一歩になる。

次に、その基盤を生かし、ユーザーに次のユーザーを連れてきてもらう。ただし、誰もただでは働かないと理解しておこう。プロダクトが良ければ、利用者にとっても得になる条件を用意することで、友人に勧めてもらえる可能性は高い。そこで、「友人を招待する」機能を組み込む。招待した人にも、招待で参加した人にも、クレジットや割引を提供する。思わず人に伝えたくなるほど価値のある特典にしよう。この方法なら、初期のユーザー数を短期間で倍にすることもできる。

広げられる基盤ができたら、ローンチをしよう。一気に注目を集める方法だ。うまく実行すれば、すぐに存在を知ってもらえ、一晩で多くの人の目に触れられる。もちろん、多くのスタートアップは、こんなに早く切り札を使いたくないと思うだろう。だが、この特殊なカードゲームには秘密がある。切り札は何枚でも持てる。何度も続ければ少し怪しまれるかもしれないが、結局、ローンチも使えるマーケティング手段の一つだ。AirbnbのCEOの話を見てみよう。

一度のローンチにすべてを賭けるのではなく、ユーザー数が異なる段階で、何度か行う計画を立てる。そのたびに、自分たちを紹介し、注目を集め、プロダクトの価値を損なわずに割引や特別なキャンペーンを実施できる。

遠慮している場合ではない。競争の厳しい世界で、存在を知ってもらう必要がある。これらの方法を使い、繰り返そう。力を出し切って実行すれば、事業を指数関数的な成長へ向かわせることができる。

「第一原理から考える」のイラスト

第一原理から考える

画期的なプロダクトをつくるには、少し使い古された言い方だが、既成の枠を超えて考えなければならない。顧客に価値を届ける新しい方法を見つけ、技術と発想の両方で、既存の製品を上回るものをつくる必要がある。だが、助言はたいていそこで終わる。天才になれ。もっと優れたもの、まだ存在しないものを考えろ。実際には、その大胆な発想にも方法がある。枠を超えて考えるための具体的な手順だ。それが第一原…

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画期的なプロダクトをつくるには、少し使い古された言い方だが、既成の枠を超えて考えなければならない。顧客に価値を届ける新しい方法を見つけ、技術と発想の両方で、既存の製品を上回るものをつくる必要がある。だが、助言はたいていそこで終わる。天才になれ。もっと優れたもの、まだ存在しないものを考えろ。実際には、その大胆な発想にも方法がある。枠を超えて考えるための具体的な手順だ。それが第一原理思考である。

新しい事業を考えているとしよう。つまらない方法は、うまくいっている既存の事業モデルを見つけ、少しだけ変えて、資金を出してもらうことだ。だが、そのプロダクトは存在理由を示せず、登場した瞬間に終わってしまう可能性が高い。顧客は普通、機能が一つ増えた程度では習慣を変えない。人の心を動かすのは、大胆な一手だ。では、第一原理から考えたらどうなるか。同じ事業モデルを見るとしても、機能を足そうとする代わりに、最も基本的で根本的な要素まで分解する。

これが重要なのは、枠を超えて考えるとは、常識を問い直す洞察を得ることだからだ。アイデアを分解し、検討し直し、組み合わせ直すことで、世界を新鮮な、型にはまらない見方で捉えられる。構成要素を動かし始めれば、「なぜこうでなければならないのか」「まったく違うやり方にしたらどうなるか」といった大きな問いを立てられる。第一原理から考える習慣を身につければ、ほかの人が思いつかなかった問題の解決策を生み出せる。

この方法を強く支持している一人がイーロン・マスクだ。SpaceXの成功に向けて、どう使ったのか見てみよう。

NASAがスペースシャトル計画を終えたころ、マスクは、アポロ計画の終わり以降、衰退してきた宇宙産業を見て、中心的な問題を見つけた。ロケットを打ち上げるには非常に多くのお金がかかり、その費用に見合う用途は限られていた。そこで、約60年にわたるロケットの考え方を基本まで分解し、使い捨てのロケットは、飛行機を一度使って捨てるのと同じくらい経済的に不合理だと考えた。宇宙へ飛ばし、帰還させ、何度も使えれば、資源の使い方はずっと効率的になる。長い目で見れば、打ち上げ費用も大幅に下げられる。問題を特定し、その解決が必要だと見抜き、実現に向けて取り組んだ。その結果、ロケットの見方は変わり、宇宙産業には再び活力が生まれた。

第一原理思考とは、こういうことだ。常識を基本的な事実まで分解し、そこから解決策をつくり直す。そうすれば、複雑な問題に対して独創的な答えを見つけられる。私たちも既成の枠を超えて考えられるし、次の大きな事業をつくれる。

「上司との関係を動かす」のイラスト

上司との関係を動かす

リーダーシップは、部下が上司との関係をどう築くかにも左右される。 上司と部下の良い関係は、会社の成功と失敗を分けることがある。個人にとっても、会社で過ごす時間が充実するか、ただ出勤して退勤するだけになるかの違いになる。バランスが良く、活発な意思疎通を実現するために身につけたい技術がある。「マネジング・アップ」、つまり自分から上司との関係を動かす技術だ。…

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リーダーシップは、部下が上司との関係をどう築くかにも左右される。

上司と部下の良い関係は、会社の成功と失敗を分けることがある。個人にとっても、会社で過ごす時間が充実するか、ただ出勤して退勤するだけになるかの違いになる。バランスが良く、活発な意思疎通を実現するために身につけたい技術がある。「マネジング・アップ」、つまり自分から上司との関係を動かす技術だ。

多くの人は知らないし、考えもしないが、上司との面談では、実は自分が主導して話を進めるべきだ。逆説的に聞こえても、議題を決め、望む方向へ進める責任は自分にある。上司を操るように感じるかもしれない。だが、上司は会社を動かしており、自分はその中の小さな一部分であることが多い。毎回、細かな作業一覧を用意して来てくれると期待してはいけない。それなら、上司が自分で仕事をしたほうが早い。優れた上司は、解決すべき問題を任せる。だから面談では、話したい点をいくつか準備し、自分が進行する必要がある。

マネジング・アップとは、上司との意思疎通に積極的に参加し、ある意味では自分自身の議題を設定することだ。上司を飛び越えたり、その役割を奪ったりすることではない。自分の考えを持ち、互いの目指すものが合うように伝えることである。

最初のステップは、上司が何を達成したいのか理解することだ。優先しているプロジェクト、設定する期限、資源の配分に注意を向ける。そうすれば、何を大切にし、どこに集中しているかが見えてくる。

次に、目標がわかったら、必要とされることを先回りして考える。自分から動けば、上司の負担を軽くし、チームにとって価値のある存在になれる。同時に、状況を知らせ続けることも大切だ。進んだことも、進んでいないことも、定期的に報告する。上司が状況を把握できれば、細かく口を出したい気持ちも和らぐ。

最後に、上司が自分を全面的に信頼でき、依頼を承認し、障害を取り除く役割に回れる関係をつくる。優れた上司は、あなたが仕事をしやすくする人だ。そして、関係を自分から整えることで、その仕事を助けられる。たとえば、すべての部下の障害を、上司が自力で見つけられるはずはない。直面する障害を伝え、解決案を示すのは自分の責任だ。そうすることで、より多くの責任を引き受け、力量を示し、やがてさらに大きな権限を任される。自分も上司も、そして事業も、前に進める。

「優れたリーダーになるための三つの方法」のイラスト

優れたリーダーになるための三つの方法

初めて会社をつくる創業者にとって、最も難しいことは、従業員をうまくマネジメントすることだ。仕事を任せるには、非常に繊細なバランス感覚がいる。本物のボスらしくこなせるようになるには、豊富な経験が必要だ。「ボスらしく」は、もちろん少し冗談でもある。…

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初めて会社をつくる創業者にとって、最も難しいことは、従業員をうまくマネジメントすることだ。仕事を任せるには、非常に繊細なバランス感覚がいる。本物のボスらしくこなせるようになるには、豊富な経験が必要だ。「ボスらしく」は、もちろん少し冗談でもある。

多くのリーダーが最初に直面するのは、自分で管理することを手放せないという問題だ。上に立つ人は、周囲より速く、良く、効率的に仕事をしたことで昇進してきた場合が多い。自分でやるのが自然なだけでなく、それが最善のやり方だと、過去の経験が教えている。自分で問題を解く人から、人に任せる人への移行は難しい。だが、それが事業を経営する唯一の道だ。そこでバランスが必要になる。多くの創業者は、仕事を任せるとき、二つのよくある間違いのどちらか、あるいは両方を犯す。

一つ目は、ようやく頂点にたどり着き、立派な執務室を手に入れたのだから、後はくつろいで人に動いてもらえばいいと思うことだ。だが、手を離し、責任を放棄するように仕事と責任を渡す方法は、非常に逆効果になる。自分がいなくても物事が進んでいると考えるのは気楽だ。しかし、意思疎通と見守りが足りなければ、部下の肩に過剰なストレスと責任がのしかかる。

二つ目は、反対側に振れ、細かく管理しすぎることだ。自分で統制し、不確実さを減らし、権限を行使したいのは自然な気持ちだ。だが、それでは全部自分でやるのと大差なく、同じくらい、場合によってはそれ以上に疲れる。部下から主体性を奪い、不満が多く、成果の上がらない環境をつくる。従業員は生身のロボットになってしまう。

奇妙な例を挙げよう。会社は、タコの神経系のように働くべきだ。タコには大きな中枢の脳があるが、神経細胞の約3分の2は頭ではなく腕にある。つまり、腕には独自の判断能力があり、中枢の脳から自律して動く。中枢が空腹だと伝えると、腕はそれぞれ、自分で食べ物を探し始める。見事な協調だ。

では、会社に戻ろう。人間は一つの意識を共有していない。それでもタコのように効率よく動くには、どうすればいいのか。人間らしい別の強み、意思疎通を使う。部下が自分で考え、力を発揮できるようにしながら、上司が効果的に導くための方法を三つ紹介しよう。

  1. デビッド・マルケによる「リーダーシップのはしご」は、上司にも部下にも役立つ道具だ。基本的には二組のはしごを使い、上司が部下との伝え方を改善すれば、部下が発言し、権限を持ち、当事者として動けるようになることを示している。この方法の良さは、部下に何かを強制しない点にある。上司の側がレベル4、5へ上がり、その過程でほかの人の役割も引き上げる。仕事上の関係が心地よくなるだけでなく、一人の知識ではなく、チーム全体の知識を生かせる。

  1. 「タスク関連成熟度」は、仕事の任せ方、進捗の確認方法、成果の管理方法を決める、とても単純な枠組みだ。経験豊かなメンバーでも、ある仕事ではまったくの初心者であり、逆に若手が別の仕事の専門家である場合もある。だから、一律の管理方法を当てはめるのではなく、細かく把握したいという気持ちを、各人の具体的な技能を理解することに使う。そして、その人が最も解決に向いている問題に力を使ってもらう。

  2. そこから、多くの創業者が見落とす基本の考え方にたどり着く。意思疎通が滑らかで活発になり、従業員が権限を持ち、力を適切に使えるようになったら、集中すべきことは一つだ。作業ではなく、問題を任せる。目標を達成しようとすると、私たちの頭は自然に、やるべき作業を考える。だが、それを人に任せるときは、解くべき問題として言い換える必要がある。作業だけでは意味が曖昧で、具体的な目的が見えず、意欲につながりにくい。一方、人間は問題を解くことが得意で、創造的な解決策を考えるのが好きだ。自分で考える力を引き出すには、その性質を生かす。最良のリーダーが求めるのは雑用の消化ではなく、具体的な問題に対する創造的な解決策なのだ。

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VCへの愛と葛藤 ❤️💔

2022年第1四半期、市場が下落する中でも、ベンチャーキャピタルは暗号資産関連のスタートアップに100億ドル以上を投じた。投資の時間軸は、市場の空気と大きく異なることがある。皆が目先の下落を見ているときに、長期を見ている投資家もいる。そのことを思い出させる出来事だった。…

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2022年第1四半期、市場が下落する中でも、ベンチャーキャピタルは暗号資産関連のスタートアップに100億ドル以上を投じた。投資の時間軸は、市場の空気と大きく異なることがある。皆が目先の下落を見ているときに、長期を見ている投資家もいる。そのことを思い出させる出来事だった。

A16Z、Pantera、Paradigm、DCGといった企業は、暗号資産分野の資金調達でよく知られる名前になった。資金の多くが一握りの投資家から供給されるとき、ひとつの問いが生まれる。資金調達の集中は、Web 3.0が約束する分散化を損なわないのか。

資金調達の選択肢は、需要だけでなく規制にも左右される。法域やプロジェクトによっては、トークンを公募するよりも、エンジェル投資家やVCに私募で株式を売るほうが現実的なこともある。2017年に質の低いICOが大量に現れたことで、その手法への信頼は傷ついた。STO、IEO、IDOなど、別の方法も登場した。だが、調達の仕組みを変えても、法的義務や信頼を獲得する必要がなくなるわけではない。大型の調達では、VCは依然として魅力的な資金の出し手になり得る。

しかし、従来型のベンチャー投資家が暗号資産分野に入ってきたとき、彼らが慣れ親しんだような歓迎を受けたわけではなかった。強い当事者意識を持ち、活発に動くオンラインコミュニティや、分散化のビジョンを持つ創業者は、VCがWeb 2.0の事業で接してきた相手とは違う。幸い、暗号資産関連の事業は多くが高リスクである一方、どの業界と比べても高いリターンを生み得る。暗号資産とWeb 3.0が未来だと考えるVCなら、自分たちの時代で最大になるかもしれない投資機会を逃したくはない。そのため創業者には、より良い条件を交渉する力が生まれる。投資家が会社の統治で過大な発言権を持たず、コミュニティが望み、投票で決めたことを覆せないよう、合意を作ることができるのだ。

コミュニティが動かすプロジェクトに機関投資家の資金が入るとき、創業者は、自分たちのビジョンの価値が交渉の材料になることを覚えておくべきだ。その立場を使い、そもそもそのプロジェクトを投資に値するものにした統治の原則を守ることができる。

「Web3でコンポーザビリティが重要な理由」のイラスト

Web3でコンポーザビリティが重要な理由

Web3の議論の中で、私が最も関心を持つのはコンポーザビリティ、つまり組み合わせて使える性質だ。デジタルな所有権も重要だが、共有の部品を組み合わせられることによって、ほかの人々が技術を役立つものへ変えられる。…

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Web3の議論の中で、私が最も関心を持つのはコンポーザビリティ、つまり組み合わせて使える性質だ。デジタルな所有権も重要だが、共有の部品を組み合わせられることによって、ほかの人々が技術を役立つものへ変えられる。

ワールド・ワイド・ウェブは1989年にCERNで発明された。もともとは、世界中の大学や研究機関の情報共有を自動化するために考案され、開発されたものだ。だがCERNは初期の段階で、普及と影響を最大化するため、オープンソースにするという明確な選択をした。誰もがアクセスできたことが、インターネットの発展と、その後の進化への道を開いた。

ソフトウェアのコンポーザビリティとは、部品を組み合わせ、再利用できることを指す。オープンソースは、コードを調べ、変更し、その上につくることを可能にして、それを容易にする。魅力は実用的なものだ。協力すれば、チームは基礎をつくり直す時間を減らし、ユーザーに届けるものの改善に時間を使える。

暗号資産の分野では、コンポーザビリティが急速な成長と革新を促してきた。小さなチームでも、すべてを一からつくらずにプロジェクトを立ち上げられる。分散型プラットフォームは、開発者が素早く進めるための部品を提供し、世界中の利用者にもつながっている。その見返りとして、プラットフォームの生態系が育つ。双方に利益がある。重要なのは、多くのWeb2の巨大企業が革新をゼロサムゲームとして考える一方で、Web3にはWAGMI、「みんなでうまくいこう」という発想があることだ。

ゲームと金融の仕組みを組み合わせたことで、プレイ・トゥ・アーン型の暗号資産ゲームが生まれた。共有の部品が、業界をまたぐ実験を支えられる例の一つだ。その実験が長続きするかどうかは、ユーザーに何を提供するかによる。

コンポーザビリティは、開発者だけでなく利用者にとっても重要だ。誰かが既存のアイデアを改良したり、より無駄のないものにしたりできれば、恩恵を受ける人が増える。閉ざされた製品や互換性のないインフラは、それを難しくする。私が関心を持つのは、すべてのチームが最初からやり直すのではなく、あるチームの改善が別のチームへ伝わる仕組みだ。

「Web3って、結局何だ?」のイラスト

Web3って、結局何だ?

Web3をめぐる大きな問題の一つは、定義が曖昧になり、説明するうちに考えが伝わらなくなることだ。たとえばNFTとは何かと聞かれて、得意げな顔で「ノンファンジブル・トークンに決まってるだろ」と答えても、誰の役にも立たない。2021年より前から「ファンジブル」なんて言葉を使っていたかのように。そして明確な定義がないために、NFTを土台となる技術ではなく、単なる画像だと思う人が多い。…

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Web3をめぐる大きな問題の一つは、定義が曖昧になり、説明するうちに考えが伝わらなくなることだ。たとえばNFTとは何かと聞かれて、得意げな顔で「ノンファンジブル・トークンに決まってるだろ」と答えても、誰の役にも立たない。2021年より前から「ファンジブル」なんて言葉を使っていたかのように。そして明確な定義がないために、NFTを土台となる技術ではなく、単なる画像だと思う人が多い。そこでWeb3とは何か、なぜ注目する価値があるのかを整理しよう。

初期のワールド・ワイド・ウェブは、主に静的なページを読む場所だった。その後、ソーシャルネットワークとユーザー投稿によって、誰もが広く発信できるようになった。一方で、データと収益は、それを掲載するプラットフォームの内部に集中した。この参加と管理の間の緊張があるからこそ、デジタルの所有権を問う意味がある。

Web3は、ユーザーがデジタル資産をより自分で管理できるようにしようという提案だ。ブロックチェーンの記録は、所有権の主張や希少性を検証可能にする。だが、記録があるだけでは、それが役に立つものにはならない。コレクティブルがこの考えに注目を集めた。長く残る問いは、こうした仕組みが、作り手と利用者に、アクセス、収益、移転をよりよく管理する力を与えるかどうかだ。

医療情報を考えてみよう。機微性も価値も高い情報だが、その情報が記述する本人には、誰がどうアクセスし、使うかを管理する力がほとんどないことが多い。患者に実質的な管理権を与える仕組みなら、本物の問題を解決することになる。価値は、市場規模の予測にあるのではない。プライバシーと同意が実際に機能する形で、管理権を持てることにある。

私にとって面白いのは、人々が実際にどんな権利を得るのかという問いだ。トークンや新しい略語は手段にすぎない。デジタルの所有権が重要になるのは、自分の作品や情報、代金を払った資産で何ができるかを変えるときだ。

「DeFi 3.0」のイラスト

DeFi 3.0

金融商品は、顧客を集めなくても投資家を集められる。DeFiの投機的な循環は、その違いを痛いほど明確にする。トークン価格からは、人々がいくら払いたいかはわかる。だが、誰かがその商品を必要としているかどうかはわからない。 DeFi…

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金融商品は、顧客を集めなくても投資家を集められる。DeFiの投機的な循環は、その違いを痛いほど明確にする。トークン価格からは、人々がいくら払いたいかはわかる。だが、誰かがその商品を必要としているかどうかはわからない。

DeFi 2.0は、OHMのフォークで異様に高いAPYをうたうなどの仕掛けや、そのときの流行語とDeFiを組み合わせることで熱狂を生んだ。NFT、メタバース、ゲームに関わる商品が数多く登場した。こうしたDAppは投資家の関心を集めたものの、利用者が足りず、成長はまったく持続可能ではなかった。DeFiが何であるべきか、何に集中すべきかを完全に見誤っていた。流行や仕掛けは、いくつもの商品に何十億ドルもの資金を呼び込んだ。だが、それがよく聞こえるのは、DeFiの本来の役割に気づくまでだ。DeFiは暗号資産商品の一分類ではない。従来の金融に挑み、その顧客と資本の大きな部分を取り込むべき生態系だ。投機資金に便乗するのではなく、現実の問題を解くことで利益を生むべきだ。分断され、許可を必要とし、腐敗した古い仕組みへの代替であるべきだ。だからDeFiの可能性は、数十億ドルではなく、数兆ドルの単位で考えるべきなのだ。

次の版を「DeFi 3.0」と呼んでも、それだけで役立つものにはならない。つくり手は、人々が実際に直面する金融の問題を解かなければならない。私は、信頼できて効果的なサービスを通じ、価値を生み出す商品を見たい。たとえそのサービスが、流行のスローガンにするには地味すぎるとしても。

私がDeFiに見いだす可能性は、有用な金融サービスをより多くの人に届ける、許可不要で相互運用できるネットワークだ。その目標は実際に試されなければならない。人々は商品を使うのか。問題を解決しているのか。投機的な報酬がなくても使い続けるのか。次の波に貼られる名前より、その答えのほうが重要だ。

「仮想の土地は無料であるべきだ!」のイラスト

仮想の土地は無料であるべきだ!

Facebookが2021年にMetaへ社名を変えたことで、「メタバース」への注目が高まった。この言葉には、アバター同士の会議から、体験を共有するデジタル世界まで、異なる構想が含まれていた。The Sandboxは、その中の一つの選択を示した。仮想世界を、数に限りのある土地へと分割する方法だ。 The…

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Facebookが2021年にMetaへ社名を変えたことで、「メタバース」への注目が高まった。この言葉には、アバター同士の会議から、体験を共有するデジタル世界まで、異なる構想が含まれていた。The Sandboxは、その中の一つの選択を示した。仮想世界を、数に限りのある土地へと分割する方法だ。

The Sandboxでは、土地の所有者がゲーム体験をつくり、収益化できた。スヌープ・ドッグの「Snoopverse」は、その構想の有名な例だった。誰もが知る人物のデジタルな存在を中心につくる場所である。

だが、2021年の最後の四半期に投機で一区画の価格が1万ドル近くまで上がったとしても、その土地の本当の価値は明らかではない。The Sandboxは仮想世界でありながら、設計の根本で、現実世界と多くの特徴を共有するという強い選択をした。メタバースは理論上、無限にできるはずなのに、土地や資産の希少性を誇っている。

このゲームは、現実世界の不動産ビジネスを意図的に模倣している。メタバースの無限の可能性を生かすのではなく、自ら制約を設けて仮想経済をつくっている。現実の大都市の不動産市場と同じように場所によって価格が変わり、買い手は活気ある生態系の一員になるために割増料金を払う。

投機的に土地を買う人たちが信じているのは、この構想だ。デジタルのゴールドラッシュでは、その土地でできることがまだほとんどなくても、将来の需要への期待だけで価格が上がることがある。

実際には、The Sandboxは現実世界の問題を仮想世界へ持ち込んだ。メタバースで希少性をつくる理由があるとすれば、自分たちの提供するものに本当の価値があると信じきれていないからだ。本来は無限にできる仮想世界に人工的な希少性をつくる目的は、バブルを生むことしかない。

仮想の土地をめぐる議論は、その本質的な価値の話に戻りがちだ。現実と同じようにオフィスを建て、会議を開く企業から料金を取れる、といった曖昧な説明が見つかる。結構な話だ。搾取的な大家や悪夢のような仕切りだらけのオフィスから逃げ出して、ヘッドセットをかぶって同じことをやるわけだ。

メタバースで土地を収益化する機会は、多くあるだろう。だが、その第一の目的が、本来無料であるべきものに課金することなら、成功する仕組みとは言いがたい。課金した人が勝つ仕組みがゲームを衰退させ、大手ゲーム会社まで批判にさらしてきたのには理由がある。露骨な金もうけは誰も好まない。ゲームのコミュニティは、仮想環境の希少性が人工的で不公平なものでしかないと、誰よりも理解している。それでもThe Sandboxと、このメタバースへのアプローチは、所有者と借り手という古い仕組みの再現に全力を注いでいるように見える。少数の裕福な人や初期の参加者に力を与え、普及した後はほかの人々から利益を吸い上げられるようにするのだ。

残念ながら、それこそが広い普及を妨げるかもしれない。土地の価値が主に希少性、場所、スヌープ・ドッグとの近さで決まるなら、人々が時間をかけて土地を開発する動機はほとんどない。価格に賭けて転売益を狙うだけなら、Snoopverseの周囲に残るのは、未開発で面白みのない区画ばかりだ。ユーザーが集まらず、つり上げられた価格が崩れたとき、最後の不運な所有者がそれを抱えることになる。

仮想世界の価値は、利用者がその場所の開発に注ぐ時間と、そこでつくるものの質から生まれるべきだ。人工的な希少性に頼る投機家は、デジタル世界にも物理世界と同じ制約を引き継がせたがっている。

ならば、その夢を壊そう。そして、自分たちの夢をつくろう。

だから、本当のメタバースは違う形でつくるべきだ。

  • 誰もが土地を買い、ミントできる。いっそ惑星でもいい。
  • 惑星の大きさは自由で、拡張にも制限がない。
  • 自分のサーバーかクラウドで、その惑星をホストする。
  • 惑星には.xxxのような固有名を付ける。ただし、すでに商標となっている名前は、その商標の所有者でなければ選べない。
  • 一般公開、会員限定、有料アクセスなど、アクセスの形は自由で、オープンな標準で管理する。
  • 惑星を設定して飾り付けた後は、必要に応じて単一または複数のトークンとして、ほかの利用者に貸し出せる。
  • 惑星をほかの利用者に売ることもできる。買った人は変更や改変を行い、運営のビジネスモデルも変えられる。

このメタバースでは、次のものが価値を生んでほしい。

  • ブランド
  • 芸術
  • 実際に注いだ仕事の証
  • 才能
  • 実用性

価値を生む生態系を支えるなら、投機は悪いことではない。現実の欠陥を取り除き、仮想世界を、豊かな機会のある場所にすることを目指すべきだ。

「ビットコインの価値をどう考えるか」のイラスト

ビットコインの価値をどう考えるか

ビットコインやレイヤー1ブロックチェーンのトークンが持つ本質的な価値については、根本的な誤解がある。よくあるのは、企業のようにキャッシュフローを生まないのだから、こうした暗号資産には本質的な価値がない、という考えだ。長い弱気相場では、この説明が市場の空気を支配しがちだ。だが、これは見当違いで、考えることを怠った見方だ。そろそろ終わりにしたい。…

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ビットコインやレイヤー1ブロックチェーンのトークンが持つ本質的な価値については、根本的な誤解がある。よくあるのは、企業のようにキャッシュフローを生まないのだから、こうした暗号資産には本質的な価値がない、という考えだ。長い弱気相場では、この説明が市場の空気を支配しがちだ。だが、これは見当違いで、考えることを怠った見方だ。そろそろ終わりにしたい。

私の反論はこうだ。インターネットそのものは、どれだけキャッシュフローを生むのか。答えはゼロだ。価値を生むのは、その上に構築されたアプリケーションだ。それでも、インターネットは非常に価値がある。

だからビットコインやL1トークン、あるいはWeb3の取り組み全般を、単純すぎる保守的な見方だけで考え続けるわけにはいかない。ビットコインもイーサリアムも企業ではない。したがって、その価値は利益を土台にしていない。むしろ、新しい生態系全体を支える構成要素への持ち分に近い。インターネットの初期に戻ったと想像してほしい。新しいシステムのインフラに投資できるだけでなく、ネットワークの一部を実際に所有できるとしたら、投資するだろうか。それとも、キャッシュフローがないから悪い投資だと主張するだろうか。

ブロックチェーンは取引の共有記録を維持し、分散型アプリケーションを支えられる。そこで、企業に対してとは違う問いが生まれる。そのネットワークはどれほど役立つのか。そしてトークンは、その有用性の中でどんな役割を果たすのか。

分散型ブロックチェーンは、単一の仲介者に頼らず資産を保有し、移転する方法を提供する。自分自身が銀行になるということは、その資産と送金に責任を持つことでもある。私が価値を感じるのは、この管理のあり方の変化だ。どのネットワークも同じように安全で、干渉を受けないという約束ではない。

国境を越えてお金を動かすと、金融システムがどれほど仲介者、許可、事務手続き上の摩擦に依存しているかが見えてくる。競合する仕組みを評価するとき、基準になるのはこうした実際の問題だ。

インフレもまた、時代を問わない問題を提起する。通貨の価値が下がるとき、人々は購買力をどう守ればいいのか。どの国や資産が話題になっているかにかかわらず、真剣に考えるべき問いだ。

そこから、ビットコインを「デジタル・ゴールド」と見る議論につながる。価格変動が大きいため、価値を保存できるかという問いは難しい。都合よく選んだ一定期間の華々しいリターンだけでは、この議論は決着しない。

下落はつらく、上昇は高揚をもたらし、変動には苛立たされる。私は、この種のネットワークを長期でどう評価するかに関心がある。ビットコインの供給量に上限を設けるルールは、その議論の中心にある。

金のほうが準備資産として優れていると思うなら、自国から持ち出そうとしてみてほしい。またしても官僚的な手続きを目にするはずだ。

私が言いたいのは単純だ。お金も金も、思うほど神聖不可侵ではない。ますます見通しにくい世界で、次の問いに答える資産の種類があるなら、

1.) 自分たちのお金をどうすれば、より自分で管理できるか。

2.) お金の移動をどう簡単にできるか。

3.) それと同時に、購買力を維持するための別の選択肢をどう持てるか。

少なくとも、軽蔑して反発するのではなく、前向きな好奇心を持って向き合うべきだ。

バフェットが何と言おうと、ビットコインを少し買うのはいいと思う。❤️

「もう一度、始める」のイラスト

もう一度、始める

危機は、問い直しと内省の時期でもある。最初の衝撃が過ぎれば、立ち止まる時間が役に立つ。 きちんと休んだことで、旅をし、本を読み、新しいことを学び、ドバイを知り、友人と過ごす時間ができた。日々の雑音から離れると、自分の毎日を何に使いたいのかが見えてきた。…

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危機は、問い直しと内省の時期でもある。最初の衝撃が過ぎれば、立ち止まる時間が役に立つ。

きちんと休んだことで、旅をし、本を読み、新しいことを学び、ドバイを知り、友人と過ごす時間ができた。日々の雑音から離れると、自分の毎日を何に使いたいのかが見えてきた。

活動する範囲を小さくすることで、かえって強くなれることもある。白紙の状態は落ち着かないが、エネルギーも与えてくれる。積み上げたものをすべて維持するのをやめ、何を存在させる価値があるか選び始める。

意味のあるプロジェクトは、小さく、壊れやすく、不格好な形で始まることが多い。技術について語るのは、その使い道を見つけるより簡単だ。大切なのは、役に立つサービスを実現できるかどうか。とくに、その技術がなければ存在できなかったサービスだ。そこに力を使いたい。

静かな時期は、そうした仕事に向いている。注目を奪い合う必要が減り、働く余地が増える。プロジェクトの周囲で何が語られているかより、人々がそれを使って何をできるかで判断したい。

いくつかの単純な決断に戻った。

  • キャッシュフローを生み出せるものをつくる。
  • 外部資本なしでも進められるプロジェクトに集中する。
  • 公の場で語ることより、具体的な仕事に注意を向ける。
  • 大切な人と過ごす時間を守り、ネット上の敵意がその人たちにまで及ばないようにする。

再出発に、過去の完璧な説明も、未来についての大げさな宣言もいらない。必要なのは、始められるほど小さく、取り組み続ける価値があるほど役に立つものだ。

さあ、始めよう。

「事業を再構築する」のイラスト

事業を再構築する

COVID-19は、事業がいかに急に再構築を迫られるかを示した。その教訓は、一度きりの危機にとどまらない。…

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COVID-19は、事業がいかに急に再構築を迫られるかを示した。その教訓は、一度きりの危機にとどまらない。

事業再構築には二つの側面がある。法的な側面は、具体的な状況によって変わる。COVID-19の危機では、各国政府が企業に給与、家賃、税金など多くの固定費の支払い延期や融資を認めた。少なくとも理屈の上では。どんな危機でも、利用できる支援と、それによって生じる義務をよく調べる必要がある。

しかし、それらがやっていることは一つだけだ。後であなたに重くのしかかる大量の借金を生み出している。何も解決せず、痛みを未来に押しやっているだけだ。あなたの事業は、その未来の痛みに耐えられるだろうか。借金をすべて返せるだろうか。そして何より、世界経済がいつまでも動き出さず、今後数か月、あるいは数年間の売上が20%、30%、50%落ちる中でも、その借金を返せるだろうか。

それは……相当に重い。

だからこそ再構築が必要になる。できる限りコストを下げ、危機を抜けたときには以前より身軽な事業になっていなければならない。聞きたい話ではないことはわかっている。それは従業員を手放すことでもあり、人の人生に現実の影響を及ぼすからだ。しかし起業家として、事業を生き残らせるだけでなく、繁栄させる責任がある。そうでなければ、誰一人雇えなくなる。事業が再び好調になったとき、また人を採用できるようにするには、それしかない。

では、再構築の事業面の話に入ろう。ちなみにこちらは法的な側面よりはるかにわかりにくく、ネットにある情報もずっと少ない。

必要な人員削減について、最初から率直に話そう。退職してもらう必要があるなら、その状況に適用される手続きに従いながら、できる限り早く伝える。一時的な支援や決断の先送りを、本人に何も知らせない口実にしてはいけない。別の取り決めを望み、実行できる人もいるだろう。互いを知り、尊重するチームなら、開発やグラフィックデザインなどのフリーランスになりたい人もいるかもしれない。ただし、現実的な合意に至らなければ、人を手放す必要もあると受け入れよう。

この発言に怒鳴り返す人が大勢いることはわかっている。それでも構わない。私は社会全体のあり方や、この危機に社会がどう対応すべきかを論じているのではない。あなたの事業を救い、再び成長して繁栄できる状態に持っていく話をしている。今の世界は、以前のルールに従うだけでは立ち直らない。COVID-19の危機は戦争にたとえられてきた。そのくらいの覚悟が必要だ。

人件費をできる限り減らしたら、次はコストに徹底的に向き合う。手始めに、すべての支払いをいったん止めるのもいい。法人カードも銀行口座も、会社の誰も何も使えない状態にする。そして全員に、どんな支出であれ、100%自分に相談するように伝える。

事業に不可欠な支出が何なのか、一項目ずつ理解しなければならない。そして一項目ごとに、本当に必要なのか、別のものに切り替えられないかを判断する。あらゆるものは再交渉できる。すべてだ。電話をかけ、相手と話そう。

そして割り切ることだ。月500ユーロ払っているツールに比べて性能が半分でも、使える無料のツールがあるならどうか。確かに性能は半分だが、費用は限りなく安い。手元資金が乏しいときに費用が限りなく安くなるなら、迷う理由はない。

普通、お金を増やす方法は二つある。もっと稼ぐか、支出を減らすかだ。私を少しでも知っているなら、長年「もっと稼ぐ方法を探しに行け」と言い続けてきたことも知っているはずだ。しかし危機の最中には、問題が二つある。もっと稼げるのかわからないし、その上限もわからない。その不確実性がある以上、短期的には抜本的な決断をして、支出をできる限り抑える必要がある。

再構築の第三段階は、ビジネスモデルを根本から組み直すことだ。

危機の最中は、本業に100%集中し直す必要がある。周辺事業、実験、多角化などは、すべて忘れよう。全部切り離し、すべての力を中核事業に注ぐ。

最後にもう一つ。本業に集中し直すとは、価格を見直すことでもある。多くの人は抵抗するだろうが、顧客の需要と支払う力があるなら、危機が値上げの機会になることもある。

危機には、お金が手に入りにくくなる。流れる速度が落ち、届く範囲も狭くなる。しかし危機の中でお金を持っている人は、使えるお金がむしろ増える。顧客数は減っても、残る顧客には使うお金がある。全体としては貧しくなる一方、個々に見れば裕福になる人もいる。

特定の危機で需要が伸びる分野を考えてみよう。COVID-19の時期には、ビデオゲーム、出会いや親密な関係のためのアプリ、遠隔医療などが、人々が家で過ごす時間の増加から恩恵を受けうる事業の例になった。

そのように伸びる需要を満たす会社なら、値上げして利益率を高められないか検討しよう。その機会があるかどうかは、実際の顧客と市場による。

立ち直る鍵は、物事が再び動き出したときに投資できるお金を持っていることだ。

そのため、危機の中でゼロから始める人は、すでにある事業より有利になることもある。新しい会社は、上で述べた人員や組織の決定をいったん解きほぐす必要がなく、まっさらな状態から築ける。

ただし、再構築するにしてもゼロから始めるにしても、完全な集中が必要だ。危機の最中に成功するには、強さ、無駄のなさ、徹底した規律、短期を考える姿勢が求められる。長期を前提にしたビジネスモデルに危機の中での居場所はない。そもそもスタートアップでは、以前からあまりよいものではなかったけれど ;)。

