
Oussama Ammar
億万長者になりたい
「なぜ社会はこんなにもお金を大切にするのか」という問いをよく聞く。ビジネスでは答えは単純だ。お金は、企業が行うすべての活動の土台だからだ。そこが、事業と情熱だけで続ける活動との違いでもある。起業家になるなら、どこかでお金を稼がなければならない。製品を開発し、家賃を払い、人を雇い、投資家を満足させるためだ。
世界中の異なる文化でお金が使われてきたのには理由がある。お金は交換を中立的にし、異なる動機を結びつけてくれる。GoogleやFacebookで働く全員が、セルゲイ・ブリンやマーク・ザッカーバーグと同じ動機を持っているわけではない。それでもお金があれば、それぞれの動機を生産的な方向へ揃えられる。
そう、お金は生産的になりうる。大きな金庫に一定量のお金があり、自分の取り分が増えたら必ず誰かの取り分が減る、という話ではない。お金はゼロサムゲームではない。世界に新しい価値を加えることはできる。

とくにフランスをはじめ、ヨーロッパ大陸の多くの国には、長くお金を敵視してきた歴史がある。自分がお金を多く稼ぐことは、必然的に他人がお金を持つのを妨げることだ、と逆の見方をする人が多い。
だが、その見方は成り立たない。単純に、事実ではないからだ。起業家として本当の価値を生み出すのは大変な仕事だ。2000年のドットコムバブル崩壊前には、実証された価値提案よりも資金調達や株式公開がはるかに先行できることが示された。長く続く富をつくる手本としては不適切だ。起業家として豊かになるには、実際の価値を生み出さなければならない。
起業家を目指すなら、考え方を調整する必要がある。まず株式の価値を考えよう。創業チームの持ち分は、できるだけ均等に分けるべきだ。各創業者が同じようにリスクを負い、それぞれが価値提案の一部を担うからだ。始めたばかりなら、まだ価値がないので難しくない。事業が進むと問題は大きくなるが、一つ覚えておいてほしい。株式の配分は価値によって決まる。費やした時間や労力によって決まるのではない。創業から1年後に加わる人でも、その人が会社の価値を倍にするなら、数%だけ渡して済ませるわけにはいかない。スタートアップの価値は、投入した時間や労力とは切り離されている。売上、ユーザー、KPIといった具体的なものに価値がある。大事なのはそれだけだ。
だから株式を渡すときに、節約の発想を持つべきではない。少ししか渡さなければ、相手の会社への利害関係を自分より小さくしてしまう。それは望ましくない。少し多く渡せば、相手の関心は高まる。関心が高まれば、成功への献身も強まる。
給与も同じだ。ヨーロッパのスタートアップは、相場を上回る給与を払うことを学ぶべきだ。なぜか。労働力を相場どおりの価格で雇うのは、大企業に許されたぜいたくだからだ。スタートアップは、ここで働くリスクを取る価値があると従業員を納得させなければならない。その一部が給与の上乗せだ。人々を事業に近づけ、成功の可能性を高める。もちろん、株式と現金をうまく組み合わせてもいい。
全員の方向を揃え、全力を尽くしてもらう必要があるのはなぜか。スタートアップの実態を思い描いてほしい。それは売上を加速させるプロジェクトだ。普通の企業なら30年かかることを、5年で達成しようとしている。未来の売上予測をつかみ、強く引っ張って、ごく短い期間へ圧縮しようとする。30年を5年に縮めるために必要なエネルギーと力は途方もない。それでも、それがスタートアップの目指すことだ。
お金のことを考えるとき、これも忘れないでほしい。人が嫌な奴になるのに10億ドルは要らない。お金がなくても嫌な奴にはなれる。幸せな人が10億ドルを持てば、幸せな人のままだ。ろくでもない奴が10億ドルを持てば、ろくでもない奴のままだ。だから、お金を幸せの鍵にしてはいけない。スタートアップにすべてを賭ける理由にもしてはいけない。
いや、覚えることは二つかもしれない。お金は幸せの鍵ではない。そして一度そのリスクを取ると決めたら、取り続けなければならない。賭け金を増やし、うまくいくまで何度もすべてを賭ける。そうしなければ、被った損失が重すぎるものになる。リスクを引き上げ続ける覚悟がなければ、失敗を恐れるようになる。その恐怖がスタートアップを殺す。
