
Oussama Ammar
誰がCEOになる?
スタートアップがどの段階にあっても、良いCEOと悪いCEOを分けるものを知りたいだろうか。違いは、何をしているかにはない。良いCEOとは、自分が何をしているのかを明確に定義できる人だ。
CEOのあり方は一つではない。さまざまな会社を見ると、CEOの振る舞いが会社全体の振る舞いを決めていることがわかる。
もちろん、どのCEOにも共通することはある。たとえばCEOはチームで最も重要な人物であり、最後に決める人だ。ただし、チーム内で最も影響力があるとは限らない。自分のチームに対して、CEO以上の影響力を持つマネジャーもいる。だが、それは内部の話だ。外から混乱や成功を目にする人はCEOを探す。最終的な決定を体現する人物だからだ。
これは、日常のささいな場面にも現れる。グザヴィエ・ニエルが一緒に夕食を食べに来たときのことを、私は忘れない。「面白いことに、Freeがどれだけ大きくなっても、親戚のテレビ受信機に問題が起きると、みんな最初に僕へ電話してくるんだ」と彼は言った。CEOになると、そういう見られ方をする。技術的な問題というだけではない。本当の意味で会社の顔になるということだ。
しかしCEOは目立つため、本来は仕事とまったく関係のないことまで、その役割に含まれると思われがちだ。財務に強いCEOもいれば、何もわからないCEOもいる。優れたマネジャーもいれば、ひどいマネジャーもいる。取材を受けるのが好きな人も、耐えられない人もいる。
CEOという仕事の良いところは、自分が最も楽しめることに集中し、残りを任せると決められることだ。そうした選択ができることこそ、CEOの本当の力だ。
ただし、何を選べるかは会社の段階によって変わる。
プロダクト・マーケット・フィットを得る前のCEOは、文字どおりすべてをやる人だ。ごみ出しも、トイレ掃除も含まれる。ほかにやる人がいないからだ。
プロダクト・マーケット・フィットの後は、会社のビジョンに責任を持たなければならない。すべてを自分で考え出すという意味ではない。他人が生み出したビジョンをつかみ、誰よりもうまく前へ進め、会社が次に何をすべきかを明らかにするCEOもいる。
誰にいくら払うかにも責任を持つ必要がある。相手の目を見て、こう言えなければならない。「確かに、あの人はあなたより多くもらっています。私があの人の貢献をより高く評価する理由はこれです。それを受け入れられないなら、別の職場を探す時期かもしれません」。
厳しい会話になるだろう。だが、それこそCEOの仕事だ。難しい話をするのはCEOだけではない。それでも、必要なことには先頭に立って取り組まなければならない。ほかの人が一歩前に出て、自分の分野のリーダーとして引き受けられるようなビジョンを示す必要がある。
スタートアップのマネジメントを理解していない人は多い。スタートアップは、それぞれが自分の領域に責任を持つ、小さな独裁の集まりだ。CEOは、最後の一人まで、指示に従いながら自分でも判断し、最大限の力を出せる仕組みを動かす。それは啓蒙的な独裁だ。一人ひとりが、なぜその仕事をするのか、どう進めるのかを理解し、自分の担当するKPIを達成する。
繰り返すが、CEOのあり方は一つではない。むしろ数学の問題に似ている。必要な答えはわかっているが、そこへ至る解き方はいくつもある。感情を大切にするCEOでも、分析を重視するCEOでもいい。自分にできる最良のCEOになることが大切なのだ。
現場に深く入るべきか、任せるべきか。それは問いが違う。現実的にどう動けば、自分のビジョンを実現できるのか。スタートアップのCEOは、全員が責任を感じ、自力で実行する能力を伸ばしながら、自分は最終責任と決定権を保つ方法を見つけなければならない。簡単そうに聞こえるが、実際にはとても難しい。
あなたが開発者で、プロダクトに時間を使うのが好きだとしよう。CEOになるなら、自分がCTOをやろうとする気持ちを抑え、誰もが話しかけたくなり、安心して物事を打ち明けられる人物になる必要がある。そこに葛藤が生まれる。そのためには人間関係を扱う力と、感情を読み取る力が要る。
あまりに多くの人が、宣言するだけでCEOになろうとする。風船を持ち歩き、「僕の言うことを聞いて。風船を持っているんだから」と言っているようなものだ。
スタートアップでそれは通用しない。通用させるだけのお金がないからだ。大企業のCEOが強い権力を持つのは、たいていの問題をお金で解決できるだけの資金があるからだ。
スタートアップのCEOはまったく違う。大企業のCEOには皇帝のような力がある。スタートアップのCEOにとって、皇帝は市場だ。優れたマネジャーであり、リーダーであり、人々から信頼されている。それは素晴らしい。しかし毎日の判断によって、人々を率い、信頼を得る力そのものが危険にさらされる。