「危機の中でのリモートワーク」のイラスト

危機の中でのリモートワーク

平時であっても、スタートアップは常に柔軟で、危機対応に切り替える準備ができていなければならない。起業家には、やっていることをすべて変え、つかむべき機会を見つける力が必要だ。 2020年のCOVID-19による外出制限は、こうした課題を桁違いの規模で浮き彫りにした。その経験には、リモートワークや長引く危機への対応に通じる教訓がある。…

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平時であっても、スタートアップは常に柔軟で、危機対応に切り替える準備ができていなければならない。起業家には、やっていることをすべて変え、つかむべき機会を見つける力が必要だ。

2020年のCOVID-19による外出制限は、こうした課題を桁違いの規模で浮き彫りにした。その経験には、リモートワークや長引く危機への対応に通じる教訓がある。

2008年とはまったく違う。自分が病気になる不安があり、友人や大切な人を心配し、世界中の人に起きていることを目にする。そのうえ、移動し、人とつながり、日々交流する力にも影響する。誰が何と言おうと、オンラインで一緒にいることは、同じ部屋にいることとはまったく違う。

習慣を大きく変えると、自分の生活の実態が見える。外出制限の前、私はかなり働いているつもりだった。その間に、猛烈な勢いで働いていて、別のやり方を見つける必要があると気づいた。

実際に試した生産性の助言で、特によかったのは通知をすべて切ることだ。Slackの確認を1日2回にした。それですべてが変わり、ようやくさまざまな仕事に深く取り組めるようになった。

とはいえ、これはかなり個別の例だ。危機の最中にも、その後にも大切だと思う、起業家全般への教訓がいくつかある。

1/ 短期には悲観的に、長期には楽観的に

短期の計画を楽観的な見通しに頼ると、危機で大きな代償を払うことになる。最初の外出制限では、特定の日に制限が終わると決めつけるのは危険だった。誰にもわからなかったからだ。厳しい状況が6か月続くと考えて準備しておけば、回復が早まった場合はよい知らせになる。

これは、もっと大きな真実につながっている。よい知らせに適応するほうが、悪い知らせに適応するよりずっと簡単だ。予測しようとしないこと。あなたの対応する力は、未来を予測する力より優れている。

結局、現実はいつも想像以上に意外なものだからだ。私たちは想像力の限界に縛られている。怪物を思い描いても、すでに知っているものの組み合わせにすぎない。最悪の警戒態勢を想定しても、実際に起こることに追いつくほど「現実的」にはならない。福島の例を考えてみよう。地震、テロ攻撃、津波など、災害ごとの計画はあった。しかし、地震の後に津波が来る計画はなかった。だからこそ、できるだけ素早く対応できる自分にしておくのが一番だ。

2/ 二度と参加できなくなるリスクは取らない

私はリスクを取るのが好きだ。しかし、再び挑戦できなくなるリスク、ゲームから完全に締め出されるリスクは取らない。創業者にとって、それはコストを削ることを意味する。危機は必ず、実験の方法や新たに解くべき問題を生む。新しいことは試せる。ただし、ゲームに残る方法を見つける必要がある。

だから、現金の支出を本当に持続可能な水準まで減らそう。そして、起業家でい続ける力を守ることが、自分の未来に不可欠だと忘れないでほしい。多くの企業や起業家はこの危機を抜けられない。その可能性を受け入れよう。

さて、この新しい世界に適応するために役立つ、リモートワークの助言をいくつか挙げたい。離れて働いていても、すばらしいことを起こす方法はある。

1/ 書くことが話すことの代わりになる。だから考え抜いたメッセージを

同じ部屋に人がいれば、自分のカリスマ性は相手に作用する。活力を与え、気持ちを盛り上げられる。しかし同じ部屋にいられなくなると、すべてが変わる。チームでリモートワークをしていて最も不思議なのは、意思決定を助ける、対面での微妙な反応が得られないことだ。

だから、文章を通じて自分のエネルギーを伝えることがとても大切になる。結局、リモートワークとは、話すのと同じくらい上手に書けるようになることだ。

私は苦労してそれを学んだ。外出制限の最初の週に、131件の通話をした。疲れ果てた。そこでSlackで、一緒に仕事をしていた人たちにメッセージを書いた。記事を書くつもりで、できるだけ明確に書き、短い質問をいくつか添えた。そのおかげで、予定していた通話の90%を取り消せたし、読んだ全員に価値を届けられた。

(通話を完全になくせと言っているのではない。短期的な対策としては有効だが、長期には続けられない。熱意を込めて書くほうがずっとうまくいく。ヒントをくれたのは、StarofServiceのLucasだった。彼は何年も前から、100人以上のリモートのチームに、エネルギーにあふれたメールを定期的に書いている。)

どうすれば、もっと上手に書けるだろうか。

  • 書いてすぐに送らない。いったん置いて、1時間後に読み直し、明確かどうかを確かめる。
  • 声に出して独り言を言うと、考えを整理できることがある。
  • 短い文が一番だ。文体ではなく、わかりやすさの問題だ。
  • 10〜15分以上続けて書かない。それ以上だと、自分の考えの中で迷いやすくなる。

そして、文章には解釈の余地があると忘れないこと。だから明確さが鍵になる。同じ本や記事でも、読者の数だけ違う解釈が生まれうる。仕事では、その点を扱えるようになって、全員が同じ認識を持てるようにしなければならない ;)。

2/ チーム全体の雰囲気とエネルギーを見守る

チームの中では、子どもがいる人といない人との間に大きな違いがあると理解しよう。今、家に子どもがいる人には、使える余力がずっと少ない。それを考慮しなければならない。でも、それでいい。これは短距離走ではなくマラソンだ。長期的に相手を傷つける要求をしていないか、確かめよう。先回りして、その人たちにも機能する仕組みをつくる。

一人で暮らし、働きすぎる傾向がある仲間もいるだろう。管理する立場なら、ずっと働かせたくなる誘惑に抗おう。燃え尽きたチームには、長引く危機が永遠に感じられる。心から人を大切にすることだ。私は以前、不満がある人は別の機会を探せばよいと思っていた。しかし危機の最中には、それがずっと難しくなることもある。だからこそ、その人の働く環境に対する責任は重い。

単純なことから始めよう。調子はどうか、最近楽しかったことは何か、おすすめの映画は何かと聞く。リモートで働く人に、仕事の後の充実した社会生活があると決めつけてはいけない。仲間が孤立しているなら、気分や心身の状態への影響を考慮しよう。

3/ 長期に効くことに取り組む

リモートワークは、以前は重要に思えなかったことに取り組む機会にもなる。私たちは皆、将来に楽観的である必要がある。だから、いずれ訪れる回復を楽にする仕事を進めるのはよいことだ。管理業務を組み直す、経費を整理する、新しいバックエンドに取り組む、さまざまな活動をどう拡大するか考える、といったことかもしれない……

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2008年の金融危機後、エンジェル投資家として学んだこと

2008年の金融危機の後には、スタートアップが急成長する時代が訪れた。危機と再生を繰り返す中で、投資家はどうすればうまくやっていけるのだろうか。…

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2008年の金融危機の後には、スタートアップが急成長する時代が訪れた。危機と再生を繰り返す中で、投資家はどうすればうまくやっていけるのだろうか。

2009年か2010年、友人にエンジェル投資を試してみたらどうかと言われた。起業家だった私は、自分が投資家になるとは考えたこともなかったが、悪くないと思った。当時のシリコンバレーは特別な時期だった。Facebookはまだ上場しておらず、家賃もまだ手ごろで、あちこちに恩を次の人へ返していこうという空気があった。出会う人に親切にすれば、いつかどこかで、自分にもよいことが返ってくる。そう感じられた。

そのため、投資の世界にはとても肩の力が抜けた雰囲気があった。それ以来、あれほどのものは見ていない。投資家は30分で意思を決め、契約書への署名前、場合によっては作成前に送金していた。報告はまばらで、混沌としていて、楽しかった。

だから、失敗して学ぶには最高の場所だった。学びながらでもお金を稼げたからだ。ここでは、下手なエンジェル投資家だった私が学んだことを紹介する。危機が数週間、数か月、何年続くとしても、役に立つはずだ。

一つ一つの投資で、何を学んだのか。

最初の投資:金額より分散が大切

最初に投資したのは、スタンフォードで学んだフランス人二人の事業だった。説明がとてもうまく、本当に自分たちのやることをわかっているように見えた。私は5万ドルの小切手を切った。

当時は人と簡単に知り合うことができ、その少し後に、とても有名な起業家兼投資家に会った。その投資の話をすると、彼は私がそんな大金を入れたことに驚いた。彼自身は1万ドルを入れたという。億万長者なのに、だ。理由は単純だった。うまくいけばリターンは非常に大きくなるため、入れた額の違いはそれほど重要ではない。だから無理のない額にすればいい。

教訓:最初期の投資家として入るなら、そのスタートアップはおそらく潰れる。それがスタートアップというものだ。うまくいったときのほうが驚きなのだ。だから分散する。投資先が30〜50社になって、ようやく長期を安心して考えられるようになる。

フランスやヨーロッパでは、普通そこまで多くの投資先を持たない。成功を決めるのは運ではなく知性だという文化があるが、実際はそうでもない。スタートアップは、たいてい運がものをいう市場だ。だから私は1件1万ドルを投資するようになり、大きな金額を一度に入れるのをやめた。

二つ目の投資:優れたチームが勝つ

当時はとても熱心で、なぜそのスタートアップがうまくいかないのかを何時間も分析していた。うまくいかない理由がわかれば、うまくいく会社を見つけられると思っていたのだ。これも、工学系の学校で教わるような、フランス的で徹底して合理的な考え方だ。

ある会社に投資する機会があり、まさにそれをやった。調べ尽くして、うまくいかない理由を見つけた。創業者たちに17ページもの長いメールを書き、投資しない理由を説明した。1年後、パーティーでそのチームに再会すると、お礼を言われた。私のメールを使ってロードマップを作ったというのだ。彼らはちょうど1億ドルを調達したところだった 🤦‍♂️😹。

教訓:時間と起業家は、どちらも式の中で動き続ける要素だ。私たちは、時間が自分に与える影響の大きさを十分に理解していない。10年後のあなたは、今のあなたではない。会社も同じで、変わり続け、よい方向にも悪い方向にも進む。今、成功の条件がすべてそろった会社が失敗することも、その逆もある。だから一番大切なのは、時間をかけて現実を自分たちに有利な方向へ変えられる起業家を見つけることだ。事業の現時点での姿がどうであれ、優れたチームは本当に勝つ。

三つ目の投資:優れた会社と優れた投資は同じではない

これは最も痛い教訓だった。アプリを立ち上げたばかりの数人の案件が、AngelListで目に入った。金融危機の後で、使われていないリムジンが大量にある一方、人々はもっとタクシーを必要としている、という着想だった。彼らは、かなり低い評価額のシードラウンドでエンジェル投資家を探していた。私はタクシー業界のロビー活動を考えると、うまくいくはずがないと思った。人生で最悪の判断だった。

Uberを見送ったことで、私は並外れた成功に参加する機会を逃した。当たりの宝くじを見つけるのは珍しい。それを捨ててしまうのは、もっとひどい。

教訓:会社の後年の評判と、早期投資家のリターンは別の問題だ。取得価格、持分の希薄化、売却の機会がいずれも重要になる。初期の投資家は会社の運命が変わる前に利益を確定できるかもしれない一方、より高い評価額で入った人の結果は大きく異なりうる。

つまり、どういうことか。価値、成功、お金の間に、確かな対応関係は存在しない。チームさえ変わるのだから、チームを見ても成功を完全には予測できない。よい会社をよい投資に変えてくれる、超越的な正義などない。スタートアップの世界はカオスの世界なのだ!

「スタートアップ営業の基本」のイラスト

スタートアップ営業の基本

ヨーロッパ、とりわけフランスでは、営業はかなりタブー視されている。「営業マンみたいだ」と言われたら、それは相手をだまそうとしているという侮辱だ。一方、米国では「見事な売り込みだった」は褒め言葉になる。…

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ヨーロッパ、とりわけフランスでは、営業はかなりタブー視されている。「営業マンみたいだ」と言われたら、それは相手をだまそうとしているという侮辱だ。一方、米国では「見事な売り込みだった」は褒め言葉になる。

こちらの大きな問題は、優れた製品があっても、誰にも知られていないことだ。営業の文化が弱いので、よい解決策を次の大きな成功に変えるのが苦手なのだ。しかし起業家の仕事は売ることだ。まずは身の回りの人、投資家、従業員、銀行担当者、すべての人に売る。

優れた営業になるための唯一のルールは、その製品を買うことが、買う人にとってどうよいことなのかを理解することだ。営業に対する悪いイメージは、そこを見落としている。優れた営業は相手の話を聞き、目の前の人を理解する。精神科医のように黙って聞くのではなく、警察官のように能動的に聞く。相手の仕組みを理解し、どこに働きかければ影響を与えられるかを探るのだ。営業とは、まず鍵の場所を見つけ、それに手を伸ばしてつかみ、扉を開くことだ。できる限り多くの情報を集めなければ、成功しない。

製品が相手にどう役立つかを知るには、購入者を動かしているのが感情なのか理性なのかを知る必要がある。iPodについて多くの人が理解していなかったのは、この点だった。合理性の話ではなかったのだ。ほかにもMP3プレーヤーはあり、家電店へ行けば、店員が保存できる曲数、圧縮率、価格など、技術的な細部を説明していた。

Appleは格好よかったから、すべてを打ち負かした。使う人が望むことを、そのまま実現する製品で、ある感情を生む方法を知っていた。それから何年たっても、Androidを買う人が、Appleより優れている理由を何時間もかけて説明しようとするのは、そのためだ。ここに理性と感情の違いがある。営業として、その二つの反応が自分の売ろうとする製品とどう関係するかを理解しなければならない。

では、営業として上達するにはどうすればよいか。大きく三つある。

  1. 買う人の状態に合わせる。

最も優れた営業は、話す相手に合わせて言葉遣いや自分の出し方を変えられる。自分でない誰かを演じるのではなく、自分の幅を広げる方法を知っているということだ。私たちは私生活ですでにやっている。初めてのデートで、最初の子どもにつける名前を話し始めたりはしない。相手が怖がるからだ。適切なタイミングで、適切な一歩を踏み出そう。それが関係の築き方だ。

  1. 見込み客を見極める。

売るときには、相手に買う準備があるのかを知らなければならない。

投資家との面談で「スタートアップはお金を稼がない。利益なんて出ない」と言われたら、帰ろう。面談は終わりだ。信じていないことを信じるよう、人を説得することはできない。友人が豚肉を食べないなら、食べるべきでないと信じているからで、信仰は基本的な権利だ。私が「先週宇宙人が来て、グミを食べるなと言った」と言っても、あなたはグミをやめないだろう。しかし私はやめる。

見込みのない相手に時間を無駄にしない。話す人数を増やし、最も買う可能性の高い人を狙おう。見込み客の10%に素早く売るほうが、20%を説得しようと延々時間をかけるよりよい。下手な営業は自尊心を持ち込む。自分が正しく、相手が負け、自分が勝たなければ気が済まない。しかし話す人数を倍にして、誰がよい見込み客かを素早く見抜くほうが、ずっとよい。

しかも、それは具体的な目標になる。早く起きる、速く話す、手順を効率化する。優れた営業はよく働く。営業のすばらしいところは、努力と成果が直接つながる分野の一つであることだ。最高の営業になるには、結局、誰よりも多くの時間を売ることに費やす。筋肉のように、時間とともに強くなる。成功のドーパミンも助けになる。優れた営業は、それによってほぼ常時「営業モード」になる。KymonoのOlivier Ramelと休暇の話をすると、今すぐ自分もまったく同じ休暇を買いたくなるはずだ。彼はいつも自然に売っているからだ。

  1. 製品を愛する。

自分の製品を信じていなければ、本当に優れた営業にはなれない。まず、相手はディズニーで育った世代だ。冷笑的でなく、肯定的な手本とメッセージを示す映画で育っている。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のように営業を考えたら、道を間違える。その世代がネットに口コミを書く世界だからだ。800人があなたとの体験をネットで語れば、現実の影響がある。

そして第二に、私たちは皆、自分がしていることの意味を探し続けている。よい営業であるとは、売れたときに自分自身についてもよい気分でいられることだ。

この三つを身につければ、残りは簡単だ。すべて努力の問題になる。

  • 営業は繰り返しだ。『二郎は鮨の夢を見る』を見ればわかる。米を正しく炊けるようになるまで9〜12年かかると言う。鮨を握ることではなく、米だけの話だ。同じ工程を繰り返し続ける。営業も同じだ。自分の売り込みが嫌になるほど繰り返していないなら、まだ足りない。そして嫌になっても続ける。その先で、まったく新しい、自然にできる段階へ進むからだ。練習と結果は直接つながっている。だからこそ、自分が売るものを愛することが大切なのだ。
  • 熱量が大切だ。コロッセオが大部分残っている一方、多くのギリシャ神殿が廃墟なのはなぜか。ローマ人は理論よりも、実際にやることを重視したからだ。まず実践し、後から背後の理論を理解する人は、優れたものを築く。常に売ることを目指そう。あらゆる瞬間が販売の機会だ。そうすれば素早く上達する。
  • 自分の小さな世界を出て、全体像を見る。「もっと上手にできる」と考える人は多いが、ほかの多くの人もすでに同じことを考えたと理解していない。現状には理由がある。タクシーの組合がUberに取って代わるのを、なぜまだ待っているのか。それほど簡単ではないからだ。競合は自分より優れ、自分が理解していない何かを理解していると考えるとよい。競合がある方法を使っていないなら、思いつかなかったからではなく、試してうまくいかなかったからである可能性が高い。
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初期の資金調達が非合理的である理由

非合理的といっても、星を見上げて神秘的な儀式をするわけではない。どう動けばいいか、順に見ていこう。 スタートアップが実際にどう動くかを学ぶことも、起業家になる過程の一部だ。初心者かどうかは年齢ではなく経験で決まる。18歳でも63歳でも同じだ。ほとんどの新しい起業家は、投資家がなぜ、どういう理由で自分にお金を渡すのかを理解しないまま出発する。…

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非合理的といっても、星を見上げて神秘的な儀式をするわけではない。どう動けばいいか、順に見ていこう。

スタートアップが実際にどう動くかを学ぶことも、起業家になる過程の一部だ。初心者かどうかは年齢ではなく経験で決まる。18歳でも63歳でも同じだ。ほとんどの新しい起業家は、投資家がなぜ、どういう理由で自分にお金を渡すのかを理解しないまま出発する。

まず、多くの若い起業家が資金調達を理解できないのは、非合理的な過程に合理的な考え方を当てはめようとするからだと認めよう。スタートアップとベンチャーキャピタルの世界は、過剰なほど楽観的だ。これを仕事にしている人は皆、非合理的なまでに楽観的である。それほど失敗率が高い世界で生き残るには、そうするしかないからだ。

その楽観性ゆえに、理屈の上では、どのVCもすべての案件に投資したい。資本が無限にあれば、そうするだろう。だが無限ではない。選ばなければならず、そこで機会を逃す恐れ、FOMOが働き始める。

個々の案件について言えば、プロの投資家は、元本が戻るだけの結果より、大きな成功を狙って損失を出すほうを好む。計算してみよう。1,000万ドルを投資するファンドで、10件に賭けられるとする。目標は1,200万ドルを回収することではない。VCでは、それは失敗だ。狙うのは、キャリア全体を決定づける100倍のリターンである。投資したいのは、慎重に守る人ではなく、資金を危険にさらしてでも、その100倍を目指して全力を尽くす会社だ。

もちろん、会社が大きくなるにつれて、資金調達も変わる。シードでは出資できる投資家が多く、その判断は感情に大きく依存する。まだ数字もデータもほとんどない。不確実性が高すぎて、従来型の調査にはあまり意味がない。「Xは大きな問題だ」「それを解くのは自分たちのチームだ」と、納得してもらう必要がある。

だが、プロダクト・マーケット・フィットに達し、シリーズAを調達する段階では、そう単純ではない。

起業家にとっては、心が躍る時期だ。顧客が10人から数百人、数千人になり、成長率が跳ね上がる。銀行口座に1,000万ドル入ったら何をしようかと夢が広がる。だが、投資家は同じほど興奮していない。毎日一日中、あなたと同じくらい胸を高鳴らせた起業家に会っているからだ。(機会を逃す恐れが働くのも、そのためだ。どの投資家も、後に大成功した人を断った経験がある。)

VCが狙うのは、極端に大きな結果だ。

大きなラウンドには、より多くの人が関わる。シードなら、投資家が一人で決められる場合がある。だがシリーズAでは、ファンド内のほかの人も説得しなければならない。強く反対する人が一人でもいれば、あなたと話している担当者がどれほど望んでも、成立しない。シリーズAでは、確信と組織内の力関係の両方がものをいう。その力関係は通常、あなた自身や事業とはまったく関係がない。

確信を持ち、組織内でも支持を得られる投資家を迎えることは、将来のためにも重要だ。シリーズAの投資家が次のラウンドに参加したがらなければ、会社は苦労する。シードの投資家がシリーズAで追加出資しないことには、いろいろな理由があり、周囲も理解する。だがシリーズAの投資家は、良くも悪くも、取締役会に入り、長く付き合う相手と見なされる。UberのシリーズAで入った取締役は、IPOまで残った。シリーズAは結婚のようなものだが、離婚という選択肢はない。慎重に選ぼう。

では、会社の初期に資金調達を成功させるため、起業家には何ができるのか。

  1. Tinderのように考えない。資金調達は、合う相手を見つけ、関係を築くことだ。ただ口説けばいいわけではない。一枚の条件提示書を得るまでに、多くの投資家と会うことになる。直感を信じよう。何かが違うと感じたら、時間を無駄にしない。
  2. 適切な態度で臨み、予想していなかったものを見せる。ヨーロッパには、起業家の非合理的な行動や、起業家側から「この話はうまくいかない」と交渉を打ち切る態度に、強い印象を受けるVCが多い。目指しているのは、ただ生き延びることではなく、大きく伸びることだと示そう。
  3. 嘘をつかない。投資家は警察のように、いつも嘘を聞いている。すぐに見抜く。
  4. 質問する。自分も投資家を評価している。なぜ自分に投資したいのかを確かめる。踏み込んだ問いをするほど、長期的に強い関係を築ける。
「資金調達の基本」のイラスト

資金調達の基本

資金調達は、若い起業家が踏む重要なステップの一つだ。必要になったとき、あるいは機会が巡ってきたときに行うものだが、毎日繰り返す仕事ではない。たまにしか行わないことを上達させるのは難しい。それでも、うまくならなければならない。…

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資金調達は、若い起業家が踏む重要なステップの一つだ。必要になったとき、あるいは機会が巡ってきたときに行うものだが、毎日繰り返す仕事ではない。たまにしか行わないことを上達させるのは難しい。それでも、うまくならなければならない。

資金調達が非常に得意な起業家には、たいてい二つのタイプがある。営業が得意な人と、とにかく大量の資金を必要とする事業を経営している人だ。資金調達も、形を変えた営業にすぎない。

次のUberをつくろうとしていて、何十億ドルもの資金が必要なら、少しでも成功すれば、絶えず資金調達をする状態が自然に身につく。それが自分の一部になる。

それでも、私が気づいたことがある。優れた起業家が必ずしも優れた資金調達者とは限らず、資金調達が得意な人が最高の会社をつくるとも限らない。考えれば当然だ。資金調達が苦手なら、誰もが認めざるを得ないほど良いプロダクトをつくるしかない。

ネットには、投資家の心をつかむ方法や、相手に響く言い回しの助言があふれている。そんなことは気にしなくていい。

つくりたいのは、その人との健全で長期的な関係だ。最初から相手を出し抜こうとしないこと。資金調達の瞬間よりも、その後、投資家を会社の一員として迎えて過ごす時間のほうが、はるかに重要だ。ありのままの自分を見せ、長く続く関係の土台をつくることに力を使おう。

それも簡単ではない。良い投資家なら2、3回の面談で判断するからだ。悪い投資家ほど、もっと多くの面談を求める。関係を築く時間は少ない。大きなものが懸かり、時間は短いのだから、自分自身や事業、好きなことと嫌いなこと、相手とどんな関係を望んでいるかを、正直に、率直に伝えるほどいい。

それを理解すると、資金調達の核心がわかる。これは非常に非合理的な営みだ。とくに最初のラウンドはそうだ。スタートアップが成熟し、数字や実績が積み上がれば、資金調達も合理的になる。だが初期の出資は、まったく非合理的な理由で決まることが多い。

初期投資をするVCは、金融の専門家ではない。もしそうなら、あまり良いVCではないかもしれない。スタートアップを動かしてきた人、自身が起業家である人、事業を理解し、根っから楽観的な人たちだ。

初期の投資家は、面談で「イエス」と言う理由を探しているわけではない。「ノー」と言う理由を探している。本心ではイエスと言いたい。だが、全員には出資できない。だから、ある会社をほかの会社より選びたい理由を探さなければならない。

それを理解していない起業家は、投資家を説得するのが仕事だと思って面談に臨む。そうではない。自分の会社への出資は当然であり、イエスと言って正しいのだと、投資家に感じてもらうことが仕事だ。

ほとんどの投資家は、面談が始まって10秒で出資したいかどうかを感じ取っている。残りの時間に起きるのは、その起業家が、ほかの案件ではなくこの会社に投資するのが良い判断だという感覚を保てるかどうかだ。

起業家は、どのVCにも自分の会社に出資しなければならない理由はないと理解しておく必要がある。起業家にとって、自分の会社の価値は明らかだ。人生を捧げてつくっているのだから。だがVCが会う人は皆、自分の人生を捧げる、価値が明らかな会社を持っている。

だから投資家は、最初から投資機会を逃すことをそれほど恐れていない。すべての成功企業に出資しなくても利益は出せる。もちろん、できれば全部に出資したいとは思うだろう。誰もがUberに最初に投資した人になりたい。だが、そうなれなくても大問題ではない。宝くじに外れるようなものだ。人生の最後に、宝くじに当たらなかったことを悔やむ人はいない。

相手の仕事を理解しよう。プロの投資家には、運用で利益を出してもしなくても手数料を受け取れる事業モデルがある。起業家はVCの仕事をリスクを取ることだと思っているが、そうではない。自分たちの出資者に説明するとき、賢明な判断をしたと思ってもらうことが仕事なのだ。

VCが自分の出資者に、「サイバーセキュリティ企業に投資しました。市場は良く、起業家には複数の成功経験もありましたが、結果としてうまくいきませんでした」と言っても、大騒ぎにはならない。そうか、うまくいかなかったのか。では次へ。

だが、「合成DNAでドラゴンを育てようとする二人組に投資しました。お金は全部なくなり、ドラゴンは一匹も育ちませんでした」と言ったら、出資者は大騒ぎする。当然だ。

機関投資家にも上司がいることを忘れてはいけない。つまり、あなたには見えず、最後まで知ることのない理由で、断られる場合がある。

たとえば、あるVCがファンドを組成するとき、消費者向け企業に30%、B2B企業に70%を投資すると約束していたとする。目の前に素晴らしい消費者向け企業が現れた。内部で話し合うと、出資者から、現時点で両者の比率は50対50になっており、約束と違うから出資できないと言われる。

そのVCが起業家に、本当の理由を伝えると思うだろうか。もちろん伝えない。「うちにはまだ早すぎる」とか、「市場について確信が持てない」といった説明をする。

VCは案件を断るとき、皆、嘘をつく。起業家の期待をどう調整するかという話だからだ。自分たちが悪く見える理由を伝えたら、あなたは二度と来ない。だが、「客単価が低い」など、あなた側に足りないものがあると思わせれば、客単価を倍にしたときに戻ってくるかもしれない。そのころには、表に出せなかった事情も変わっているかもしれない。

この点で、VCの立場は起業家よりずっと難しい。起業家なら、ほかの人全員に、その事業は素晴らしいと言える。合成ドラゴンの話を持ってきた人に、「それ、最高に面白いね」と言えるし、言うべきだ。起業家には、ほかの起業家を否定して得することがない。

だがVCは、自分ではそうしたくなくても、絶えず人を断らなければならない。くだらない理由で断らざるを得なかった、きっと成功すると信じている起業家のことを考えて、夜眠れないというVCの話を聞くことがある。

起業家がVCにすべての力があると思うのは、VCがそういう姿を見せたいからにすぎない。VCはすべてを合理的に見せるが、実際には人間関係、期待の調整、そして自分を良く見せることの話だ。起きていることを、その前提で受け止めよう。

もちろん、初期の資金源はVCだけではない。最初はさまざまな資金源を検討できるが、会社が大きくなるほど、その選択肢は減っていく。

10万ユーロを出せる人は、世界に何百万人もいる。それぞれ異なる人で、求めるものも違う。だが、10億ユーロを調達する必要があれば、話のできる相手はごく限られる。

つまり、50万ユーロを調達するほうが、組み合わせが多すぎて複雑になることもある。10億ユーロの調達は、ある意味では単純だ。それを実現できる十数人に示せる数字があるか、ないか。非常に二者択一的な状況だ。

初期には、身近な人からの資金、エンジェル投資家、大型のエンジェル、マイクロVC、VC、政府の補助金、企業の投資部門、企業のアクセラレータープログラムなどがある。その森で迷わないようにしよう。

迷わないための最善の方法は、資金調達を義務だと思わないことだ。資金が必要でも、考えているほど多くは要らないかもしれない。私はよく「50万ユーロ必要だ」「100万ユーロ必要だ」と言う起業家に会うが、実際にはあと3か月続けるための10万ユーロがあればいい場合が多い。

当然、次の問いは「その3か月で何を達成するのか」になる。だが、今いる場所から3か月後の場所へ進めば、可能性も変わると信じる必要がある。

次に、人との関係を築くほど、その人はイエスと言いやすくなることを覚えておこう。投資家に近況を伝え、進歩を見せ続ければ、相手が感じる進歩は実際の成果以上に大きくなる。

初めて投資家に会って会社を売り込むのは、取引としての接近だ。自分にはXがあり、相手にはYがある。その関係だけで成立させるには、相手が見る会社の上位20%では足りない。上位1%でなければならない。

だが、すでに関係があり、1年間にわたって毎月の進歩、会社の成長、優秀な営業担当者を二人採用したことなどを見せていれば、もはや単なる取引相手ではない。相手を内側に迎えたことで、会社の見え方がまったく変わる。

時間をかけて正しく関係を築けば、今のノーが将来のイエスになる。ひいきされる側に回るということだ。事業として好かれるのと同じくらい、人として好かれることが大切になる。

資金調達が、相手を口説く問題ではなく、相性を見つける問題であるのはそのためだ。お金が関わる前に、合う投資家を見つけておけば、いざ調達するときに大きな違いが出る。

A案、B案、C案、D案と、選択肢を用意しておこう。出資してもらえそうにないとわかっていても、最も良い投資家から始める。悪い相手から良い相手へ進もうとしても、学びも上達も得られない。最良の相手から始めれば、大いに学べるし、迎えられる投資家の質も高められる。

最良の相手から始めれば、奇跡が起こる可能性も生まれる。私たちの業界では奇跡が起こる。頻繁ではないが、起こる。自分にはたぶん起きないからといって、試さない理由にはならない。

とはいえ、奇跡は当てにできない。結局、誰かがイエスと言うまで、できるだけ多くの人に説明し続けることになる。難しいのは、資金調達中も事業を止めてはいけないことだ。調達を始める時期が遅いほうがいい理由は、ここにもある。

最初の資金調達を始める時期は、どう見極めればいいのか。

当たり前に聞こえるだろうが、必要になったときだ。もっと良い事業をつくるためにお金が欲しいという意味ではない。自分という人間に、もうほかの選択肢がないときだ。友人のソファで寝泊まりし、親の家に戻り、残り物のさらに残りを食べているようなときだ。

資金が欲しい理由が成長を加速することだけなら、まだ十分ではない。実績を積み、自分の会社の価値をさらに明らかにしよう。積み上げる実績の一つひとつが、投資家の判断を容易にする。

できるだけ、よくわからない資金源を避けよう。奇妙なエンジェル、実態がつかめないファミリーオフィス、条件付きの身内からの資金などだ。(私は通常、身近な人からのお金を投資として受け取ることは勧めない。本当に好意だけの援助なら別だ。周囲の人が助けたいと言うなら、会社ではなく個人として受け取ればいい。家族が会社に投資する場合は、ほかの投資家と同じように扱わなければならない。身内のお金だけは別だと思わず、十分な敬意を持って扱うことだ。)

失っては困る人からは、絶対にお金を受け取らない。どの投資家にも、相手の目を見て「このお金はなくなると思ってください。それでも私に渡しますか」と言えなければならない。

それが言えないなら、失われる可能性が非常に高いと理解してもらえないなら、受け取ってはいけない。

なぜこれほど言うのか。外部の人が取り乱すことは、非常に危険だからだ。投資家が慌て始めれば、社内の状況もさらに悪化する。投資家には安定していてもらう必要がある。

自分が何をしているかを理解した、落ち着いた良い投資家がスタートアップに出資する理由は、五つしかない。

一つ目は、ほかの人も投資しているという安心感だ。有名な人が出資するので、自分も出資したくなる。判断の半分は、いつかその有名人に会えるかもしれないという期待だったりする。実際には会えないのに。残りの半分は、その人には投資の超能力があると思っているからだ。ただし、この遊びに引き込まれないこと。ほかの人のお墨付きは奇妙なもので、うまく操れるものではない。失敗する道筋が多すぎる。

二つ目はチームだ。良い理由になる場合もあれば、奇妙な場合もある。並外れた成長を遂げた会社で、初期の従業員の一人として働いた経験は、資金調達を容易にする。その成長を支えた人は、ほとんどの人が見たことのないものを見ているのだから、筋は通っている。

あるいは、重要な分野で専門性を実証したチームかもしれない。銀行インフラとセキュリティの専門家なら、新しいフィンテック企業のための資金調達は容易になる。

ただし投資家は、良い学校を出ているとか、頭がいいとか、仕事ができそうに見えるという理由で「良いチーム」と評価しているわけではない。あなたの力を推し量る手がかりになり、失敗したときには上司への説明にもなる、特別で希少な何か一つを探している。

三つ目はプロダクトだ。ここでようやく、起業家が具体的に手を動かせるものが出てくる。素晴らしいプロダクトをつくれば、投資家の関心を引ける。プロの投資家は楽観的で、事業を理解している。良いプロダクトをつくれる人なら、顧客を説得する方法も学べる可能性が高いとわかっている。

四つ目は、市場で優位に立てる戦略的な提携や強みだ。仕入れを半額にできるとか、その市場で不可欠なものにアクセスできるといった事情は、投資する理由になる。

最後は実績だ。若い起業家は、実績を示すのは簡単だと思っている。「見てください、この3か月でこれだけ伸びました!」。だが、スタートアップの数字が人を引きつけるのは、前例がないほど突出しているときだけだ。

そこそこの数字では、誰も気にしない。投資家が求めるのは、知っている現実から大きく外れた何かだ。「1,000社見てきたが、こんなのは初めてだ」と言わせる数字だ。

顧客獲得費用でも、導入にかかる時間でも、最初から高い販売価格でもいい。それが重要なのは、プロの投資家が、時間がたてばあらゆるものが平均に近づくと知っているからだ。最初に突出していれば、普通の水準に戻るまで時間がかかる。その間に、本当に面白い事業をつくれるかもしれない。

VCが投資委員会で説明することを、もう一度思い出そう。「チームも市場も良い。プロダクトもなかなかいい。そして、この一つの数字が桁外れなんです」と言えれば、判断は明確になる。ほかがすべて「平均より良い」程度でも、その一つの数字によって、機会に対する強い確信を持てる。

では、VCが関心を持ってくれたとしよう。次の問いは、「いくら調達するか」になる。

面白いことに、最初のラウンドでは調達額と評価額が直接結びついている。どのみち、会社の20〜25%を手放すことになるからだ。問題は、その20〜25%と引き換えに、50万、100万、200万、500万のどれを受け取るかだ。受け取る現金の総額が違っても、渡す株式の割合は変わらない。

奇妙に思えるかもしれないが、初期とはそういうものだ。起業家は評価額が今の会社の状態に結びついていると思っている。だがそれは、株式投資の物語がどれほど長いかを、十分に理解していないからだ。良いVCが初期の評価額を細かく最適化しようとしないのは、そのためだ。

数字にすればわかる。会社が将来10億ドルの価値になる可能性があるとしよう。今、VCが50万ドル出しても、100万ドルでも、200万ドルでも、取得するのは20〜25%だ。会社が10億ドルになれば、持ち分は2億ドル相当になるかもしれない。では、最初に100万ドルを出したか、200万ドルを出したかに、どれほど意味があるだろう。最後の差は小さすぎて、議論する価値もない。