株式と給与を明晰に考えること、全員の方向を揃えること、失敗を恐れないこと。こうした具体的なことが役に立つ。スタートアップで成功し、資産家になるのは運の問題ではないからだ。数少ない幸運の物語が有名になるのは、記者がそれを好み、幸運だった本人も話したがるからだ。だが、成功例の大半を占めるほかの人々は、注目を浴びることに関心がない。しかも彼らの物語は結局同じだ。解く価値のある問題を見つけ、懸命に働き、その解決を通じて市場を獲得する。
そうした人々は、この世界では何も一人ではできないと知っている。誰かが助けてくれる。その助けには報酬を払うべきだ。結局、大きな価値のある会社の数%を持つほうが、どこにも進まない会社の大きな割合を持つよりいい。だから絶対額で考えるのだ。
事業が成長し始めたら、お金と富は違うことを覚えておこう。お金とは、銀行に100万ドルあることだ。富とは、100万ドル相当の株式を持ち、それが成長してインフレに追いつき、さらには上回る可能性があることだ。

目指すのは富だ。そのためには相対的な割合ではなく、絶対額で考える。スタートアップの何%を持っているか自体には意味がない。大事なのは、実際に何株持ち、ある出来事によってその価値がいくらになるかだ。小切手にはいくら書かれているのか。会社の40%を1億ドルで買いたい人と、30%を2,500万ドルで買いたい人がいたとする。持ち分の割合を大きく残せるという理由だけで、安いほうの提案を選びはしないだろう。大切なのは絶対的な価値だけだ。
だから、持ち分のことばかり気にしないほうがいい。会社に価値を加えることに集中すれば、残りはついてくる。会社を成長させるためにいくら払うかより、その投資が売上成長にどう影響するかを考える。相対的な事務や物流の細部に気を取られて死ぬ会社は多すぎる。絶対額で考え、本当に重要なことだけを話そう。
絶対額で考え始めれば、現在の中で未来を生きることの重要性がわかる。それはどういう意味か。今持っているものに執着せず、これから手に入れたいものに目を向けるということだ。
起業家の大きな問題の一つは、現在の予算を基準にお金を考えることだ。1万ドルで事業を始め、完璧なオフィスを見つけたが、3万ドルかかるとしよう。「お金がないから無理だ」と言えば、過去に現在を支配させていることになる。過去に行ったことしか表さない銀行残高が、あなたを押しとどめている。起業家は逆向きに生きなければならない。「この場所は売上や、現在と将来の顧客との関係を変えるだろうか」と考えるのだ。そして正直になること。答えはノーかもしれない。この決断が未来を変えるのか、自分に問わなければならない。変えるなら、自分で自分を止めてはいけない。現在の中で未来を生きる方法を探す。資金を見つける。どこかにはある。ちなみに、オフィスで何かが変わるのは珍しいが、言いたいことはわかるだろう。
つまり、けちであることは、お金だけの問題ではない。姿勢の問題だ。時間をどう使い、会社の何を最適化し、何を大事にするかという問題なのだ。
すべては、それが会社とその未来に何をもたらすかに戻ってくる。成功のためには、自分と会社のお金を絶対額で評価し、未来の価値を今理解できる、よい買い手になることだ。この考え方でよい選択をすれば、とても長い期間にわたって人生によい影響を与えられる。もちろん、選択を誤れば逆の結果になる。
先ほど言ったように、お金を稼ぐことより富をつくることが重要だ。いつか、誰かから会社を買いたいと電話がかかってくる。そのとき答えは一つだ。将来の成長に疑問があるなら売る。成長を続けることに期待しているなら売らない。それだけだ。現在の企業価値ではなく、明日の会社にどれだけ確信を持てるかという話だ。会社が成長し続けられるか、それ以外の問いに捕らわれる必要はない。
こう考えると、スタートアップの世界でお金にこだわる理由に戻ってくる。お金があると、自分たちの仕事に確信を持ち、やりたいことに使う時間を確保できるからだ。お金があれば、簡単には手を出されない。機能するビジネスモデルがあれば、どの提案に価値があり、どの提案に価値がないかを自分で決められる。
スタートアップを通じて収益を得ることは、前に進むときの力と交渉力になる。独立を保ち、意思決定する力を維持できる。交渉の席で自信を持てる。生き残るために資金が必要な創業者の必死さほど、投資家が素早く嗅ぎつけるものはない。だが、伸び続ける売上が背後にあれば、その場でも自信を持てる。それは力を求める動物的な本能なのかもしれない。それでも、確かに存在し、効果がある。
Daedalium に初掲載。