ビデオゲームのようなものだ。判断するたびに抵抗が現れる。正しければ得点し、間違えれば点を失う。そして全員が点数を見ている。勝つには、間違った判断より正しい判断を多く重ねるしかない。
判断を重ねるなかで、起きることへの対応を管理するのもCEOの責任だ。だから公の場では、感情をそのまま出すわけにはいかない。大切な人やチームに対しては感情を見せていい。率直で、誠実で、正直であるべきだ。ただし、その輪の外にいる人に同じように見せることはできない。
何を誰に話せるかを理解することは、とても重要だ。私が経験した悲しい出来事の一つは、あるイベントの後に声をかけられたときだった。
「こんにちは。私はXというスタートアップで働いています」。その会社は倒産しかけていた。
「それはお気の毒に。大変ですね。うまくいくといいのですが」。
きょとんとして「どういうことですか?」
ええと「つまり、倒産しそうで、お金がなくて、会社が……なくなってしまうという……」。
「何の話ですか? ついさっき、創業4周年のパーティーを企画してくれと言われたところですよ」。
「ああ、すみません。私の勘違いですね。失礼しました」。
勘違いではなかった。翌日、全員が解雇された。チームは何も知らなかった。そんなことは絶対にあってはならない。自分たちの会社が倒産したことを、チームが報道と同時に知るようなら、あなたは責任者のふりをしていただけだ。
CEOは、チームの誰とでも本音で話せなければならない。ときには相手を落ち込ませ、聞くのがつらい話も必要になる。人生には悪い知らせもある。それを聞けば気分が沈む。人間なのだから当然だ。
優れたスタートアップは、悪い知らせを聞いても全員が気分よくいられるから優れているのではない。悪い知らせで全員が落ち込んでも、それでも働き、戦い続ける。
これはCEOが直面する最大の課題の一つだ。会社で起きていることを正直に伝えながら、全員が同じ目的のために戦っていると感じ、踏みとどまり、次の目標へ到達し、成長を続けられるようにするにはどうすればいいか。リスクを正しく評価し、言葉にする必要から逃れられるCEOはいない。
会社が成長すると、スタートアップのCEOが日々こなす仕事は減り、好きなことに使える時間が増えていく。たとえば、ほとんどのCEOは最初、自分で営業をしなければならない。そうしなければ最初の顧客が契約してくれないからだ。しかし成功すれば、CEOが営業を担当し続ける必要はなくなる。
取り組みたい仕事を選べるようになるには、まず成果を出さなければならない。その段階では、「ここは私の領域」「ここはあなたの領域」を、全員に明確に伝える必要がある。誰かに責任と権限を渡したら、その人の一挙手一投足を細かく管理するつもりはないと、はっきりさせるべきだ。
スタートアップでマイクロマネジメントは機能しない。細かい管理をしているなら、採用を間違え、適切な人を迎えられなかったということだ。賢い人を採用しよう。やがて、どう進めるべきかをあなたに教えてくれる人だ。やり方を教えることにすべての時間を使っているなら、周りにいるチームが間違っている。
チームが合っていなければ、CEOとしてつらい日が増える。CEO自身が日々を楽しみ、会社で起きていることに満足していることの重要性を軽く見てはいけない。自分の気分はチームに大きく影響する。同じチームでも、仕事を楽しむ優れたリーダーの下に置くか、仕事が嫌いな悪いリーダーの下に置くかで、結果はまったく変わる。

まさに、こういうことだ。
だから、自分のどこに問題があるかを常に見ておくことが重要なのだ。CEOは自分自身に大いに取り組む必要がある。それが周りに働きかける最良の方法だからだ。あなたをストレスにさらすものは、全員をストレスにさらすことになる。
すべてを自分でやる必要はない。優れたスタートアップのCEOは、自分の領域に責任を持つ小さなCEOを、数多く育てようとする。一人ひとりが権限、自由、自律性を手に入れられるよう助けることが目標だ。規模を広げるには、それしかない。
だから、弱い部分にばかり時間を使ってはいけない。そうすると、チームの優秀な人たちが本来できるほど成長できなくなる。直感に反するかもしれないが、実際にそうなのだ。成果の乏しい人より、成果を出している人を支えることに時間を使うほうが、多くを得られる。
チームに弱い部分があり、どうしてもうまくいかないとわかったら、CEOの責任は明確だ。その人を解雇しなければならない。