VCが間違えないという意味ではない。とくに若い担当者が間違えるのを見てきた。評価額が400万ドルか500万ドルかで争う意味は薄いと、学ぶ必要がある。署名する当日には、たしかに大きな差に感じられるかもしれない。だが、成功した会社の歴史全体から見れば、そうではない。初期企業の評価額にいつまでもこだわるのが悪い投資家だけなのは、そのためだ。

一般に、最初のラウンドの価格は、会社そのものと同じくらい市場によって決まる。初期企業の一般的な評価額が上がっても、会社自体がその割合だけ急に良くなったとは限らない。単に市場が変わっただけかもしれない。

VCの時間軸は長い。7年、8年、10年だ。初期投資は今の会社の状態ではなく、将来の可能性に基づく。だから、ある評価額である金額を調達した別の会社より、自分のほうが客観的に優れていると考える罠に陥らないこと。両社の可能性が同じなら、得られる条件も大体同じになる。

シリーズCやDになれば、ほかの会社の3倍の成果を出していれば、より良い評価額で多くの資金を調達できるだろう。その段階では、会社は最終的な価値に近づき、リスクは下がり、可能性も具体的になっている。そこで初めて、数字が取引条件を左右する。それ以前の数字は、主に出資するかしないかを判断する材料なのだ。

よく見る大きな間違いの一つも、これで説明できる。評価額500万で100万を調達できる段階になった起業家が、さらに頑張れば評価額1,000万で200万を調達できると思い、粘り続ける。だが12か月後も、投資家は「投資はしたい。500万の評価額で100万出そう」と言っている。

評価額を市場が決めるなら、より良い投資家を選ぶことに力を使うほうがいい。誰が良い投資家で、誰がそうではないのか。自分に合う投資家はどう見極めるのか。

初期の選択肢は、大きく二つある。組織として投資するVCと、個人のエンジェルだ。

エンジェルについては、自分の直感を信じるべきだと私は考えている。その直感は、自分なりに育てるしかない。個人を知るうえでは、小さな振る舞いが実に多くを語る。たとえば、こんなことだ。

  • 面談に来た人が会計士のような格好をしていたら、そのお金は受け取らない。会計士は、スタートアップへの投資に向いていない。必要なリスクの大きさを理解していないからだ。(それで構わない。悪い人だという意味ではない。ただ、スタートアップから離れていたほうがいい。)

  • 起業家は良い候補だ。大切なものを共有しているからだ。ただし注意も必要だ。相手も起業家なので、あなたの会社を経営したがる人がいる。試しに「週に1日、オフィスに来て一緒に働きませんか」と聞いてみよう。イエスと言ったら距離を置く。それはおかしい、自分の会社なのだから、資金を渡して任せたいだけだ、と考える人ならいい。投資家には、力を増幅し、良い相手を紹介し、必要なときに相談に乗ってもらえばいい。自ら経営に手を出したがる投資家は避けよう。

VCの場合は、相手を十分に調べずに出資を受けてはいけない。自分に投資する人を調べることは非常に重要だ。「出資いただける可能性を嬉しく思っています。投資先の起業家を3人、紹介してもらえますか」と頼もう。

そして、実際に電話をする。それをせずにひどい経験をしたら、さて、誰の責任だろう。

逆に、投資家についての経験を聞く電話が来たら、嘘をついてはいけない。悪い相手から出資を受けてしまったとしても、恥ずかしいという理由で次の人まで傷つけてはいけない。悪い投資家から抜け出せないなら、ほかの人が同じ罠に落ちるのを防ごう。そうすれば、業界全体を少し良くできる。

相手を調べる際には、VCによって実力に差があり、実際に違いを生める三つの点を考えよう。ブランド、人脈、危機対応だ。

ブランドの価値は明らかなのに、理解していない起業家が多い。大手の有名VCを迎える価値を過小評価しないこと。重要な相手にメールを送るとき、「私たちはBlahBlah.comです。有名VCから500万ドルを調達しました」と言えるほうが、「聞いたことのない投資家から500万ドルを調達しました」と言うより、はるかに説得力がある。物語の伝え方がものをいう世界で、自社と投資家、両方のマーケティングとブランドの力を侮ってはいけない。

人脈には、地元、地域、世界という広がりの違いがある。世界的な企業をつくりたいなら、投資家にも世界に広がる人脈が必要だ。

そして、危機は必ず訪れる。そのとき投資家はどう反応するのか。支え、助けてくれるのか。それとも取り乱し、無茶なことを言い始めるのか。後者なら、大きな重荷になる。必要なのは、慌てない、強く勇敢な投資家だ。

最後に、資金調達は難しいという事実に戻ろう。VCから調達できなければ、どうするのか。資金調達の仲介者に頼むべきか。もっと特殊な投資家を探すべきか。

基本的に、仲介者を使うのは、自分で試して失敗した後にしよう。最初から頼めば、その価値があったのかわからない。だが、自分では失敗した後なら、調達額の5%や10%を手数料として取られても、価値があるとわかる。自力では何も得られなかったのだから。

VCに合わない会社なら、ファミリーオフィスのような、より特殊な投資家に会うために助けが必要かもしれない。優れた会社でもVCに合わないことはある。誰もがマーク・アンドリーセンから調達できるわけではない。特殊な資金源を使うなら、そのお金で利益を生むことで、後に彼から調達できる可能性を高められると覚えておこう。

起業は一つのキャリアだ。下がることも、上がることも、横に進むこともある。それぞれの時点で、できる限り多くを得るようにすればいい。

「チームをどう大きくするか」のイラスト

チームをどう大きくするか

優れた起業家は皆、すばらしいスタートアップを築くには、すばらしいチームを築く必要があると言う。決まり文句になっているのは、事実だからだ。 しかし若い起業家に、成功すれば一日の半分を採用に使うようになると言っても、信じてもらえない。本当に理解するには、経験するしかない。 そこで、会社を拡大するときに生じる摩擦と、チームの拡大を自然に進める方法を考えよう。…

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優れた起業家は皆、すばらしいスタートアップを築くには、すばらしいチームを築く必要があると言う。決まり文句になっているのは、事実だからだ。

しかし若い起業家に、成功すれば一日の半分を採用に使うようになると言っても、信じてもらえない。本当に理解するには、経験するしかない。

そこで、会社を拡大するときに生じる摩擦と、チームの拡大を自然に進める方法を考えよう。

その前に一つ覚えておいてほしい。採用が遅すぎて死んだチームはない。速すぎて死んだチームは、たくさんある。

早すぎる採用は致命傷になる。間違った人を雇うと、その人がさらに悪い人を呼び込む。気づけば社内に、すべてを焼き尽くす力を持つ妨害集団ができている。

一人ひとりのメンバーのよさと、具体的な技能の高さには、あまり相関がない。技能と姿勢は別のものだ。しかしチーム全体が、どれほど一様に優れた人でそろっているかと、スタートアップの成功には、大きな関係がある。

採用するときは、新しく入る一人ひとりが、自分のいない場所で物事を動かす小さな責任者になると理解しよう。そして当然、自分がその場にいない状況はたくさんある。

ゆっくり採用することに、代償はない。一つの機会を逃して死ぬことはない。市場を逃さないために急いで採用しなければと思う人がいるが、そんなことは起こらない。

そもそも、スタートアップは競争で死なない。少なくとも極めて少なく、そうなったなら運が悪かったのだ。道を歩いていたら、空から隕石が落ちてきて当たり、死んでしまうようなものだ。起こる可能性はあるが、低すぎるので、真剣に心配する必要はない。

競合を心配するより、正しく採用しよう。遅すぎることを恐れず、自分が納得できる速さで進めればいい。

納得感は大切だ。起業家は、人についての自分の直感に耳を傾けることに慣れる必要がある。仕事には、直感に従うと大きな間違いをする分野も多い。しかし周囲の人についての直感を聞くことは、とても重要だ。

言うほど簡単ではない。社会の中で私たちは、人について本当に思っていることを言わないよう教えられているからだ。

だから、私に会って太っていると言うのは子どもだけだ。ただの事実なのに、大人が面と向かって言ったことはない。なぜか。事実でも、相手を傷つけそうなことは言わないよう教わるからだ。あるとき夕食で、友人の6歳の子が言った。「Oussama、太りすぎだよ。もっと体を大切にしないと、若くして死んじゃうよ」。大人たちは凍りついたが、私は「ありがとう。その姿勢を忘れないで。君の起業家的な考え方は好きだよ」と答えた。

しかしこういう場面で周りが驚くと、子どもは、言うべきではなかったと理解する。やがて、相手をぎょっとさせないよう、思ったことを言わず、そうした反応を避けることを学ぶ。そして大人になれば、理由もなく人を傷つけないことは、社会生活の大切な一部になる。

だが採用のときは、その考えを押し込めてはいけない。「子どもモード」を入れよう。もちろん、思った反応をそのまま外へ出す必要はないし、裁判沙汰になるようなことを書き残してはいけない。それでも、人についての直感には耳を傾ける必要がある。ほかの何よりも多くを教えてくれるからだ。

これは身につけていく過程だ。起業家としての直感に、自信を育てる必要がある。誰がどう働くかを正確に予測できる超能力がある、という罠にはまらないこと。誰でも、どこかではよい仕事ができる。しかし誰もが自分の会社に合い、自分とよい仕事ができるわけではない。

いろいろな意味で、セックスに似ている。会う人全員とセックスしたいとは思わないだろう。そうでないなら、会う人全員を採用したいと思う必要もない。

世間は起業家には人を雇う責任があり、雇用を生むために存在していると考える。しかし起業家なら誰もが、この仕事の最もつらい部分は、他人に頼らなければならないことだと知っている。起業が難しいのは、一人ではできないからだ。並外れたことを一人で達成するのは不可能である。それでも起業家は皆、一人でできるほうを好むだろう。

だから、自分と同じ意志と意欲を持つ人を見つけることは、自然には起きないと受け入れよう。自然でないからこそ、探すために多くの時間と努力を注ぐ必要がある。

スタートアップのチームを大きくすることは、うまく採用し、うまく管理し、うまく解雇することに尽きる。

大企業と同じではない。プロダクト・マーケット・フィットを得た大企業では、持っているものを守る必要がある。守るには、指示に従って適切に業務を進める人が要る。大企業がすばらしいのは、あまり賢くない人でも運営できる点でもある。

スタートアップには非常に多くの世話が必要だ。つまり脆く、運営には非常に有能な人が必要になる。3歳児と週末を過ごすか、40歳の大人と過ごすかの違いだ。小さな子どもには、本当に注意が必要になる。突然、窓を開けて飛び降りようとしたり、存在すら知らなかった鋭い物を手にしたりする。ずっと見ていなければならない。大人と一緒なら、その警戒は要らない。薬物が絡んでいないと仮定しよう ;)。

起業家であることは、3歳児20人の面倒を見るようなものだ。大企業なら多くの失敗をしても致命傷にはならないが、スタートアップは一人の従業員に潰されることがある。

本当に、従業員は驚くほど愚かなことをしうる。しかも助けになると思ってやるのだ。手順がなく、周囲が混沌としていて、何が正しい進め方かわからないために、間違いが起こる。スタートアップはプロダクト・マーケット・フィットを探し、拡大可能な成長を目指している。しかしそこへ至る前には、ひどい考えでもよさそうに見えることがある。

だからチームの拡大とは、基調をしっかり定めることだ。起業家は最初の10人の採用について、もっと疑い深くあるべきだ。その人たちが、文化全体を決めるからだ。

それは三段階で起こる。

第一段階:創業者の自然な延長としての文化。

創業者が文化を定めようとしても、自ら体現していなければ、それは自分たちの文化ではない。宣言文を書き、価値観を並べた後、正反対のことをするスタートアップを、私は何社も見てきた。

自ら手本を示す必要がある。早く来てほしいなら、自分が早く来る。懸命に働いてほしいなら、自分が働く。そして創業者が何かをすれば、チーム全員にもそれをする権利を与えていると理解しよう。

あなたの一つひとつの行動が、チーム全体に採り入れられる。何にこだわるかを賢く選ぼう。

第二段階:その文化を受け継ぎ、自ら体現する人を雇い始める。

ここから危険な道が始まる。拡大し始めるとは、自分の教団を大きくすることでもある。教団に入る人は、どんな宗教の改宗者とも似ていて、融通が利かず、少し狂信的になる。その硬直性は危険だ。強い文化とは、柔軟な文化だからだ。

強い文化は、多少の不整合を受け入れられる。すべてがきっちり収まり、実用的で、体系の中で完全に筋が通っているなら、そのスタートアップは固まりすぎている。「普段はこうする。ただし別のやり方をするときもある」と皆がわかっている文化が必要だ。

その柔軟性がなければ、会社は硬直している。硬すぎる木に強風が吹けば、どうなるか。折れる。硬直した会社で市場が変わったり、顧客が危機に陥ったりすれば、どうなるか。会社が折れる。

第三段階:組織の拡大に関わる全員が、文化を自分のものとして担う。

単純であり、とても難しい。採用する一人ひとりに、文化を薄める力があるからだ。それに抗おう。文化は長期にわたって自分たちを守り、組織が何者かを定める。そして最終的に文化を体現するのは、誰にお金を払い、誰を昇進させるかだ。

革新的な会社だというポスターを壁に貼っても、革新的でない人ばかり昇進させるなら、その会社の文化は革新的ではない。それだけだ。

従業員は、文化の隠れたルールを、信じられないほどよく理解する。宣言文には何を書いてもよい。しかし報酬を払い、昇進させる相手にそれが表れていなければ、嘘である。

昔、大企業のコンサルティングをしたとき、これを実際に見た。経営者は協働を望んでいるのに、社員が皆競争的で、互いに働こうとしない理由がわからないと言った。5分で理由は明らかになった。年末の賞与は、全員が個人成績だけで決まっていた。つまり誰かと一緒に働くと、自分の給料が減る仕組みをつくっていたのだ。皆が刺々しくなるのは当然だろう。(報酬体系を変える提案をしたら、「いや、それはできない。それがうちの文化だから」と言われた。ああ、そうですか。)

チームワークに最適化されていない仕組み……

会社が『ハイランダー』のように、最後の一人だけが生き残る大きな戦場でも構わない。それは選択であり、社内の全員がその選択とともに生きる必要がある。ただし、正直であろう。

拡大の途中では、オフィス勤務とリモートワークをどう扱うか決める必要もある。まったく同じものではないと理解しよう。歴史的に文化は、同じ場所にいる人によって築かれてきた。部族、都市、国家はいずれも領土を基盤にし、皆が物理的に一定の空間内にいた。

インターネットは、物理的な存在をまったく前提にしない文化を築くという考えをもたらした。同じ部屋に誰かがいることに、文化づくりを頼れないのだ。

だから、チームの一部だけがリモートという会社は、本当の意味ではつくれない。全員がリモートか、誰もそうでないかだ。ときどき在宅勤務をする人がいてはいけないという意味ではない。それは構わない。しかしそれは、リモートのチームとは違う。

リモートのチームでは、大切なことはすべてオンラインで起きる。才能を本当にどこからでも集められるので、すばらしいことが起きる。しかし情報が見えないところで自然に伝わることがないため、情報を100%明示する必要がある。

それが最大の課題だ。すべてを書き残し、全員に必要な内容を渡し、情報を取り逃したり、どこに探せばよいかわからなくなったりするのを防ぐ。対面のチームより、はるかに堅固な情報の仕組みを築かなければならない。

リモートでもオフィスでも、フリーランスと社員への考え方を見直そう。人によって望むものは違う。「社員は指示できる人、フリーランスは指示できない人」という古い捉え方は、もう当てはまらない。

スタートアップで指示することには、大した意味がない。よいスタートアップは、「どうやって」やるかにこだわらないからだ。大企業には手順が必要だが、スタートアップには必要ない。脆さを扱える、とても賢い人を採用する必要がある。スタートアップには状況と目標があり、そこにいる人が賢いときに初めて機能する。

創業者は、自分より賢い人を探し続ける必要がある。そうすれば、採用した人がやり方を教えてくれる。いつまでも従業員にやり方を教える必要があるなら、採用する人を間違えたのだ。

そして失敗することもある以上、スタートアップでの解雇はとても自然で普通のことだと覚えておこう。私は、親しい友人だと思い、クリスマスの夕食にも招きたい人を解雇したことがある。解雇は、その人への感情とは関係がない。仕事で価値を提供できるかどうかの問題だ。

仕事はすばらしくできるが、一緒に休暇へ行きたくはない人を雇えることはわかるだろう。ならば逆に、愛情を持ち、身近にいてほしい人を解雇する必要もありうる。どちらの方向にも成り立つ。

(だから、家族や友人、大切な人と一緒に働くこともできる。ただし、解雇しても関係を傷つけないとわかっている場合だけだ。大切な人との関係が取引的なものではなく、正直に話せて、解雇が必要になっても壊れないことを、十分に確かめよう。)

では、よい採用をするための仕組みをどうつくるか。

初期から長い間、採用は創業者だけの責任だ。若いスタートアップにCFOは要らない。何の最高財務責任者なのか。破産のだろうか。しかし人を担当する人は必要だ。創業者の一人が専門に担うべきである。それでもCEOは、時間の半分を採用に使うことになる。文化はとても長い間、任せられない。数百人、場合によっては数千人を採用するまでの話だ。

起業家が採用に集中していないと言うたび、私はひどいことだと思う。会社を焼き尽くせる間違った人を、中に入れないことより大切なことがあるだろうか。採用は、そのくらい切実なものとして、大きく致命的な災難にもなりうるものとして捉えなければならない。

いつも採用モードでいよう。強い意志を持ち、機会をつかみ、優れた人を見つけたらすぐ仲間に入れる。

面接者としての自分を知り、自分の弱点を見つけよう。たとえば私が採用で間違うのは、苦しい境遇から来た、強い意欲を持つ人を見るときだと学んだ。自分を重ね、助けたくなり、本来見るべきほかのことを見落とす。それは大惨事になりうる。しかし今は自分の盲点だとわかっているので、そういう人には別の面接者と話してもらう。それを乗り越えたなら、採用してよい。

誰にも盲点はあり、それでいい。超人である必要はない。私は、そのような感情が湧かない人間になりたいとも思わない。しかし起業家として、その感情で会社を危険にさらすわけにはいかない。

警戒を緩めないこと。間違った人を雇うより、優れた人を逃すほうが、はるかによい。一人がもたらしうる利益は、もたらしうる損害より常に小さい。人が負担になると、正気を失うことがある。間違った人を数か月招き入れただけで、何年も訴訟にまみれることもある。

技能を試すのは大切だ。しかし相手を心理的に理解し、どんな人間かを知ることのほうが大切である。自然な振る舞いが見える方法を探そう。一緒に飲む、散歩する、採用候補者と走る起業家もいる。私は食事をする。食べ方には、その人の多くが表れると思うからだ。

自分の方法を見つけよう。必ず見つけることだ。人は「面接モード」になると仮面をかぶるのがうまい。初めてのデートのようなものだ。あなたの仕事は、「今、本音の、正直な言葉が聞けた」と言える真実の瞬間を見つけることだ。

大企業の採用なら、訓練できる。ビジネススクールはそのためにあり、平均的な人が何を言いたがり、聞きたがるかを教える。しかしスタートアップの創業者は、平均を求めてはいけない。必死に卓越性を探すのだ。新しい現実をともに生き、虹の果ての黄金を一緒に探したい人を見つけなければならない。

必要なのは、飾らない人だ。よく見せるためにではなく、本当にそう考えているから話す人である。見つけるためには、真剣に耳を傾ける必要がある。

では、それをどう大きくするかという問いに戻ろう。

基本的に、チームをうまく拡大する唯一の方法は、最初の数人をとても上手に採用し、その人たちが次の採用を助けてくれる状態にすることだ。

そして採用で終わりではない。チームの人数が倍になるたび、すべてを見直そう。会社をつくり直すようなものだ。8人、16人、32人、64人、128人、256人と増えるたび、コミュニケーション、責任、文化、採用、そのすべてを再検討する。完全に変える準備をしておこう。一つひとつの行動を同じまま保つことではなく、正しいエネルギーを流し続けることが大切なのだ。

少数に高い給料を払うより、大勢に少ない給料を払うほうがよいという罠にはまらないでほしい。可能になり次第、スタートアップは市場相場より高く払い、インターンを避け、全員が価値の創造に貢献していると確かめる必要がある。

採用では、高く払うことが保険になる。高く払っている相手が、よい仕事をしていなければ、いつまでも置いておかないだろう。状況が混乱し混沌としているとき、高く払うことは、適切な人が適切な場所にいるかを確かめるよい方法だ。

使命だけで入ってくる人はいない。もしいたら、少しおかしな人を雇ったということだ。使命、お金、株式、充実感を適切に組み合わせ、全員の方向をそろえ、会社の成功に本気で関わってもらう必要がある。

最後に、解雇が必要なら、上手にやろう。よい方法の一つは、自分から辞めたと言える機会を相手に与えることだ。解雇の大きな問題は、誰も自分が失敗したように見られたくないことにある。しかもスタートアップでは、たいてい相手の言い分が正しい。解雇が必要になったなら、失敗したのは相手でなく、創業者であるあなたなのだ。それはあなたの責任である。

だから、自分にはこの会社では物足りず、自分で辞めると決めた、と皆に言わせよう。違うことを言って、その信頼を裏切ってはいけない。失敗したのは自分なのだから、適切な退職金を払い、責任を負う。それによって、次の採用にはもっと慎重になる。次の仕事に向けて、積極的に推薦する。そこまでやれば、自尊心と騒動が取り除かれ、解雇はずっと楽になる。

わかっただろう。チームの拡大は、理論では簡単で、実践では難しい。尊敬する人を採用し、大きな自由を与えて責任を任せ、規模を広げながら、その人たち自身に手本を示してもらおう。

「誰がCEOになる?」のイラスト

誰がCEOになる?

スタートアップがどの段階にあっても、良いCEOと悪いCEOを分けるものを知りたいだろうか。違いは、何をしているかにはない。良いCEOとは、自分が何をしているのかを明確に定義できる人だ。 CEOのあり方は一つではない。さまざまな会社を見ると、CEOの振る舞いが会社全体の振る舞いを決めていることがわかる。…

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スタートアップがどの段階にあっても、良いCEOと悪いCEOを分けるものを知りたいだろうか。違いは、何をしているかにはない。良いCEOとは、自分が何をしているのかを明確に定義できる人だ。

CEOのあり方は一つではない。さまざまな会社を見ると、CEOの振る舞いが会社全体の振る舞いを決めていることがわかる。

もちろん、どのCEOにも共通することはある。たとえばCEOはチームで最も重要な人物であり、最後に決める人だ。ただし、チーム内で最も影響力があるとは限らない。自分のチームに対して、CEO以上の影響力を持つマネジャーもいる。だが、それは内部の話だ。外から混乱や成功を目にする人はCEOを探す。最終的な決定を体現する人物だからだ。

これは、日常のささいな場面にも現れる。グザヴィエ・ニエルが一緒に夕食を食べに来たときのことを、私は忘れない。「面白いことに、Freeがどれだけ大きくなっても、親戚のテレビ受信機に問題が起きると、みんな最初に僕へ電話してくるんだ」と彼は言った。CEOになると、そういう見られ方をする。技術的な問題というだけではない。本当の意味で会社の顔になるということだ。

しかしCEOは目立つため、本来は仕事とまったく関係のないことまで、その役割に含まれると思われがちだ。財務に強いCEOもいれば、何もわからないCEOもいる。優れたマネジャーもいれば、ひどいマネジャーもいる。取材を受けるのが好きな人も、耐えられない人もいる。

CEOという仕事の良いところは、自分が最も楽しめることに集中し、残りを任せると決められることだ。そうした選択ができることこそ、CEOの本当の力だ。

ただし、何を選べるかは会社の段階によって変わる。

プロダクト・マーケット・フィットを得る前のCEOは、文字どおりすべてをやる人だ。ごみ出しも、トイレ掃除も含まれる。ほかにやる人がいないからだ。

プロダクト・マーケット・フィットの後は、会社のビジョンに責任を持たなければならない。すべてを自分で考え出すという意味ではない。他人が生み出したビジョンをつかみ、誰よりもうまく前へ進め、会社が次に何をすべきかを明らかにするCEOもいる。

誰にいくら払うかにも責任を持つ必要がある。相手の目を見て、こう言えなければならない。「確かに、あの人はあなたより多くもらっています。私があの人の貢献をより高く評価する理由はこれです。それを受け入れられないなら、別の職場を探す時期かもしれません」。

厳しい会話になるだろう。だが、それこそCEOの仕事だ。難しい話をするのはCEOだけではない。それでも、必要なことには先頭に立って取り組まなければならない。ほかの人が一歩前に出て、自分の分野のリーダーとして引き受けられるようなビジョンを示す必要がある。

スタートアップのマネジメントを理解していない人は多い。スタートアップは、それぞれが自分の領域に責任を持つ、小さな独裁の集まりだ。CEOは、最後の一人まで、指示に従いながら自分でも判断し、最大限の力を出せる仕組みを動かす。それは啓蒙的な独裁だ。一人ひとりが、なぜその仕事をするのか、どう進めるのかを理解し、自分の担当するKPIを達成する。

繰り返すが、CEOのあり方は一つではない。むしろ数学の問題に似ている。必要な答えはわかっているが、そこへ至る解き方はいくつもある。感情を大切にするCEOでも、分析を重視するCEOでもいい。自分にできる最良のCEOになることが大切なのだ。

現場に深く入るべきか、任せるべきか。それは問いが違う。現実的にどう動けば、自分のビジョンを実現できるのか。スタートアップのCEOは、全員が責任を感じ、自力で実行する能力を伸ばしながら、自分は最終責任と決定権を保つ方法を見つけなければならない。簡単そうに聞こえるが、実際にはとても難しい。

あなたが開発者で、プロダクトに時間を使うのが好きだとしよう。CEOになるなら、自分がCTOをやろうとする気持ちを抑え、誰もが話しかけたくなり、安心して物事を打ち明けられる人物になる必要がある。そこに葛藤が生まれる。そのためには人間関係を扱う力と、感情を読み取る力が要る。

あまりに多くの人が、宣言するだけでCEOになろうとする。風船を持ち歩き、「僕の言うことを聞いて。風船を持っているんだから」と言っているようなものだ。

スタートアップでそれは通用しない。通用させるだけのお金がないからだ。大企業のCEOが強い権力を持つのは、たいていの問題をお金で解決できるだけの資金があるからだ。

スタートアップのCEOはまったく違う。大企業のCEOには皇帝のような力がある。スタートアップのCEOにとって、皇帝は市場だ。優れたマネジャーであり、リーダーであり、人々から信頼されている。それは素晴らしい。しかし毎日の判断によって、人々を率い、信頼を得る力そのものが危険にさらされる。

ビデオゲームのようなものだ。判断するたびに抵抗が現れる。正しければ得点し、間違えれば点を失う。そして全員が点数を見ている。勝つには、間違った判断より正しい判断を多く重ねるしかない。

判断を重ねるなかで、起きることへの対応を管理するのもCEOの責任だ。だから公の場では、感情をそのまま出すわけにはいかない。大切な人やチームに対しては感情を見せていい。率直で、誠実で、正直であるべきだ。ただし、その輪の外にいる人に同じように見せることはできない。

何を誰に話せるかを理解することは、とても重要だ。私が経験した悲しい出来事の一つは、あるイベントの後に声をかけられたときだった。

「こんにちは。私はXというスタートアップで働いています」。その会社は倒産しかけていた。

「それはお気の毒に。大変ですね。うまくいくといいのですが」。

きょとんとして「どういうことですか?」

ええと「つまり、倒産しそうで、お金がなくて、会社が……なくなってしまうという……」。

「何の話ですか? ついさっき、創業4周年のパーティーを企画してくれと言われたところですよ」。

「ああ、すみません。私の勘違いですね。失礼しました」。

勘違いではなかった。翌日、全員が解雇された。チームは何も知らなかった。そんなことは絶対にあってはならない。自分たちの会社が倒産したことを、チームが報道と同時に知るようなら、あなたは責任者のふりをしていただけだ。

CEOは、チームの誰とでも本音で話せなければならない。ときには相手を落ち込ませ、聞くのがつらい話も必要になる。人生には悪い知らせもある。それを聞けば気分が沈む。人間なのだから当然だ。

優れたスタートアップは、悪い知らせを聞いても全員が気分よくいられるから優れているのではない。悪い知らせで全員が落ち込んでも、それでも働き、戦い続ける。

これはCEOが直面する最大の課題の一つだ。会社で起きていることを正直に伝えながら、全員が同じ目的のために戦っていると感じ、踏みとどまり、次の目標へ到達し、成長を続けられるようにするにはどうすればいいか。リスクを正しく評価し、言葉にする必要から逃れられるCEOはいない。

会社が成長すると、スタートアップのCEOが日々こなす仕事は減り、好きなことに使える時間が増えていく。たとえば、ほとんどのCEOは最初、自分で営業をしなければならない。そうしなければ最初の顧客が契約してくれないからだ。しかし成功すれば、CEOが営業を担当し続ける必要はなくなる。

取り組みたい仕事を選べるようになるには、まず成果を出さなければならない。その段階では、「ここは私の領域」「ここはあなたの領域」を、全員に明確に伝える必要がある。誰かに責任と権限を渡したら、その人の一挙手一投足を細かく管理するつもりはないと、はっきりさせるべきだ。

スタートアップでマイクロマネジメントは機能しない。細かい管理をしているなら、採用を間違え、適切な人を迎えられなかったということだ。賢い人を採用しよう。やがて、どう進めるべきかをあなたに教えてくれる人だ。やり方を教えることにすべての時間を使っているなら、周りにいるチームが間違っている。

チームが合っていなければ、CEOとしてつらい日が増える。CEO自身が日々を楽しみ、会社で起きていることに満足していることの重要性を軽く見てはいけない。自分の気分はチームに大きく影響する。同じチームでも、仕事を楽しむ優れたリーダーの下に置くか、仕事が嫌いな悪いリーダーの下に置くかで、結果はまったく変わる。

まさに、こういうことだ。

だから、自分のどこに問題があるかを常に見ておくことが重要なのだ。CEOは自分自身に大いに取り組む必要がある。それが周りに働きかける最良の方法だからだ。あなたをストレスにさらすものは、全員をストレスにさらすことになる。

すべてを自分でやる必要はない。優れたスタートアップのCEOは、自分の領域に責任を持つ小さなCEOを、数多く育てようとする。一人ひとりが権限、自由、自律性を手に入れられるよう助けることが目標だ。規模を広げるには、それしかない。

だから、弱い部分にばかり時間を使ってはいけない。そうすると、チームの優秀な人たちが本来できるほど成長できなくなる。直感に反するかもしれないが、実際にそうなのだ。成果の乏しい人より、成果を出している人を支えることに時間を使うほうが、多くを得られる。

チームに弱い部分があり、どうしてもうまくいかないとわかったら、CEOの責任は明確だ。その人を解雇しなければならない。

解雇は最も難しい仕事の一つだ。CEOである自分が採用を間違えたと認めることだからだ。解雇される本人の責任ではなく、判断を間違えた自分の責任だ。そしてチームのために、その間違いを正さなければならない。10人が良い仕事をしていて、1人がしていなければ、全員に影響する。ほかの人たちは、それを信頼と公平さへの裏切りと感じる。誰もが、ほかの人も自分と同じように役立っていると感じられる公平さを守るのが、あなたの仕事だ。

チームの均衡を保つには、フィードバックが上手になる必要がある。聞こえるほど簡単ではない。私たちは、フィードバックの仕方をほとんど教わっていないからだ。親が子どもに、同じクラスの子へ近づいて、何を間違えているのかを適切に指摘する方法など教えない。もっとも、それでよかった。CEOだらけの社会など、ひどいものになりそうだ。

それでもCEOには、良いフィードバックを継続的に伝えることが欠かせない。良いフィードバックには三つの条件がある。正直で、誠実で、人格攻撃ではないことだ。そしてすぐに伝えること。最初に言う勇気がなくて、間違ったやり方を1年間続けさせてから指摘するほど、ひどいことはない。それでは問題がはるかに悪くなる。

良いフィードバックは、最初の日から始める必要がある。最優先の仕事だと思ってほしい。どんなCEOも避けられないからだ。コーディング、製品設計、マーケティングなどを何も知らずに、大きなテック企業のCEOになることはできる。しかし、良いフィードバックをする必要からは逃れられない。

そのためには、人の振る舞いを見極める力が要る。CEOは、自分には誰も真実をすべて話していないと理解すべきだ。チームから真実を残らず伝えられているCEOなど、この世にはいない。だから耳を傾け、観察し、何を言っているのか、どう言っているのかを読み取り、真実の全体像に近づく必要がある。

難しいことだ。この世界には、ある種の公平さがある。成功するほど、愚かになっていくという公平さだ。成功すればするほど、正直な意見をくれる人を見つけるのが難しくなる。だから、あなたを本当に知っていて、成功前のあなたも知っていて、今も正直に話せる人たちを身近に置く必要がある。そして、人々が言っていないことまで聞き取れるように、耳を傾けなければならない。

もう一つの方法は、同じ課題に直面している、社外の仲間を見つけることだ。たいていは、自分と同じくらいの段階にいるほかのCEOになる。同じ立場の人同士の助言は強力だ。20年前に会社を作り、いまのテック系スタートアップの育て方を実際には知らない人に相談するより、ずっと役に立つ。仲間は、今週や先月などに同じ問題を扱っているから、非常に具体的な助言をくれる。

助言を受けるときには、とても直感に反することを一つ覚えておこう。判断の質よりも、判断の速さのほうが重要だ。悪い判断を20回、良い判断を1回しても、それを1時間で終えれば、1か月かけて良い判断を19回するより結果は良くなる。1時間で決める会社は、決めるのに1か月かかる会社に勝つ。

最後に二つ。CEOは、心の健康を守ることが非常に重要だ。ここは公平ではない。燃え尽きにくい人もいれば、そうではない人もいる。しかしCEOが燃え尽き始めれば、チーム全員にとって大きな問題になる。専門家の助けを借りよう。ストレスを扱う方法はいくつもある。後戻りできないところまで行ってはいけない。

お金の面でも自分を守ろう。CEOは最後に報酬を受け取り、状況が悪くなれば最初に給料を止める人だ。だから順調なときには自分にも給料を払い、できるだけ貯蓄しよう。なるべく早く、少なくとも年収1年分を手元に確保したい。順調なときに自分へ十分な給料を払わないことは、CEOがする最悪の判断の一つだ。嫌がる投資家も多いが、それは間違っている。本当に成功してから高い給料を取るべきだと言われたら、投資家にも同じことをしてもらおう。投資家の多くはファンドの管理報酬を受け取っている。投資が利益を生むかどうかにかかわらず、十分な報酬を得ているのだ。

会社を危険にさらすほどのお金を取ってはいけない。売上の50%を自分に払うことはできない。しかし順調なときに適切な給料を受け取るのは賢明だ。いつか状況が悪くなり、会社を生き残らせるために個人的な犠牲が必要になるかもしれない。だから、プロダクト・マーケット・フィットを得て、ある程度の資金を調達できたら、毎月お金の心配をせずに済む給料を取ろう。

必要な額は個人の状況によって違う。正直に伝え、きちんと生活するための収入が必要なことに引け目を感じなくていい。チームも同じだ。十分な給料を払えるなら、払おう。家賃や保育料を払えるか、ときには休暇を取れるかを心配しながら働く人がいることに、利点は一つもない。人は十分な報酬を得ているほうが、ずっと良い仕事をする。

すべては、CEOとして自分に合う場所を見つけるためだ。ほかの人が望むCEOになろうとしなくていい。自分に合い、会社に調和と成果をもたらすCEOになろう。

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スタートアップの最初の100日に、何をするべきか?

最初の一歩が、大きな一歩になる 👣 完璧な起業家はいない。とくに最初は、たくさんの間違いを犯す。大切なのは、最初の100日をできる限り有効に使うことだ。この時期の行動は、会社が伸びるのか、停滞するのか、落ちていくのかに、時間とともに何倍もの影響を及ぼす。…

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最初の一歩が、大きな一歩になる 👣

完璧な起業家はいない。とくに最初は、たくさんの間違いを犯す。大切なのは、最初の100日をできる限り有効に使うことだ。この時期の行動は、会社が伸びるのか、停滞するのか、落ちていくのかに、時間とともに何倍もの影響を及ぼす。

そこでつくった文化や空気は、その後もずっとついて回る。どんなエネルギーで動き、何に時間を使うのかを、この時期に決めている。後から変えられないわけではない。だが、最初からうまくやるより、後から変えるほうがずっと難しい。

具体例を挙げよう。フランスの企業には、フランス語の社名を選ぶところが多い。事業がうまくいき始めると、世界に出るためには名前を変える必要があると気づく。だが、その段階で社名を変えるのは、最初から世界で通用する名前を選ぶよりはるかに難しい。

これは一例にすぎないが、重要なことを示している。最初に目標を明確にしておくことだ。野心が大きすぎるということはない。世界的な企業を目指して、5年後に地元の受託会社を経営していたとしても、それはそれで構わない。だが、最初から地元の受託会社として考えていると、世界へ展開できる企業に切り替えるのはずっと難しくなる。

個人としても、最初の100日が起業家としての自分のエネルギーを決める。大きな目標を持つ会社をつくるには時間がかかる。アイデアが成立するか見極めるまでに1〜2年、成功したと言える会社になるまでに4〜5年、実際にエグジットに至るまでに5〜10年。つまり、最初から人生の次の10年を捧げるつもりでいる必要がある。

だから、最初の100日から「副業としてのスタートアップ」というものはない。立ち上げに必要なエネルギーは非常に大きい。起業家はそれを引き受けるべきだ。それこそ、どこかの会社に就職する道を選ばなかった理由なのだから。起業の根本には、自分の価値は今の履歴書に書かれていることよりずっと大きい、という宣言がある。スタートアップを始めるとは、「これまでの経歴を見ただけでは想像できないほどのことを、自分にはできる」と言うことだ。口にするのは簡単だが、証明するには膨大な努力とエネルギーがいる。

スタートアップ以外のことに使う時間には、現実のコストがある。目標を達成できるかどうかに影響する。最初の数年間は、やるべきことも必要なエネルギーも、到底すべてをこなせないほど多い。

どんなスタートアップも、自分が注げる以上のエネルギーを要求する。だから運も必要だ。ただし、運が巡ってくるのは、集中と活力を長く保ち続けたときだ。

周囲の人の立場からも考えてみてほしい。自分が100%を捧げる覚悟をしていないのに、共同創業者がそれ以上のことをする理由があるだろうか。自分が100%でないのに、従業員が勇気を出してついてくるだろうか。自分が引き受けないリスクを、なぜ投資家が引き受けるだろうか。

最初のあらゆる判断に、この考えを当てはめよう。自分の決断は、周囲にどう映るのか。何かがずれていると感じるなら、やめておく。

副業をしてはいけないとか、週末に何かをつくって楽しんではいけないという意味ではない。ただ、それは起業家であることや、スタートアップとは別の話だ。起業家になるのは、残された結末が死か成功かだけになったときだ。

具体的な話をしよう。最初の100日に何をするべきか。

本当に達成すべき節目を決める。ただし、日付で区切ってはいけない。「旅行アプリをつくる。6月にMVPを完成させ、9月に資金調達し、そのお金で広告を出して、12月に最初の1,000ユーザーを獲得する」といった目標は違う。

起業家からそういう話を聞くと、子どもと話しているときのような、ほほえましい気持ちになる。「大きくなったら宇宙飛行士になるんだ!」。いいね。私も小さいころは宇宙飛行士になりたかったよ。

日付を基準にした節目は幻想だ。時間を支配できる気になってしまう。そんなことはできない。スタートアップの運命を決めるのは神々であって、自分ではない。自分にできるのは、周囲を見渡し、自分で動かせることを見つけ、そこに集中することだけだ。

だから、節目は重要な指標を基準に設定する。その指標は、目標に近づくための具体的な行動と結びついていなければならない。

良い起業家なら、こう言う。「できるだけ早く顧客100人を獲得する。100人に達したら最初の正社員を雇い、自分は資金調達に集中する。企業価値400万ドルで最大100万ドルを調達できたら、次に……」。

具体的な節目を決めたら、自分にあるのは戦略ではなく戦術だと理解しよう。戦略とは、時間をかけて資金を配分することだ。始まったばかりのスタートアップには、お金も時間もない。使えるのは戦術だけだ。計画に使う時間を減らし、試す時間を増やす。

信じてほしい。答えは、やる前にはわからない。

最初の100日に行う実験はすべて、その時点で唯一重要なこと、プロダクト・マーケット・フィットに向かっている。覚えておいてほしい。プロダクト・マーケット・フィットは、達成すればはっきりわかる。疑問や議論の余地があるなら、まだ届いていない。特定の指標や販売個数、ユーザー数の話ではない。自分の手を離れて物事が回り始めたとわかる変化が起きることだ。注いだ努力以上の速さで会社が成長し、振り落とされないよう必死についていく状態になる。

最初はそうではない。何も猛烈には動いていない。大変な努力を注いでも、結果はほとんど返ってこない。いら立つものだ。だからこそ、試し続け、プロダクト・マーケット・フィットを探し続けることが大切になる。そこにたどり着けば、結果を通じて明確に感じられる。出している以上のエネルギーが、大量に返ってくるのだ。

考える時間の単位を短くしよう。100日、1か月、さらには1週間という単位で考える必要さえない。最初は、明日できることに議論を集中させる。それだけの時間しかないからだ。来週には会社がなくなっているかもしれないのに、なぜ来週の計画を立てるのか。だから最初は、2日でできないことには手をつけない。市場がプロダクトそのものを認めていないうちに、新機能の開発に何週間も使ってはいけない。時間を無駄にする危険が大きすぎる。

目指すのは完璧さではない。情報を得ることだ。起業家の最初の責任は、ほかの誰も知らないことを学ぶことにある。専門性と理解を高め、本当の専門家になる。できるだけ短い時間で、できるだけ多くを学べるようにする。

[補足:もちろん、これが当てはまらない場合もある。ディープテックなどだ。ただ、厳密に言えば、その段階のディープテックはスタートアップではない。非常に裕福な人々が資金を提供する研究開発プロジェクトだ。いつか市場に出る準備が整った日に、スタートアップになるかもしれない。]

やるべきことは以上だ。では、初期によくある間違いは何か。

何が、いつ重要なのかを理解していない創業者が多すぎる。最初に大切なのは二つだけだ。顧客と話すことと、顧客が愛するプロダクトをつくること。それ以外は気を散らすだけだ。ちなみに、初期には新規獲得より継続利用のほうがはるかに重要なのも、そのためだ。人々が繰り返し使い、ますます使うようになる良いプロダクトができる前に、新規獲得へ時間をかけても無駄になる。

身近な人全員に売ろうとしないのも間違いだ。友人や家族、かつて一緒に働いた人に、自分のプロダクトの良さを伝えられないのに、自分に何の関心もない人をどう説得するのか。最も身近な10人を納得させることは、本当に大切だ。その人たちこそ、本物の応援者になってくれる可能性がある。

心理的には、友人や家族に売る方法を覚えるより、知らない人に売る方法を覚えるほうがずっと簡単だ。親しい人の80%がプロダクトを使っているのに、その輪をどう広げるかわからないなら、問題はプロダクトではなく売り方にある。それは学べる。

初期の営業を、自分の手で徹底してやらない人が多すぎる。街でも、スーパーでも、配車サービスの車内でも、周囲のあらゆる人に話しかけるべきだ。毎日それを繰り返すことで、伝え方を学び、意見を集め、人々の反応を見ることができる。大変な努力だが、時間とともに報われる。

毎日一件の販売を成立させる喜びを侮ってはいけない。座ったまま夢を見て、年末までの売上を予測することもできる。だが、その予測より、今日、明日、明後日と、実際に一つ、二つ、三つ売るほうがずっと心が躍る。最初に踏み出す小さな一歩が、喜びと勢いを生み、やがて大きな一歩になる。

まず手作業で身につける前に、規模を拡大できる仕組みに頼ってはいけない。たとえば、面識のない相手に営業メールを送りたいとする。最悪なのは、いきなり大量配信を始めることだ。うまくなるには、毎日2時間、できるだけ多くの人に、できるだけ多くのメールを書く。ただし、同じメールは二度と書かないというルールを守る。それを3か月、毎日続ければ、テンプレートをつくって運任せで送るだけでは決してわからないことを発見できる。十分に学んだ後なら、自動化してよい。そのころには、勘がきちんと育っている。

普通の仕事らしく見せようとしないことだ。人から変な目で見られたくないというだけで、最初から愚かなことをする人が多い。たとえば、オフィスを借りること。なぜ初期に必要なのか。家で働けばいい。オフィスを借りるのは、それがないせいで本当に困るようになってからだ。たとえば、10人のチームが台所のテーブルを囲み、誰にも仕事をする場所が足りなくなったとき。そこでオフィスを持つのは嬉しいことだし、大きな節目になる。必要だから踏み出す一歩であり、ちゃんとした仕事をしている気分になるためではない。

インターンを雇わないこと。

インターンが多いスタートアップほど、早く潰れる可能性が高い。インターンという制度は、大企業には向いている。学ぶのに長い時間がかかり、社内に大量の知識が蓄積されていた時代の仕組みだからだ。だが、スタートアップでは全員が常にあらゆることを学んでいる。若手の従業員を探すのはいい。高校を出たばかりでも、一緒に働きたいと望む才能ある若者には門戸を開こう。ただし、その人を従業員として扱う。優れた仕事をし、学び、会社の成長に貢献することを期待する相手としてだ。

プロダクト・マーケット・フィットを達成する前に、メンターや顧問を探してはいけない。会社が急成長し、規模を拡大している段階では、自分が直面する課題を経験した賢い助言者を探す価値がある。だが、プロダクト・マーケット・フィットがないうちは、何がうまくいくかを誰も教えられない。その段階で自分が顧問になれると言う人は、口先だけだ。

最後に一つ。人が愛するものをつくることの大切さを忘れないでほしい。「まあまあ」と思う1,000人より、心から愛してくれる10人、20人、50人がいるほうがはるかにいい。その人たちと本当の関係を築こう。電話し、一緒に一杯飲み、プロダクトのどこが素晴らしく、どこが普通で、何を求めているのかを聞く。その人自身と、その人の本当の必要に関心を持っていると示す。スタートアップを熱心に支え、誰もが入りたくなる新しい集まりの一員になったと感じてくれる、小さな仲間の輪をつくることだ。

そうして、人々からの信頼を育て、自分自身への自信も育てる。その自信は、起業家であるために欠かせない。

「スタートアップのアイデアが失敗したと、どう判断するか」のイラスト

スタートアップのアイデアが失敗したと、どう判断するか

スタートアップのアイデアには、もう一つの側面がある。よく聞かれる問いだ。自分のスタートアップのアイデアが失敗したと、どうすればわかるのか。 答えは一つではない。ただ言えるのは、自分自身が注ぐ熱量によって判断できる状態にいるべきだということだ。…

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スタートアップのアイデアには、もう一つの側面がある。よく聞かれる問いだ。自分のスタートアップのアイデアが失敗したと、どうすればわかるのか。

答えは一つではない。ただ言えるのは、自分自身が注ぐ熱量によって判断できる状態にいるべきだということだ。

多くの人の問題は、時間を十分な密度で使っていないことにある。起業家にとって最悪なのは、時間を無駄にし、自分のやることへ最大限のエネルギーを注がないことだ。

そうすると後悔が残る。うまくいかなかったのが、不可能だったからなのか、単に必要な努力をしなかったからなのか、決して本当にはわからないからだ。

本当に全力で取り組むと決めたら、三つのことを覚えておこう。

  • 他人の話を聞くのをやめる。何をすべきかを教えられる人は外にはいない。助言者、メンター、私も含め、皆から距離を置こう。やるべきことは、試し、試し、さらに試すことだけだ。
  • 自分を危険にさらす。そうしなければ、本当のところはわからない。日中の仕事を続けながら片手間でつくっていては、アイデアの可能性は見えない。その事業に専念する前に資金調達しようとしても、うまくいかない。徹底して取り組めば、判断は自分自身のものになり、答えが明らかになる。
  • 自分の物語の囚人にならない。大切な人に、会社がどれほど成功しているかについて嘘をつかないこと。なぜか。パートナー、親、親友など、最も近い人に嘘をつくと、恐ろしいことが起こる。その嘘に見合う自分でいなければと感じ始めるのだ。

最後の点は、本当に大切だ。あまりに多くの起業家が、自分の経験していることを誰にも正直に話せない、不可能な世界に自らを閉じ込める。愛する人に嘘をつき始めると、精神的な崩壊、離婚、疎遠など、ひどい結果につながる状況へ向かっていく。すべてが嘘だったと相手が知ったとき、それは本当に恐ろしいことになる。

しかも、アイデアが失敗したといつ判断するかという問いに戻ると、このルールを守らなければ、やめられなくなる。やめることは、事業がうまくいかなかったというだけでなく、自分が架空の世界を丸ごとつくった嘘つきだと認めることになるからだ。

だから、自分を守り、状況を明確に見られるようにする最善の方法は、偽りの期待の牢獄に自分を入れないことだ。

本当に信頼できる人、状況がどれほど悪く、何一つうまくいっていないかを話せる人を見つけよう。そして、やめろと言うのはその人の仕事ではないと理解してもらう。決めるのは自分であり、本当にわかるのは自分だけだからだ。

起業は、さまざまな形で、何段階にもわたる試験である。自分をどれだけ知っているか、どれだけ学ぼうとするか、人に信じてもらい、率いられるかが試される。うまくいけば、成功を扱う力、普通の人間であり続ける力、メディアが語る自分のすばらしさを信じ込まない力も試される。

それぞれの試験には、さまざまな失敗の仕方がある。そして一部では失敗するし、すべての段階で完璧ではいられないのが普通だと受け入れる必要がある。

だから、状況をはっきり見渡せ、続けるかやめるかを自分で決められるよう、周囲の環境を整えることがとても大切になる。自分で決められるという自信を築くことは、KPIを追うことや、メンターの話を聞くことなどより、はるかによい。

そして、本当にやりたい別のアイデアを持つのは、いつでもよいことだと忘れないでほしい。別につくりたい面白いもの、プランBをいつも頭に置いておけば、「プランAを終わらせるときだ」と、ずっと言いやすくなる。そういう心の状態なら、必要な大きなリスクを取れる。事業を本当に危険にさらす一方で、非常に野心的な、すばらしいものを生む可能性も開くリスクを取れるのだ。

「スタートアップのアイデア入門」のイラスト

スタートアップのアイデア入門

多くの起業家は、スタートアップで最も大切なのはアイデアだと考えている。ところが、スタートアップについての発信を見渡すと、誰もが「アイデアそのものに価値はない」と言っている。それでもなお、起業とはアイデアを思いつくことだと思われているのは、なぜだろう。…

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多くの起業家は、スタートアップで最も大切なのはアイデアだと考えている。ところが、スタートアップについての発信を見渡すと、誰もが「アイデアそのものに価値はない」と言っている。それでもなお、起業とはアイデアを思いつくことだと思われているのは、なぜだろう。

思うに、アイデアを得るプロセスがどれほど動的か、理解されていないのだ。アイデアは、「わかった!」という一瞬のひらめきだけで生まれるものではない。庭を散歩していたら突然、世界を変えるアイデアが降ってくるわけでもない。大衆文化も一役買っている。起業家がアイデアを思いつき、ほとんど一夜で成功させる姿ばかり描くからだ。

実際には、自分のアイデアがどれほど価値を持つか、事業が大きく育つまでわからない人がほとんどだ。Googleの創業者たちが、Yahooに100万ドルでGoogleを売りかけた話を忘れてはいけない。しかもYahooは、「いや、高すぎる」と断った。

世界でも最大級の企業になったGoogleを始めたのは、それがどれほど巨大になるのか理解していなかったふたりだった。

つまり、スタートアップのアイデアを得るのは動的なプロセスだ。自分の世界観を現実にぶつけ続けなければならない。絶えずフィードバックをくれるのは、現実なのだ。

だが、それだけではない。アイデアについての一般的な考え方には、ほかにも問題がある。たとえば、素晴らしいアイデアをひとつ得れば、それで終わりだという思い込み。アイデアは、会社と同じように生きている。プロジェクトを立ち上げ、動かし、世の中に出す。すると世界が反応を返し、そこから新しいアイデアが生まれて、会社の形を作っていく。大切なのは、その反応をどう聞き、どう扱うかだ。

もうひとつの誤解は、未来は受け身で待っていれば訪れるというもの。未来はまだ存在しない。私たちの周囲にあるものの多くは、誰かがどこかで、本気で力を加えた結果として生まれてきた。

だから、アイデアではなく、意思決定について話すべきなのだ。会社は、たったひとつの大きな決断でできるものではない。何千、何万もの判断を重ね、そのひとつひとつが自分のビジョンへ近づけてくれることを願いながら作っていくものだ。

つまり、何より大切なのは、思いついたアイデアをできるだけ早く試すことだ。競争は心配しなくていい。競争が本当に重要になる市場にいるスタートアップは、ごく少ない。競合の影響を受けるほどの規模になるまでには、とても長い時間がかかる。だから、多くのスタートアップは競争で死ぬのではなく、競合を気にして犯した間違いで死ぬ。スタートアップが競合を見るのは、誰かのInstagramを見て、それがその人の実際の人生だと思い込むようなものだ。

アイデアを試すときには、どんなスタートアップでも存在し得ることを覚えておこう。問題は、作るのがどれほど難しいかだ。アイデアがわかりやすく、すでにある市場につながっているなら、比較的簡単だ。アイデアがわかりにくく、市場も存在しないからといって、成立しないとは限らない。ただし、必要な努力と卓越した実行力を考えると、そこに自分の時間を使うのが割に合わないことはある。

だから、アイデアを選ぶ良い方法のひとつは、自分自身が欲しいものから始めることだ。自分の問題を解決し、世界に十分な数の自分と同じ人がいれば、そのスタートアップは成功し得る。

本当の問題は、自分にどれほど正直でいられるかだ。あまりに多くの起業家が自分を偽る。求める品質について偽り、自分がそれを作るのに適した人間かどうかについて偽り、思い描いたものを作るために必要な代償を払う覚悟があるかについて偽る。

簡単な例を挙げよう。何度もこんな相談を受けてきた。「アイデアがあるんです。今、開発者を探していて」

「なるほど。その人に払うお金はあるの?」

「いえ、お金はありません」

「では、会社のかなりの持ち分を、その人に渡す覚悟は?」

「いや、だって、私のアイデアですよ!」

アイデアに価値があるのではなく、実行に価値があるということを理解していない人とは、いつもこうなる。

こう考えてみてほしい。100人をひとつの部屋に集め、チョコレートケーキのレシピと材料を渡す。その中のひとりが、ほかの誰よりもおいしいケーキを作るはずだ。世界中に同じ部屋を20個用意して、それぞれの優勝者を集め、もう一度同じことをする。すると、またひとりが最高のケーキを作る。スタートアップの現実とは、そういうものだ。チョコレートケーキを作るか、ティラミスか、パブロバかという問題ではない。それは単なるアイデアだ。すべては実行で決まる。

アイデアと、自分が何を作れるかの間には、直接の結びつきはない。だが、市場と、得られる成功の間には関係がある。ほかより取り組みやすい市場はある。航空会社を作るなら、朝食用シリアルのブランドを作るより難しいだろう。だが、本当に問うべきなのはそこではない。自分は何者で、作ろうとしているものとどうつながっているのか、ということだ。

多くの人は、実行するとは本当はどういうことか、わかっていない。一夜の成功など存在せず、目に見える成果を支える仕事は何年も前から、会社ができるより前から続いていたのだと、理解していない。

そして、スタートアップのアイデアにおいて、秘密を見つけることはとても大きい。ピーター・ティールが語る秘密は、機密情報ではない。自分は知っていて、それは真実なのに、周囲の誰も気づいていないことだ。

自分の知る秘密が真実だと、ほかの誰にもわかってもらえないのはつらい。だが、始めるために彼らの承認はいらない。必要なのは、自分の市場を見つけ、その人たちと前進することだ。

だから起業家は、話すことに時間を浪費してはいけない。行動する側に立つべきだ。自分が正しいと人を説得するのをやめて、自分のプロダクトを愛してくれるユーザーのために、良い仕事をしよう。そして、そのユーザーをさらに見つけ続ける。

定義上、スタートアップとは不可能なものだ。簡単なら、すでに誰かがやっていて、問題は解決済みのはずだからだ。だから鍵となるのは、アイデアそのものではない。実行できる創業者とアイデアが結びつき、不可能を現実に変えることだ。創業者とアイデアの相性がどれほど重要か、十分には語られていない。

そこで、具体的な助言をひとつ。何をしたいか考えるのをやめて、誰とやりたいかを考え始めよう。本気で正直に答えれば、取り組み得るアイデアの数は絞られる。

子どもを持つことに少し似ている。欲しい子どもを選ぶのではなく、一緒に子どもを持ちたい相手を選ぶ。「緑の目の子どもが欲しい」と決めて、その遺伝子を持つ相手を探すのではない。「この人と一緒にいたい。この人との子どもが欲しい」と思うのだ。逆でなくて本当によかった。逆なら、ずいぶん奇妙な話だろう。自分を見つめ、自分を理解し、共同創業者を理解することは、何をするかを選ぶよりずっと重要だ。やることは変わっても、一緒にやる人は変わらない。

それがそろうと、アイデアはかなり自然に見えてくる。好きな人たちと一緒にいて、皆がXをやりたいと思っている。行動を始めると、アイデアは変化する。複雑になる。想像もつかないほど複雑になる。私が関わってきた優れた会社は、皆そうして始まった。起業家は、それが不可能だと気づかずに取り組み、進みながら問題を解いていった。自然なことだ。最初から登るべき山の全景は見えない。目の前の小さな一歩しか見えない。歩みを進めるにつれ、自分は強くなり、資源が増え、チームが大きくなり、より複雑な問題に対処できるようになる。それでも外から見ている人は、ある朝ひらめいたアイデアが、一夜で成功したのだと思い続ける。

アイデアに関しては、自分を信じすぎないほうがいい。自分に超能力はない。現実についての自分の認識は、あくまで自分の認識だ。現実そのものではない。アイデアを試そう。いくつも試そう。人々は、予想もしない反応をする。ばかなことをしよう。人は、ばかなことを試すのに十分な力を注がない。

「あれができたら、すごく面白いのに」と思うことがあるだろう。そういう話は、皆よくする。すると周囲は、「いや、そんなの絶対にうまくいかない。なぜそんなことをする?」と言う。人は基本的に、新しいアイデアを拒むものだ。

それは自然なことでもある。新しいアイデアの大半は、悪いアイデアだからだ。どれほど頭がよくても、本当に良い新しいアイデアを思いつく確率は低い。創造的な人と、そうでない人の本当の違いは、創造的な人はいつも、ばかなアイデアを試していることだ。

優れた料理人が作るものの大半は、それほどおいしくなく、客の皿に載ることもない。誰も合うとは思わない何千もの材料の組み合わせを、一日中試している。そして大半は、本当に合わない! だが、その失敗があるからこそ、誰も思いもしなかった見事な組み合わせが見つかる。

ひらめきとは、座って深く考えていれば、魔法のように何かが起こることではない。そんな仕組みではない。優れた料理人は、いつもまずいものを試している。優れた起業家も、同じ種類の実験をしなければならない。

起業家であることは、アイデアをひとつ持つことではない。変えたいものがあり、変革したい分野があることだ。その分野が好きで、そこでの課題に自分が挑むことに意味があるからだ。そして、何かがうまくいくまで、できるだけたくさんのばかなアイデアを、十分な熱量で試し続けることだ。

何回間違えていいのか。無限に間違えていい。だが、本当に意味のあるものを作るために、正しい答えを出す必要があるのは、ほんの数回だけだ。多くのスタートアップが可能性を出し切れないのは、ばかなことを十分に試さないからだ。

スタートアップが難しいのは、良いアイデアがいつも失敗するからだ。素晴らしい事業になりそうなアイデアはいくらでもある。それでも失敗する。私たちが間違っているからだ。起業家が適切な実行方法を見つけられなかったり、単に運としか言えない出来事や、それまで誰も理解していなかった事柄が起きたりするからだ。

スタートアップとは、考えることではなく、実行することなのだ。

「レバレッジと権力の小史」のイラスト

レバレッジと権力の小史

Robert Greeneは『権力に翻弄されないための48の法則』を書いた。はっきり言おう。すべてに従えば、最後は刑務所に入ることになる。(考えてみれば、この本が囚人に人気なのは、そのせいかもしれない ¯\(ツ)/¯)…

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Robert Greeneは『権力に翻弄されないための48の法則』を書いた。はっきり言おう。すべてに従えば、最後は刑務所に入ることになる。(考えてみれば、この本が囚人に人気なのは、そのせいかもしれない ¯_(ツ)_/¯)

読み直すと、この本が扱っているのは昔の権力だとわかる。歴史を通じて、権力はごく少数の人の手にあり、完全に許可を前提としていた。権力が欲しければ、どこかで、軍隊か、軍隊を持つ宗教を後ろ盾にした人の承認を得る必要があった ;)。

馬とか、短剣とか、そういうもの。

英国の君主制は、伝統と個人的な権力の違いを考えるよい例だ。立憲君主に敬意を示すからといって、バッキンガム宮殿でお茶の列に割り込んだ人を、その君主が投獄できるわけではない。まして首を切ることなどできない。儀礼上の敬意と絶対的な権力は同じではない。

仕組みを変えたのはインターネットだけではない。しかしネットは変化を速め、古い権力構造からの距離を広げた。そして、ネットは新しいものを生み出した。許可を必要としないレバレッジだ。それが権力に取って代わった。何かをつくるために、誰かの許可を得る必要はない。いまだに門番や専門家を気取り、「この人を知っていなければ」と思わせようとする人はいる。しかし、その力は実体を失っている。誰にでも開かれているというだけで、ネットはその構造を崩した。

だから「権力」と呼んでいるものの実態は、「レバレッジ」なのだ。レバレッジとは、注いだエネルギー以上の成果を取り出す力のことだ。努力という投資から、期待を上回るリターンを得る方法である。

Mark Zuckerbergを考えてみよう。彼が持っているのは権力ではなくレバレッジだ。利用者が怒り、まとまって要求を出せば、彼は謝る。権力を握った王は謝らなかった。しかし、新しい世界の支配者であっても、持っているものがレバレッジなら、何度も謝ることになる。

これは、私たちが何世紀もかけて考えてきた平等の理念に通じる。何者であるかではなく、何をするかで判断されるということだ。民主主義は投票の仕組みではなく、ものの考え方だ。結局は誰もが対等であり、誰かにひれ伏す必要はないと信じることなのである。

そこでGreeneの法則をいくつか見て、彼が世界の変化をどう見落としたのかを考えよう。

  1. 主人より目立つな。私生活では、いまだにそう考えがちだ。有名人や権力者に圧倒されることもある。しかし、個人的に憧れるだけで事業が前進するわけではない。経済的な力は、すでにいくつもの異なる仕組みを通ってきた。

1960年代のテレビ局や映画スタジオの責任者を考えてみよう。誰もがあなたの機嫌を取る必要があった。誰を何時に出すか、誰のキャリアを引き上げ、誰を落とすかを決めていた。しかし1980年代になるとチャンネルが増え、その力は分散し始めた。番組が気に入らなければ、視聴者は別のチャンネルへ移る。その後YouTubeが登場し、娯楽の発信にはまったく許可が要らなくなった。

上へ進むために、誰かへ取り入る必要はない。ビジネスの頂点にいる人も、新しく若い挑戦者にその座を奪われることがわかっている。投資家になることで、それを自分に有利に使う方法さえ見つけた ;)。しかし、自分にできることには限界があるとも知っている。好きな人を推薦し、助けようとすることはできるが、成功は自ら動いてつくるものだ。人々が提供されたものを気に入らなければ、買ってはくれない。Snoopの言うとおり、「俺にはお前をスターにしてやることはできない」。

  1. 友人を信じすぎず、敵を利用することを学べ。「敵」などと考えるべきではない。せいぜい競争相手だ。競争相手を敵として扱うと、時間もエネルギーも大量に無駄にする。そもそも、競争相手について考えている場合ではない。

昔、競争が現実の重みを持ったのは、流通が自由ではなかったからだ。顧客に接触し、話をするのは難しかった。新しい顧客を見つけるより、競合から奪うほうが簡単だった。しかし流通コストが低くなると、競合を離れるよう説得して顧客を獲得するのは、割に合わない。自分の市場をつくり、入口を広げ、自分のルールをつくればいい。その過程で、信頼できる友人がいることは、助けにしかならない :)。

  1. 評判がすべてを左右する。命がけで守れ。Donald Trumpが2016年の米大統領選に勝ったことを考えると、この法則はもう成り立たないと思う。Trumpは「起業家の時代」の最初の大統領だと私は考える。それは恐ろしいことだ。起業家の時代になれば、何もかもよくなるとは言わない。悪くなることもある。しかし、何が起きているのかは理解しなければならない。

Trumpが露わにしたのは、評判という考え方に隠れていた前提だ。それを決めるのは、ごく少数の人だった。19世紀の実業家が工場を始めたければ、開業資金を頼める人は世界に何人いただろう。25人か、50人か。その状況では評判が重要だった。しかしネットでつながる世界では、話を持ちかけられる人が文字どおり何十万人もいる。

だからTrumpは自分の評判を気にしない。既存の権力層が彼を嫌っても、もはやその人たちだけでは決められない。彼は、ものすごく自分を愛する人と、ものすごく自分を嫌う人がいることこそ重要だと気づいた。

評判よりも、本人がどれだけ本気かが問われる。Trumpについて多くの人が見落としているのは、嘘をつくときでさえ、つまり大抵の場合だが、本人は自分の言葉を本心から信じているように見えることだ。そして、その本気が本人を途方もない個人的リスクへと踏み込ませるとき、人々は強く引きつけられる。

  1. 相手を見極め、怒らせてはいけない人を怒らせるな。これも同じ話だ。多くの人を怒らせても、それと同じかそれ以上の人があなたの言葉を愛していれば成り立つ。

  2. 偉人の後を継ごうとするな。これも成り立たない。高いところを目指すほど、人は応援しやすくなる。Revolutは、何百年もの歴史がある大銀行を倒そうとした。そういう目標なら、製品がまだ十分でなくても、人は使命に共感してついてくる。だから高いところを目指し、誰に挑むのかを明確にしよう。

では、Greeneの本に従えないなら何ができるだろう。レバレッジとは何か。

レバレッジとは、自分が寝ている間も働くものをつくり、投入したものから得られる成果を増やしていくことだ。時間とともに自分の仕事が増えるのではなく、減るような機械をつくることである。

最初のレバレッジはお金だ。資金が豊富な時期には、お金は商品と同じように振る舞う。しかし、誰もが手にできるわけではない。投資は一か所に集中することがある。誰も投資したがらなければ何も起きないが、投資したい人が現れると、皆が後を追い、必要以上のお金を差し出すかもしれない。資金を取り巻く状況は変わる。いつでも調達できると思い込まず、この群集心理を理解することが、長く役立つ教訓になる。

それで、この大量のスイカとアイスクリームと宇宙船をどうするんだ、という話になる。

二つ目はメディアだ。メディアには、許可が必要なものと不要なものがある。Financial Timesに記事を載せたければ、適切な人を知っている必要がある。しかしYouTubeで優れた動画を公開し、何百万回も見てもらうのに、人脈はいらない。許可を必要としないメディアは大量にあり、起業家はその活用法をあまりにも過小評価している。なぜそこまで従来の報道機関に取り上げてもらいたがるのか、私は理解できない。それが役立つのは、顧客層が非常に伝統的な場合くらいだ。大半のスタートアップは、報道機関を追いかけるより、自分たちでよりよい内容を、もっと発信したほうがいい。

三つ目の大きなレバレッジはコードだ。許可を必要としない時代に、コードは確実に拡張できる道具の一つになる。スタートアップを始めるためにコードを学ぶ必要があるかと聞かれたら、二つの問いの微妙な違いを理解してほしい。

  • スタートアップを始めるために、コードを学ぶ必要があるか。ない。
  • すばらしいスタートアップを築くために、コードを学ぶ必要があるか。ある。

待つ必要はない。コードを書けなくても、スタートアップで起業について大量に学べる。しかしコードが重要である以上、優れたスタートアップは、資金を集めてエンジニアを採用する前に、自分たちの実装能力を活かせる創業者から生まれやすいのも確かだ。

さあ、やってみよう ;)。

「株主構成をきれいに保とう」のイラスト

株主構成をきれいに保とう

起業家にとって、株主構成の問題は最も厄介な問題の一つだ。プロダクトを失敗しても直せる。ローンチを失敗しても、もう一度やり直せる。メディアへの対応を間違えても、次の記事を良くすることはできる。スタートアップには、意外と失敗から立ち直れることが多い。 だが、株主構成を間違えると、修復は途端に難しくなる。株主構成には、感情と税金という二つの問題が絡んでいるからだ。…

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起業家にとって、株主構成の問題は最も厄介な問題の一つだ。プロダクトを失敗しても直せる。ローンチを失敗しても、もう一度やり直せる。メディアへの対応を間違えても、次の記事を良くすることはできる。スタートアップには、意外と失敗から立ち直れることが多い。

だが、株主構成を間違えると、修復は途端に難しくなる。株主構成には、感情と税金という二つの問題が絡んでいるからだ。

事業が動き始めると、共同創業者同士でさえ自由に株式をやり取りできない。起業家はそれを痛い目に遭って学ぶ。どこに住んでいようと、税務当局は株式には価値があり、その価値はゼロではないと考える。

だから、後から誰かの持ち分が少なすぎた、あるいは多すぎたと思っても、調整するのは非常に難しい。さらに、投資家が株主に加われば、その株式にはいわゆる市場価格がつく。

(本題に入る前に一つ。すでに問題を抱えているなら、良い弁護士を探してほしい。株主構成の問題における良い弁護士は、病気における良い医師と同じだ。少し検索した程度で代わりにはならない。がんになったら医師に会いに行く。株主構成で困ったら弁護士に会いに行く。)

だが、問題が起きてから対処するより、最初からきちんと組み立てよう。

第1段階:共同創業者

共同創業者間の株式の分け方として正しいのは、均等に分けることだけだと私は考えている。そうしない理由はいくらでも挙げられる。だが、その理由がもっともなら、それは共同創業チームそのものに無理があるという意味だ。共同創業者間の問題を、不均等な株式配分で解決することはできない。

創業チームは最初から強固でなければならない。株式を均等に分けるのは、長い目で見れば全員が等しく価値を生むと信じているからだ。それが良いチームの土台になる。

断言する。アイデアを出した人が70%、残りの二人が15%ずつという配分なら、いつか誰かが後悔する。株主構成には感情が深く絡む。自分の持ち分に腹を立てながら朝を迎える共同創業者は、会社を沈めるような行動を取り始める。本人が気づかないまま、そうしてしまうことさえある。

来る日も来る日も、相手の仕事ぶりを見ているあなた。

実際、50対50で株式を分けたいと思えない共同創業者なら、一人で創業したほうがいい。統計上、一人で創業した場合の成功率が複数人のチームより低いのは確かだ。それでも、互いを対等に尊重できず、持ち分にも差がある共同創業チームよりは、一人のほうがいい。

逆に、対等な持ち分に値しない相手に半分を渡しても、スタートアップは潰れる。均等な株式配分は魔法の公式ではない。共同創業チームの人選で間違いを犯していないか、自分に問い直させるための原則だ。

何をつくるかよりも、誰とつくるかのほうがはるかに重要だ。アイデアに執着すると、共同創業者選びでひどい判断をしてしまう。つくるものは変わっていく。だが、一緒につくる人は最後まで隣にいる。創業者同士が決裂したら、離婚の10倍くらい大変だ。離婚に伴う感情的な問題がすべてあるのに、それを和らげてくれるかもしれない親密な関係の蓄積はない。

第2段階:最初の投資家

投資家を迎えるまで待てるほど、より良い投資家に出会える。投資家なしで成果を積むほど、自分の立場は強くなる。市場に出て1か月なら、ごく平均的な投資家が相手になるだろう。1年続けていれば、投資家の質も上がる。

結局、最初の資金調達では、会社の20〜25%を手放すことになる。その25%を節税しか考えていない質の悪いエンジェル投資家に渡すのか、それとも事業にどう価値を加えればよいかを知る経験豊かな投資家に渡すのか。帳簿の上では同じ25%だ。だが、長期的な成功への影響は大きく違う。

要するに、嫌な人間を株主に入れないことだ。

一度入り込めば、好き勝手に振る舞う。

嫌な人間についてありがたい点が一つある。たいていは、それを隠さないことだ。良い人は自分の良さを隠すことがあるが、嫌な人はかなりあからさまだ。初めて会ったときからわかる。それでも起業家は、相手の性格を気にするよりお金を手に入れるほうが大事だと、自分に嘘をついてしまう。そうではない。

スタートアップでは、お金が絶対に必要なわけではない。資金が尽きたら、資金なしでやっていく。家賃が払えないなら、友人の家に住む。食費がないなら、親の家で食べる。友人も親も頼れないなら、たしかに資金調達が必要な数少ない人の一人かもしれない。だが多くの場合、問題は快適さと自尊心だ。私たちは皆、自分は成功していると人に言いたい。資金調達は、そう言うための格好の材料になる。