解雇は最も難しい仕事の一つだ。CEOである自分が採用を間違えたと認めることだからだ。解雇される本人の責任ではなく、判断を間違えた自分の責任だ。そしてチームのために、その間違いを正さなければならない。10人が良い仕事をしていて、1人がしていなければ、全員に影響する。ほかの人たちは、それを信頼と公平さへの裏切りと感じる。誰もが、ほかの人も自分と同じように役立っていると感じられる公平さを守るのが、あなたの仕事だ。
チームの均衡を保つには、フィードバックが上手になる必要がある。聞こえるほど簡単ではない。私たちは、フィードバックの仕方をほとんど教わっていないからだ。親が子どもに、同じクラスの子へ近づいて、何を間違えているのかを適切に指摘する方法など教えない。もっとも、それでよかった。CEOだらけの社会など、ひどいものになりそうだ。
それでもCEOには、良いフィードバックを継続的に伝えることが欠かせない。良いフィードバックには三つの条件がある。正直で、誠実で、人格攻撃ではないことだ。そしてすぐに伝えること。最初に言う勇気がなくて、間違ったやり方を1年間続けさせてから指摘するほど、ひどいことはない。それでは問題がはるかに悪くなる。
良いフィードバックは、最初の日から始める必要がある。最優先の仕事だと思ってほしい。どんなCEOも避けられないからだ。コーディング、製品設計、マーケティングなどを何も知らずに、大きなテック企業のCEOになることはできる。しかし、良いフィードバックをする必要からは逃れられない。
そのためには、人の振る舞いを見極める力が要る。CEOは、自分には誰も真実をすべて話していないと理解すべきだ。チームから真実を残らず伝えられているCEOなど、この世にはいない。だから耳を傾け、観察し、何を言っているのか、どう言っているのかを読み取り、真実の全体像に近づく必要がある。
難しいことだ。この世界には、ある種の公平さがある。成功するほど、愚かになっていくという公平さだ。成功すればするほど、正直な意見をくれる人を見つけるのが難しくなる。だから、あなたを本当に知っていて、成功前のあなたも知っていて、今も正直に話せる人たちを身近に置く必要がある。そして、人々が言っていないことまで聞き取れるように、耳を傾けなければならない。
もう一つの方法は、同じ課題に直面している、社外の仲間を見つけることだ。たいていは、自分と同じくらいの段階にいるほかのCEOになる。同じ立場の人同士の助言は強力だ。20年前に会社を作り、いまのテック系スタートアップの育て方を実際には知らない人に相談するより、ずっと役に立つ。仲間は、今週や先月などに同じ問題を扱っているから、非常に具体的な助言をくれる。
助言を受けるときには、とても直感に反することを一つ覚えておこう。判断の質よりも、判断の速さのほうが重要だ。悪い判断を20回、良い判断を1回しても、それを1時間で終えれば、1か月かけて良い判断を19回するより結果は良くなる。1時間で決める会社は、決めるのに1か月かかる会社に勝つ。
最後に二つ。CEOは、心の健康を守ることが非常に重要だ。ここは公平ではない。燃え尽きにくい人もいれば、そうではない人もいる。しかしCEOが燃え尽き始めれば、チーム全員にとって大きな問題になる。専門家の助けを借りよう。ストレスを扱う方法はいくつもある。後戻りできないところまで行ってはいけない。
お金の面でも自分を守ろう。CEOは最後に報酬を受け取り、状況が悪くなれば最初に給料を止める人だ。だから順調なときには自分にも給料を払い、できるだけ貯蓄しよう。なるべく早く、少なくとも年収1年分を手元に確保したい。順調なときに自分へ十分な給料を払わないことは、CEOがする最悪の判断の一つだ。嫌がる投資家も多いが、それは間違っている。本当に成功してから高い給料を取るべきだと言われたら、投資家にも同じことをしてもらおう。投資家の多くはファンドの管理報酬を受け取っている。投資が利益を生むかどうかにかかわらず、十分な報酬を得ているのだ。
会社を危険にさらすほどのお金を取ってはいけない。売上の50%を自分に払うことはできない。しかし順調なときに適切な給料を受け取るのは賢明だ。いつか状況が悪くなり、会社を生き残らせるために個人的な犠牲が必要になるかもしれない。だから、プロダクト・マーケット・フィットを得て、ある程度の資金を調達できたら、毎月お金の心配をせずに済む給料を取ろう。
必要な額は個人の状況によって違う。正直に伝え、きちんと生活するための収入が必要なことに引け目を感じなくていい。チームも同じだ。十分な給料を払えるなら、払おう。家賃や保育料を払えるか、ときには休暇を取れるかを心配しながら働く人がいることに、利点は一つもない。人は十分な報酬を得ているほうが、ずっと良い仕事をする。
すべては、CEOとして自分に合う場所を見つけるためだ。ほかの人が望むCEOになろうとしなくていい。自分に合い、会社に調和と成果をもたらすCEOになろう。
Daedalium に初掲載。