その考えが根強いのは、誰がいくら調達したかという記事は大量に読むのに、誰から調達したかについてはほとんど読まないからだ。調達額はわかりやすい指標だが、金額の先まで見なければならない。

しかも、資金を調達すると、お金を使い始める。やがて大きな資金流出が重荷になる。悪い投資家を迎えていたら、その支出を理由に人生を地獄にされる。

問題を避ける最も簡単な方法は何か。出資を受けようとしている投資家について、実際に人に聞くことだ。その人から出資を受けた創業者5人に電話して、どうだったか尋ねればいい。ところが、それをする起業家は驚くほど少ない。心の中ではすでにわかっている答えを、聞くのが怖いからだ。

第3段階:時間がたつと

初期の株主構成を間違えると、後から良い人を迎えられなくなる。なぜか。良い人は、悪い人と関わりたくないからだ。

投資家が出資を断る理由の一つに、本人が決して明かさないものがある。すでに株主にいる嫌な人たちと、一緒に投資したくないのだ。あなた個人への感情ではない。良い投資家は、悪い投資家と組むことで、その相手をお墨付きにしたくない。自分自身について誤った印象を与えてしまう。だから、事業や起業家を気に入っていても、出資できない。

起業家は、株主間契約を使って悪い投資家の実質的な影響力を封じ、法的に対抗しようとするかもしれない。だが、もう一つ秘密を教えよう。そうした書類は、この問題には役に立たない。

悪い投資家が1日に3回電話をかけたいと思えば、それを止められる書類はない。(しかも、人間として、投資家としてひどい相手ほど、まさにそうした行為に長けている。自分の時間を使って人を困らせ、攻撃するのは、悪い人間の大きな特徴の一つだ。)良い人は良いことに時間を使う。悪い人は他人を攻撃することばかり考える。

株主に投資家を迎えることは、単なるお金の問題ではない。会社のDNAの問題だ。自分の耳元で誰がささやくのかに、大きく関わってくる。創業者はいつも、自分は自分で判断できるほど強いと思っている。だが、周囲の人が一日中言い続けることに影響されないほど強い人はいない。

会社のDNAに影響を与える人があなたよりも志が低ければ、あなたの志も低くなる。そして、悪い投資家の志は、常に起業家より低い。

お金よりも、評価額よりも、何よりも、投資家の質を優先するべきだ。優れた投資家が割安な条件で投資できるのはそのためだ。誰もがその実力を知り、その人が会社の価値を高めるとわかっている。

第4段階が必要になったら:しまった

第1〜第3段階で間違いを犯したら、どうすればいいのか。

そこにいるべきでない人が株主にいるなら、株主構成を整理することを優先しなければならない。次の資金調達の際に、その人に退出してもらう方法を探す。調達のたびに株主構成を整える。けちけちせず、相手にも良い条件を提示しよう。間違えたのは自分なのだから、きちんと後始末をする責任も自分にある。

資金が潤沢にあると、創業者はお金を安く見て、それを受け取る責任を忘れがちになる。

契約に署名する前なら、厳しい態度でも、尊大な態度でも、好きにすればいい。だが、契約を結んだら、出資してくれた相手を尊重しなければならない。その人はあなたにお金を渡すことを選び、その分を誰か別の人には渡さなかった。その選択を尊重しよう。良くないとわかっている相手からお金を受け取り、その後で相手が悪いことを相手だけのせいにしてはいけない。

母はいつもこう言っていた。「とどめを刺せない相手を傷つけるな」。(最高の母だ。)いったん投資家を株主に迎えたら、その関係を簡単に終わらせることはできない。だから、傷つけても構わないなどと思わないことだ。

「ビジネスモデルの計画に時間を浪費するな」のイラスト

ビジネスモデルの計画に時間を浪費するな

たいてい、予想外の形で見つかる。 ビジネスモデルにはさまざまな種類がある。スタートアップが目指すのは、拡張でき、利益を生み、繰り返せる事業だ。 拡張できる。成長するにつれて、新しい利用者を一人増やすためのコストが下がる。 利益を生む。当たり前だ。家賃は払わなければならない。 繰り返せる。ここで実現できたなら、別の場所でも実現できる。…

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たいてい、予想外の形で見つかる。

ビジネスモデルにはさまざまな種類がある。スタートアップが目指すのは、拡張でき、利益を生み、繰り返せる事業だ。

拡張できる。成長するにつれて、新しい利用者を一人増やすためのコストが下がる。

利益を生む。当たり前だ。家賃は払わなければならない。

繰り返せる。ここで実現できたなら、別の場所でも実現できる。

起業家として、これらすべてを満たさなくても、よく機能するビジネスモデルを見つけることはできる。ただ、それはスタートアップではない。たとえばサービス業は、利益を生み、繰り返すこともできるかもしれない。しかし拡張はできない。新しい顧客が増えるたびに、同じだけの手間か、それ以上の手間がかかるからだ。

20世紀の事業の多くは、あまり拡張性がなかった。大きくなるほど、お金も燃やした。

拡張でき、利益を生み、繰り返せるビジネスモデルを探すスタートアップは、普通、何か革新的なものを探している。事業の一部を、それまで誰もやらなかった方法で行うモデルだ。

よい例を知りたければ、『ファウンダー』を観るといい。McDonald’sが巨大になった経緯は、実は料理をつくる話ではない。McDonald’sは飲食業というより、不動産業なのだ。その発想の転換によって、Ray Krocは拡張しにくいビジネスモデルを、世界中に素早く広げられるものに変えた。ファストフード業界の誰も考えていなかった違いを見つけた。その後は、適切なブランドをつくる問題になった。本当に、この映画を観てほしい。

ビジネスモデルを構成するものは何か。六つある。

  • 価値提案。何を、誰に、どう提供するのか。要するに、何をするのか。
  • 顧客。誰なのか。どんな属性を持つのか。
  • 流通。価値提案を、どう顧客に届けるのか。
  • 顧客対応。どう提供するのか。
  • 提携。どんな相手を望み、必要とし、その相手は事業をどう変えるのか。
  • 資源。モデルを成立させるために、材料や人材など、何が必要なのか。

最初からすべての答えがあるわけではない。だからスタートアップはビジネスモデルを「探している」。そして、そのために理解しておくべき事実がある。

スタートアップとは、絶えず失敗しながら、創業者の決意と信念だけでつながっている組織だ。創業者が計画できた範囲をはるかに超える成功を見つけるか、死ぬかするまで、その状態が続く。

事業が軌道に乗り始めると、何千もの問題が起きる。50人に売り、対応するのは、まあ簡単だ。5万人に売るのは難しく、500万人となるとほとんど不可能に思える。だから、事業が伸び始めた起業家の最優先事項は、ビジネスモデルのすべての部分を強化することになる。

そうしなければ、事業は死ぬ。よい製品をつくり、プロダクト・マーケット・フィットを見つけたのに、ビジネスモデルの一部が弱いために成長そのものに殺されるスタートアップが、信じられないほど多い。シリーズAや、シリーズBまで調達した後に失敗する企業を見てほしい。その段階では、アイデアが悪いとか、ファンが足りないとかいう問題ではない。ビジネスモデルの問題なのだ。

成長の中での踏み外しは危険だ。

意外に思うなら、あなただけではない。そう思うのには理由がある。メディアがスタートアップについて伝えることの大半は嘘だからだ。少なくとも、話の多くが欠けていて、嘘と区別できない。

TechCrunchに出てくるスタートアップの多くは、「拡張でき、利益を生み、繰り返せる」という理想をどう実現するか、見当もついていない。一方、起業家は物語を語るのがうまい。だから見出しは「Startup.comが2,000万ドルを調達、利用者拡大を加速へ」となる。「Startup.comが2,000万ドルを調達、ビジネスモデルの必死の探索は続く」とは書かれない。

特にヨーロッパでは、こうした見出しが起業家を間違った道へ導く。シリコンバレーから来る物語を信じ、自分の投資家もa16zと同じ考え方と資金力を持っていると思い込む。売上は後からついてくる。まず利用者数を増やそう、と。

しかし、これを読んでいる大半の人には、Googleのようにビジネスモデルを探すための8年間はない。モデルの六つの部分すべてを考え、毎日、強く確かなものにしていかなければならない。

もう一つ知っておこう。ビジネスモデルの複数の部分を同時に革新するのは、とても難しい。「流通も提携も資源も革新しよう。実現すれば3倍強くなる」と考えているなら、もう危ない。「スタートアップとはそういうものだろう」という理由だけで違うことをするのは、間違った取り組み方だ。

スタートアップが成功するのは、違うことをするからではない。よりよくやるからだ。

そして、問題のあらゆる側面を熟考し、慎重に最善の道を選んだから、よりよくできるのでもない。何らかの方法で、何らかの形で、「秘密」を見つけたからだ。秘密とは、人に話しても、誰も信じないこと。本当の秘密が真実として受け入れられるには時間がかかる。そのころには、スタートアップは大きく成功している。

知られる心配はいらない。本当の秘密なら、どうせ信じてもらえない。

1990年代末、Googleが持っていた秘密は何だったのか。ウェブサイトの数が指数関数的に増えるということだ。ほかの人は信じなかった。FacebookでZuckerbergが持っていた秘密は何だったのか。人々は、私生活を秘密にしておくことを、口で言うほど気にしていないということだ。プライバシーへの不満は何年も語られ続けたが、Facebookは世界的な事業になり、皮肉にもSecretという名前のサービスは消えた。

起業家は、日々の暮らしの中で常に未来を生きている。だから、ビジネスモデルを決められた型に当てはめるだけでは済まない。毎日素早く試して修正し、つくりながら見つけていくものなのだ。

「最大のリスク」のイラスト

最大のリスク

Star of Serviceから私は、直感に反するやり方がどれほど有効になり得るかを学んだ。一般的な経営の常識に照らせば間違って見えることを、このチームは実行し、結果につなげた。…

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Star of Serviceから私は、直感に反するやり方がどれほど有効になり得るかを学んだ。一般的な経営の常識に照らせば間違って見えることを、このチームは実行し、結果につなげた。

私たちは、物事を予測できる直線的な経済から、指数関数的に変化する未来へ移った。だから、事業計画やビジネスモデルを練ることに費やす時間の多くは、あまり役に立たない。ビジネスモデルをあらかじめ設計できたのは、物事が一定のパターンに従っていたからだ。

「いやいや、人は本屋をぶらぶらするのが好きなんだよ。本を手に取る感触が好きなんだ。うまくいくわけがない」。はいはい、そうですか。

優れた事業は、決まったパターンに従わない。数人が一つの部屋に集まり、何もかも「間違った」やり方で進めながら、人々が夢中になるものを見つける。これは大きな前提の変化だ。かつては、予測できる未来に向けて計画を立て、資産を配分していた。いま、未来を予測できる可能性があるとすれば、自分で積極的につくることだ。

つまり、はるかに大きなリスクを取るということだ。見返りも、はるかに大きいから。スタートアップをつくるなら、大きなリスクを取り、世界を変えるほどの存在になりたいからであってほしい。

昔はそうではなかった。1960年代に、学校で優秀な成績を取り、世の中には機会があり、自分も何か大きな影響を与えたいと思った人は、大企業に就職した。医療でも、エネルギーでも、宇宙でも、その分野でいちばん大きな会社に応募する。それが、大きな影響を与える最善の方法だった。

なぜか。当時は、そしてその後もしばらくは、起業にとてつもないお金がかかったからだ。インターネットがまだ若かった1995年でさえ、事業を始めるのに数百万ドルかかることがあった。オープンソースは普及しておらず、技術にはライセンス料が必要で、インフラも高かった。その世界では、大企業に雇われることが出世への最善の道だった。

ところが、世界は一夜にして変わった。

インターネットの爆発的な普及が、すべてを変えた。インターネットが広がった最初の20年間、新しい事業を始める費用は毎月のように下がった。かつて数百万ドルかかったことが、数千ドルでできるようになった。いま1万ドルを持ってスタートアップを立ち上げるなら、少し余裕がありすぎるとさえ感じるかもしれない。

さて、起業したときにお金がなかったのは誰だろう?

実行の費用が下がるのと同時に、学ぶ費用も下がった。これはありがたい。起業家は学び続けなければならず、毎日、新たな課題に直面するからだ。1995年、新しいプログラミング言語を学ぼうとすれば大変だった。必要な教材を見つけるだけでも必死になる。情報はまだネットにないかもしれず、適切な本がそろった図書館を探さなければならなかったかもしれない。ロンドンやボストンに住んでいれば、それほど困らなかっただろう。でも、大きな図書館がない場所に住んでいた人たちはどうすればよかったのか。

いまでは、問いと答えの距離はなくなった。スマートフォンがあれば、ほとんど何でも数秒で調べられる。かつて私たちは、知識にはお金を払うものだと考えていた。名門校での教育に払う。コンサルタントや弁護士の1時間に払う。カンファレンスへの参加に払う。でも、知識や専門性そのものにお金を払う時代は終わった。専門家は、世界がどうなっていたかを説明するのは得意だった。しかし、世界がこれからどうなるかを説明するのは得意ではなかった。いま大きな勝負になっているのは、その未来を見る視点だ。そして、その勝負をしているのが起業家だ。

だから、優れた起業家は学び始めるまでに時間を無駄にしない。無料で手に入る知識を、自分で取りにいく。しかも速い。

古い価値の連鎖は壊れた。そのことを理解してほしい。産業時代の価値の連鎖は単純だった。まずアイデアがあり、それが起業家としての力量を決めた。知識が自由に流れていなかった産業時代には、アイデアは希少だった。一つのアイデアを持つだけで、それを思いつかなかった人たちと差がついた。次に資本が必要だった。たいていのアイデアは、実現するまでに多額のお金を必要としたからだ。そして、集めたお金と引き換えにアイデアを形にしてくれる工場を探した。製品が完成すると、流通業者を探す。すべて順調なら、顧客が流通業者の店先で待っていて、商品を買った。あなたは天才だった!

21世紀は、そのようには動かない。起業家は最終顧客と直接つながっている。かつての

アイデア → お金 → 工場 → 流通業者 → 顧客

ではなく、いまは

アイデア → 顧客。

ウェブサイトをすぐにつくり、まだ存在していないアイデアを試し、売ることができる。市場があるとわかったら、つくる。本当に需要があると確かめる前には、何もつくらない。少なくとも、そうすべきだ。

だから、最初に成功させるべきは市場に届けることだ。いまは誰もがアイデアを持っている。知識が自由に流れる市場では、アイデアも自由に流れる。思いついた? よかった。ほかの1万8000人も思いついている。アイデアはコモディティだ。起業家が「すごいアイデアがあるんです」と言ってくると、私は「一つだけ? どうしたんだ?」と返す。アイデアは愛と同じで、そこら中にある。;)

うん、わかった。でも、それを事業にできる?

アイデアが資本を奪い合うのではなく、資本が最も有望な市場を奪い合う。製品が実際に使われ、伸びていると示せれば、多くのお金が後からついてくる。つまり、お金もコモディティになりつつある。ついでに言えば、中国は数十年をかけて工場での生産をコモディティに変えた。顧客と直接話せるなら、流通もコモディティになる。かつての価値の連鎖のすべての段階が、コモディティになったのだ。

それは何を意味するのか。私たちの世界で、最も安く、速く、直接的に影響を与える方法は、スタートアップを立ち上げることだ。

それに興味があるなら、スタートアップとは何かを理解しなければならない。第一の特徴は、直感に反することだ。だから、いちばんまずいのは、アイデアを頭の中だけで評価しようとすること。その代わりに実験しなければならない。顧客に直接、簡単に、安く届けられるのだから、突飛なことを顧客と試せば、大きな優位性になる。

(これから10年取り組むつもりのアイデアを見つけるのに、驚くほど労力をかけない人がいる。「なぜこれをやるの?」と聞くと、「ある日思いついて、結構いいと思ったから、やることにしました」と言う。恋愛で同じことをしたらどうだろう。Tinderでスワイプできるのが一度きりだと想像してほしい。それで決まり。いきなり子ども、休暇、何もかも、その相手に一生を捧げる。😳 😳)

正しいアイデアを見つけるには、たくさん試す必要がある。もう「一つのアイデア → 一つの会社」ではない。「大量のアイデア+実際の人を相手にした検証 → 一つのスタートアップ」だ。考えただけでは到底信じられないような奇妙なアイデアほど、巨大な変革を起こす可能性がある。

Facebook、Google、Airbnbを考えてみよう。大学の友人が金曜の夜に何をしているかを知るサイトが、20億人のユーザーを獲得するわけがない。1990年代のチャットルームで「すべてのウェブサイトを巡回して、結果を一か所に集める連中がいる」と言えば、笑われただろう。知らない人を自分の家に泊める人なんているはずがない。

ピーター・ティールは、これをとてもうまく説明した。よいアイデアに見えるものと、悪いアイデアに見えるものがある。よいアイデアは大企業が実行する。筋が通っているからだ。仮に失敗しても、誰もがよいと思っていたのだから、ばかには見えない。

ポール・グレアムがピーター・ティールを振り返る。

スタートアップは、悪く見えるけれど、とんでもなくすばらしいものになるかもしれないアイデアを実行する。悪く見えるよいアイデアこそ、スタートアップが狙うべき場所だ。直感に反するものを探す。問題を探す。解決策を思いついてから、それに合う問題を探すより、実際の問題から始めたほうが、突飛な解決策を見つけやすい。

ただし、勘違いしてはいけない。ここまでの変化によって起業は簡単になったが、スタートアップを経営するのはいまも極めて難しい。そして、お金持ちになる最善の方法でもない。お金持ちになりたいなら、起業家の下で働けばいい。Facebookの最初の1000人の社員は、シリコンバレーの起業家の80%より多くのお金を得た。Facebookの1000人目の社員になることに、そこまで大きなリスクや、とびきりの頭のよさが必要だったわけではない。

起業するなら、本当に影響を与えたいから起業してほしい。それが望みなら、できるだけ大きなリスクを取るべきだ。いまのビジネスでは、大きなリスクを取るために自宅を担保にしたり、家族を困らせたりする必要はない。個人で借金する必要もない。何をやるにしても、大きくやろう。

待つ必要もない。起業家になるための経験は、起業家になることでしか得られない。できるだけ早く始めよう。私たちの世界では、若さは大きな資産だ。変化があまりに速いので、年を取るほど戸惑いやすくなる。何も知らないことを心配しなくていい。知らぬが仏とは本当だ。起業家は自分のやっていることに完全に集中しなければならないから、どこまでひどい事態になり得るかを知らないことが、むしろ役に立つこともある。

しかも、何も知らなければ、何でも学べる。すさまじい勢いで学ぶことが、いちばん大切だ。人は成功した起業家や、ほかの分野で成功した人を見て、生まれつきそうだったのだと思う。10代のマーク・ザッカーバーグが、後に世界規模の会社を築いたときと同じ人間だったかのように。でも、そうではない。彼は道のりの中で、学習の速度を上げていった。誰にでも、目に見えない学習曲線がある。起業家は、自分の曲線をできるだけ早く、できるだけ急に立ち上げるために、あらゆることをしなければならない。

大事なのは、そのとき何を知っていたかではない。その後、何を学んだかだ。

もう一度、一つだけ覚えておいてほしい。指数関数的に変わる世界では、未来を予測する最善の方法は、自分でつくることだ。結局、それは他人につくってもらうより、ずっとリスクが小さい。

「誰もが嘘をつく。」のイラスト

誰もが嘘をつく。

以前、自分の商品のラベルをデザインした起業家と話したことがある。見た目が悪かったので、そう伝えた。すると、「でも、聞いた人は皆、いいと言ってくれました!」と言う。きっと皆そう言ったのだろう。誰もが嘘をつくからだ。…

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以前、自分の商品のラベルをデザインした起業家と話したことがある。見た目が悪かったので、そう伝えた。すると、「でも、聞いた人は皆、いいと言ってくれました!」と言う。きっと皆そう言ったのだろう。誰もが嘘をつくからだ。

性格が悪いからでも、相手を傷つけたいからでもない。人が嘘をつく理由はいろいろある。本人が気づかずについていることさえある。多くの嘘は善意から生まれる。だが、結果はいつも同じだ。あなたのスタートアップが死ぬ。

そこで、そのラベルを、その日たまたま近くにいた3人に見せた。起業家本人の商品だとは言わなかった。代わりに、自分たちが買ってきたもので、感想を聞きたいと伝えた。要するに、嘘をつく理由をなくしたのだ。ラベルは中立なものになり、目の前に座っている起業家本人と切り離された。すると全員が、正直に言った。「ああ、これは本当にひどいね」

いちばん役立つフィードバックは、あなたに気を遣わない人から得られる。

繰り返すが、その起業家が前に意見を聞いた人たちは、本人や事業を傷つけようとしていたのではない。むしろ、傷つけるのを避けたかったのだろう。だが、結果は逆になった。

問題の大きな部分は、起業家が最初に聞く助言が「ユーザーと話せ!」だということにある。本当は、それさえ2番目の助言であるべきだ。最初は「ユーザーを獲得しろ!」だから ;)

ユーザーと話すことの大切さを、これだけ大勢が説いているのだから、具体的な方法も、もう少し教えてくれそうなものだ。話すとはどういうことか。何を質問するべきか。ヨーロッパ市場に参入しようとする起業家には、どんな落とし穴があるのか。

話し始める前に、何を知りたいのかを理解しておこう。必要なのは、人が言うことではなく、考えていることだ。会話中は、言葉だけでなく、相手の振る舞いに注意する。雑談から、その人の癖をつかもう。些細な話題には即答する人が、商品について聞かれた途端にためらい始めるなら、想像力を働かせて嘘を探しているのかもしれない。だからこそ、先ほどの方法が役立つ。自分の商品だと知らせないことだ。それで、嘘をつく最大の理由が消える。それが無理なら、相手を少し熱くさせてみよう。人は興奮したり感情が動いたりすると、本音を言い始める。

相手を熱くさせれば、本音が出てくる。

次に、誰と話しているのかに注意する。商品にターゲット市場があるように、インタビューにも対象を定める必要がある。自分の取り組みに関心がある人ばかりではない。だから、誰もが質問に答えるのに適しているわけでもない。そうした人を見分けず、時間を無駄にしたり、間違った方向へ進む危険を冒したりしてはいけない。

実際に話し始める際には、ヨーロッパと米国・英国のインタビューには大きな違いがあることを覚えておこう。米国には、そしてある程度は英国にも、ほかの地域ではあまり見られないフィードバックの文化がある。英語を母語とする人の多くは、はい・いいえで答える質問に慣れている。質問表に沿って聞けば、できるだけ正直に答えてくれる。

一方、ヨーロッパでは、意見を求められることに慣れていない人が多い。閉じた質問を並べても、話は進まない。必要なのは、相手を本当の議論に引き込む、開かれた面白い質問だ。議論が生まれたなら、それは良い質問だったということ。商品について15個の質問を書き並べるより、本当の議論につながる良い質問をひとつ投げかけ、そこから問いを重ねるほうが、多くを得られる。

開かれた質問をするときも、一度に聞くのはひとつだけにしよう。ふたつをひとつの質問に詰め込むと、相手は混乱し、話が混ざる。わかりやすく聞こう。良い質問は、自然に次の質問へつながる。急ぐ必要はない。

一度に質問はひとつ。返ってくる答えをよく聞こう。

相手の信頼性を確かめる方法を、頭に用意しておくといい。実際にあった話だ。ある音楽スタートアップが、フィードバックを得ようと街頭に出た。ただ、欲しかったのは、音楽に詳しく、関心を持つ人の正直な意見だった。そこで、架空のバンド名を作り、その架空の音楽についてどう思うか尋ねた。80%の人が、その存在しないバンドを知っているふりをした。その時点で、彼らのほかの発言も聞き流してよいとわかった。格好をつけなかった20%に集中できたのだ。さらに大切なのは、「聞いたことがない。本当にいるバンド?」と答えた1%だった。その1%こそ、本当のターゲットだった。だから彼らの答えには意味があり、しかも正直だった。

それから、どこにいる人も賢く見られたがる。だから、助言を求めよう。もちろん、すべて従う必要はない。商品設計などを他人に丸投げすることはできない。起業家はあなたで、それはあなたの仕事だ。だが、助言を聞き、自分の扱う問題、ターゲット市場、商品を理解する材料にはできる。

インタビューで良いフィードバックを得るのは、印象派の絵を描くようなものだ。暖かい色も冷たい色もあり、それらが混ざって全体の感覚を生む。ある瞬間を正確に記録しようとする写実画ではない。だから、きちんとメモを取ろう。ただし、次の3つをするためのメモだ。

  • 記述する。普段と違うものを見つけたら、書き留める。
  • 推論する。観察したことから、仮説を立てる。
  • 評価する。あとで検証できる理論を組み立ててみる。

複雑で難しそうに聞こえるかもしれない。だが、良い知らせがある。これは、とにかく何度もやらなければならない。そして、何度も繰り返すことは、必ず上達する。自分のスタートアップについて人に話を聞くのは、反射的な行動になるべきだ。どこでも、いつでもすること。日常の一部にしてしまおう。

従業員の日常の一部にもするべきだ。どう質問するか、フィードバックをどう判断するか、率直な意見をどう受け止めるかを、従業員にも学んでもらおう。ターゲットではない人から悪い評価を受けて慌て、間違った問題と戦い始める従業員ほど、困った存在はいない。良い情報を得て、取り組むべき問題に向き合うことは、あなたと同じように、彼らの日常の一部であるべきだ。

つまり、ユーザーとは常に話し続ける必要がある。そのとき、頭に置くべき考えはひとつ。「誰もが嘘をつく。だから私は、本当のことを求めなければならない」。ユーザーが無邪気な子どものように話せる状態を作ろう。社会的な遠慮を取り除く方法を見つけ、本音を出せる余地を与える。不快さはある。ユーザーとの会話がいつも温かく心地よいだけなら、うまくできていない。真実を求め、居心地の悪さを受け入れよう。そのほうが、スタートアップは強くなる。

「スタートアップを危険にさらす3つの思考パターン」のイラスト

スタートアップを危険にさらす3つの思考パターン

麺を作るのも、作らないのもいい。ただ、今日それをする理由はわかっていろ。 人がどう考え、いくつもの仮定から実際の結論へどうたどり着くのか。私はいつも、その過程に引きつけられる。そして、その道筋はしばしば、ある思考パターンに左右されている。 従業員や起業家を見ていて、危険なパターンを3つ見つけた。スタートアップの良いアイデアを殺す、3兄弟の暗殺者だ。 過去の事例、権威、理念。…

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麺を作るのも、作らないのもいい。ただ、今日それをする理由はわかっていろ。

人がどう考え、いくつもの仮定から実際の結論へどうたどり着くのか。私はいつも、その過程に引きつけられる。そして、その道筋はしばしば、ある思考パターンに左右されている。

従業員や起業家を見ていて、危険なパターンを3つ見つけた。スタートアップの良いアイデアを殺す、3兄弟の暗殺者だ。

過去の事例、権威、理念。

見つけるには、こんな言葉で始まる発言に耳を澄ませればいい。

  1. Xのときを覚えているだろう…
  2. Yが言っていた…
  3. 私たちはZなのだから…

Xのときを覚えているだろう…。これは、自分がしていることを正当化する事例を探している。だが問題は、今の自分と自社は、その事例と同じ状況にはいないということだ。さらに厄介なのは、ほとんどどんな間違った経営判断でも、それを正当化する事例は見つけられるということ。目を向けるべきなのは、今日の自社と、自分たちの状況だ。過去との類似点を知り、考えるのはいい。だが、それだけで自分の行動を正当化してはいけない。それに、たいていの人にとって記憶力は最強の武器ではないことも忘れずに ;)

Yが言っていた…。私たちは皆、スティーブ・ジョブズの伝記を読んでいる。マーク・アンドリーセンの講演は素晴らしいし、ポール・グレアムはお気に入りの書き手のひとりだ。だが、ここでも同じ問いに行き着く。その知識を、能動的で動き続ける思考の一部として使っているのか。それとも、自分の判断を正当化するためだけに使っているのか。前者はいい。後者は死を招く。

面白いことに、ヨーロッパには批判精神で知られる人が大勢いる。だが、何もかも鵜呑みにすることと、何ひとつ受け入れないことは、同じくらい愚かだ。自分の判断力を使い、自信を育てなければならない。

私たちはZなのだから…。誰にでも、自社のビジョンはある。イーロン・マスクはTeslaのマスタープランを公開した。自分たちが何者かを知る必要はある。だが、何者であるかによって、何をするかまで決まると思ってはいけない。「そうだけど、私たちは投資家なんだから、こうするべきだろう…」と誰かが言い出したら、私は即座に警戒モードに入る。サルトルの言葉どおり、「実存は本質に先立つ」のだ。

過去の事例、権威、理念は、自分の一部であるべきだ。しかし、それらに支配されてはいけない。そしてこれは、自分だけに大切なことではない。チームの全員にも徹底させるべきことだと、いつも覚えておいてほしい。

「良識はないのか?」のイラスト

良識はないのか?

どうにも我慢ならない問題がある。スタートアップ界隈で交わされる、バブル、企業評価額、投資家、雇用といった議論の中心にあるのに、誰も口にしない。 中間層の年金資金がベンチャー投資という勝負にさらされているのは、まったくもって恥ずべきことだ。それを許す人たちは、火遊びをしているだけではない。着火剤をたっぷりかけたダイナマイトを、ベニハナの鉄板の前で振り回している。…

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どうにも我慢ならない問題がある。スタートアップ界隈で交わされる、バブル、企業評価額、投資家、雇用といった議論の中心にあるのに、誰も口にしない。

中間層の年金資金がベンチャー投資という勝負にさらされているのは、まったくもって恥ずべきことだ。それを許す人たちは、火遊びをしているだけではない。着火剤をたっぷりかけたダイナマイトを、ベニハナの鉄板の前で振り回している。

感じのいいシェフたちを、官僚に置き換えてみてほしい。

順を追って考えよう。

ベンチャーキャピタルは、投資を熟知した人たち、要するにプロが資金を出す、リスクの高い勝負だ。ベンチャー投資家は誰もが、リターンのすべてを生む1%のスタートアップを探している。残りの99%は失うお金だ。

それ自体が悪いわけではない。ただ、リターンが一部に集中しやすいということだ。つまり、ファンドは簡単に、実に簡単に、すべてを失い得る。そして、最後まで何も得られない投資家もいる。すべてのベンチャー投資家がマーク・アンドリーセンではない。スタートアップに投資するなら、それを理解しておくべきだ。

公開市場と比べてみよう。ニューヨーク証券取引所で、S&P 500に連動する投資信託に投資するとする。そのファンドは長期的にS&P 500に連動し、比較的分散されたリターンをもたらす。経済が好調なら上がる。悪化すれば下がる。誰か一人の責任ではなく、誰かだけが大勝ちするわけでも、大負けするわけでもない。一般にはそうだ。ベンチャー投資とは正反対だ。

債券などと組み合わせた、こうした投資こそ、公的資金に適している。公的なお金は、人から託されたものだ。途方もない利益を狙うためではなく、計算でき、当てにできる、安定した支払いを確保するためにある。

ところが、2008年の危機の後、ニュースの見出しが人々を動かした。資金運用者たちは、ベンチャー投資家が大きな利益を得ているのを見て、自分たちも入りたいと思った。2008年の危機後、ヘッジファンドは人気を失い、人々は次の利益の約束を探していた。

でも、考えてほしい。ヘッジファンドが支持を失ったのは、全体のリターンが、見出しでうたわれたリターンと違ったからだ。ベンチャーに向かう公的資金も、同じ壁にぶつかり得る。

なぜか。フランスのBPIのような公的ファンドは、利益を出せないだろう。運営するのが投資家ではなく官僚であり、まして起業家でもないからだ。年金基金にも同じことが起きている。評価額をどんどん押し上げながら、最後には、支払うはずのお金が残らない。

では、あなたの年金基金が勝ち組を見つけられなかったら、どうなる?

そして、被害を受ける人たち、年金や社会保障の支払いを待つ人たちは、自分がこの勝負に参加させられていることさえ知らなかった人たちだ。

ついでに、BPIのような大きな公的機関がスタートアップに関わるべきではない理由を、もう一つ挙げよう。悪い誘因を生むからだ。数百万の公的資金を調達したスタートアップについて、私はかつてこんな一文を読んだ。

「危機を脱するため、このスタートアップは補助金よりも売上を優先する方針に切り替える」。

!!!!!

…

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何年も続いてきた会社が、どうすれば、どう見ても売上を気にしてこなかったまま、生き延びられるのか。説明責任を負わずに使える公的資金を、官僚的な投資家が投じているからだ。

もちろん、正直に言えば、公的資金を使って生き残り、すばらしいものをつくる企業もたくさんある。そういう例は日々目にする。でも、公的資金は、あまりにも頻繁に薬物のように働く。すぐに強烈な高揚感がやってきて、最高の気分になる。ところが、その後は一気に落ちる。高揚している間に頭の中で描いていたものを、実際には何もつくっていなかったと気づく。残された道は、またその薬に手を出すことだけになる。毎回そうなるわけではない。でも、そうなることがあまりに多い。

スタートアップが赤字を出すことは悪くない。成長のために投資を探すことも悪くない。でも、まともな利益を出そうとすらしていない事業に取り組みながら、公的資金で何年も自分に給料を払い続けるのは、大いに問題がある。

そして、若者を支援すると語り、スタートアップで「雇用が生まれた」と喜んだ後、残りの時間は大企業の利益を守り、そのすべてを、主に働く家庭が納めた税金で行う政治家たち。これ以上は言うまい。

恥を知ってほしい。

「スタートアップの世界で起きる力の移動」のイラスト

スタートアップの世界で起きる力の移動

先にいた者が……先に受け取る。 スタートアップと投資家の関係には、ダビデがゴリアテに挑むような転換点が必要だ…

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先にいた者が……先に受け取る。

スタートアップと投資家の関係には、ダビデがゴリアテに挑むような転換点が必要だ

清算優先権は、スタートアップの世界で最も広く受け入れられている、奇妙な考え方の一つだ。簡単に説明すると、清算優先権付きの優先株は、実質的に投資家を守る仕組みである。普通株と異なり、投資家により多くの取り分を与えるため、会社が売却されても創業者や従業員にはほとんど残らないことがある。何年間も昼夜を問わず働いた人より、数か月前にやってきた投資家が売却の恩恵を大きく受けるのは、おかしく感じるかもしれない。しかし基本的にはそういうことが起きる。あまりに一般的なので議論にすらなりにくいが、私は変える必要があると言いたい。そして投資家こそ、真っ先にそれに気づくべき人たちだ。

投資家が別の形の優先株を受け入れ、創業者が過剰な優先権を与えるのをやめるべき理由はいくつもある。その大きな理由の一つは、創業者や投資家自身には関係がない。従業員のことだ。スタートアップでは、チームがすべてだからだ。

「周りを見ても、俺たちの仲間みたいにやれるやつはいない」Big Sean

スタートアップに必要な優れた従業員は希少だ。多くはすでにスタートアップで働いた経験があり、業界の理解もますます深くなっている。報酬の大きな部分が株式なら、誰かが優先株を大量に持っていかない限りにおいて、自分の普通株に価値があると理解している。

スタートアップが経済の中で当たり前の存在になるにつれ、かつて採用に使われた表面的な特典は価値を失っていく。テーブルサッカー、軽食、木曜に来るマッサージ師だけでは、もう十分ではない。違いを生むのは、お金と使命の二つだ。

優れた人材が残るのは、よい報酬と大きな使命があるからだ。

使命さえ、その特別な輝きを失いつつある。使命を掲げるスタートアップは、40年前の伝統的な企業と同じくらいありふれている。参入障壁が低いので、別の使命を求める従業員は、自分で会社を始めることもできる。

先ほども言ったように、すべてはチーム次第だ。スタートアップを生かすのは実行だからだ。アイデアも資本もコモディティである以上、創業者と投資家が大半を取り、従業員が残り物を奪い合う構造は理にかなわない。従業員にとっての株式のあり方を改善する必要がある。いち早くそれを実行したスタートアップは、人材採用で大きな競争優位を得るだろう。

これは、会社に関わるそれぞれの人にとって何を意味するのだろうか。

創業者にとっては、透明性を受け入れることだ。取締役会や資金調達の交渉で何が起きているかを従業員に話すことも、仕事の一部である。株式を報酬の大きな部分にするなら、その報酬の中身について正直でなければならない。過剰な権利を求める相手から従業員を守る必要もある。取締役会で彼らを代表し、彼らなしでは会社は存在しないと覚えておくのが仕事だ。だから株主構成をきれいに保とう。構造は単純に、特別な権利はできるだけ少なく、妙な条項もなくす。平等や信頼が失われた高い評価額より、きれいな株主構成で低い評価額のほうがよい。

評価額を競ううちに、自分の会社が本来持つ価値を見失う創業者が多すぎる。上振れを逃す恐怖が罠となり、下振れがチームに与える現実の影響を見なくなる。清算優先権が「大きく勝つか、さもなくば撤退」という姿勢の直接の結果であることは確かだ。しかし、その姿勢を資金調達条件についての考え方と結びつける必要はない。創業者やチームの野心に見合うように、会社のリスクを高めるのはいい。だが、全員を巨大な罠に入れ、株式条件が悪いために8桁、9桁の売却でも全員に利益が行き渡らなくなるのは、まったく別の話だ。長期を目指すなら、途中の一歩一歩で健全な構造を築くべきだ。

従業員にとっては、時間とともに削り取られ続けることのない、公平な取り分を求めることだ。他の人が取ったリスクを無視してはいけないが、自分はリスクを取っていないかのように振る舞う必要もない。スタートアップで働く一日は、ほかのことに取り組まなかった一日でもある。なぜそこで働くのかを、創業者にも自分自身にも率直に示そう。

投資家にとっては単純だ。株主構成をシンプルに保つよう努めること。過激に聞こえるだろうが、べき乗則が正しいのであれば、清算優先権は下振れを防ぐ適切な道具ではないと認めるべきではないか。個別の売却が期待や希望ほど大きくなくても、創業者と従業員がその小さな果実を公平に受け取ることが、長期にわたって三者の利害をそろえる。生態系全体にとって健全なことだ。実際、特に米国では、一流のVCが生態系のために清算優先権を放棄するところを、私は自分の目で見てきた。

清算優先権をなくせば、評価額の交渉のしかたも変わるだろう。公表される評価額と、売却代金を公平に分けることは同じではない。

Kima VenturesのJean de La Rochebrochardと話しながら、この問題を解決するいくつかの案を考えた。

  • 従業員に優先株を与える。よい点:実施しやすい。悪い点:創業者と従業員の利害をそろえる方法としてはよくない。
  • 各ラウンドで、創業者と従業員の間で一定の株式を分ける。よい点:関係者の利害の一致を保てる。悪い点:書類手続きと税務が悪夢になる。全員の受取額の計算も非常に複雑になる。
  • 普通株だけにする。よい点:抜本的だ ;)。悪い点:その方針を長期にわたって守れる株式設計が必要。複数ラウンドを必要とする会社では非常に難しいが、大きな資本を必要としない会社なら可能だ。

まだ解決策は見つかっていない。しかし問題は見えている。従業員が主導する業界からの圧力は、始まったばかりだ。投資家は早くこの問題を考える必要がある。

「パスポートは不要:インターネット国家で事業を始める」のイラスト

パスポートは不要:インターネット国家で事業を始める

スタートアップには、昔から大きな葛藤がある。地元で始めるか、世界に向けて始めるか。 どちらの意見も耳にする。集中すべきだから地元。野心を持つべきだから世界。速く動くべきだから、地元でも世界でも……。 そこから出てくる助言の一つは、よい市場で始めて様子を見ることだ。ヨーロッパなら、オランダや英国で始めて、その先を考えるという話になる。…

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スタートアップには、昔から大きな葛藤がある。地元で始めるか、世界に向けて始めるか。

どちらの意見も耳にする。集中すべきだから地元。野心を持つべきだから世界。速く動くべきだから、地元でも世界でも……。

そこから出てくる助言の一つは、よい市場で始めて様子を見ることだ。ヨーロッパなら、オランダや英国で始めて、その先を考えるという話になる。

多くの人には見えていない、ある国家について、私はよく冗談を言う。インターネット国家だ。

インターネット国家とは何か。国境を持たない唯一の国家だ。全員が英語を話す。母語であれ、第二、第三、第四言語であれ。若く、買う準備ができている人たち、アーリーアダプターを自認し、新しいものを試したがる人たちがいる。

一般の人との違いは、粗悪な製品や、まだ準備不足のベータ版に慣れていることだ。完璧でないことを理解してくれる。

役に立つのは、ほぼすべての国にインターネット国家の市民がいることだ。その密度は場所によって違う。しかし国境を、自分の顧客がいる世界の端だと思ってはいけない。アメリカ人、フランス人、イタリア人など、こうした人々は世界中にいる。

では、誰がそこで事業を始めるべきか。すべての企業がインターネット国家に適合するわけではないが、どんな新しい会社にも、そこに適合する道はある。もちろん、ほかより向く製品もある。SaaSやソーシャルサービスなどの仮想的な製品は、物理的な製品より簡単に見える。しかしハードウェアのスタートアップが、この市場を使えないわけではない。Kickstarterには、世界中から支援者が集まっている。

ハードウェアでもソフトウェアでも、探しているのはファンだ。どこの出身かは関係ない

Afrostreamは、インターネット国家に直接向けた製品の一例だった。黒人としての共通のアイデンティティーを持つ、ネットでつながった世界の観客へ映画を配信していた。中心にあったのはフランス映画やアメリカ映画ではなく、黒人の映画という考え方であり、事業上の判断もそれに沿っていた。

インターネット国家が自分に合うと思ったら、徹底しよう。その顧客層を狙いながら、地元の市場にも同じだけ注意を向けようとする創業者を、私はよく見る。インターネット国家を選ぶなら、その選択を中心に事業を設計しよう。

そこには、どう広まるか、どう即席の解決策をつくるか、自分と同じように考え行動する人とどうつながりを感じるかについて、独自のルールがある。ブランドとマーケティングは、特定の国や地域だけでなく、インターネット国家全体に向けて設計しなければならない。特定の場所の人だけでなく、その集団全体に共感されるものを見つける必要がある。

そして覚えておいてほしい。インターネット国家は、文化の同質性でつながっているのであって、多文化のるつぼではない。一人ひとりに個性や物語はある。しかし製品や販売で注目するのはそこではない。全員に共通するものだ。ネットにつながり、好奇心が強く、うまく動くならどこから来たものかを気にしない。その存在は、ある種のポストモダンな個人主義の勝利である。一人ひとりが、共通の場所の中に自分の居場所を見つけるのだ。

ウェブサイトにも、それを反映させるべきだ。インターネット国家を狙うなら、なぜ所在地を載せるのか。人々はチャットやメールで話しかけてくる。どこの出身かを示して、わざわざ自分をローカルな製品にする意味は何だろう。

みんなが求めているのが製品だけなら、郵送先の住所はなぜ必要なのか

働くチームについても、同じように考えよう。Universal Avenueは、国境を越えて仕事を組織する初期の例だった。自分の事業に合うチームの構造を選べばいい。

分散したオンライン事業は、この方法を実際に示してきた。かつての成長段階で、StarOfServiceは120人を超えるチームを作り、その多くは直接会ったことがなかった。Flatは世界中の楽譜の利用者と、各地に分かれたチームを結びつけていた。これは組織の例であり、その構造をそのまままねる必要はない。

これらはほんの数例だ。しかし言いたいことは、どこで始めるかという古い葛藤に、新しい有力な答えがあるということだ。インターネット国家も世界の一部なのだから、使おう :)。

「お金、力、そして敬意。」のイラスト

お金、力、そして敬意。

創業者から「資金調達を手伝ってもらえませんか」とよく聞かれる。私には、その前に「なぜこの会社には投資家が必要なのか」と問うほうが有益に思える。その答えを理解すると、力関係が変わる。…

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創業者から「資金調達を手伝ってもらえませんか」とよく聞かれる。私には、その前に「なぜこの会社には投資家が必要なのか」と問うほうが有益に思える。その答えを理解すると、力関係が変わる。

起業家として投資家について問うべきなのは、そもそも自分がなぜ彼らを必要としているかだ。答えるには、投資家がどんな人たちで、なぜ資金を提供するのかを知らなければならない。交渉の両側を理解していなければ、本来持てるはずの力を十分に持てない。

スタートアップが資金を必要とするのはいつか。たいていは創業直後ではない。成長する必要が生じたときだ。会社がある段階に達すると、入ってくる売上だけで事業を回す限り、成長速度にも限界が来る。その速度を上げるために、投資家から資金を調達する。

投資を突き詰めると、力関係に基づく関係になる。

生き延びるために資金が必要になる前に調達しよう。存続に苦しむ事業にはリスクがある。投資家はリスクを扱う世界にいるが、危うい事業に資金を入れたがるわけではない。人によって許容度は違う。それでも選択肢が豊富なら、実際の成果と成長を示し、自分たちの資金によってさらに加速できる企業に投資する。

投資家と話しているのは、あなただけではない。その投資家に提案している起業家はほかにもいる。優れた起業家は四六時中、自分の会社のことを考えている。そのため、自社も数多くある会社の一つにすぎないことを忘れがちだ。あなたは、優れた多くの事業と目に見えない競争をしている。だから提案は「いい事業なので投資してください」では足りない。「投資先として選べるほかの事業より、私の事業が優れている理由はこれです」と伝えなければならない。

投資家も万能ではない。投資を見送る理由はいくらでもある。直前にほかの事業へ多くの資金を投じたため、次のファンドを組成するまで新規投資を抑える必要があるのかもしれない。特定の事業や、特定のタイプの創業者を探しているのかもしれない。そこにはゲームがある。各プレーヤーについてできるだけ多くを知ることが、自分の立場を強くする。

投資家は、そのために必要な金額を払う。

ヨーロッパについて、「資本が少ないから機会も少ない」という話をよく耳にする。しかし投資総額だけでは、その資金を何社が奪い合い、どれほどの競争圧力にさらされているかはわからない。初期の投資は地元で行われることが多い。会社が成長すれば、世界の資本市場にアクセスできるようになる。ヨーロッパのスタートアップがアメリカやアジアなどで資金を調達しても、必ずしも運がよかったわけではない。誰かが適切な相手を紹介したのかもしれないし、投資家が無視できないほど重要な会社になったのかもしれない。

調達額は、そのお金で何ができるかと合わせて比較しよう。採用、オフィス、顧客獲得の費用は市場によって大きく異なる。ヨーロッパの調達額をアメリカの調達額に換算する、普遍的な比率などない。見出しに載る金額だけでなく、その資金で確保できる事業継続期間と、到達できる目標を比べるべきだ。

コストが高いからといって、非効率とは限らない。集積したエコシステムは大都市の中心部に似ている。人材や資源へのアクセスがよいために、価値も費用も高くなる。それでも別の場所で優れた会社を作ることはできる。郊外に美しい家を建てられるのと同じだ。早く投資した人に最大のリターンがもたらされると考えると、投資家はより早い段階へと競い合い、資金に対する価値を最大化しようとする。

勝者総取り。この価値の最大化が大切なのは、投資の世界に勝者総取りの性質があるからだ。優れた案件には競争が集まり、交渉条件は流動的になる。資金調達を固定されたものと考えてはいけない。事業に勢いがあり、投資家が関心を示していれば、評価額も調達できる資金も変わりうる。

早く参加したいという圧力と、比較的狭い投資家の世界が重なり、順調な資金調達にはバタフライ効果が生まれる。起業家は最初、誰に資料を見せ、誰と話すか、すべてを管理したくなる。だが資金調達を最適化するには、すべてを支配しようとしてはいけない。小さな出来事、短い面会、予想しなかった細部が、最終的な契約に不釣り合いなほど大きく影響することがある。

投資家は万能ではない。結局のところ、良い案件か悪い案件かを感覚で判断する。最終的な答えが出るのは、時間がたってからだ。しかし感覚は最初から存在する。その感覚を作るのは一種の技術だからこそ、一見小さなことが大きな結果につながる。数字もデューデリジェンスも、結局はその感覚を裏づけるためにある。これは良い案件なのか、悪い案件なのか。

真実は必ず表に出る。

起業家にとって、案件の良し悪しは「何を、誰から、どうやって、なぜ」という四つの問いを中心に回る。どの資金を、いくら受け取るのか。小切手には何が書かれているのか。これは簡単だ。次に、誰が出すのか。こちらは難しい。お金はすべて同じではないからだ。賢い投資家から来て、さらに次の資金へつながる良いお金もあれば、会社を壊す有害な投資家から来る悪いお金もある。そして、どう受け取るのか。スタートアップでは不思議なことに、「いくらか」を決めてから条件を交渉するため、ひどい法的条件に行き着くことがある。資金を受け取らないほうがよいほどひどいものもある。悪い投資家は条件を複雑にし、良い投資家は簡潔にする。

最後に、なぜか。「なぜ」は、起業家と投資家の認識が食い違う最大の原因だ。投資家が意図を率直に話すとは限らず、起業家も取引を失うのを恐れて、自分に嘘をつくことがある。

しかし、その嘘には代償がある。相手と寝るためだけに嘘をつくのと同じだ。短期的には通用するかもしれないが、長期的には維持できない。起業家は、自分にも投資家候補にも正直であるべきだ。会社に何を望むのかを誰も正直に話さない取引を結ぶくらいなら、取引を失うほうがいい。真実は必ず表に出る。

多くの取引で、起業家は「何を」だけを最適化する。本来、最適化すべきなのは「誰から」と「なぜ」だ。経験の浅い起業家にとって、この二つは大きな違いを生む。少なくとも、根本的に善良で、あなたを助けたいと考える人たちと会社を育てることになる。その関係は、できれば長く続く会社の一生を通じて、双方に利益をもたらす良好な投資家関係の土台になる。

調達できるときに調達する。

「いつ調達すればよいとわかるのか」。少し逆説的に聞こえるかもしれないが、答えは単純だ。調達できるときに調達する。だからこそ、できる限り自力で成長し、顧客の支持と実績を積み上げることが大切なのだ。それが選択肢を開く。銀行口座の残高が増えれば、会社のリスクは小さくなる。ただし、その機会は自分の都合だけで決まるわけではない。

加速するために調達し、調達できるときに調達する。では評価額はいくらにすべきか。スタートアップの世界で最も人気のある話題だが、どう決めればいいのか。実は評価額には二つある。仮の評価額と、本当の評価額だ。

本当の評価額の土台は一つしかない。予測可能な収入だ。時間を無限に取れば、評価額は結局、収入の何倍かに落ち着く。それ以外のものは残らない。いま投資する人は、将来の会社のキャッシュフローを得るために、一定の上乗せ分を払っているからだ。

将来のキャッシュフローを現実的に予測できるまでは、私が仮の評価額と呼ぶものを交渉している。創業者は楽観的になりがちで、投資家候補はそれより悲観的かもしれない。目標は両者の均衡を見つけることだ。初期のラウンドが悲観側に偏りすぎると、創業者にとってほとんど利益がなくなる。15万ドルと引き換えに会社の30%を渡す場面を想像してほしい。私の考えでは、そのような希薄化は起業家が受け入れるべきではない。

どの会社にも、どの市場環境にも当てはまる評価額の下限などない。変わらず大切なのは、そのラウンドで実現できる前進と引き換えに、どれだけの持ち分を渡すかだ。事業モデルを証明する前から会社を弱くする条件なら、売上、キャッシュフロー、実績を改善してから交渉に戻ればいい。事業の実績が交渉力を生む。

事業計画書はいったん忘れよう。

事業計画書や予測モデルを作ることに振り回されなくていい。創業初期のスタートアップでは、事業計画書に意味はない。事業計画書のある会社にしか投資しないと言う投資家も、本当の理由を話しているわけではない。こう伝えてみればいい。「これが予算で、このお金でやりたいことはこれです。売上がどうなるかわからないので事業計画書は作りません。このラウンドの目的は、信じられる事業モデルを確立することです」。投資家は投資するか、しないかを決める。投資しないとしても、事業計画書を渡さなかったからではない。投資したくなかったからだ。それだけのことだ。

起業家は、資金調達を会社の初期に必ず通る段階だと考える。それが問題だ。そう考えると、誰に対しても「ノー」と言えなくなる。自分が何をしているかを適切に捉えていないため、求められたことを何でもやってしまう。約束しよう。事業計画書の作成に2週間を使うより、売上を作るために2週間を使うほうが、多くを得られる。

実体のある会社ができ、シリーズBの調達を考える段階なら、事業計画書が重要になる。データがあるからだ。しかし初期の調達で、仮説を検証し、自分たちの解決策に誰かがお金を払うか確かめている段階には、その土台がまだ存在しない。

起業家として目指すべきなのは、次の原則を実行できる力を自分に持たせることだ。悪いお金を受け取るくらいなら、お金がないほうがいい。悪い会社を持つくらいなら、会社がないほうがいい。

投資の世界でも、VCは独特の存在だ。

理由の一つは、VCはどのみち報酬を受け取るということだ。投資は彼らの仕事であり、報酬の高い仕事でもある。そのため、起業家であるあなたとは気にすることが違う。彼らのお金を受け取ることに遠慮はいらない。資本をリスクにさらすこと自体が仕事なのだ。成功すれば大きく報われる。失敗しても、彼らは次に進む。次にどうするかを考えなければならないのは、あなたのほうだ。

彼らには独自のルールがある。仕事の構造上、VCも起業家なのだ。その市場には一定のルールがあり、そこからイグジットの話が出てくる。資金を渡すVCは、いつかそれ以上の資金が戻ってくると期待している。VCの資金を狙うには、多くの力学を理解する必要がある。ファンド内部の経済構造は複雑で、いつでもどの会社にでも投資できるわけではない。あなたの会社ならなおさらだ。

VCだけが道ではない。ほとんどの会社はVCから資金を受け取らない。一方、スタートアップの世界でVCが与える影響は非常に大きい。唯一の道ではなくても、多くの有力企業がどこかの段階で利用する重要な道ではある。

VCの資金に中間はない。それを使う道を選ぶと、結果は1か0になる。成果を出し、新たな上司に報告し、会社で起きていることを説明しなければならない。突き詰めれば、VCの道を進むとは、巨大になるか、終わるかを選ぶことだ。

投資家に見つけてもらおう。

結局、優れた起業家は、会社を作ることこそ投資家を見つける最良の方法だと知っている。実体があり、人が求めるものを作れば、投資家のほうからやって来る。その交渉力を持つことが、会社を指数関数的な成長へと近づける最善の方法なのだ。

「なぜやるのか、わかっているか」のイラスト

なぜやるのか、わかっているか

お金を稼ぎたいという理由で起業を決めてもいい。フランスでは、その考えに抵抗があるが、事実だ。お金を稼ぐことは悪くない。ただし、本当に優れた会社を動かすのは、使命と文化に対するビジョンである。 使命があれば、普通の会社にはできない目標に届く。…

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お金を稼ぎたいという理由で起業を決めてもいい。フランスでは、その考えに抵抗があるが、事実だ。お金を稼ぐことは悪くない。ただし、本当に優れた会社を動かすのは、使命と文化に対するビジョンである。

使命があれば、普通の会社にはできない目標に届く。

まず、最高の人材を引きつけられる。報酬が同じなら、優れた人は、優れた使命を追う会社へ向かう。会社づくりは、ビジネスモデル、市場、戦略だけの問題ではない。結局、才能ある人が一緒に進みたくなる説明が必要なのだ。それがなければ一人きりで、何も築けない。

次に、使命は苦しい局面を乗り切る助けになる。続けられるのかと疑う瞬間がある。そのとき、合理的な議論では支えきれないことがある。しかし信じる強い使命があれば、進み続けられる。

そして最後に、使命は素早い判断を助ける。明確な使命があると、議論の答えも明確になる。会社の全員が、なぜ自分たちはこれをしているのかを理解できる。

だから、最初から使命が必要だ。

完璧な使命が必要という意味ではない。起業のほかの多くのことと同じで、進めば変わっていく。運がよければ、使命が成功を生み、成功が自信を生み、自信がさらに大きな使命へつながる好循環に入れる。

使命が形になる場の一つが、企業文化だ。日常の中で育てる文化を、真剣に扱う必要がある。企業文化とは何かについては、混乱が多い。福利厚生、オフィスの設計、休暇、発言、書き留めた言葉とは関係がない。Googleが革新的なのは、服装規定がなく短パンで出勤するからではない。革新的だから、その結果として服装を誰も気にしなかったのだ。文化は表面的な特徴ではなく、誰を採用し、昇進させ、高い報酬を払うかによって築かれる。たとえば「男女平等と同一賃金を信じている」と言うのは簡単だ。しかし問うべきことは、実際の給与台帳がそれを示しているかだけである。示しているなら、賃金格差を真剣に考える文化がある。そうでなければ、ほかのあらゆる会社と同じだ。

文化は偽れない。

考えること、言うこと、やることが、完全に一致していなければならない。大半の会社では、そうなっていない。ちなみに、文化は「よい」ものでなくても、正直で本物であることはできる。毎年、成績下位20%の社員を解雇する銀行は、よい会社とは言えないかもしれない。しかしそれを信じ、公に言い、実行するなら、少なくとも正直で本物だ。冷酷なら冷酷であれ。協働的なら協働的であれ。ただし会社の中心にある文化は、自分自身の一部になると覚えておこう。DNAのようなもので、一晩では変えられない。

理想的には、文化はつくるより、表現するものだ。自分、共同創業者、最初のチームの中に、自然に存在するべきである。その表現も自然で、選別的でなければならない。定まっていない文化は、誰でも受け入れ、採用した相手に合わせて形を変える。しかしよい文化は、受け入れるのと同じくらい多くの人を受け入れない。価値観を示すなら、全員が賛成する空疎な言葉にしないこと。「革新」は文化ではない。反対側に誰がいるのか。「私たちは革新しません」という看板を出す会社があるだろうか。それは価値観ではなく、ただの流行語だ。

本当の価値観には、反対の価値観がある。

その反対側も、強い価値観である。Facebookが掲げたオープンさを考えよう。根本から反対する人がいるので、本物の価値観だ。正反対の価値観を掲げて始まった会社さえある。Snapchatがそうだ。Facebookは公開と永続的な共有を軸にし、Snapchatは忘れることと記録を閉じることを目指した。両方に価値観があり、それが企業文化の一部となり、数十億ドル規模の会社になる強みになった。もちろん、規模には差がある。

価値観は、自分が戦うに値する選択を表す。他人はそれに反対して戦える。そのような価値観は、直面する多くの判断を簡単にする。そして会社を強くする文化を生む。初日からやろう。時間とともに変わってもよいが、文化は最初から持つことだ。

だから採用では、能力だけを見てはいけない。ヨーロッパでは企業文化を根づかせるのが苦手な人が多く、能力こそ最も重要だと考えがちだ。しかし能力は変えられ、伸ばせる。一方、人の文化を変えるのは難しい。

つながるべきものは、つながる。

仕事の世界では、多様性を増やす必要があるとよく話す。しかし企業文化は同質である必要がある。人種、性別、学校、国籍の話ではない。加わる人が、共通の文化と心構えを持っているという意味だ。

創業チームでは、共通の文化的な背景が重要になる。世代が違えば、コミュニケーション、技術、仕事についての前提も違うかもしれない。年齢だけでチームの成功が決まるわけではないが、口にされない違いは協力を難しくする。なじみのある言葉が全員に同じ意味を持つと思い込まず、共同創業者が世界をどう見ているかを知ろう。

最初に同質の文化を築いたら、次はそれを大きな組織にどう適用するかだ。Googleには「邪悪になるな」という有名な言葉があった。本物の価値観だが、定義は簡単ではない。「邪悪」とは何か。あらゆる場所で、あらゆる人のデータを集めることは邪悪か。議論できる。しかし「邪悪になるな」には強い感情的な力があり、従来の事業上の論点より上に、その価値観を置く。将来どんな会社になりたいかを議論させる一方、現在の判断も明確にする。それがよい価値観の印だ。今日の判断を簡単にし、明日の可能な判断にも方向を与える。

Amazonには、もっと具体的な例があった。「なぜこんなにドアがあるのか」というものだ。ドアは机よりずっと安かったため、オフィスの机はドアでできていた。訪問者が来るたび、社員が座るたび、Amazonは一銭一銭が重要な小売業なのだと思い出す。「一銭を大切に」という言葉を壁に貼ることもできる。しかし、それを言わない会社があるだろうか。Amazonでは、会社が何を大切にしているかを瞬時に示す象徴になったことで、ずっと強い力を持った。

他社の文化をまねようとしないこと。

他社の文化について、一日中読んでもいい。しかし「導入できる最高の文化は何か」と考えているなら、最も重要な点を理解していない。

自分にとって自然な文化が必要なのだ。ほかをまねようとすると、悪い判断をする。何のために戦い、敵は誰なのかを知る必要がある。すべてのスタートアップは、何か、あるいは誰かと戦っている。自分たち独自の敵が、自分たち独自の文化を前へ進めるべきだ。

ある会社の成功した文化が、ほかの会社より「優れている」わけではない。悪い文化とは、選択しない文化だ。従来の企業社会には、すべてを求めて何も選ばない会社があふれている。だから問題を抱え、発言を信じてもらえなくなる。「よりよい」文化について言えるのは、一貫し、目に見え、共有されていることだ。

壁に格言を貼ることではない。いくらポスターを貼っても、その言葉が会社の中心でどう生きているかが見えなければ、ただの嘘だ。だから優れた人材だけを採用し、しかも「ずっと探していた仕事が、やっと見つかった」と感じる人だけを採用する必要がある。チーム全員が同じ目標に向かう場所だ。見つけるのは難しい。しかし待つ価値がある。

「なぜ」に集中しよう。何をするかは簡単だ。どうやるかも簡単だ。しかも「何」と「どう」は会社の一生の中で変わる。しかし「なぜ」、特に偽りでない「なぜ」は難しい。「なぜ」が構造を与え、外からは不可能と思われたことを実現するチームを生む。

使命と文化の議論は、すべて仕組みの設計に行き着く。

仕組みの設計とは、目指す行動と文化を促す誘因をつくることだ。手順やルールを一つ導入するたびに、社員と会社に影響が及ぶ。だから会社の初期に、早すぎる導入をしてはいけない。その段階になったら、一つひとつの手順の影響を慎重に考える。何を実現したいか、副作用は何か、自分ならどう反応するか、どう反応してほしいかだけでなく、周囲の人が実際にどう反応するかを考えよう。

初期に身につけるとよい習慣の一つは、定期的に一緒に食事をすることだ。営業やプログラミングとは関係なくても、きちんと予算を割く価値がある。食事を共にすると、結びつきとコミュニティが生まれる。一緒においしく食べ、飲むことは、互いを大切にする集団を育てる。簡単そうに聞こえるが、こうした仕組みに継続して努力と資金を注ぐ会社は少ない。望む文化が日々の仕事の中で具体的に繰り返される場所を作ることが、大切なのだ。

乾杯 ;)。

「大きく育てる覚悟はあるか。」のイラスト

大きく育てる覚悟はあるか。

私と一緒に仕事をする創業者たちは、そのうち私を嫌いになり始める。何度も同じことを言うからだ。スタートアップを定義するのは、成長である。インターネット上で事業をしているからスタートアップなのでも、技術に集中しているからそうなのでもない。最も簡潔な定義は、ポール・グレアムの言葉にある。スタートアップとは、成長だ。…

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私と一緒に仕事をする創業者たちは、そのうち私を嫌いになり始める。何度も同じことを言うからだ。スタートアップを定義するのは、成長である。インターネット上で事業をしているからスタートアップなのでも、技術に集中しているからそうなのでもない。最も簡潔な定義は、ポール・グレアムの言葉にある。スタートアップとは、成長だ。

スタートアップが人を驚かせるのは、ほとんど信じられないほどの成長を実現するからだ。

Uberの初期の拡大は、その好例だ。人々が驚いたのは技術だけではなく、ドライバー、顧客、売上が増える速さだった。成功するスタートアップは、短期間に通常の範囲を大きく超える成長を実現できる。

だから起業家は成長にこだわらなければならない。「いまやっていることは成長に役立っているか」と自分に問いかけよう。役立っているなら続ける。そうでなければやめて、成長につながることを探す。

それは居心地のよい状況ではない。成長には痛みが伴う。計画どおりには進まず、ロードマップにも従わない。制御できると思うなら、夢を見ている。

だから、外からどう見えるかでスタートアップを評価してはいけない。本当の状態を知りたいなら、創業者を見に行こう。ひどくストレスを抱え、いつも遅れ、ようやく水面から顔を出しているように見えるだろうか。それなら、順調なスタートアップかもしれない。あらゆる常識を破る速さで成長するとき、どんな創業者も苦闘する。

成長は、二つの方向に働く。

強い成長は、ほかの問題を隠してしまうことがある。会社が前進している間、投資家は辛抱強くなりやすい。成長が鈍り、目標に届かなくなると、その忍耐は消える。突然、すべての部署が調べられ、リーダーが交代し、それまで許容されていた弱点が急ぎの課題になる。成長していても、その土台となる会社が健全である必要はなくならない。

それでもスタートアップでは、この状況を受け入れる必要がある。成長こそが、本当の価値を作る道だからだ。その価値が、自分たちの取り組みすべてを最後に証明する。

どんな会社にも、成長が止まる日は来る。

初期に大きな成功を収めると、それが永遠に続くと思いたくなる。しかし成長は、いくつもの段階を経て進む。私たちは、無限へ向かって右上に伸び続ける完璧な指数関数のグラフを思い描きがちだ。現実には、伸びる時期と横ばいの時期がある。横ばいになったときこそ、会社の内側の仕組みが本当に評価される。それに備え、成長が鈍ったときに向けられる厳しい視線にも備えなければならない。

成長を適切に扱うには、前を見続け、成長は作り出すものだと理解する必要がある。勝手に起きることではない。完璧なプロダクトを作り、2人に渡して、指数関数的な成長を待てばよいわけではない。そもそも人は面倒くさがりだ。自分が使っていても、誰にも話していない製品がいくつあるか考えてほしい。逆に、大好きで人に勧めても、誰も使ってくれないものもあるだろう。だからこそ、成長を自ら取りに行かなければならない。

初期に成長を取りに行く戦略と、転換点を越えてから成長を管理する戦略は、違ってよい。

私は、急成長する企業が、製品、業界、目標に応じてまったく異なる戦略を使う姿を見てきた。Save、Trusk、Agricoolのかつての成長段階も、その多様さを示していた。ある事業に合う戦略が、そのまま別の事業にも合うとは限らない。

野心のある会社に共通するのは、より大きな使命を思い描く力だ。Agricoolは、人々の食べ方を変えることを語っていた。ダミアン・モランはSaveの志を、割れた画面を交換することにとどまらず、端末を救うことだと表現した。その大きさの目的があると、成長が苦しくなってもチームは前へ進みやすい。それがなければ、成長は恐ろしいだけで、挑む価値のある冒険にはならない。

速く成長するには、不可能に見えるほど強く、大きく押し進めるしかない。

誰も口にはしないが、成長している自分の会社が本当に消えるかもしれないと悟ったとき、どんな創業者も心の奥に恐怖を抱く。5年後や1年後の話ではない。明日、会社がなくなるかもしれない。優れた創業者は、その恐怖と、すべてが消えうるという認識を使って、前へ進み、波に乗り続ける。

だから考えすぎたり、完璧に計画しようとしたりしてはいけない。何かに6か月かかると言えば、それ以上かかるだろう。期限を決めずに「これをやる」とだけ言っていれば、もっと早く実現したかもしれない。急成長は日程表に沿っては起きない。到達点を通じて起きる。その到達点はKPIで定め、いつ実現するかをカレンダーに縛りつけないほうがいい。

「3か月でベータ版を終える」と言うことが、何の役に立つだろう。それより「ユーザーが1万人に達したら、ベータ版を終える」と言うほうが理にかなっている。そして、できるだけ早く1万人へ到達するために動く。それなら成長に合わせて対応できる考え方と目標になる。

起業家以外に、成長を恐れるのは誰か。投資家だ。

成果が見える前にお金を使うことを嫌がる投資家もいる。有益な吟味と、成長への反射的な恐怖を区別しなければならない。特に耳を傾けたいのは、いつ急成長を目指す価値があるかを、経験に基づいて理解できる人だ。

自社の成長と内部の到達目標を理解していれば、不安になり始めた投資家の声に従わなくてもよい場面を判断できる。起業家であるとは、いま何が起きていて、それが成長をどう前へ進めているかを正しく評価することだ。

この状況の根底には、スタートアップの大きな問題がある。関係者ごとに、引き受けようとするリスクの水準が違うのだ。銀行員はリスクをゼロにしたい。インターンの許容するリスクは無限大かもしれない。本人にはあまり関係がないからだ。投資家の許容度は銀行員より少し高いが、大差はない。そして起業家のリスク感覚は、会社が死ぬことへの恐怖に根ざしている。その恐怖があることは悪くない。それが、ほかの人なら不可能だと思うことへ自分を押し出す。ほかの人のリスク許容度では、踏み出せないことへ。

成長は難しいが、短期の成長は見えやすい。

グロースハックの助言はいくらでもあるが、どれも慎重に受け止めよう。グロースハックは化学反応に似ている。すでに顧客の支持と自然な成長がなければ、実施してもあまり役に立たない。本当に熱を生むには、適切な要素の組み合わせが必要だ。

手作業で作る成長には限界がある。友人全員が使い始め、Facebookの知り合いも参加し、さらに遠くへ広げる必要が出てきたら、グロースハック、業務の自動化、マーケティングなどに進む。その段階に達したかを知る方法は、指標を追うことだけだ。

指標の目標は、他社との比較で決めない。

誰かと自分を比べてはいけない。自社の成約率が1.5%で、業界のほかの会社が0.75%でも、自分たちのほうが優れているから順調だと思うべきではない。1.5%をどうすれば1.6%に、さらに1.7%にできるかを問うべきだ。

自分たちの数字そのものを追うからこそ、不可能に見えるところまで進める。目標を相対化して他社と比べ始めると、相手ほどできていないと落ち込むか、相手よりうまくいっているから十分だと満足するかのどちらかになる。

伸びるか、退くか。

最初の週に公開し、ユーザー数、成約率など、自分たちにとって最も重要な指標を見る。そして毎週、その数字を少しずつ押し上げていく。どうなるかはわかるだろう。小さくても具体的な数字が毎週着実に増えれば、やがて非常に大きな数字になる。

最後の生命線となる指標は売上だということも忘れてはいけない。成長を測るために何を追っていても、最も重要なのは売上だ。まずユーザーを増やし、売上は後で考えるという発想は捨てよう。筋が通らない。やめるべきだ。

結局、スタートアップを始めたいかどうかは、成長の狂気じみた面に心が動くかどうかにかかっている。

自分に向いているかを考える一つの方法が、アキレウスの問いだ。アキレウスが子どものころ、母は、彼には無名のまま幸せに生きる道と、若くして栄光のうちに死ぬ道があると知った。トロイア戦争へ向かうかを決めるとき、アキレウスはその二つの運命から選ばなければならなかった。故郷で暮らし、子や孫を持ち、やがて忘れられることもできた。しかし彼は逆の道を選んだ。栄光を選び、若くして死んだが、その名は数千年にわたって生き続けている。

幸せになり、お金を稼ぐ方法は世の中にたくさんあり、スタートアップでの成功を目指す必要はない。二つの道から選べる。その道を見極め、自分の意思で選ばなければならない。永遠の選択である必要はない。いま栄光を選び、5年後に考えを変えてもいい。ただし、スタートアップを始めることは、栄光へ向かう道に踏み出すことだ。つらく、難しく、危険で、誰にでも向いているわけではない。自分に合っているかを決めるのは、あなただけだ。

「ブートストラップは、ただの決まり文句ではない」のイラスト

ブートストラップは、ただの決まり文句ではない

まず、ブートストラップを簡単に定義しよう。外部からの資金を求める前に、自分の資源と売上を使って会社を成長させる方法だ。 そうして育った会社を、気づいていなくても知っているはずだ。…

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まず、ブートストラップを簡単に定義しよう。外部からの資金を求める前に、自分の資源と売上を使って会社を成長させる方法だ。

そうして育った会社を、気づいていなくても知っているはずだ。

GitHub、AppSumo、MailChimpなどは、長い間、ブートストラップで開発し成長した。ここで言うのは、コンサルティングなどで稼ぎながら製品をつくった会社ではない。初日から製品を開発し、顧客に売るという、純粋な意味でのブートストラップだ。

それは間違いなく難しい。しかし難しい分、気持ちの面でも金銭面でも報われる。起業家にとって、満足した顧客ほど嬉しいものはない。事業の面でも、売上が伸びる会社は全員を喜ばせる。資金調達の日が来たときには交渉力となり、力を自分の側に置ける。

だから、資金調達の記事や助言には、その助言で得られる交渉力が、売上を伸ばして得られる交渉力に比べてどれほど小さいかを、注記すべきだ。「金がものをいう」と言うのには理由がある。自分にお金があれば、交渉で優位に立てる。相手だけが持っていれば、力はすべて相手側にある。たいていは、交渉の席を立ってもよいと思っている側が勝つ。

なぜ起業家は、売上に集中する前に資金調達の助けを求めがちなのか。一つの理由は、テックの記事やブログで繰り返されるおなじみの物語だ。誰かがアイデアを思いつき、資金を調達し、そのお金で会社を成功させる。この型は書きやすく、クリックされ、共有されやすい。そのため繰り返され、やがて唯一の道に見えてくる。

よい会社は、資金調達の機会が向こうから来るようにする。

ほぼすべての成功する会社には、資金調達が意味を持つ時点が訪れる。よい会社は、本当の成長と実際の顧客から生まれる交渉力を、自分の側に持って調達する。

よい会社は、よい起業家から生まれる。よい起業家は、何もないところからすばらしいものを築ける。そうなるために、何ができるだろうか。

創意工夫して、安く済ませる。

まだプロダクト・マーケット・フィットを探し、うまくいき始めたことを示す転換点を探している段階では、できる限りお金を使わないこと。少しお金があっても使わない。少なくとも、持っていることを忘れよう。若い起業家は誰でも失敗する。お金を払って失敗することも、無料で失敗することもできる。

お金がなければ、想像力を使って問題を解かざるを得ない。お金があったら探しもしない工夫や抜け道が見つかる。起業家は、問題にお金を投げつければよいという考え方をしてはいけない。

始めるのにお金は要らない。お金は道具であり、必要条件ではない。いずれ成長や速度を上げるために必要になるかもしれない。しかし始めることを妨げる理由であってはいけない。

お金がないことは、初期には助けにさえなる。最初の従業員を誘うとき、お金がなく、給料を払えないかもしれない。それでも手伝おうとする人は、あなたと事業を強く信じていて、そのエネルギーが、数量化できない形で事業を前へ進める。一度調達すると、急に仕事を求める人がたくさん来る。本当に打ち込む人と、給料だけを求める人を、どう素早く見分けるのか。できないと言うのではない。もちろんできる。ただ、お金が両刃の剣になる一例であり、初めての起業家には特にそうなのだ。

両刃の剣ではあるが、お金は避けて通れない要素でもある。ブートストラップでは、入ってくる売上が成長に使える資金になる。そのため財務の問題は、資金調達した場合よりも重要になる。役立つ財務の原則がいくつかある。

今の現金は、後の現金より貴重だ。

だから、リスクを対価に使おう。今日100ドルを節約でき、そのために5年後に1,000ドル払うことになるなら、やる。その節約分を使って、生き残り、成長し続けられる。

具体例を考えよう。デザインとブランドが重要な業界で、使えるお金が3万ドルあり、完璧なデザイナーを見つけたとする。問題は、費用が7万5,000ドルかかることだ。選択肢は二つある。今の予算には収まるが、会社の役に立たない劣ったデザインを選ぶか。あるいは工夫するか。その理想のデザイナーに今3万ドルを払い、たとえば2万個販売という節目を達成したら、残りの4万5,000ドルではなく9万ドル払うと約束してはどうか。今と将来の現金の相対的な価値を認めた提案になる。

大切なのは、そうした取引では、どちらも相手に恩を売っているわけではないことだ。全員が喜んで合意するなら、双方にとっての機会になる。

ただし、株式ではやらないこと。株式は永続する。現金でないからといって、本物の価格ではないわけではない。双方によい取引には気前よくあろう。しかし愚かであってはいけない。

ブートストラップでは、キャッシュフローの管理が生死を分ける。

基本は、早く回収し、遅く払い、高く売り、安く買うことだ。支払いを遅らせられれば、その分だけ現金を手元に置き、成長に使える日が増える。少しずるく見えるかもしれないが、周りもあなたへの支払いを遅らせる。早く払い、遅く回収すれば、周囲の全員の銀行になってしまう。キャッシュフロー管理が、今日や明日だけでなく、長期の成長にどう影響するかを、早いうちに理解する必要がある。

もちろん、必ず期日どおり払うべき相手もいる。従業員はその一つであり、だから採用にはとても慎重でなければならない。以前も言ったが、もう一度言う。悪い会社は、採用で問題を解こうとする。よい会社は、採用の失敗がさらに問題を増やすと理解している。信頼でき、自分が理解している仕事をする人だけを採用しよう。

採用したら、自分が最もよく知っている仕事を任せよう。

多くの人は逆をやる。得意なことを自分でやり、よくわからないことを任せる。しかしそれは最悪の管理方法だ。よく知る仕事ほど、品質を確かめやすいからだ。得意な仕事を任せれば、別のことを学び、上達する時間ができる。そしてそれも任せられる。最終目標は、すべてを任せることだと忘れないでほしい。そのためには、会社のあらゆる仕事を理解し、見守れる必要がある。

(インターンにも注意しよう。成長中で、プロダクト・マーケット・フィットを得た会社なら役立つ。しかしその前には、インターンが会社を潰しかねない。自分が何をしているのかわからないのに、何も知らない人に代わりにやらせるからだ。インターンの面接を楽しむのをやめ、本当に機能するものをつくろう。)

その考え方が身についたら、徹底して売ろう。最初の販売先は、自分の人脈と個人的なつながりであるべきだ。MenuNextDoorは、開始から数か月で毎週何千食も扱い、すばらしい自然成長を遂げた例だった。なぜか。創業者が最初に、自分の人脈へ徹底的に売ったからだ。食事を直接届け、お金を集めて配り、顧客に写真を撮ってSNSへ投稿してもらい、届く範囲を広げるために自分たちでできることは何でもした。勢いはそうして得る。強く動き、友人を巻き込もう。自分の人脈に売れなければ、その外にも売れない。

節約し、会社と現金を賢く管理し、周囲の全員に売る。これを実践できれば、厳しい環境でも大きな強みになる。投資家を追いかける側から、追いかけられる側になる。そして大きな利点の一つは、シードラウンドを飛ばして、直接シリーズAへ進める可能性だ。

シードを飛ばすことは、会社の一生に大きく影響する。

後のラウンドでも、持分をずっと多く保てるからだ。たとえばシードラウンドで20〜30%、場合によっては40%以上を、比較的小さな資金と引き換えに渡すとする。かつてのヨーロッパでは、それが最大100万ドル程度ということもあった。ブートストラップで売上を伸ばせば、その地点まで自力で行ける。その後、シリーズAで20〜30%を渡すとしても、より高い評価額で、シードの希薄化を受けずに済む。25%を二度渡す代わりに、一度だけにする。会社が続くほど、大きな違いになる。

それだけではない。何もないところからつくれたなら、シリーズAの調達で得られる信頼は、とても大きい。初期のスタートアップの評価は難しく、まだ実績がなければ高く見てもらいにくい。アイデアに価値はなく、事業に価値があるのだ。しかし、自分の意志と意欲だけでつくる力を示せれば、あなたへの投資が相手にとってよい取引だと納得してもらいやすい。その力を持って交渉の席に着くことには、金に値する……いや、株式と現金に値する価値がある。

「集中しよう」のイラスト

集中しよう

起業家が最もよく聞く助言の一つが、「集中しろ」だ。あまりに多くの場面で繰り返されるため、その意味が曖昧になる。壁の小さな塗料の染みを見つめるのにも集中力は要るが、スタートアップの役には立たない。…

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起業家が最もよく聞く助言の一つが、「集中しろ」だ。あまりに多くの場面で繰り返されるため、その意味が曖昧になる。壁の小さな塗料の染みを見つめるのにも集中力は要るが、スタートアップの役には立たない。

そこから、大切なことが二つわかる。集中とは、単に一つの作業に意識を向けることではない。そして、事業の成長に役立つものでなければならない。集中は、目標、その達成への道筋、その道を前に進む一歩が何なのかを、はっきり理解することから始まる。

集中のための二つのルール。何をするにも全力で取り組むこと。そして、優先順位を賢く決めること。

第一のルールは、やっていることに自分の力をすべて注ぐということだ。顧客と話しているなら、どうすれば製品を購入したり導入したりしてもらえるのかに、完全に集中する。切迫感を持って動こう。効率がよいほど、誰が製品に関心を持っているかについて多くの情報が集まり、次の販売に素早く生かせる。自分が何かを中途半端にやっていると気づいたら、仕事のやり方か、その作業自体の価値を見直す必要がある。

その見直しは、第二のルールである賢い優先順位づけの一部でもある。何が価値を生むのか。起業家の前には、いつもやることが山ほどある。価値を生むものもあれば、生まないものもある。成長に貢献するものもあれば、しないものもある。自分でやっている手作業のうち、人に任せられるものはないか。起業家が、表計算への入力や帳簿の整理に時間を費やす理由は何か。ソフトウェア、Upwork、フリーランス、オンラインの業務委託を使える時代だ。使おう。時間を節約するのを手伝ってくれる人はいる。別のところでも話したとおり、時間はすべての起業家にとって最も重要な資源だ。

成長に直接つながらない仕事を、無視してよいという意味ではない。

たとえば会計は法的な責任であり、やらないという選択肢はない。自分が集中していないことも、完了させなければならない。会社を成長させはしないが、それでも必要な仕事が2割ほどあると理解して、賢く扱う必要がある。できる限り効率化し、自動化することを身につけよう。それによって、起業家である自分にしか扱えないことへ集中できる。

初期のスタートアップで、何を優先すべきか。

顧客と話し、製品を開発すること。それだけだ。これを直感的に理解する起業家には、いつも感心する。Algoliaの初期のチームは、特に集中して成果を上げた例だった。初日からその集中ぶりが見えた。できるだけ多くのコンピューターに自社のソフトウェアを入れることが、最優先だった。人に会って話し、クリックされるかどうかもわからないリンクを後からメールで送るという意味ではない。Algoliaのチームは人に会い、その場で顧客のノートパソコンを開いて、代わりにインストールしていた。初期の勢いはそうやって築いた。集中し、何も偶然任せにしなかったのだ。その後は利用者が自分で導入するようになり、チームは別の仕事に集中できた。しかし初期には、そういう集中とエネルギーが必要だ。

起業家にとって最大の気を散らすものは何か。受信トレイだ。

メールの大きな問題は、誰かが書いてきたら返事をする義務があるという古い考えに、多くの人がしがみついていることだ。これは、手紙を書くのが簡単でなかった時代の習慣に由来する。書くのに時間がかかり、紙を買い、切手を買い、郵便局へ行く必要があった。それだけのことをして手紙をくれた相手に返事をするのが礼儀だった。今、人に書き送るのに障壁はない。受信トレイへの参入障壁はゼロだ。コピーして貼りつけたり、短いメモを送ったりするだけでいい。誰でも書き送れるのだから、自分の集中すべき範囲に入らないものは、無視してもよいはずだ。

ただし、受信トレイの中で集中すべき部分もある。顧客からのメールだ。顧客のメールをインターンが管理するサポート用アドレスへ送る会社は、私には理解できない。これは最も重要なやり取りだ。貴重なユーザー情報を与えてくれて、顧客との結びつきを生む。私の助言は単純だ。会社のサポート用アドレスはCEOの受信トレイであるべきだ。CEOは、本当にすべてを処理できなくなるまで、一件ずつ返事をする。その時点で初めて任せ、顧客の幸福を担うサポートチームをつくる。ただし、その後も同じだけの気配りを続けなければならない。大切なことだからだ。

すべては集中の大きな利点につながる。集中こそ、自分が正しいか間違っているかを見極める最善の方法なのだ。

たとえば、若い起業家は皆、「ユーザーは誰ですか。市場はどこですか」と聞かれる。そしてこう答える。「私の事業はすばらしいので、誰もが好きになります。市場は全員です!」

それは焦点の定まっていない考え方であり、自分が正しいのか間違っているのかを教えてくれない。全員を狙えば、10代も、大卒者も、中年女性も、引退した高齢者も対象になる。集まるデータはひどく薄まる。自分のやることへの確信は得られないし、事業の奥で何が起きているかを読む勘も育たない。

代わりに、「市場は10代だ」と決めたとしよう。本当に10代に集中する。しかし誰も製品を使わない。一方で、30〜35歳の利用者が増えていると気づく。10代は自分の市場ではないとすぐにわかり、その人たちに売り続けて時間を無駄にしなくて済む。集中していたからこそ、市場区分を変えるためのデータが得られた。その情報が、製品の開発と次の一歩を助けてくれる。

つまり集中は、自分が正しいか間違っているかを、より早く明らかにする。優れた、集中できる起業家は、強みと弱みを素早く見つけられる。

採用も、起業家がよく焦点を失う場面だ。

焦点の定まった採用は会社に大きな利益をもたらし、そうでない採用は時間、エネルギー、お金、成功の機会を吸い取る。ほとんどすべてのスタートアップが、速すぎ、頻繁すぎ、時期尚早な採用をする。その理由は、採用が気持ちよい行為だからだ。人と会い、相手が自分のために働きたがる。実際にはまだ何も成し遂げていなくても、力と達成感を感じられる。

はっきり言おう。よくない会社は、採用で問題を解こうとする。問題に気づき、人を雇って解決しようとする。よい会社は、成長につながるから採用する。その違いがわかるのは、集中できているからだ。

スタートアップはほかに、どんな雑事を自ら増やすのか。早すぎる法人化をしないこと。

成長につながらない事務処理が増える。オフィスを借りたり、名刺を刷ったりする必要もない。多くの起業家は、それらが自分の仕事を正当化すると考えている。家族や友人に、「ほら、私はおかしくない。ちゃんと仕事をしている。オフィスもあるし、これが名刺だ」と言えるからだ。

しかし外部の承認を求めても、本当に自分の仕事を正当化する二つのこと、製品をつくることと顧客を見つけることには近づかない。そう、起業は孤独な取り組みだ。起業家として居心地をよくする方法ではなく、顧客を探そう。自分の会社を取り上げる記事を求めないこと。記事も、外部の声も、自分のやっていることを本当の意味で認めてはくれない。確信は内側、自分だけが知っていることから生まれる。だから目標を自分で定め、何を祝うかも自分で決める。ほかの誰にも理解されない目標かもしれない。それでも、内部のしっかりしたロードマップがあれば、本当に大切なことへ集中し続けられる。

そして多くの場合、起業家にとっての成功と失敗はグラフにできる。KPIを追う習慣をつけ、それぞれの違いを知ろう。基本的には、生存に関わる指標、業務の指標、見栄のための指標の三種類がある。

最も重要なのは生存に関わる指標で、99%の会社では売上に行き着く。

売上について考えるのに早すぎることはなく、売上成長に集中するのにも早すぎることはない。利用者の成長が重要で、売上を後回しにできる少数の会社を挙げることはできる。だが二つ覚えておいてほしい。第一に、初めて起業する人は、その立場にはない。売上に集中しないことは、すでに会社を築いて成功した人に許された贅沢だ。第二に、Facebookを除いたソーシャルメディア企業の評価額がどうなったかを見てほしい。肝心なのは、Facebookが初日から売上を追求し、実現していたことだ。

だから売上を追跡し、その数字を伸ばし続ける必要がある。絶対額で考えよう。今週100ドル売ったなら、来週は120ドル、その翌週は140ドル売る。それが追うべき数字だ。

二つ目のKPIは業務指標だ。検索すれば何千種類も見つかる。自分に合うものを選ぶことが重要だ。少数を選び、そこに集中しよう。自分に厳しくあれ。「ほら、この数字がいいから、順調だ」と言うための理由を探さないこと。生存に関わる指標に直接貢献する、少数の業務指標を追う。

最後は見栄のための指標だ。プレスリリースを出す直前や記者から連絡が来たときには見る必要があるが、実際には意味がない。たとえばFacebookページの「いいね」の数だ。記者はその数に驚くが、会社には大した影響がない。「いいね」は売上ではなく、大切なのは売上だけだ。見栄のための指標にも、役に立つ場面はある。しかし生存に関わる指標と混同しないこと。外の世界が感心するほどには、自分は感心しないようにしよう。

起業家にとってKPIは、順調なときも不調なときも教えてくれる親友になる。成功と失敗を測る基準を与えてくれるものだ。初期には見るほどのことがなくても、集中して見続けることで、頭がその数字を理解するようになる。小さな変化を見つけ、その週にやったことと結びつけられる。どうすれば数字に作用できるのかがわかり、事業の上下動が無意識に刻まれていく。

これらは、私自身と、観察してきたスタートアップの経験に基づく助言だ。しかし結局、「これに集中し、あれには集中するな」という一覧を渡せば済む話ではない。自分で感覚をつかまなければならない。その意味で、起業は自転車の練習に似ている。親は「バランス」「平衡」といった言葉で説明できるが、実際にできるまでは、その言葉の意味はわからない。何度も転び、いら立つ。それでも続けていると、突然、倒れずに安定して走れる。その瞬間に腑に落ち、完全に理解する。そして一度覚えたら、やり方は忘れない。

「創業者のジレンマ」のイラスト

創業者のジレンマ

経験から言うと、単純に資金が尽きた場合を除き、失敗するスタートアップの大半は、創業者同士の問題に原因をたどれる。チームが本当の意味で一つになり、同じ認識を持っていなければ、優れたことを成し遂げるのはずっと難しくなる。共同創業者を選ぶことは、自分がどういう起業家かを問うことでもある。どうすればリーダーになれるのか。どうすれば優れたチームを築けるのか。共同創業者同士の関係を扱うこと…

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経験から言うと、単純に資金が尽きた場合を除き、失敗するスタートアップの大半は、創業者同士の問題に原因をたどれる。チームが本当の意味で一つになり、同じ認識を持っていなければ、優れたことを成し遂げるのはずっと難しくなる。共同創業者を選ぶことは、自分がどういう起業家かを問うことでもある。どうすればリーダーになれるのか。どうすれば優れたチームを築けるのか。共同創業者同士の関係を扱うことは、チームを率いる中で最も親密な部分だからだ。

「PG」が言ったこと

創業チームを評価するには、Paul Grahamがかつて挙げた助言に立ち戻れる。決意、柔軟性、想像力、いたずら心、友情。これらは、自分と、創業チームの一員になるかもしれない人を評価する出発点として、とても役に立つ。

ただし先へ進む前に、そこにないものにも気づいてほしい。知性はリストに入っていない。よい創業者の条件を聞くと、多くの人は頭がよいことだと答えるだろう。多くの人がそうあってほしいと願い、大きな会社を築いた人は賢いと信じたいからだ。しかし必ずしもそうではない。優れた創業者は愚かだと言いたいのではない。賢いか愚かかは、優れた創業者になれるかどうかを、実際にはそれほど左右しないということだ。

むしろ知性が影響するのは、よい創業者になれるかどうかより、どの市場を狙うべきかだ。たとえば、自分が一番頭のよい人間ではないとわかっているなら、不動産に向かえばいい。知性に恵まれていなくても、優れた成功する創業者になれる分野だ。しかしElon Muskなら、不動産では退屈するだろう。だから自動車を変えようとし、太陽光発電に取り組み、火星を目指した。なぜか。火星へ行くことは、Elon Muskにとってさえ難しいからだ。いつも自分が興味を失わない市場を狙うのは、退屈しないための最善の方法だ。そして起業家にとって、退屈は死刑宣告に等しい。

Paul Grahamの資質は、自分と創業チームを考えるきっかけになる。しかし万能のルールはなく、すべての資質で頂点に立つ人もチームもいないと覚えておこう。部品を正しく組み合わせればよいという話ではない。最も必要なのは、共同創業者として自分たちの物語をつくり、完全に透明な形でやり取りし、一緒に隙のないリーダーシップを発揮することだ。完璧な共同創業チームが、最初から生まれることはない。完璧なチームは、ともに育ち、ともに上達し、そうなっていく。

正直で率直なコミュニケーションの一部は、誰が何を担うのかを知ることだ。

はっきりさせよう。CEOは一人だけだ。そして必ずしも、その場で最も頭のよい人でも、アイデアを思いついた人でもない。もう一つ、明確にしておこう。アイデアそのものに価値はない。思いついたからといって、その人をCEOにする必要はないし、多くの株式を与える必要もない。アイデアを思いついたことで得られるのは、その心地よい満足感だけだ。それ以上の権利が生まれると思わないこと。

CEOは、最終的な責任を負い、最後の決断をする人として、皆が合意した人物だ。軽く扱うべきことではない。誰がその役割に最も適しているか、チーム内ではっきりさせる必要がある。人はCEOの肩書きや特典を好み、会社でうまくいったことがすべて自分の手柄になることを好む。それはよい会社に必要でもある。競合を恐れさせるほどCEOが目立ち、「くそ、どうして彼女はいつもやってのけるんだ」と思わせたいはずだ。

ただしCEOにはつらい面もある。優れたマネージャーでなければならず、それは難しい。社内のすべての関係を育て、状況が悪いときに率直に話し、スタートアップの最も困難な局面を自ら扱うのは大変だ。だから私は、チームで最も分別のある人をCEOにするよう勧める。最も分別のある人こそ、チーム内で何が起きているかを明確に理解でき、それが優れたマネージャーの条件だからだ。

CEOが難しいのは、スタートアップが民主主義ではないからだ。

ネットには、管理職を置かない、階層を平らにするなど、別の組織運営についての記事がある。目を覚ます必要のある大企業なら、役に立つかもしれない。しかし小さな集団が一つの問題に取り組むスタートアップでは、民主主義の不利益は大きい。よいスタートアップはすべて独裁的だ。一人が全員の意見に逆らって決断しても、会社が生き残り成長し続けるなら、よいスタートアップだとすぐにわかる。皆の意見を聞きたいなら、スタートアップは適した場所ではない。ここは実行と集中のための場所だ。

CEOが細部やすべての判断を管理するという意味ではない。しかし、いつまでも議論が続き、戦略や文化や資金調達に迷い続けているなら、うまくいかない。卓越したデザイン、戦略、問題解決は、一人の人間が勇気を持ち、長期にわたって会社に何かを貫かせるところから生まれる。

創業チームの中では、衝突が驚くほど速く悪化することがある。

誰かと会社をつくることは、一緒に暮らす以上に濃密だ。24時間一緒にいる。夜中に何かが起きれば一緒に対処し、出張も一緒にする。共同創業者と過ごす時間の長さは、想像を超えている。関係が壊れれば、離婚と同じくらい、場合によってはそれ以上につらい。

なぜここまでひどいことになるのかを理解したくて、私は離婚弁護士にも話を聞いたことがある。その一人の言葉が、ずっと残っている。「人間の本性を理解したければ、15年間互いの裸を見てきた二人が、ある日、二度と話さないと決められることを理解しなければならない」。これを理解する鍵は、「感情の負債」とでも呼べる考え方だ。私たちは親しい人からのある種の振る舞いを受け入れるよう、自分を慣らしている。こちらが相手への借りを使い、相手もこちらへの借りを使う。増えたり減ったり、持ちつ持たれつだ。しかし人によっては、ある時点で感情の余力を使い果たす。感情的に破産する。あとは連邦破産法11条のような手続きを取り、その負債について二度と話さないことしか残らない。

共同創業者の間で、それを起こしてはいけない。感情の負債があるなら、直ちに表に出して対処する。悪いことは起きる。間違いも、悪い判断もする。それらはできるだけ早く解決し、何より、起きたという事実を受け入れなければならない。創業チームは、失敗も一緒にするのであって、一人だけの失敗ではないと理解する必要がある。好き勝手にして責任を負わなくていいという意味ではない。間違いを評価し、その重大さを見極め、ときには重大でない間違いでも大きなお金を失うことがあると理解し、感情の余力を使い切らずに、直ちに対処できる必要がある。

(短い助言を一つ。共同創業者との離婚にまで至ったら、逃げよう。何が起きたか、誰のせいか、誰が正しく誰が間違っているかを争う時間と感情的な負担は、離れて新しいものをつくり始めるより、はるかに大きい。必要ならお金を払ってでも、逃げる。その争いに溺れないこと。人生に何もよいものをもたらさない。)

共同創業者を選ぶことは、会社を始めるときにする最も重要な決断だ。

事業を選ぶことよりも重要だ。正しい事業にたどり着くまで、人はいくつもの事業を試す。事業は変えられるが、人は本当の意味では変わらない。だから急がず、正しい相手が見つかるまで待とう。会議やパーティーで出会い、10分後に共同創業者を見つけたと思い込まないこと。できるだけ多くの人と働き、友情や関係を育て、自分の強みと弱みを正直に評価する。そしてある日、正しい共同創業者が見つかったとはっきりしても、その関係を当然のものと思わない。信頼を育て続け、コミュニケーションを透明に保ち、目標を合わせ続けよう。

「ヨーロッパ、愛している。」のイラスト

ヨーロッパ、愛している。

私が会うスタートアップの創業者には、ヨーロッパの外で起きていることをまねるのに夢中な人が多すぎる。自分たちの強みを忘れている。圧倒的な優位をもたらしてくれるものだ。圧倒的な優位とは、自分に有利に使え、その差があまりに大きく、不公平にさえ見えるものをいう。 地理的な壁を取り払おう。…

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私が会うスタートアップの創業者には、ヨーロッパの外で起きていることをまねるのに夢中な人が多すぎる。自分たちの強みを忘れている。圧倒的な優位をもたらしてくれるものだ。圧倒的な優位とは、自分に有利に使え、その差があまりに大きく、不公平にさえ見えるものをいう。

地理的な壁を取り払おう。

その一例が地理だ。これを生かしていないヨーロッパ人の多さには、いつも驚く。私たちの暮らす地域では、主要都市へ飛行機や鉄道で、およそ2時間ほどで行ける。ロンドン、パリ、ベルリン、バルセロナ。安い航空便があり、行き来もしやすい。それでも、人々は自分の住む場所の中だけで生きている。

ロンドンとパリを行き来して働いていたころ、両方を一つの仕事の範囲として扱うことに、人々は驚いていた。ユーロスターで移動すれば、もう一方の都市のイベントに行くことも、郊外からの長い通勤と大差なく感じられた。大切なのは国境を越えるかどうかではなく、どれだけ時間がかかるかだった。

移動にはお金がかかるが、住む場所にある構造的な問題を受け入れ続けるより安いこともある。Skypeの初期の組織は、その例だった。エンジニアリングをエストニアに、本社をロンドンに置いた。国境を事業の限界と見なさず、それぞれの機能に合う場所を選んだのだ。

次のスタートアップの中心はパリかベルリンか。なぜ、そんな議論をするのか。

そもそも、ほかの人たちなしに、自分たちだけで遠くへ行くことはできない。ヨーロッパ全体で考える必要がある。簡単だという意味ではない。複数の拠点を持ち、いくつかの国で事業を動かせば、その土地ごとの問題、書類仕事、遅れが生まれる。課題は確実に増える。だが、乗り越える価値がある。活動範囲が広がり、採用できる人も、顧客候補も増えるからだ。

Skypeほど大きな会社でなくてもいい。以前、ドイツで会社の銀行口座を開き、手続きが簡単だったと話す創業者たちに会った。ある国の銀行が常に優れている、という教訓ではない。要件、利用資格、サービスはそれぞれ違う。最も近い金融機関しかないと思い込まず、自分の事業が合法的に利用できる選択肢を、国境を越えて比較しよう。

会社法、行政手続き、資金へのアクセスには、国ごとの強みがある。事業のすべてを一つの場所にまとめるべきだと決めつけず、制度を比較しよう。多くの米国企業にとってデラウェア州が果たしている役割は、この考え方を示している。法的な所在地と、実際に仕事をする場所は、同じでなくてもいい。

もちろん、実際の組織構造と活動に応じた税務上、法務上の義務は理解しなければならない。大切なのは、ある国に住んでいるからすべてをそこで行う必要があると思い込まず、選択肢を調べることだ。

ヨーロッパを抽象的な理念としてだけ考えていると、地理的な強みを見落とす。事業で使える具体的な機会として捉えよう。国境を越えて人、顧客、サービスを探すという考え方を、普段の判断に組み込む必要がある。

チームと市場が別の場所にあってもいい。

B2Bの顧客の探し方も、忘れがちなことの一つだ。スペインの人は地元企業との取引の難しさを嘆く。イタリア、ルーマニア、フランスでも同じ話を聞く。だが、何を売っているかによっては、地元市場だけに縛られる必要はない。ソフトウェアを開発しているなら、もっと広く見よう。SaaS企業には、地元でチームをつくり、市場はヨーロッパ、北米、世界全体に探すことを勧める。

どこへ進むかは、データを使って判断する。米国なら、それでいい。データがポーランドを示すなら、そこが最善の場所だ。そもそも、拡大は地理の問題とは限らない。「インターネット国家」に向けて始めてもいい。これは、フランス、ヨーロッパ、世界中にいる、オンラインの起業の世界に関心を持ち、英語を話す人たちのことだ。活発で、実質的な壁なく接点を持てる集団であり、対象市場を大きく広げてくれる。

要点は、自分たちの優位に気づくことだ。とくに、当たり前だと思っているものや、欠点と見なしているものに目を向けたい。有給休暇を考えよう。ある国では普通の待遇が、別の国では採用上の大きな魅力になる。ヨーロッパ人は、休暇を弱さや勤勉さの妨げと見なすことがある。だが、生産的であることと愚かであることは違う。一日中働いて何も成し遂げないのは愚かだ。きちんと休み、良い仕事をするのは生産的である。本当に生産性を高めるなら、休暇を大切にするヨーロッパの伝統は強みになる。

B2Bの取引は、長く続く。

ある会話で、「B2Bでは、ヨーロッパで最初に売るのは難しいが、一度買ってもらえば、長く使ってもらえる」という話が出た。私は気に入った。本質を表しているからだ。米国では売るのは容易でも、地位を保つのは難しい。ヨーロッパでは売るのが難しいが、変化や革新の速度が遅い分、長く地位を維持しやすい。

ただし、これには十分に注意しなければならない。市場を弱くする方向にも働くからだ。「何も変えなくていい」という考えに陥りやすい。だが、法人顧客を比較的維持しやすいという強みを生かしつつ、自己満足という弱点を避けられれば、大きな成果につながる。ヨーロッパ市場のこの両面を理解することで、大きく勝てる。

ヨーロッパでは、ロビン・フッドのような存在が求められている。

古くからの既得権益を崩し、消費者に利益をもたらす解決策だ。ヨーロッパに伝統や保守性が多いことは、秘密でも何でもない。その理由の一つは、国が小さいことが多く、大企業が特定の優遇や特権を求めて働きかけやすい点にある。政府を動かす人と、大企業を動かす人の距離が近い。すると、人々が欲しいものと、企業が提供するものの間に大きな隙間が生まれる。起業家にとって、それは顧客が本当に欲しいものに集中する機会だ。規制や既得権益からの反発に耐えられれば、市場に入り、はるかに良い体験を提供できる。人々の支持を得ながら、新しい市場の領域をつくれる。

Captain TrainやCitymapperは、その可能性を示した例だ。従来の事業者より良いサービスを提供し、支持を得た。消費者に集中する優れたプロダクトチームがいた。それが鍵になる。

消費者を救おう。

問題が多いということは、それだけ多くの解決策が生まれ得るということだ。ヨーロッパでは、多くの問題に直面している感覚が、悲観につながりやすい。私は、この悲観が大きな機会だと思っている。シリコンバレーには、反対の難しさがある。楽観があふれすぎて、どのアイデアを選び、進めるか決めにくい。ヨーロッパでは、誰もがあなたの失敗する理由を考える。その思考を乗り越えられれば、起業家として非常に強い位置に立てる。

走り始めるなら、砂の上で練習するといい、という話に似ている。砂の上を走るのは大変だ。だが、いつもそこで練習していれば、砂から出たときには速く走れる。ヨーロッパでスタートアップをつくるのも、それと同じだ。砂の上を走っている。やり抜けば、会社は鍛えられ、多くの困難に対処できるようになる。

悲観は、本当の問題がどこにあるかを見つける助けにもなる。創業者は、素晴らしいアイデアよりも、解決すべき問題を探そうと繰り返し言われる。悲観的な環境では、問題を見つけやすい。

ヨーロッパの起業家は、資金の使い方がうまくなる。

資金を集めにくければ、起業家は少ないお金で動くことに慣れる。資本の流れには波があるので、それは重要だ。簡単に入ってくるお金が途絶えたとき、資金なしで動いた経験のない創業者は、準備ができていないことがある。BlaBlaCarのようなヨーロッパの例は、慎重な支出で多くを築けることを示した。Saveの初期の売上成長と資金消費の関係も、その一例だった。教訓は資本効率についてであり、どの会社も成功し続けるという約束ではない。資本の少なさを、自分と会社を強くし得る制約として捉えよう。

暮らし方でも先頭に立てる。

ヨーロッパの外の人は、フランス、イタリア、オーストリア、スウェーデンなどに、ある種の暮らし方を見る。そのイメージを、もっと真剣に受け止めよう。高級品だけの話ではない。高級品産業でも良い暮らしはできる。美しいものがあり、育てられる事業もある。だが、起業の本質が、並外れたサービスを大きな規模で提供することだと考えるなら、高級品だけが目指すものとは限らない。本当に規模を広げたいなら、そこだけに狙いを定めることには疑問がある。

暮らしの質は、ぜいたくと同じ意味ではない。ヨーロッパの各地には、細部とサービスへの優れた感覚がある。スタートアップは、それを生かせる。シリコンバレーから来るものを、そのままコピーする必要はない。あちらは、より機械的で、人間味が薄いこともある。Airbnbがパリのチームによるホストとゲストへの対応を見て、そのやり方を世界中のチームに教えさせたのには理由がある。パリの拠点の気配りと繊細さが優れていたため、それを会社全体のモデルにしたのだ。

Captain Trainも、その良い例だった。高級サービスを提供していたわけではない。それでも顧客対応のチームは、『グランド・ブダペスト・ホテル』でレイフ・ファインズが演じる、客のあらゆる要望に気を配る昔ながらのコンシェルジュのようであろうとした。顧客との関係を、そう捉えていた。それでサービスが高級品になるわけではない。気配りと細部への注意という原則を、スタートアップに取り入れようとしたのだ。それが、顧客にも、ほかの会社にも伝わる違いになった。

暮らし方の問題は、事業だけで終わらない。自分の幸福にも関わる。どこで会社を始めるべきか、よく聞かれる。答えは、自分が住みたい場所だ。それが最も大切だ。事業上の問題は解決できるが、どんな人生を送りたいかには、よく耳を傾けなければならない。意欲が、自分を動かす。どんな人間で、何に幸せを感じるかによって、住む場所は意欲に影響する。失業給付を受けながら、その時間とお金で起業するのが良いかどうか、議論したことがある。自由と安心を得られるから良いという人もいれば、働きながら始めるほうが良いという人、何もなく切羽詰まったほうが成功に向けて自分を追い込めるという人もいた。私の答えは、働く場所と同じで、それほど単純ではない、というものだ。それぞれに利点がある。私個人は、何かをしなければ翌月の支払いができない、という切迫感が好きだ。やる気が出て、気持ちが高まり、効率も上がる。だが、誰もがそうではない。失業中の時間を使い、18か月ずっと観光客のように過ごした人も大勢見た。一方で、その時間と安心を使って、実際に何かを築いた人の話もある。

自分の力を最大限に引き出す環境を、理解してつくれているか。

その環境は、とても個人的なものだ。ある環境が別の環境より客観的に優れているとは限らない。失業中という状態が起業家の自分を動かさなくても、従業員には利点になるかもしれない。採用候補者にヨーロッパの失業給付があることで、初期の報酬を給与よりも株式中心にする余地があるかもしれない。これは一つの発想だ。状況を良いか悪いかで判断するだけでなく、どう自分に有利に使えるかを見る例である。

ヨーロッパの人々は、人生に意味を与えるほかの方法も見つけてきた。本を書くことを考えよう。読者は少ないかもしれない。それでも、書くことは、有給の仕事とは別の目的を与えてくれる。ブログ、ソーシャルネットワーク、ほかの創作も、その可能性を広げる。価値は、それがどれだけお金を稼ぐかだけでは決まらない。

技術によって仕事の位置づけが変わるほど、仕事の外で何が人生に意味を与えるかという問いは重要になる。余暇、文化、社会保障についてのヨーロッパの長い議論は、ここで強みになる。社会に必要なのは、どうすれば全員を忙しくさせておけるかという答えだけではない。

だから、こうした強みをすべて使おう。ヨーロッパの都市には、それぞれファンがいる。ベルリンが好きな人、パリが好きな人、ローマが好きな人がいる。ウディ・アレンの映画の一覧を見れば、わかるだろう。パロアルトを愛している人はいない、と私は言いたい。そこで会う人や、仕事や、起きていることは好きでも、パロアルトを散歩するのが大好きだとは言わない。ヨーロッパには、人が憧れる都市がある。その都市で働く機会を喜ぶ人は多い。うまく使えば、人材採用における世界的な優位になる。

私たちは、ヨーロッパの基盤を十分に使っていない。壁だと思っているものも、よく見れば回り道があったり、そもそも壁ではなかったりする。そして最も良いのは、ほかの人には障害に見えるものが、自分には圧倒的な優位になると気づくことだ。そうやって大きな勝負をし、大きな会社をつくる。

周囲を見よう。自分に正直でいよう。そして、落ち着いて進もう。

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億万長者になりたい

「なぜ社会はこんなにもお金を大切にするのか」という問いをよく聞く。ビジネスでは答えは単純だ。お金は、企業が行うすべての活動の土台だからだ。そこが、事業と情熱だけで続ける活動との違いでもある。起業家になるなら、どこかでお金を稼がなければならない。製品を開発し、家賃を払い、人を雇い、投資家を満足させるためだ。…

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「なぜ社会はこんなにもお金を大切にするのか」という問いをよく聞く。ビジネスでは答えは単純だ。お金は、企業が行うすべての活動の土台だからだ。そこが、事業と情熱だけで続ける活動との違いでもある。起業家になるなら、どこかでお金を稼がなければならない。製品を開発し、家賃を払い、人を雇い、投資家を満足させるためだ。

世界中の異なる文化でお金が使われてきたのには理由がある。お金は交換を中立的にし、異なる動機を結びつけてくれる。GoogleやFacebookで働く全員が、セルゲイ・ブリンやマーク・ザッカーバーグと同じ動機を持っているわけではない。それでもお金があれば、それぞれの動機を生産的な方向へ揃えられる。

そう、お金は生産的になりうる。大きな金庫に一定量のお金があり、自分の取り分が増えたら必ず誰かの取り分が減る、という話ではない。お金はゼロサムゲームではない。世界に新しい価値を加えることはできる。

とくにフランスをはじめ、ヨーロッパ大陸の多くの国には、長くお金を敵視してきた歴史がある。自分がお金を多く稼ぐことは、必然的に他人がお金を持つのを妨げることだ、と逆の見方をする人が多い。

だが、その見方は成り立たない。単純に、事実ではないからだ。起業家として本当の価値を生み出すのは大変な仕事だ。2000年のドットコムバブル崩壊前には、実証された価値提案よりも資金調達や株式公開がはるかに先行できることが示された。長く続く富をつくる手本としては不適切だ。起業家として豊かになるには、実際の価値を生み出さなければならない。

起業家を目指すなら、考え方を調整する必要がある。まず株式の価値を考えよう。創業チームの持ち分は、できるだけ均等に分けるべきだ。各創業者が同じようにリスクを負い、それぞれが価値提案の一部を担うからだ。始めたばかりなら、まだ価値がないので難しくない。事業が進むと問題は大きくなるが、一つ覚えておいてほしい。株式の配分は価値によって決まる。費やした時間や労力によって決まるのではない。創業から1年後に加わる人でも、その人が会社の価値を倍にするなら、数%だけ渡して済ませるわけにはいかない。スタートアップの価値は、投入した時間や労力とは切り離されている。売上、ユーザー、KPIといった具体的なものに価値がある。大事なのはそれだけだ。

だから株式を渡すときに、節約の発想を持つべきではない。少ししか渡さなければ、相手の会社への利害関係を自分より小さくしてしまう。それは望ましくない。少し多く渡せば、相手の関心は高まる。関心が高まれば、成功への献身も強まる。

給与も同じだ。ヨーロッパのスタートアップは、相場を上回る給与を払うことを学ぶべきだ。なぜか。労働力を相場どおりの価格で雇うのは、大企業に許されたぜいたくだからだ。スタートアップは、ここで働くリスクを取る価値があると従業員を納得させなければならない。その一部が給与の上乗せだ。人々を事業に近づけ、成功の可能性を高める。もちろん、株式と現金をうまく組み合わせてもいい。

全員の方向を揃え、全力を尽くしてもらう必要があるのはなぜか。スタートアップの実態を思い描いてほしい。それは売上を加速させるプロジェクトだ。普通の企業なら30年かかることを、5年で達成しようとしている。未来の売上予測をつかみ、強く引っ張って、ごく短い期間へ圧縮しようとする。30年を5年に縮めるために必要なエネルギーと力は途方もない。それでも、それがスタートアップの目指すことだ。

お金のことを考えるとき、これも忘れないでほしい。人が嫌な奴になるのに10億ドルは要らない。お金がなくても嫌な奴にはなれる。幸せな人が10億ドルを持てば、幸せな人のままだ。ろくでもない奴が10億ドルを持てば、ろくでもない奴のままだ。だから、お金を幸せの鍵にしてはいけない。スタートアップにすべてを賭ける理由にもしてはいけない。

いや、覚えることは二つかもしれない。お金は幸せの鍵ではない。そして一度そのリスクを取ると決めたら、取り続けなければならない。賭け金を増やし、うまくいくまで何度もすべてを賭ける。そうしなければ、被った損失が重すぎるものになる。リスクを引き上げ続ける覚悟がなければ、失敗を恐れるようになる。その恐怖がスタートアップを殺す。

株式と給与を明晰に考えること、全員の方向を揃えること、失敗を恐れないこと。こうした具体的なことが役に立つ。スタートアップで成功し、資産家になるのは運の問題ではないからだ。数少ない幸運の物語が有名になるのは、記者がそれを好み、幸運だった本人も話したがるからだ。だが、成功例の大半を占めるほかの人々は、注目を浴びることに関心がない。しかも彼らの物語は結局同じだ。解く価値のある問題を見つけ、懸命に働き、その解決を通じて市場を獲得する。

そうした人々は、この世界では何も一人ではできないと知っている。誰かが助けてくれる。その助けには報酬を払うべきだ。結局、大きな価値のある会社の数%を持つほうが、どこにも進まない会社の大きな割合を持つよりいい。だから絶対額で考えるのだ。

事業が成長し始めたら、お金と富は違うことを覚えておこう。お金とは、銀行に100万ドルあることだ。富とは、100万ドル相当の株式を持ち、それが成長してインフレに追いつき、さらには上回る可能性があることだ。

目指すのは富だ。そのためには相対的な割合ではなく、絶対額で考える。スタートアップの何%を持っているか自体には意味がない。大事なのは、実際に何株持ち、ある出来事によってその価値がいくらになるかだ。小切手にはいくら書かれているのか。会社の40%を1億ドルで買いたい人と、30%を2,500万ドルで買いたい人がいたとする。持ち分の割合を大きく残せるという理由だけで、安いほうの提案を選びはしないだろう。大切なのは絶対的な価値だけだ。

だから、持ち分のことばかり気にしないほうがいい。会社に価値を加えることに集中すれば、残りはついてくる。会社を成長させるためにいくら払うかより、その投資が売上成長にどう影響するかを考える。相対的な事務や物流の細部に気を取られて死ぬ会社は多すぎる。絶対額で考え、本当に重要なことだけを話そう。

絶対額で考え始めれば、現在の中で未来を生きることの重要性がわかる。それはどういう意味か。今持っているものに執着せず、これから手に入れたいものに目を向けるということだ。

起業家の大きな問題の一つは、現在の予算を基準にお金を考えることだ。1万ドルで事業を始め、完璧なオフィスを見つけたが、3万ドルかかるとしよう。「お金がないから無理だ」と言えば、過去に現在を支配させていることになる。過去に行ったことしか表さない銀行残高が、あなたを押しとどめている。起業家は逆向きに生きなければならない。「この場所は売上や、現在と将来の顧客との関係を変えるだろうか」と考えるのだ。そして正直になること。答えはノーかもしれない。この決断が未来を変えるのか、自分に問わなければならない。変えるなら、自分で自分を止めてはいけない。現在の中で未来を生きる方法を探す。資金を見つける。どこかにはある。ちなみに、オフィスで何かが変わるのは珍しいが、言いたいことはわかるだろう。

つまり、けちであることは、お金だけの問題ではない。姿勢の問題だ。時間をどう使い、会社の何を最適化し、何を大事にするかという問題なのだ。

すべては、それが会社とその未来に何をもたらすかに戻ってくる。成功のためには、自分と会社のお金を絶対額で評価し、未来の価値を今理解できる、よい買い手になることだ。この考え方でよい選択をすれば、とても長い期間にわたって人生によい影響を与えられる。もちろん、選択を誤れば逆の結果になる。

先ほど言ったように、お金を稼ぐことより富をつくることが重要だ。いつか、誰かから会社を買いたいと電話がかかってくる。そのとき答えは一つだ。将来の成長に疑問があるなら売る。成長を続けることに期待しているなら売らない。それだけだ。現在の企業価値ではなく、明日の会社にどれだけ確信を持てるかという話だ。会社が成長し続けられるか、それ以外の問いに捕らわれる必要はない。

こう考えると、スタートアップの世界でお金にこだわる理由に戻ってくる。お金があると、自分たちの仕事に確信を持ち、やりたいことに使う時間を確保できるからだ。お金があれば、簡単には手を出されない。機能するビジネスモデルがあれば、どの提案に価値があり、どの提案に価値がないかを自分で決められる。

スタートアップを通じて収益を得ることは、前に進むときの力と交渉力になる。独立を保ち、意思決定する力を維持できる。交渉の席で自信を持てる。生き残るために資金が必要な創業者の必死さほど、投資家が素早く嗅ぎつけるものはない。だが、伸び続ける売上が背後にあれば、その場でも自信を持てる。それは力を求める動物的な本能なのかもしれない。それでも、確かに存在し、効果がある。

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気配りは必須だ

「気にかける」という言葉の意味は、誰もが知っている。日々の暮らしで、友人や大切な人、見知らぬ人にさえ実践しようとしている。朝起きて、「今日は全員に嫌なやつとして接したい」と思う人はいない。少なくとも、そういう人は多くない。誰もが「周りの人に、自分が気にかけていると知ってほしい」と言う。…

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「気にかける」という言葉の意味は、誰もが知っている。日々の暮らしで、友人や大切な人、見知らぬ人にさえ実践しようとしている。朝起きて、「今日は全員に嫌なやつとして接したい」と思う人はいない。少なくとも、そういう人は多くない。誰もが「周りの人に、自分が気にかけていると知ってほしい」と言う。

本当の問題は、その気配りを規模が大きくなっても続けるときに生じる。最初の顧客を探している段階では、一人ひとりを大切にするのは簡単だ。正確に言えば、そうしようと決め、本気で実行するかどうかの問題である。自ら問題に対応し、直接やり取りして、強い関係を築く。規模が大きくなると、それは難しい。会社についてよく言われる不満の代表が、「あの会社は顧客のことを気にしていない」なのも、そのためだ。

電話会社のような多国籍企業を考えてみよう。顧客としてサポートに連絡しなければならない時点で、すでに気分が悪い。悪夢のような対応になるとわかっている。そこでは顧客が一人の人間ではなく、処理すべき大量の義務の、ごく小さな一片として見られているからだ。

スタートアップなら、一人ひとりの顧客が何を意味するか、正確にわかっている。

初期に支えてくれる人を見つけ、残ってもらうことが、どれほど難しいかを知っている。一方、顧客もウェブサイトの向こうに生身の人間がいると感じることを好む。誰が運営しているかを知り、使っている製品を身近に感じたいのだ。そうして初期には、お互いを気にかける感覚が生まれる。

Heetchは初期の好例だった。夕方から夜に運行する相乗りアプリとして始まり、バーから帰る人たちに役立った。創業者たちは何年にもわたり、人々と一緒に出かけ、最後にHeetchで帰宅できるよう手伝っていた。自ら現場でユーザーのコミュニティを作り、サービスの価値と顧客への気配りを示していたのだ。

スタートアップでは、その極端なほどの気配りが、本当に特別な存在になる力を持つ。つながりをつくれば、最も疑い深い人の考えさえ変えられる。心からの気配りには、私生活でも仕事でも、不思議な効果がある。CEOが問題を直すために直接連絡してくれたことを、人は忘れない。この種の気配りは、初期のスタートアップを本当に救うことがある。だからユーザーを中心に置き、親切に接することを重視した手順が必要になる。

スタートアップに完璧さは要らない。

この世界に完璧なものがないのはなぜか。完璧な製品はすべて、発売しなかった起業家のハードディスクに閉じ込められているからだ。世に出たものには、必ず問題がある。しかし気配りは製品の外側にある。気配りでは、できる限り完璧を目指せる。一人の人間として接する、誠実である、ありのままである。この三つを実践すればいい。それが勝ち方だ。製品の完璧さではなく、小さく熱心な利用者のコミュニティにとって、理想の起業家になることで勝つ。

もちろん時間はかかる。卓越した気配りには、起業家がいつでも応じられることが必要だ。返事をする準備ができていて、素早く、いつでも返す。一人ひとりに話し方を合わせる。私がスタートアップのサポートへメールすると、あまりに多くの会社が、つながりを感じられない無味乾燥な企業口調で返してくる。相手が丁寧な言葉なら丁寧に返す。くだけた言葉や面白い調子なら、自分が自然だと思う調子で返す。すべての顧客を、友人になるかもしれない人として見よう。画面上の数字として見ないこと。

事業を始めるとき、顧客との関係は人に任せられない。

文字どおり処理不可能になるまで、会社に連絡してくるすべての顧客に、起業家自身が直接対応する必要がある。顧客のメールに毎日1時間かけて返すなら、その1時間は最も価値のある時間の一つだ。決して無駄にはならない。問題が起きたら、解決に必要なことを何でもしよう。解決策を見つけると決めることで、スタートアップの最大の強みの一つを使える。

初期には、さらに一歩進めてよいし、そうすべきだ。自分の電話番号を公開する。そのくらいの関わり方が、優れた起業家をつくる。「そんなことをしたら、四六時中電話が来る」と怖がらないでほしい。電話が来るのは、あなたのサービスと、やっていることを相手が知っているからだ。それこそ目指していることだろう。電話が鳴りやまず、番号を公開しておけなくなるところまで行けたなら、すばらしい。起業家として成功にたどり着いたということだ。

問題を直すときは、気前よくすることに慣れ、その機会を喜ぼう。顧客を最優先することを、節約という観点で考えてはいけない。長期的には、自分たちを知ってもらう最良の方法の一つだ。生涯満足してくれる顧客を一人つくるための費用は、いくらであっても有意義な支出である。

私の助言は、ときどき誤解される。創業者には、力強く、野心を持って行動するよう伝える。しかしそれは、人への敬意を欠いてよいという意味ではない。許可より許しを求めるほうがよい場合もあると言うが、それには実際に許しを求めることも含まれる。間違えたら、心から謝る準備をしておこう。

会社からのメールは、生身の人間から届くものであるべきだ。

だから全員に、しかも素早く返事をする。配信解除を求められたら自分で対応し、リンクを送って本人にやらせない。荒らしでさえ無視しない。別の人に回すのではなく、自分で引き受け、問題を解く。

問題の解決を自分自身のこととして引き受ければ、その姿勢が会社全体へ伝わる。ためらわず問題を直すことがどれほど大切かを、全員が目にする。それが築きたい企業文化だ。

顧客サポートを拡大する段階では、使える道具がたくさんある。

できる限り早く業務に組み込むと、拡大がずっと楽になる。Intercom、Slack、Frontなどは、ユーザーについて重要な情報を与えるだけでなく、顧客との個人的な交流を最大限に生かす助けにもなる。簡単という意味でも、安いという意味でもない。難しく、費用もかかる。それでも、投資すべき最も重要なことの一つだ。

Captain Trainは、個人的な気配りを規模が大きくなっても保った好例だった。初期に会社へ連絡すると、CEOが対応することも多かった。優れた顧客サービスが最優先だった。チームは、話した相手の誰もが、その気配りの深さに驚いて帰ることを望んでいた。

会社が成長すると、その姿勢は全体に広がった。チームはFacebookでも積極的に交流し、人々に返事をし、誠実な語り口を保っていた。顧客はその誠実さに応え、Captain Trainはヨーロッパで数百万人のユーザーを得た。学ぶべきなのは、個人が持つ気配りの基準が、会社全体の習慣になった過程だ。

人とつながる方法は、オンラインだけに限らなくてよい。

イベントは、人々がコミュニティに参加し、本当のつながりを作る助けになる。最初は無料の食べ物や飲み物を目当てに来ても、意味のあるつながりが見つかれば、また来てくれる。楽しい時間を共有しながら、ユーザーとの関係を育てられる。

イベントでは、ユーザーについて深く学べる。相手のニーズに自分たちの活動をどう合わせればよいかがわかる。ユーザー同士をつなぎ、自分の仕事への率直な反応を得られる。人は一対一より、集団の中にいるときのほうが、役立つ意見を言ってくれる。なぜか。基本的な人間の心理だ。イベントは、人々が安心してあなたと接し、自分の懸念に耳を傾けてもらえるとわかる場になれる。

そしてイベントを成り行き任せにしない。計画を立て、いつ何が起きるかを把握する。会場に着いた途端、何の計画もないとわかるほど悪いものはない。自分もそこにいて、壇上で紹介し、会いに来てくれた人に会おう。

スタートアップで大切なのは結果だ。初期の気配りが、成長したときの、気配りを大切にする文化につながる。そこへ至るため、チームに浸透させるため、規模を広げるために、さまざまな戦略的判断をしてよい。しかし結局は、心構えの問題だ。心から気にかけよう。

「どんな問題を解くのか?」のイラスト

どんな問題を解くのか?

起業家には問題が必要だ。解決策を見つけるための第一歩だからだ。だが、問題を見つけたり、本当に理解したりするのは簡単ではない。そこで、自分に問いかけるべき質問を挙げてみよう。 それは本当の問題か?…

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起業家には問題が必要だ。解決策を見つけるための第一歩だからだ。だが、問題を見つけたり、本当に理解したりするのは簡単ではない。そこで、自分に問いかけるべき質問を挙げてみよう。

それは本当の問題か?

ここから早くも難しくなる。相反する可能性の真ん中で考えなければならない。他人には悪く見えるかもしれない、よいアイデアをどう見つけるか。偽物の問題の中から、本当の問題をどう見分けるか。誰の目にも明らかな問題を、明らかによいアイデアで解くことには、すでに誰もが取り組んでいる。それは簡単だ。必要なのは、想像でつくった問題ではなく本物の問題と、ほかの誰にとっても明白というわけではない解決策だ。

Googleを例にしよう。創業当時は、すべてを把握することが本格的な問題になるほどウェブサイトは多くなかった。ウェブ上のあらゆる情報を保存し、検索したいと言っても、その時点では切実な問題ではなかった。だがGoogleは、ウェブ上のデータ量が指数関数的に爆発する未来を見ていた。未来の問題だったために目立っていなかった、本物の問題を見つけ、よい解決策で解いたのだ。「当然、問題になるに決まっていた。誰にでもわかった」と言う人の罠にはまらないでほしい。未来は予測できない。いつも先のことがわかると言う人は嘘つきだ。だから未来の機会を現在の時点で見抜くのは難しく、Googleはあれほどの企業になった。

こうした問題を見つけるには、自分が変えようとしているものの内側に入る必要がある。そこで初めて、実際の痛みや、問題の存在を示す傾向が見える。本物の問題かどうかに確信がないなら、すでに道を見失っている。解決策を実行する段階では、手伝える人は大勢いる。実行には繰り返し現れるパターンがあるからだ。だが、業界の本当の問題を見つけたいなら、その日常の現実を深く理解しなければならない。

本物の問題を見つけるのは難しい。何度も試す必要があるかもしれない。それなら試し続けよう。ただし、何を探しているのかは明確にしておくこと。今も存在せず、将来も存在しない問題を捏造してはいけない。

問題を定義できるか?

問題を詳しく定義でき、誰に対してもごく少ない言葉で説明できることは、起業家にとって絶対に必要だ。きちんとやるには時間がかかる。一夜にして成功した話があると言う人は、物語を売りたい記者か、記者に物語を売りたい起業家のどちらかだ。

問題を正しく定義することが重要なのは、本当の問題を発見しても、事業が当初思い描いた道をそのまま進むとは限らないからだ。障害もあれば、行き止まりもあるだろう。それでも問題を適切に定義できていれば、障害を回り込む方法や、行き止まりから抜け出す新しい道が見つかる。

問題は大きいか?

これは選択の問題だ。大企業をつくろうと小企業をつくろうと、直面する課題は同じだからだ。大志を抱こうと、小さな目標にしようと、始めれば同じようにひどい出来事にぶつかる。起業家として成功するのは、何をやろうと難しい。成功率は非常に低い。だからこそ、引き受けるリスクの見返りを明確に見ておく必要がある。いつか成功するなら、小さな成功より大きな成功のほうがいい。

野心を引っ込めないこと。そして、自分の時間と努力を注ぐ価値があるほど大きな問題を狙っているか確かめよう。

問題は難しいか?

それほど難しくないと思うなら、警戒したほうがいい。難しくないのなら、なぜ誰も解いていないのか。しかも難しさは悪いことではない。問題が難しいほど機会は大きくなる。成功したときの規模が大きくなるだけでなく、ほかの人も成功できる可能性が下がるからだ。リスクの小さい問題にしか取り組まない起業家は多すぎる。優れた起業家は、大きく難しい、本当に解く必要がある問題に取り組む。

大きな問題に挑むことをためらわないでほしい。WhatsAppはその好例だった。彼らの特徴は、とても難しい問題を前に「これをやれる。しかも、すべてのOSで同時にやれる」と言った唯一のチームだったことだ。どんなエンジニアも、途方もなく難しいと感じる問題だった。それでもWhatsAppは取り組むと決めた。結果は知ってのとおりだ。

問題は明白か?

ここでもWhatsAppはよい例になる。友人がiOSでもAndroidでも、連絡を取りたいという問題は当然あった。ほぼ無料で話せる相手が、たまたま同じ電話を使う友人に限られてほしい人などいない。

Chipotleもそうだ。どんなレストランチェーンにも、規模拡大という課題がある。最も簡単な拡大方法は、品質の低下を受け入れることだ。レストランでもホテルでも、拡大に伴う品質低下という問題は同じように起こる。Chipotleは「拡大しても、ずっとオーガニック食材を使う」と最初に言った。あまりに難しいから、ほかの人はやらなかった。だが、その問題を解くと決めた途端、うまくいくことは明白になった。人々が欲しがっているのに、それまで手に入らなかったものだったからだ。

問題はすでに完全に解決されているか?

よくない起業家は、アイデアを調べ始めると競合を見回して「もう誰かがやっている。別のものを探そう」と言う。だが、問うべきは競合の有無ではない。問題が完全に解決されているかどうかだ。

Googleがこれほど大きくても、検索の競合が現れ続けるのはなぜか。成功した検索エンジンでも、検索に関するすべての問題を解いてはいないからだ。その規模が、よりよい答えを提供する機会を消すわけではない。それはよいことだ。

同じ問題に取り組むものが存在するか調べるだけでは足りない。問題が完全に解けていない限り、機会は残る。ほかの企業が越えられない地理的な壁などの根本的な問題に機会があるかもしれないし、問題への対応を調整し、改善する余地に機会があるかもしれない。

問題は日に日に悪化しているか?

悪化し続ける問題は、とくに注目する価値がある。

たとえば環境汚染を考えよう。日がたつほど悪化する。取り組む人は大勢いる。それでも解決していない。そこに巨大な市場機会があるとわかる。

以上が、自分の問題について問うべき七つの質問だ。答えがわかったら、ほかの重要なことに目を向けられる。

市場を理解する

たとえば市場の理解だ。あなたの解決策を必要とする人が日々増える、成長市場に入ろうとしているのか。それとも、助けを必要とする人が減っていく、縮小市場を狙っているのか。

市場とは本来、生きているものだ。静止してはいない。そして変動する三つの層で評価する必要がある。ターゲット市場、実際に対応可能な市場、そして獲得可能な市場全体だ。スタートアップは市場を考えるとき、将来顧客になるかもしれない世界中の人、つまり市場全体を考える罠に陥りやすい。そしてその市場での競合を考え始める。

スタートアップの当面の目標は、ターゲット市場だ。Appleも、後に到達する巨大市場を最初から相手にしたわけではない。カリフォルニアの、小さなコンピューター愛好家のつながりから始まった。

そこが明確になったら、一段上へ進んで、自社が実際に到達できる市場を見る。ターゲット市場を見つけ、対応可能な市場を満たす。この二段階を越えて初めて、競争を考える意味が生まれる。

はっきりさせよう。コカ・コーラとペプシは競合だ。コカ・コーラの売上が減れば、ペプシの売上が増える。市場全体を相手にしているから、そのように作用する。だが、スタートアップを立ち上げる起業家にとって、競合の売上が減るから自分の売上が増えるという直接的な関係がある可能性は、極めて低い。

市場全体を相手にできる段階に達すれば、競争を気にする担当者を雇えるし、高い給料も払える。それまでは、なぜ気にする必要があるのか。創業者の仕事はターゲット市場を獲得することだ。それだけだ。

だから、自分のためにも競合を忘れよう。知らぬが仏だ。自分の製品に集中しようとしているときには、なおさらそうだ。競合はコントロールできない。それなのに時間を使う理由があるだろうか。

周りを見回して、ほかの人が何をしているか知ってはいけない、という意味ではない。ただ、競争相手の動向を追うために見るのではなく、自分が使えるよいアイデアがないか探すために見るのだ。役立つものを見つけたら、賢く使おう。考えるのをやめてはいけない。自分の状況とニーズに合わせて調整する。ただコピーして貼り付けるのではなく、何をしているのか、それがどう役立つのかを本当に考える。

とくにスタートアップにとって、ヒントはどこにでもある

テック業界だけでなく、自分とは違う業界や分野にもヒントを探そう。世界には数千年の歴史があり、その間に人々は途方もないことをしてきた。普遍的な問題に直面し、危機の中で、よくも悪くも新しいパラダイムを生んだ人を探すなら、歴史の本を開けばいい。

芸術、文学、医学、鉄道には、驚くべきことをした人々がいる。テックのスタートアップの歴史はそれらの分野より短く、物語の数も相対的に少ない。起業やスタートアップの世界に閉じこもらないこと。思考を自由にしよう。自動操縦にせず、頭を動かし続ければ、新しい方向へ導いてくれる物語が見つかる。

こうした学びは、週末だけで終わるものではない。起業家を目指すなら、長期的な生き方の一部として引き受けることだ。人々の行動、築かれた理論、行われた研究を知れば、新しいことを試さないための言い訳はすべて崩れる。若すぎることも、年を取りすぎていることもない。経験が足りない。結構だ。必須条件ではない。あなたが愚かすぎるわけでも、ほかの人々がそうなわけでもない。ビジネス経験がない。それでもいい。最初は誰にもなかった。アイデアがないなら、Googleを開いて探そう。別の検索エンジンでもいい。ほかにもある。

言い訳は通用しない。残るのは、リスクを取る気があるかどうかだけだ。ないなら、それでもいい。誰もが起業家になる必要はない。だが、取るなら本当に取ろう。大きく目指し、状況をよく見て、速く動くことだ。

「学び方を学ぶ」のイラスト

学び方を学ぶ

私が最も感心する起業家は、学習曲線が最も急な人たちだ。学ぶべきことがたくさんあり、その曲線をできるだけ速く上向かせようとする人たちである。 学習曲線をどう定義し、どう改善するか?…

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私が最も感心する起業家は、学習曲線が最も急な人たちだ。学ぶべきことがたくさんあり、その曲線をできるだけ速く上向かせようとする人たちである。

学習曲線をどう定義し、どう改善するか?

私たちはそれを感じ、その存在を知り、何より重要だと言う。だが、実際にどう測ればいいかはわかっていない。初対面の起業家の学習能力を私がどう判断するのかと聞かれたら、指をなめて空中に立て、風向きを確かめるようなものだと答えるしかない。

実際、なぜある人は速く学び、ほかの人は時間がかかり、ときにはまったく学べないのかを説明するのは簡単ではない。それでも私は、学習曲線が単なる自分の勘に頼る神秘的な話だとは思いたくなかった。そこで、客観的に表現する方法を探してみた。

難しかった。それでも私は、いくつかの手がかりを見つけることができた。

まず、問いの答えをどう見つけるかを見る

かつては質問の答えを得たければ、図書館へ行き、人に話を聞き、専門家を探す必要があった。時間も労力もかかった。今はGoogleも、Quoraも、Wikipediaも味方になる。この世界で答えを探す方法がわかれば、学ぶ速さは大きく上がる。わからない人がいるからこそ、私の受信箱を「代わりにググってあげましょうか」と自動返信する設定にするだけで、メッセージの75%は一瞬で消えるだろう。

冗談であってほしいが、そうではない。

次は、自信の問題だ

これも正確な数値にするのは難しい。だが、自分に正直であれば、どれくらい自信があるかはかなり簡単に感じ取れる。誰かと話していても、相手の自信はわかる。そして速く学ぶための鍵の一つは、自分にはできると心から信じることだ。

ただし、盲信してはいけない。自分の性質、能力、必要としていることに完全に逆らうべきではない。例を挙げよう。脳の分析では、およそ3分の1の人は生まれつき脳に小さな違いがあり、数学の概念を理解し、学ぶことが難しいとされる。時間が余計に必要なのかもしれないし、本当に数学が向いておらず、習得できない人もいるかもしれない。人によって違う。だが、本当の問題は、それに対する私たちの反応がいつも同じことだ。学校へ行き、数学につまずくと、頭が悪いと言われ、学べないと思い込む。必要だったのは時間と、脳の再形成を助ける手段だったのに、学ぶ自信を失ってしまう。脳は変われる。MRIなどで観察すれば、脳が新しい経路や方法を見つけられる、非常に可塑性の高いものだとわかる。

速く学べる人には自信があり、自分の関心と能力の範囲を理解できる。魚なら木に登ろうとしないこと。うまく泳ぐことに時間を使おう。

得意なことに集中する

私自身、地理はまるで駄目だ。地図を渡されると、共和党の大統領候補みたいになってしまう。時間の感覚も駄目で、何年なのかわからず、書いた小切手の半分が突き返される。だから、そうしたことを気にせずに済むよう、自分の暮らしを組み立ててきた。

一方、耳で学ぶことはとても得意だ。聞いたことは覚えている。会話も苦労なく思い出せる。若い頃はテレビを見て何でも学んだ。だから何かを学びたいなら、その話を聞けるものを探すのが自分には一番いいとわかっている。

関心と能力をつかめれば、さまざまな情報源から学べる。私たちは学びを重々しく考えがちだ。真面目な場所から得るべきだとか、知的だとわかるものでなければならないとか考える。だが文化は、常に学ぶ機会を与えてくれている。映画、テレビ、ラジオ、インターネットなど、あらゆるものから新しいことを学べる。どう学ぶか、何を学ぶかに価値判断を持ち込まないでほしい。後で何が役立つかはわからない。いつでも、どこでも、学ぶこと自体に価値を置こう。

学習曲線が急な人には、決まった「学ぶ時間」がない

彼らはいつも学習モードにいる。一方で、いつも「学びたい」モードにいる人もいる。この二つには大きな差がある。学ぶことに魔法のような重みを持たせず、特定の状況や情報源だけに限定しない。完全に開かれた状態を選び、常に学ぶ。その違いだ。

学ぶ手段を整え、自分が何者で、どんな学び方をする人なのかに正直になり、いつでも学べるよう心を開いたら、学習曲線を加速させるための技法がいくつか使える。

最初は「チャンク&プロセス」、小分けにして処理することだ。猛ダッシュしてレンガの壁を倒そうとしても、頭を痛めるだけだ。だが、壁を観察して何でできているのかを見れば、レンガを一つずつ外せる。学びも同じだ。分野全体を一度に見れば、跳ね返されて倒れてしまう。だが、最も単純な考えに分け、少し複雑な考えへ、さらに複雑な考えへと進めば、習得できる内容が増えていく。

進化の過程でつくられた脳は、世界がひっくり返るような巨大な衝撃を一度に受け入れる構造にはなっていない。新しいアイデアや概念を、受け入れられる小さな部分に分けるほど、処理と学習は速くなる。そして分けたものは、毎日学ぶようにしよう。脳にしっかり定着させる一番の方法は、同じ考えに何度も何度も触れることだ。もう一度読み、もう一度聞き、もう一度書く。

学んだことは、その後に学ぶすべてに影響する

世界の歴史のある時点で、ピタゴラスの定理は驚くべき発見だった。何百年もの間、世界が知る最も偉大な定理だった。それが今では、中学生に教える内容になっている。その知識は、後で学ぶ幾何学や数学全体を必然的に変える。ピタゴラスの定理は学びの終着点ではない。始まりにすぎない。起業家を目指し、スタートアップを理解しようとすることも同じだ。今日学んだことが、明日、明後日と積み上げるものの土台になる。

急な学習曲線を持つ人は、それを理解している。何を学んでも、その上にさらに積み上げられること。そして、学んだ瞬間には見えなくても、やがて知識同士が結びつくことを知っている。

学習曲線が急な人は、記憶力も鍛える

神経科学から、大人になっても脳を訓練して記憶を維持できることがわかっている。子どものときのように、生来の能力を必ずしも拡張できるわけではないが、記憶する力を保つことはできる。

デジタルの世界に本当の危険が一つあるとすれば、記憶を失うことだ。以前は覚えていたのに、コンピューターに任せたものを思い出してほしい。電話番号。かつては頭に入っていたが、私は自分の番号さえ言えない。道順。今はGPSに従うだけだ。だからこそ脳の訓練が必要になる。意識して記憶を使い、物事を覚えて、自分で思い出して語り直す練習をする必要がある。

対象を心から好きになると、学びやすくなる

なぜか。長い話になるので、興味があればアントニオ・ダマシオの『デカルトの誤り』という面白い本を読んでほしい。要するに、学びには大きな感情的要素がある。誰かを本当に愛すると、その人と間接的に関係するだけのものの中にも、その人を見つけ始める。たとえば恋人がセーリングを好きなら、帆船を見てその人を思い出す。単純で、ばかばかしくさえ見えるが、神経の働きとしては大きなことだ。脳が自らを組み替え、物と愛する人の間につながりをつくる。知り合い全員について同じことをしていたら、頭がおかしくなってしまうだろう。学ぶ対象に感情的な愛着を感じると、学習は容易になる。学習曲線を変えたいなら、この感情の要素が非常に重要だ。学びたい対象に恋をすることができれば、脳はその対象のために、より多くの場所とつながりを用意する。

学習環境にシミュレーションを加えると習熟が進むのも、この感情の要素による。学びに対する感情的な期待が高まる状態に自分を置くのだ。マキャヴェリは自伝の中で、古典の著者を学ぶとき、読み始める前に古代ローマ人のような服を着たと語っている。アメリカン航空では、新人パイロットに制服を着せ、数か月間実際の飛行機に入らせると、訓練が速く、効果的になるとわかったという。どちらも、学びを促す精神状態や感情に自分を置き、記憶を受け入れやすい状態へ脳を導く例だ。「本物になるまで、そのつもりで振る舞え」という昔からの言葉の背後にある神経学的な原理である。

学びにおけるコミュニケーションの重要性を理解する

何かを学ぶ最善の方法の一つは、人と話すことだ。

私たちは、自分が学びたいことを知っている人を、人のつながりの中から探せる時代に生きている。そして、何かを知っている人は、たいてい喜んでその知識を話してくれる。いつも一人だけに質問すればいいという意味ではない。情報源を増やし、誰が何を知っているかに注意を払い、その力を借りよう。

学ぶときには、比喩の力を忘れないこと。物語や比喩、頭字語を覚えられれば、その考えは頭に残る。自分で比喩をつくるために時間と労力を使えば、ほかから借りたものよりさらに効果的になる。もちろん、よい比喩であることが前提だ。

教えよう!

教えることは、学ぶための最高の方法の一つだ。教えるときは説明を強いられる。そして相手の反応が、自分の理解度を明確に映し出す。人前に立って何かを教えようとすると、はっきりわかる。相手が理解したなら、説明がうまかった。理解しなかったなら、相手ではなく、適切に説明できなかった自分の責任だ。教えることには高い基準がある。対象を学んでいるだけでなく、さまざまな方法で伝えられなければならない。

最後に、いくつか

学んだときには見えなかった点同士が結びつき、その知識が後で重要になる可能性を軽く見てはいけない。知識は閉じた輪ではない。常に動き、広がっている。新しいことを学び続ける最も簡単な方法は、土台を広げ続けることだ。学ぶほど、新しいことを学ぶのが楽になる。絵画やデッサン、歴史、数学、起業に直接関係する技術的な内容。何であれ、新しいことを学ぶための基盤を広げてくれる。

そして、先延ばしは敵ではない。私たちはいつも生産しなければならず、ほかの人は毎週新しい本を出している、といった考えに追い立てられてきた。だが、余分に時間を取ることも、学ぶために必要だとわかってきている。脳に自由な時間と空間を残し、触れたばかりの新しいものを消化し、扱えるようにする。それが本当に学ぶためには必要だ。街を歩いて頭を自由にする時間を取ったからといって、生産的でないことにはならない。

追伸。ノートを取ることには注意してほしい。メモすることと学ぶことを混同する人が多すぎる。私たちの大半は二つのことを同時にするのが得意ではないので、書いている間は学べていない可能性がある。よく観察し、自分に合う方法を見つけよう。次に動画などを見るときは、ノートを取る場合と取らない場合のどちらが、より学べて記憶に残るか確かめてみてほしい。